イー・トレードの集約(2006年・SBIHDの決断)

更新:
論点 グループ内の証券会社を一社に統合するか
SBIHD:業績の推移
売上高(億円)親会社株主に帰属する当期純利益率(%)
傘下のネット証券と対面証券の一社への統合と、上場子会社の解消

何をなぜ決めたか:傘下のネット証券と対面証券の一社への統合と、上場子会社の解消

概要

2006年7月、SBIホールディングスは中核のイー・トレード証券をSBIイー・トレード証券へ改称した。2007年10月には同社を存続会社として対面のSBI証券を吸収合併し、2008年8月には株式交換によって完全子会社とし、ジャスダックの上場を廃止した。合弁出自のネット証券を「SBI証券」の一枚看板へ集約した三段階の組織再編で、株式交換の取得原価は152,525百万円、計上したのれんは83,851百万円にのぼった。

背景

イー・トレード証券は1998年にソフトバンクと米E*TRADEの合弁会社が老舗の大沢証券を子会社化して生まれ、1999年10月の手数料自由化と同時期にインターネット取引を開始した。2003年にソフトバンク・インベストメント(現SBI)の傘下へ移り、証券口座数は2005年3月期末の592,743口座から2007年3月期末には1,405,897口座へ2.4倍に増えた。

グループ内には対面営業のSBI証券が別に存在していた。SBIホールディングスと両社で証券戦略会議を設置して検討した結果、「ネット」を通じた証券業務と「リアル」(対面営業型)証券業務の融合を加速させ、他社の追随を許さない差別化と圧倒的な競争力を獲得することが不可欠だという結論に至った。

内容

合併の目的に掲げたのは、オンライン証券の低コスト・高い集客力・市場における圧倒的な取引ボリュームをベースに、対面証券の地域密着型・提案型営業を組み合わせる「リアル Based on ネット証券」という事業モデルだった。合併比率はSBIイー・トレード証券1に対しSBI証券0.255で、存続会社が259,733株を発行した。完全子会社化は2008年1月29日の取締役会で決議し、株式交換比率はSBIホールディングス1に対し株式会社SBI証券3.55、交付した株式数は5,428,212株。うち1,109,000株は自己株式を処分して充て、残りは新株を発行した。

含意

集約の効果は口座の伸びに表れた。総合口座数は合併前の2007年3月期末1,405,897口座から2012年3月期末には2,387,786口座へ増え、預り資産も4兆1,696億円まで戻した。一方でブローカレッジ&インベストメントバンキング事業の営業収益は2006年3月期の80,221百万円が頂点で、2011年3月期は45,374百万円、セグメント利益は6,123百万円まで縮んだ。口座を積み増しながら1口座あたりの手数料収入が細っていく構造は、2023年の「ゼロ革命」まで一本の線でつながっている。

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考察:借り物を返し、背骨に据え直す
考察

考察:借り物を返し、背骨に据え直す

この再編は、派手な買収劇ではなく商号変更・吸収合併・株式交換という地味な三段階の積み重ねであった。だが意味は小さくない。合弁の出自を示す「イー・トレード」の名を段階的に外し、全国27店舗に約250名の営業員を抱える対面の店舗網を取り込み、親子上場を解いて利益を100%取り込む——ネット証券という当時まだ若い事業を、グループの背骨に据え直す作業だったと思われる。同じ2006年にソフトバンクとの資本関係がなくなったことと対で見れば、資本とブランドの両面で借り物を返した2年間であった。

もっとも、統合の代金は安くない。株式交換で計上したのれん83,851百万円は20年の均等償却で毎期の利益を削り続け、集約が終わった直後の2009年3月期には証券事業の営業利益が5,714百万円と、2年前の4分の1以下まで落ち込んだ。集約で得た口座基盤の上にその後のSBIのほぼすべての展開が載っているのは確かだが、規模が競争を終わらせるわけではない。首位の看板を保ちながら手数料ゼロ時代の収益をどう組み立てるかという問いは、この再編から続く線の先にあるといえる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月
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図と表

SBIHD:ブローカレッジ&インベストメントバンキング事業の推移

営業収益(百万円)
SBIHD:ブローカレッジ&インベストメントバンキング事業の推移
(百万円) 営業収益営業利益 備考
2005年3月期 45,39614,814 イー・トレード証券とワールド日栄フロンティア証券が中心
2006年3月期 80,22138,536
2007年3月期 65,42624,374 2006年7月にイー・トレード証券がSBIイー・トレード証券へ商号変更
2008年3月期 67,67520,511 2007年10月にSBI証券を吸収合併し、証券子会社が一社に
2009年3月期 47,6485,714 2008年8月に株式交換で完全子会社化。相場悪化で利益は4分の1に
2010年3月期 46,9869,374
2011年3月期 45,3746,123 この期からセグメント区分の新基準を適用し、名称はセグメント利益
出所:SBIホールディングス 有価証券報告書 第8〜13期(事業の種類別セグメント情報)
出所:SBIホールディングス 有価証券報告書 第8〜13期(事業の種類別セグメント情報)

