丸石化学品など連続買収(2024年・稲畑産業の決断)

更新:
論点 自力成長から過半出資の買収へ転換するか
稲畑産業:業績の推移
売上高(億円)営業利益率(%)
自力成長からマジョリティ出資への方針転換と、大五通商・ノバセルの取り込み

何をなぜ決めたか:自力成長からマジョリティ出資への方針転換と、大五通商・ノバセルの取り込み

概要

2023年から2024年にかけ、稲畑産業が丸石化学品・大五通商・ノバセルを相次いで子会社化し、2024年5月の中期経営計画"New Challenge 2026"で投資の積極化を成長戦略の柱に据えた経営判断。

背景

長期ビジョンとの隔たりは、オーガニックな伸びでは埋まらなかった。売上高と営業利益がそろって3期続けて過去最高を塗り替えたのが、前中期経営計画NC2023の成果である。

内容

2023年4月に丸石化学品の議決権を47.03%から70.98%へ引き上げて子会社化し、6月には大五通商(議決権90.0%)が続いた。2024年6月にはダイセルとの合弁会社ノバセルの株式66.7%を6,248百万円で取得している。3カ年で見込む営業キャッシュフロー等650億円程度のうち50〜60%を成長投資に充てる方針を示した。

含意

ノバセルは2025年3月期に売上高120億円・利益10億円強を稲畑産業へ寄せ、連結売上高は8,378億円・営業利益258億円と過去最高を更新した。買収した事業をどこまで既存事業と噛み合わせられるかが次の課題として残っている。

いつ何が起きたか 7件
当時の取締役 12名

当時の取締役(2023年6月株主総会決議)

考察:買収する会社に変わることの、その先
考察

考察:買収する会社に変わることの、その先

この判断で目を引くのは、業績が悪いから買ったのではないという点にある。稲畑産業は3期連続で過去最高を更新した直後に、自力の伸びだけでは長期ビジョンに届かないと社長自身が述べ、資本配分の枠組みを数字で外へ示した。好調な会社が自らの成長の型を不足と呼ぶのは、簡単なことではない。2023年の丸石化学品と大五通商は、いずれもすでに株式の一部を持っていた相手の持ち分を引き上げる案件であり、見知らぬ会社をいきなり買いに行く形ではなかった。丸石化学品は議決権47.03%を持つ持分法適用会社から23.95%を買い足して70.98%としたもので、取得原価3,222百万円のうち2,203百万円は保有済み株式の時価が占める。実際に動いた現金は1,018百万円である。関連会社の整理を最大の試練として語った稲畑勝太郎社長らしい、手元の関係から広げる進み方だったと推察される。

その買い方は、会計の側にも特徴を残した。丸石化学品では時価純資産が取得原価を上回り、のれんではなく負ののれん3,047百万円が特別利益に立った。一方で持分法評価額との差から段階取得に係る差損225百万円も同時に出ている。安く買えた分が利益として一度に現れる案件であり、将来の償却負担を背負う買収とは性格が違う。稲畑産業が償却の重さを引き受けたのは、のれん3,198百万円を10年で償ってゆくノバセルからである。そのノバセルは初年度から売上高120億円・利益10億円強を寄せたが、稲畑社長が今後に求めるものとして挙げたのは金額ではなく既存コンパウンド事業との相乗効果であった。1978年に商社でありながら製造拠点を持つと決めた会社が、45年を経て今度は会社ごと買い足す側に回った。売る力と作る力をどう組み合わせるかという問いに、稲畑産業はまだ答えを出し終えていないと思われる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月
数字で見る 3表

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図と表

稲畑産業:のれんと無形固定資産の推移

のれん(百万円)のれん以外の無形固定資産(百万円)
稲畑産業:のれんと無形固定資産の推移
(百万円) のれん無形固定資産総資産 備考
2020年3月期 −3,006322,848
2021年3月期 −2,918353,228
2022年3月期 −2,647389,059
2023年3月期 −2,403380,443 セグメント注記では2023年3月期までのれんの計上はない
2024年3月期 183,855427,320 丸石化学品は負ののれん3,047百万円を特別利益として計上した期
2025年3月期 2,9779,325441,972 ノバセルののれん3,198百万円と顧客関連資産1,190百万円が加わった
2026年3月期 2,70113,723498,138 のれんの当期償却額は325百万円で、うち合成樹脂が324百万円
出所:稲畑産業 有価証券報告書 第159期・第161期・第163期・第165期(連結貸借対照表、報告セグメントごとののれんの償却額及び未償却残高に関する情報)
出所:稲畑産業 有価証券報告書 第159期・第161期・第163期・第165期(連結貸借対照表、報告セグメントごとののれんの償却額及び未償却残高に関する情報)

