大塚HDエビリファイ米国事業のBMS提携:自社単独での米国販売を採らず、BMS社との共同商業化で収益の柱を国内消費財から海外医薬品へ移した重点の移し替え

更新:

時期 2002年11月
意思決定者(推定) 樋口達夫 大塚製薬社長
論点 新薬の海外展開と収益の柱の置き換え
概要

2002年11月、大塚製薬は米国で抗精神病薬「エビリファイ」(ABILIFY)の販売を開始した。米国での開発と商業化は、1999年にブリストル・マイヤーズ スクイブ・カンパニー(BMS社)と結んだ契約に基づくもので、自前の販売網を築いて単独で売り切る道は採っていない。ポカリスエットとカロリーメイトで稼いできた会社の収益の柱は、ここから国内の消費財より海外の医療用医薬品へ移っていく。

背景

大塚製薬は1980年にポカリスエット、1983年にカロリーメイトを日本で発売し、飲料と栄養食品で伸びた。医療用医薬品では1988年発売のプレタール、1990年発売のムコスタが主力で、いずれも国内の市場に依存している。

1999年6月、樋口達夫氏が取締役アメリカ担当に就き、翌2000年6月に代表取締役社長となった。世界最大の医薬品市場で中枢神経領域の新薬を出すには、現地の販売力をどこから調達するかが、承認を待つ前に決まっていなければならない。

内容

BMS社との契約は、エビリファイの米国他における開発・商業化を対象とし、大塚製薬が一定料率のロイヤリティを受け取る技術輸出の形をとった。米国での発売後、この契約は二度組み替えられている。

2009年4月には契約期間を2012年11月から2015年4月まで延ばし、米国での売上に対して大塚製薬が受け取る分配金を2010年1月から増やす契約を結んで、契約一時金400百万ドルを受け取った。2011年11月にはH.ルンドベックA/Sと中枢神経領域で最大5つの化合物の共同開発・商業化を約し、持続性注射剤とレキサルティを次の世代に据えている。

含意

BMS社との契約は2015年4月に期間が満了した。同じ頃に欧米での独占販売期間も終わり、経口のエビリファイの売上は2015年12月期の3,474億円から翌期の953億円へ落ちている。その落ち込みを埋めたのが、持続性注射剤とレキサルティだった。地域別の売上は2022年12月期に北米が日本を上回り、2025年12月期には北米1兆1,688億円に対し日本7,181億円となっている。

筆者の見解

決めていたのは薬ではなく売り方だった

2002年の米国上市を、新薬が当たった話として読むだけでは足りない。決めていたのは薬そのものではなく、その薬をどう売るかだったとみることができる。米国で自前の販売網を築いてから出すのでは間に合わず、権利を売り切ってしまえば果実が手元に残らない。ロイヤリティを受け取りながら現地の販売力を借りるという中間の形を選んだことで、消費財で稼いだ原資を販売組織の構築ではなく、開発と次の化合物へ振り向けることができた。米国での承認は結果であって、決断はその三年前の契約の設計にあったといえる。

もっとも、借りた販売力の上に大型薬を置く形は、期限が来れば自分の足で立ち直さねばならない。契約は2015年4月に満了し、ほぼ同時に欧米での独占販売期間も終わった。大塚製薬が2011年11月にH.ルンドベックA/Sと組み、持続性注射剤とレキサルティを用意していたのは、この切れ目に間に合わせるためだったのだろう。北米が日本を上回る現在の姿は、2002年に選んだ道が届いた先である。同時にそれは収益の重心を一つの治療領域と一つの市場へ寄せた姿でもあり、次の柱を絶やさずに継げるかが問われ続ける形になったとみられる。

