暗号資産事業への参入と米リップルとの提携
ネット証券と銀行を持つ金融グループは、なぜ第3の柱をブロックチェーンと仮想通貨に求めたのか
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- 概要
- 2016年1月、SBIホールディングスは国際送金基盤を開発する米リップルへの出資と合弁会社設立の覚書を結び、同年5月にSBI Ripple Asiaを設立した。並行して仮想通貨交換業のSBIバーチャル・カレンシーズ(現SBI VCトレード)を立ち上げ、証券・銀行に続く第3の柱として暗号資産・ブロックチェーン事業へ踏み込んだ経営判断。
- 背景
- 1999年の手数料自由化から続いた値下げ競争でネット証券の収益は細り、口座数が増えても収益が連動しない構造が露わになっていた。SBIは2015年12月に出資総額300億円のフィンテックファンドを設け、金融を変える技術への先行投資を始めていた。
- 内容
- リップルが開発するXRPを用いた次世代決済基盤に着目し、出資と合弁で送金インフラの構築を主導した。SBI Ripple Asiaの下に国内61行が参加する内外為替一元化コンソーシアムを形成し、2017年9月に仮想通貨交換業の登録を受け、2018年6月に取引サービス「VCTRADE」を開始した。
- 含意
- 国内金融大手で突出した暗号資産のポジションを先行投資で確立し、暗号資産事業は2025年3月期に売上高807億円・利益212億円を稼ぐセグメントへ育った。交換所の再編やステーブルコインの取り扱いでも主導権を握り、証券・銀行・保険に続く柱が加わった。
筆者見解
この判断の特徴は、暗号資産そのものへの投機ではなく、送金・取引・保管というインフラの層を先に押さえた点にあるといえる。リップルへの出資は国際送金の置き換えに賭ける一手であり、交換業は登録と安全体制を整えてから開く後発戦略を採った。手数料自由化の波に乗って証券で勝った経験が、「制度変化の初期にインフラを仕込む」という型として繰り返されている構図がうかがえる。
一方で、この事業の収益は依然として暗号資産市況に左右され、2023年3月期の赤字と2025年3月期の最高益の振れ幅がそれを物語っている。送金基盤としてのXRPの実用が当初の構想どおり広がったかについても、なお評価は定まっていない。ステーブルコインや証券のデジタル化と接続しながら、この柱が相場依存をどこまで脱せるかは、これからの検証に委ねられているとみられる。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
手数料競争の天井
1999年の株式売買委託手数料の全面自由化から10年、ネット証券の値下げ競争は限界に近づいていた。2009年夏にはSBI証券と楽天証券が7月から8月にかけて合わせて9回の引き下げを応酬し、両社が同水準まで下げてようやく収まった。安さで新規顧客を呼び込む戦略は、取引頻度の極端に高い投資家にシステム費用を食われる構造も抱え、業界には値上げに転じる社さえ現れていた[1]。
グループの稼ぎ頭だったSBI証券自身も、壁に突き当たっていた。証券総合口座は2009年末に200万の大台へ達したが、口座数が右肩上がりで増えても収益が連動しない状態に陥り、営業収益はピークだった2008年3月期の同期間から約3割落ち込んだ。ネット証券の収益は短期売買を繰り返す投資家と相場環境への依存が強く、口座を増やすだけでは次の成長を描けない構造が露わになっていた[2]。
「金融を変えられるのは技術革新だけ」
次の柱を探すSBIが賭けたのは、金融とITの融合であった。2015年12月、同社は出資総額300億円のフィンテックファンドを立ち上げ、ブロックチェーンや決済のベンチャー約50社へ投資を広げた。北尾吉孝社長は「金融を変えられるのは唯一、技術革新だけだ」と語り、送金や決済の既存インフラが技術で置き換わっていく流れを、グループの次の成長機会と見定めていた[3]。
決断
リップルへの出資と合弁SBI Ripple Asia
2016年1月29日、SBIホールディングスは国際決済基盤「リップルコネクト」を開発する米リップルへ出資し、アジアで事業を担う合弁会社を設けることで覚書を結んだ。同年5月18日には合弁のSBI Ripple Asiaを設立し、SBIが6割を出資した。同社は日本を含む東アジア・東南アジアの金融機関に、SWIFTを介さない国際送金サービスを独占的に提供する役割を担った[4][5]。