稲畑産業:買収先が属する3セグメントの売上高

化学品(百万円)生活産業(百万円)
稲畑産業:買収先が属する3セグメントの売上高
(百万円) 化学品生活産業合成樹脂 備考
2020年3月期 77,52239,046300,094 外部顧客への売上高
2021年3月期 66,62637,361248,888
2022年3月期 78,64438,203316,226
2023年3月期 89,82043,662363,955
2024年3月期 112,65753,597360,471 化学品は丸石化学品、生活産業は大五通商の新規連結で2割超の増収
2025年3月期 118,29853,759401,541 合成樹脂にノバセルが7月から加わった
2026年3月期 125,13760,115407,974 生活産業は佐藤園の新規連結で茶製品の販売が加わった
出所:稲畑産業 有価証券報告書 第159期・第161期・第163期・第165期(セグメント情報等・外部顧客への売上高)
出所:稲畑産業 有価証券報告書 第159期・第161期・第163期・第165期(セグメント情報等・外部顧客への売上高)

連続買収の条件

連続買収の条件
科目 概要 備考
丸石化学品の企業結合日 2023年4月1日 株式取得。連結に含めた業績は2023年4月1日から2024年3月31日まで
丸石化学品の議決権比率 47.03%から70.98%へ 企業結合日に23.95%を追加取得。関係会社の状況では2年続けて71.0%
丸石化学品の取得原価 3,222百万円 追加取得分の現金1,018百万円と、保有済み株式の企業結合日時価2,203百万円
丸石化学品の段階取得に係る差損 225百万円 支配獲得時までの持分法評価額2,429百万円と企業結合日の時価との差
丸石化学品の負ののれん 3,047百万円 時価純資産が取得原価を上回り特別利益に計上。取得関連費用は52百万円
丸石化学品の受入資産・負債 資産23,435百万円・負債14,601百万円 流動資産16,735百万円・流動負債13,058百万円が中心
大五通商の取得 386百万円 株式取得に係る支出。企業結合等関係の注記は重要性が乏しく置かれていない
大五通商の議決権比率 90.0% うち間接所有が56.7%。2024年3月期の期首から連結子会社
ノバセルの企業結合日 2024年6月30日 ダイセルとの合弁会社。連結に含めた業績は2024年7月1日から
ノバセルの取得原価と議決権比率 6,248百万円・66.7% 現金を対価とする株式取得。取得関連費用はアドバイザリー費用等246百万円
ノバセルののれん 3,198百万円 主として事業展開によって期待される超過収益力。10年間の均等償却
ノバセルの無形資産配分 1,190百万円 顧客関係(償却12年)。ほかに受注残40百万円(償却0.5年)
ノバセルの受入資産・負債 資産4,177百万円・負債550百万円 流動資産3,769百万円が中心で、固定資産は408百万円
佐藤園の取得 記載なし 大五通商による取得。2025年3月期は非連結子会社で、翌期から連結
出所:稲畑産業 有価証券報告書 第163期(2024年3月期)・第164期(2025年3月期)【企業結合等関係】【連結キャッシュ・フロー計算書関係】【関係会社の状況】、第165期(2026年3月期)【連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項】
出所:稲畑産業 有価証券報告書 第163期(2024年3月期)・第164期(2025年3月期)【企業結合等関係】【連結キャッシュ・フロー計算書関係】【関係会社の状況】、第165期(2026年3月期)【連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項】
当時の取締役 12名

当時の取締役(2023年6月株主総会決議)

参考文献

参考文献

参考
  • 稲畑産業 有価証券報告書 第163期(2024年3月期)【企業結合等関係】【連結キャッシュ・フロー計算書関係】
  • 稲畑産業 有価証券報告書 第164期(2025年3月期)【企業結合等関係】【関係会社の状況】【沿革】
  • 稲畑産業 有価証券報告書 第165期(2026年3月期)【連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項】
  • 稲畑産業 2024年3月期 決算説明会 質疑応答
  • 稲畑産業 2025年3月期 決算説明会 質疑応答
  • 稲畑産業 中期経営計画「New Challenge 2026」(2024年5月)
  • 稲畑産業 有価証券報告書「第163期(2024年3月期)【企業結合等関係】」
  • 稲畑産業 有価証券報告書「第163期(2024年3月期)【連結キャッシュ・フロー計算書関係】【セグメント情報等】」
  • 稲畑産業 有価証券報告書「第164期(2025年3月期)【企業結合等関係】【関係会社の状況】」
  • 稲畑産業 有価証券報告書「第165期(2026年3月期)【連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項】【セグメント情報等】」
  • 稲畑産業 決算説明会 質疑応答「2025年3月期(2025年6月5日)」

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