海外システム構築事業の統合と「One NTT」体制の構築
ドコモの海外投資が潰えたあと、NTTは新たな成長の軸をどこに求めたか
更新:
- 概要
- 2018年6月に社長へ就いた澤田純氏の下、日本電信電話(NTT)が2018年11月に中間持株会社を設け、2019年7月にNTTコミュニケーションズやディメンションデータなど海外事業会社を統合してグローバル事業会社NTTリミテッドを発足させた経営判断。2010年のディメンションデータ買収から続く法人向けシステム構築事業の拡大を、「One NTT」として一体運営に束ねる再編である。
- 背景
- グループ営業利益の約6割を稼ぐNTTドコモは、国内の携帯契約数の頭打ちと政府の通信料引き下げ圧力で収益の先細りが見込まれた。1999〜2000年に1.8兆円を投じたドコモの海外携帯投資が全面撤退に終わった後、法人向けのクラウドやシステム構築が新たな海外の成長軸として選ばれた。
- 内容
- 2018年11月に中間持株会社を設立し、NTTデータ・NTTコム・ディメンションデータ・NTTセキュリティを傘下へ移した。うち3社を2019年7月に統合し、海外を担うグローバル事業会社NTTリミテッドと国内事業会社に再編した。上場会社のNTTデータは統合を見送り、連携を強めた。中間持株会社はNTT法の外に置き、外国人幹部を取締役に迎えた。
- 含意
- 新中期経営計画では2023年度の海外売上高を2017年度実績比で約3割増の250億ドル(約2兆8000億円)へ引き上げる目標を掲げた。競争相手はアクセンチュアやIBM、グーグルら世界の巨人であり、海外でのNTTの知名度は低い。この統合は2020年のドコモ完全子会社化、2025年のNTTデータグループ完全子会社化へと続く再結集の一里塚となった。
稼ぐ場所を移すという判断
携帯電話で世界に出て潰えたNTTが、法人向けのシステム構築という別の入り口から海外へ挑む——「One NTT」が組み替えようとしたのは、稼ぐ場所そのものであったとみることができる。国内の携帯市場が成熟し、ドコモの収益に先細りが見えたなかで、NTTは買い集めてきた海外事業を一つの器へ束ね、ブランドと規模で世界の巨人に対抗しようとした。効率と一体運営を優先する判断であった。
もっとも、海外へ軸を伸ばす道はなお険しい。売上高に占める海外比率は2割ほどにとどまり、統合したNTTリミテッドは低採算事業の整理が続いた。海外でのNTTの知名度も高いとはいえない。規模と効率を追うほど、日本人しか取締役に就けないNTT法という制度の枠と、グループを一体で動かすことの是非が、繰り返し問われた。2019年の統合は、2020年のドコモ完全子会社化、2025年のNTTデータグループ完全子会社化へと続く再結集の入り口にあたる。一度の統合で完結する事業判断ではなく、グループの器そのものを問い直す長い過程の始まりだったとみられる。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
ドコモ依存と国内携帯の頭打ち
NTTグループの利益は、長く携帯電話のNTTドコモに支えられてきた。ドコモが2017年度に稼いだ営業利益は9,732億円で、グループ全体の約6割を占めていた。しかし国内の携帯契約数は頭打ちとなり、政府は通信料の引き下げを強く求めた。ドコモは2019年度前半に新料金プランで大幅な値下げに踏み切り、格安SIMの普及も重なって、稼ぎ頭の収益環境は厳しさを増していた[1]。
海外へ出て稼ぐ道を、NTTは一度失っている。ドコモは1999年から2000年にかけて、米AT&TワイヤレスやオランダのKPNモバイルなど5カ国の携帯会社への出資に、計1.8兆円を投じた。だが携帯事業は国ごとに規制も消費者の文化も異なり、日本のやり方はそのまま通じなかった。投資に見合う成果を得られないまま巨額の損失を出し、短期間ですべての出資から撤退していた。新しい海外の稼ぎ頭を、別の事業に探す必要があった[2]。
法人SIという新しい成長の軸