SBIHD:のれんと総資産の推移

のれん(百万円)
SBIHD:のれんと総資産の推移
(百万円) のれん総資産 備考
2005年3月期 1,580755,004 2006年3月期までは連結調整勘定として計上
2006年3月期 44,6241,331,643 2006年3月の株式交換で対面のSBI証券を完全子会社化
2007年3月期 53,5121,367,221
2008年3月期 60,8741,219,247
2009年3月期 136,3541,079,233 株式交換によるのれん83,851を計上し、前期から75,480増えた
2010年3月期 133,0081,229,939
2011年3月期 126,2971,293,606
出所:SBIホールディングス 有価証券報告書 第8〜13期(連結貸借対照表)
出所:SBIホールディングス 有価証券報告書 第8〜13期(連結貸借対照表)

SBIHD:SBI証券の口座数の推移

証券口座数(口座)
SBIHD:SBI証券の口座数の推移
(口座) 証券口座数信用取引口座数 備考
2005年3月期 592,74360,644 イー・トレード証券単体。預り資産は2兆3,400億円
2006年3月期 1,167,778115,611
2007年3月期 1,405,897147,659
2008年3月期 1,662,051169,443
2009年3月期 1,866,508192,015 2009年3月期からは総合口座数の名称で開示
2010年3月期 2,053,986214,274
2011年3月期 2,209,946228,560
2012年3月期 2,387,786241,039 預り資産は4兆1,696億円。口座数は7年で4倍に
出所:SBIホールディングス 有価証券報告書 第8〜14期(ブローカレッジ&インベストメントバンキング事業の主要な指標)
出所:SBIホールディングス 有価証券報告書 第8〜14期(ブローカレッジ&インベストメントバンキング事業の主要な指標)

集約の条件

集約の条件
科目 概要 備考
商号変更 2006年7月 イー・トレード証券がSBIイー・トレード証券へ商号を変更した
合併の効力発生日 2007年10月1日 2007年4月26日の両社取締役会で決議し、同日付で合併契約書を締結した
合併の法的形式 吸収合併 SBIイー・トレード証券を存続会社、SBI証券を消滅会社とする連結子会社同士の合併
合併比率 1:0.255 SBIイー・トレード証券1に対しSBI証券0.255。存続会社の商号は変えていない
合併により発行した株式数 259,733株 SBIイー・トレード証券の普通株式
完全子会社化後の商号 株式会社SBI証券 2008年7月にSBIイー・トレード証券から商号を変更した
企業結合の法的形式 株式交換 SBIホールディングスを完全親会社、株式会社SBI証券を完全子会社とする共通支配下の取引
株式交換の効力発生日 2008年8月1日 2008年1月29日の取締役会で決議し、同日に株式交換契約を締結した
株式交換比率 1:3.55 SBIホールディングス1に対し株式会社SBI証券3.55。両社とも上場していたため株式市価法で算定
交付した株式数 5,428,212株 新株発行4,319,212株、自己株式の処分1,109,000株
取得原価 152,525百万円 対価はSBIホールディングスの普通株式152,500百万円、取得に直接要した調査費用等は25百万円
のれん 83,851百万円 取得原価と減少する少数株主持分の差額。20年間にわたる均等償却
出所:SBIホールディングス 有価証券報告書 第9期(2007年3月期)【重要な後発事象】・第10期(2008年3月期)【経営上の重要な契約等】・第11期(2009年3月期)【企業結合等関係】
出所:SBIホールディングス 有価証券報告書 第9期(2007年3月期)【重要な後発事象】・第10期(2008年3月期)【経営上の重要な契約等】・第11期(2009年3月期)【企業結合等関係】
参考文献

参考文献

参考
  • SBIホールディングス 有価証券報告書【沿革】
  • SBIホールディングス 有価証券報告書(2007年3月期・連結)
  • SBIホールディングス 有価証券報告書「第9期(2007年3月期)【重要な後発事象】」
  • SBIホールディングス 有価証券報告書「第10期(2008年3月期)【経営上の重要な契約等】」
  • SBIホールディングス 有価証券報告書「第11期(2009年3月期)【企業結合等関係】」

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