提携の中核には、リップルが発行する仮想通貨XRPを使い、複数の中継銀行を経ずに銀行間で直接決済する次世代基盤への評価があった。2016年10月、SBI Ripple Asiaの下に内外為替の一元化をめざすコンソーシアムが発足し、参加金融機関はメガバンク3行やゆうちょ銀行を含む61行まで広がった。北尾吉孝氏はリップルへの投資を「最もエキサイティングな成果」と呼び、保有分の含み益は約2,000億円に達したと明かしていた[6]。
交換業への参入と慎重な開業
送金インフラと並行して、SBIは仮想通貨の売買を担う交換業へも踏み込んだ。2016年10月27日に仮想通貨の交換・取引サービスを担うSBIバーチャル・カレンシーズを設立し、2017年9月に金融庁から仮想通貨交換業の登録を受けた。ただし北尾吉孝氏は登録後も「まだ業務を始めるな」と指示し、セキュリティ機器や保管体制の整備に時間をかけた。2014年に経営破綻した取引所マウントゴックスの二の舞を避ける構えであった[7][8]。
取引サービス「VCTRADE」の提供が始まったのは2018年6月4日である。まず銀行など限定的な顧客を対象に開業し、XRP・ビットコイン・ビットコインキャッシュの3通貨を扱い、一般顧客の口座開設は同年7月以降に受け付けた。同じ2018年には交換所コインチェックで約580億円の不正流出が起きており、後発でも安全性を優先する立ち上げ方が、金融グループとしての参入の型となった[9][10]。
結果
「断トツ」を狙った布陣と事業の柱化
北尾吉孝氏は2017年、「仮想通貨ビジネスで断トツになる」と公言し、取引所・マイニング・ヘッジファンド・デリバティブまで関連事業を一つの生態系として整える構想を示した。売買の裏付けとなる通貨の在庫を握る発想で、リップルへの約11%出資を通じ2,000億円超分のXRPを押さえている点を強みに挙げた。交換業の登録制導入で業者の3割以上は淘汰されるとの見立ても、この時点で語っていた[11]。
参入から10年近くを経て、暗号資産はSBIの独立したセグメントへ育った。市況の波は激しく、2023年3月期には184億円のセグメント損失を計上したが、2025年3月期には外部顧客への売上高807億円・セグメント利益212億円と、グループの利益に貢献する柱となった。相場に浮沈が付きまとう事業を、証券・銀行の収益基盤と並ぶ位置まで引き上げた形である[12]。
交換所再編の主導へ
交換所業界の淘汰と再編でも、SBIは受け皿の側に回った。SBI VCトレードを中心にDMMビットコインやビットポイントジャパンの事業・会社を取り込み、2025年3月には法定通貨と連動するステーブルコイン「USDC」の取り扱いを国内で初めて開始した。保有者に報酬が入るステーキング事業の強化も進み、ネット証券系の交換所として規模を拡大する姿が同時代の誌面に記録されている[13]。
- 週刊東洋経済 2009年10月3日号「手数料値下げに限界 曲がり角のネット証券」
- 週刊東洋経済 2010年4月10日号「ついに『ネット専業』の旗を降ろす“革新者” SBI証券の胸突き八丁」
- 週刊東洋経済 2017年8月5日号「進化するフィンテック SBIホールディングス社長 北尾吉孝 フィンテック連合の元締めが喝破」
- 週刊東洋経済 2017年11月4日号「仮想通貨 大バトル SBIホールディングス社長 北尾吉孝 『仮想通貨ビジネスで断トツになる』」
- 週刊東洋経済 2025年7月5日号「暗号資産交換所バトルが激化 ユーザーはどこを選ぶのか」
- 日経xTECH(2016年1月29日)「SBIホールディングスが米リップルラボに出資、アジアで国際送金を展開へ」
- 日経FinTech(2016年5月30日)「アジアの銀行へ送金インフラ提供、SBIとRippleの合弁会社が始動」
- ITmedia NEWS(2018年6月4日)「SBI、仮想通貨取引サービス開始 『万全の体制で』」
- SBIホールディングス ニュースリリース(2016年10月27日)「仮想通貨の交換および取引サービスを提供するSBIバーチャル・カレンシーズ株式会社設立のお知らせ」
- SBIホールディングス 有価証券報告書(セグメント情報・連結IFRS)
- SBIホールディングス 有価証券報告書(2016年3月期・連結・IFRS)