携帯に代わる軸として選ばれたのが、法人向けのクラウドやシステム構築(SI)であった。持株会社のNTTは2010年に約2,900億円を投じ、欧州や南米を地盤とする南アフリカのディメンションデータを買収した。2016年にはNTTデータが米デルのITサービス部門を約3,500億円で取得し、NTTコミュニケーションズも保守運用を手がける米セキュア24を傘下に収めた。買収を重ね、海外売上高は7〜8年で3倍の約2兆円まで伸びた[3]。
ただ規模の拡大は、そのまま競争力にはつながらなかった。NTTデータ、NTTコム、ディメンションデータは同じ展示会に別々のブースを出し、来場した顧客への売り込みも重複した。ある顧客からは「君たちはみんな同じグループの会社ではないのか」とあきれられたという。1社ごとでは事業規模が限られ、海外でNTTというブランドはなかなか浸透しなかった。世界のIT市場では、事業の規模が競争力を左右した[4]。
決断
中間持株会社という器
2018年6月、グループの海外戦略を担ってきた副社長の澤田純氏が、NTTの社長に就いた。就任からわずか1カ月半後、澤田氏は1999年の分離・分割以来となる大がかりなグループ再編を打ち出した。まず2018年11月に中間持株会社を設け、SI事業の中核を担うNTTデータ、NTTコム、ディメンションデータ、NTTセキュリティを、その傘下へ移した。分散した海外事業を一つの器にまとめる作業の第一歩であった[5]。
中間持株会社をわざわざ設けたのには、NTT法があった。民営化後もNTT法の規制を受ける持株会社NTTは、取締役に日本人しか就けない。日本人だけの意思決定では世界で戦えないと考えた澤田氏は、NTT法の外に置ける中間持株会社を作り、そこに外国人幹部を迎えた。この会社のトップは澤田氏が兼務し、ディメンションデータのジェイソン・グッドールCEOら3人の外国人が取締役に就いた[6]。
3社統合と「One NTT」
2019年7月、NTTは中間持株会社の傘下3社を統合し、海外を担うグローバル事業会社と国内事業会社に再編した。海外事業会社はNTTリミテッドと名づけられ、NTTコムの海外事業とディメンションデータなどを一つに束ねた。上場会社のNTTデータは統合を見送り、新会社との連携を強める形をとった。経営資源を集め、海外のSI事業で存在感と競争力を高める——これが「One NTT」と呼ばれた再編の狙いであった[7][8]。
澤田氏は統合を急いだ理由を、利益の伸び悩みに求めた。海外売上高は約2兆円まで伸びたものの、各社が同じ事業を別々に手がけて競合し、利益が伴わなかった。ドコモの収益がやがて飽和するのは見えており、ITサービスの利益を早く増やす必要があった。NTTは新中期経営計画で、2023年度の海外売上高を2017年度実績比で約3割増の250億ドル(約2兆8000億円)へ引き上げる目標を掲げた[9][10]。
結果
統合の進展と再結集への連なり
グループの再結集は、この再編のあとに加速した。2019年に海外事業を束ね直したNTTは、2020年9月、約4.3兆円を投じて携帯のNTTドコモを完全子会社化した。上場する主要子会社はNTTデータだけとなり、海外事業はNTTデータとNTTリミテッドが担う体制へ移った。分社を進めてきたグループを、持株会社の下へ集め直す動きが続いた[11]。
海外事業の統合そのものも、次の段階へ進んだ。2022年10月、NTTとNTTデータは共同出資で海外事業会社NTTデータインクを設立し、NTTリミテッドとNTTデータの海外事業を一つにまとめた。年間売上高は2兆円を超えた。国ごとのシェアが2%を超える国は数カ国から20カ国以上へ広がり、2026年3月期までに営業利益で300億円の統合効果をめざした。一方でNTTリミテッドの低採算事業は売却が続き、構造改革は道半ばであった[12][13]。
- 週刊東洋経済 2019年3月16日号「NTTの海外成長戦略 ドコモ頭打ちで加速する」
- 週刊東洋経済 2021年1月23日号「世界のIT競争から取り残されたNTT 海外の攻略は待ったなし」
- 週刊東洋経済 2023年1月28日号「NTTデータインク社長 西畑一宏 NTTは海外では挑戦者」
- 日本電信電話 有価証券報告書(2019年3月期・連結・IFRS)