楽天グループあおぞらカード買収による個人金融参入——後の楽天カードとなる会社の取得

決済とローンを他社に委ねたままでよいのか——赤字のカードローン会社に74億円を投じた選択

時期 2004年8月
意思決定者 三木谷浩史 会長兼社長
論点 金融事業の内製化(カード・個人与信の取得)
概要
2004年8月27日、楽天があおぞら銀行・オリックスグループの保有するカードローン会社あおぞらカードの全株式を74億円で譲り受けることで基本合意し、同年9月に完全子会社化した経営判断。この法人格が2011年に楽天カード株式会社となり、グループ金融の中核へ育った。
背景
楽天は2003年に旅の窓口とDLJディレクトSFG証券を連続買収して三領域体制を組んだが、クレジットカードは2004年8月に始めた三井住友VISAとの提携発行に頼っており、自前でのカード事業運営を視野に入れていた。あおぞらカードは2001年12月設立の小規模なローンカード会社で、営業赤字が続いていた。
内容
あおぞら銀行・オリックス・クレジット・オリックスの3社が保有する全株式を74億円で取得。重複を含め2800万人に達したグループ会員の優良顧客層へのカードローン展開と、楽天市場・楽天トラベル・楽天証券から生まれる決済金融機会の拡大を狙いに掲げた。
含意
買収した法人格は楽天クレジットを経て2011年8月に楽天カード株式会社となり、クレジットカード事業を集約した。楽天カードは2023年に発行枚数3000万枚・年間ショッピング取扱高20兆円へ達し、74億円の小さな買収がグループ収益柱の楽天カードへつながった。
筆者の見解

74億円の買収が残した器

74億円という金額は、旅の窓口の323億円やDLJ証券の331億円と比べれば小さく、発表当時の扱いも連続買収の一つに過ぎなかった。だが法人格の系譜をたどると、この小さな買収の重みが浮かび上がる。クレジットカードの本流は翌年の国内信販買収が担ったものの、貸金業法の規制強化で信販由来の法人格を手放す2011年の再編では、あおぞらカード由来の会社にカード事業が移された。買収の主目的だったカードローンではなく、取得した法人格そのものが後年に効いた点に、この判断の妙があるといえる。

決済と与信を提携先に委ねるか、自前で持つか。2004年の楽天は、提携カードを始めた直後に自前のカード会社を買う道を選んだ。会員基盤を握る事業者が金融を内側へ取り込む型は、その後の銀行・保険・証券、さらには通信への参入まで、楽天が繰り返し立ち返る設計となった。ポイント経済圏の競争が携帯電話会社や巨大銀行グループを巻き込んで続く今日、その原点に74億円の赤字会社の買収があったことは、事業の種がどこに宿るかを予見する難しさを示している。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

提携カードの先にあった自前金融

楽天は2003年9月に宿泊予約サイト「旅の窓口」のマイトリップ・ネットを、同年11月にDLJディレクトSFG証券を相次いで子会社化し、ショッピング・旅行・金融の三領域を束ねる構えへ動いていた。ただ、決済の要となるクレジットカードは2004年8月に始めた三井住友VISAとの提携発行にとどまり、将来的には自前でのカード事業運営を視野に入れていた。買い物の場に加えて、決済手段やローンまで自前でそろえて顧客に提供する構想が、次の一手を規定していた[1][2][3]

買収対象となったあおぞらカードは、あおぞら銀行とオリックスの合弁で2001年12月に設立された若い会社であった。中高所得者層を対象に、低金利で限度額の大きいローンカード「マイワン」を発行し、金利は年8.7〜17.8%、2004年3月末の貸出残高は約197億円、従業員は23人という小規模な陣容であった。店舗を持たずインターネットを中心に事業を展開する身軽さの半面、営業赤字が続いており、同時代の誌面も同社を「営業赤字」と付記して伝えていた[4][5][6]

決断

74億円で全株式、2800万会員に与信を通す

2004年8月27日、楽天はあおぞら銀行・オリックス・クレジット・オリックスの3社が保有するあおぞらカードの全株式を、74億円で譲り受けることについて基本合意したと発表した。取得は9月下旬をめどとし、同年9月に完全子会社化を終えた。楽天が掲げた狙いは、重複を含めて2800万人に達したグループ会員の優良顧客層を対象とするカードローン事業の展開と、楽天市場・楽天トラベル・楽天証券などから生まれる決済金融機会の拡大であった[7][8]

三木谷浩史社長は買収の理由を、あおぞらカードがインターネット中心の無店舗経営であり、楽天の既存ビジネスとシナジー効果を発揮できる点にあると説明した。同時代の誌面は、金利10%前後の消費者ローンへの参入と伝える一方、前年からの旅の窓口323億円・DLJ証券331億円に続く買収の連続に対し「買収金額に見合うリターンを稼げるかどうか」という注文も付けていた。資金面では、9月にあおぞらカード買収へ74億円を支出したものの、公募増資で295億円を調達しており、負担は吸収できる範囲に収まっていた[9][10][11]

結果

楽天クレジットから「楽天カード株式会社」へ

買収後、あおぞらカードは楽天クレジットへ社名を変え、カードローン事業を続けた。クレジットカードの本流は別の買収が担うことになり、楽天は2005年6月に九州を地盤とする信販会社の国内信販を子会社化し、同年7月にクレジットカード「楽天カード」の発行を始め、10月に同社を楽天KCへ改称した。2006年11月には楽天KCのオートローン事業などを会社分割でオリエントコーポレーションへ譲渡し、「インターネットを基盤としたクレジットカード会社」への絞り込みを進めた[12][13]

2011年8月1日、楽天は楽天KCが運営する「楽天カード」関連事業を吸収分割で楽天クレジットに承継させ、同日に楽天クレジットは楽天カード株式会社へ商号を変更した。楽天KCはKCカードへ改称のうえ、株式がJトラストへ譲渡された。貸金業法の規制強化というカード事業を取り巻く環境の変化をふまえ、高い成長が見込まれる「コア事業」の楽天カード関連事業へ経営資源を集中する再編であった。この結果、2001年12月に設立されたあおぞらカードの法人格が、現在の楽天カード株式会社として存続した[14][15]

発行3000万枚・取扱高20兆円の収益柱に

楽天カードは、楽天市場でのポイント優遇を追い風に会員を積み上げた。2022年10月から2023年9月までの12カ月でカードショッピング取扱高は20兆円を超え、2023年12月には発行枚数が3000万枚を突破して、中期計画「トリプル3」に掲げた目標の一つを達成した。74億円で取得した営業赤字のローンカード会社は、約20年でグループ金融の中核会社に育った[16][17]

2024年11月には、楽天カードとみずほフィナンシャルグループが戦略的な資本業務提携を結び、みずほ側が楽天カード株式の15%弱を取得した。携帯電話事業の投資負担を抱える楽天グループにとって、カード事業は経済圏の決済を支える中核であると同時に、外部資本を呼び込める優良資産にもなっていた。買収から20年を経て、あおぞらカードから続く会社は、グループの資本政策を左右する規模に達したとみることができる[18][19]

出典・参考

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