Yutaka Sugiura, 2026年9月

エビリファイを米国で売るために結んだ契約の条件

科目 概要 備考
契約の当事者 大塚製薬とブリストル・マイヤーズ スクイブ・カンパニー 持株会社の設立は2008年7月。契約は事業会社である大塚製薬が結んでいる
契約の締結 1999年 抗精神病薬「エビリファイ」の米国他における開発・商業化に関する契約
対価の受け取り方 一定料率のロイヤリティ 技術輸出の区分。第6期からはアライアンス契約・共同開発・商業化の区分で載る
米国での販売開始 2002年11月 大塚製薬が米国にて「エビリファイ」(「ABILIFY」)を販売開始した
契約期間の延長 2012年11月から2015年4月まで 延長を定めた契約は2009年4月に締結した
分配金の増額 2010年1月より増加 米国におけるエビリファイの売上に関して大塚製薬が受け取る分配金
契約一時金 400百万ドル 期間の延長と分配金の増額を定めた契約に関して2009年4月に受け取った
後発品が参入した場合 合意された補償金を大塚製薬が支払う 契約期間中に米国で後発品が販売され、かつBMS社が解除を申し入れた場合
相手方の支配権が動いた場合 契約が終了し、一定の金額を支払う場合がある BMS社が他社に買収される等の「支配権の異動」が生じた場合
抗悪性腫瘍剤での相互乗り入れ スプリセルを米国・欧州・日本で共同開発・共同販売 2009年に技術輸入として締結。大塚製薬が一定額の販売経費を負担する
契約の終了 2015年4月 第8期(2016年12月期)の経営上の重要な契約等にBMS社との契約の記載はない
次に組んだ相手 H.ルンドベックA/S(デンマーク) 2011年11月に中枢神経領域で締結。最大5つの化合物の共同開発・商業化

出所:大塚ホールディングス 有価証券報告書 第3期(2011年3月期)【沿革】【経営上の重要な契約等】/第6期(2014年3月期)・第8期(2016年12月期)【経営上の重要な契約等】

大塚HD:エビリファイと後継製品の売上高

(百万円) エビリファイエビリファイ持続性注射剤レキサルティ 備考
2015年12月期 347,470 日本基準。BMS社との契約が満了した期。持続性注射剤の開示はこの期までない
2016年12月期 95,38157,154 この期から国際会計基準。欧米での独占販売期間終了と薬価改定により減少
2017年12月期 67,31270,94247,291 持続性注射剤が経口のエビリファイを初めて上回った期
2018年12月期 51,11187,97869,482
2019年12月期 101,77989,822 経口のエビリファイは主要な製品としての開示から外れた
2020年12月期 116,028104,634
2021年12月期 130,275121,096
2022年12月期 165,353169,135
2023年12月期 202,464212,509 持続性注射剤はこの期からエビリファイメンテナ/アシムトファイとして開示
2024年12月期 237,911267,441
2025年12月期 259,290331,338

出所:大塚ホールディングス 有価証券報告書 第8期〜第18期【セグメント情報等】製品及びサービスに関する情報 / 大塚ホールディングス 有価証券報告書 第8期(2016年12月期)【業績等の概要】医療関連事業

大塚HD:日本と北米の売上高

(百万円) 日本北米 備考
2015年12月期 639,474465,561 日本基準。BMS社との契約が満了した期
2016年12月期 624,001305,594 この期から国際会計基準。地域区分はカナダを含まない「米国」として開示
2017年12月期 638,650311,811 地域区分は「米国」。翌期から「北米」に戻る
2018年12月期 645,521347,091
2019年12月期 689,734399,569
2020年12月期 660,270460,839
2021年12月期 647,220509,747 この期から欧州を独立の区分として開示。前期までは「その他」に含まれる
2022年12月期 654,662683,504 北米が日本を初めて上回った期
2023年12月期 670,850873,376
2024年12月期 699,7091,095,110
2025年12月期 718,1111,168,875
北米の売上高と、日本に対する比率
北米(百万円)北米率(%)

出所:大塚ホールディングス 有価証券報告書 第7期〜第18期【セグメント情報等】地域ごとの情報

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出典・参考
  • 大塚ホールディングス 有価証券報告書「第3期(2011年3月期)【沿革】【経営上の重要な契約等】」
  • 大塚ホールディングス 有価証券報告書「第6期(2014年3月期)【経営上の重要な契約等】」
  • 大塚ホールディングス 有価証券報告書「第8期(2016年12月期)【経営上の重要な契約等】【業績等の概要】【セグメント情報等】」
  • 大塚ホールディングス 有価証券報告書「第18期(2025年12月期)【セグメント情報等】」
  • 大塚ホールディングス 統合報告書「統合報告書2021」

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