壱番屋ラーメン・もつ鍋店の連続買収とカレーパン専門店の開業による業容の拡大
カレー一本で1,400店を築いた壱番屋は、なぜ他社の看板を買い始めたか
- 概要
- 壱番屋は2022年10月に海外店の仕様を逆輸入した「CURRY HOUSE CoCoICHIBANYA WORLD」、同年12月にカレーパン専門店「SPICE UP! COCOICHI BAKERY」を開いたのに続き、2023年3月にラーメン・つけ麺の竹井、同年12月にもつ鍋のLFD JAPANを買収した。カレー専業の会社が他社の飲食ブランドを取り込み始めた。
- 背景
- CoCo壱番屋はカレー専門店として国内外1,380店に達し、次に多いチェーンとは桁が違う規模にあった。一方でカレー全体に占めるシェアは1.3%程度にとどまり、自社で開発した新業態は30〜50店で頭打ちとなる状態が続いていた。
- 内容
- 2022年12月、名古屋駅地下街の既存店に併設する形でカレーパンなど約40種を扱うベーカリーを開いた。2023年3月28日には京都・大阪で「麺屋たけ井」8店を運営する竹井の全株式を取得し、同年12月には福岡で「博多もつ鍋 前田屋」を営むLFD JAPANを子会社とした。
- 含意
- 売上高は2023年2月期の483億円から2026年2月期の655億円へ3期連続で最高を更新した一方、営業利益はコロナ前の52億円に届かない水準が続く。壱番屋は2030年2月期の連結営業利益100億円を掲げ、M&Aによる新規業態と海外事業を投資先に据えている。
買って広げるということ
成熟したカレー市場から逃げるための多角化と読むと、この転換の面白みを取り逃がす。壱番屋は業態開発が不得手な会社であった。1995年のFSココイチは約50店で退き、パスタ・デ・ココも30店強で止まっている。自前で一から作る道の分が悪いことを認めたうえで、すでに客のついた麺屋たけ井や前田屋を買い、自社の出店網に載せて伸ばす方法へ切り替えたところに、2020年代の壱番屋の判断があるとみることができる。
もっとも、この方法が会社の質を上げたかどうかは、まだ判定できない。売上高は3期続けて最高を更新したが、営業利益はコロナ前の52億円を越えられていない。買った店の数だけ売上は積み上がるが、カレー一本で客単価895円を保ってきた収益の形が、他業態でも再現できる保証はない。浜島俊哉氏が手元資金の使い道をM&Aと語ってから実際に動くまで7年を要した慎重さが、どこまで持ちこたえるか——答え合わせは2030年2月期の営業利益100億円という数字に持ち越されている。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
カレー一本の強さと天井
2015年12月末のCoCo壱番屋は国内1,228店・海外152店の計1,380店を数え、次に店舗数が多いとされたカレーチェーンの約70店とは桁が違った。2013年には世界で最も店舗数の多いカレーレストランのチェーンとしてギネス世界記録に認定されている。ライスの量と辛さと具材を客が選ぶ注文方式で客単価は895円に届き、値下げ競争が続いた外食のなかで最高益を更新していた[1][2]。
それでも経営の側は、この規模を天井に近いものとして見ていた。浜島俊哉氏は当時、日本におけるココイチの最大のライバルは一般家庭であり、カレーの生産量全体に占める自社のシェアは1.3%程度にすぎないと述べている。家庭を取り込めれば伸びしろは大きいが、それは一つの商材に集中した構えを続けることでもあった。カレー以外の柱をどう用意するかが、単一業態の会社に残された課題であった[3]。
海外はカレーのまま、国内は別の看板で
海外はカレーのまま広げる方針が続いた。2019年8月の時点で壱番屋は12の国と地域に182店を構え、13カ国目としてカレー発祥の地であるインドのデリーに三井物産との合弁で1号店を開く計画を進めていた。葛原守社長は、タイにはタイカレーがあるが日本のカレーも別のものとして支持されていると述べ、29店を持つタイの実績を挙げている。国外では既存の商材がそのまま通用するとみていた[4][5]。
国内の新業態は事情が違った。1995年に低単価のカレースタンド「FSココイチ」を約50店まで増やしたものの新宿や渋谷のような繁華街以外では続かず、2003年に始めたあんかけスパゲッティの「パスタ・デ・ココ」も30店強で止まっていた。それでも浜島俊哉氏は、会社やチェーンを活性化するために新業態は絶対に必要だと語り、136億円まで積み上がった手元資金の使い道を問われてM&Aしかないと答えている[6][7]。
決断
自社で作る新業態
2022年、壱番屋は二つの店を自前で開いた。10月には海外店の仕様を逆輸入した「CURRY HOUSE CoCoICHIBANYA WORLD」の1号店を東京・京橋に置き、12月22日には名古屋駅地下街サンロードで、カレーパンとスパイスパンの専門店「SPICE UP! COCOICHI BAKERY」を開店した。ベーカリーは同じ地下街にあるCoCo壱番屋名駅サンロード店に併設する形をとった[8][9]。
品揃えは、辛さを選べる焼きカレーパンやキューブ型のカレーパンなど20種類以上のカレーパンに、スパイス入りのクロワッサンや菓子パンを加えた約40種で構成した。40年以上カレーを作り続けてきた会社によるスパイスとパンの組み合わせという説明を掲げ、2023年内に愛知県内で複数店を開き、その後は全国の主要都市へ広げる計画を示した。カレーの技術を店の外へ持ち出す試みであった[10]。
他社の看板を買う
自社開発と並行して、外から業態を買う方法が加わった。2023年3月28日、壱番屋は京都府城陽市の竹井の全株式を取得し子会社とした。竹井は豚骨魚介だしのつけ麺を主力とする「麺屋たけ井」を京都・大阪で8店運営していた会社で、取得額は相手先との協議により公表していない。壱番屋は、新たな業態を開発・育成してグループの力を強めることを経営課題の一つに挙げ、竹井の商品力と成長性は極めて高いと判断したと説明した[11][12]。
買った看板を伸ばす算段もあった。壱番屋は竹井の取得に際して、2024年度以降に出店の速度を上げる考えを示している。海外ではラーメンをはじめ日本の麺文化への関心が高まっており、国内で育てた業態を国外へ持ち出す道も視野に入っていた。同年12月には福岡で「博多もつ鍋 前田屋」を営むLFD JAPANを取得し、2020年12月に子会社としたジンギスカン店の大黒商事とあわせて、カレー以外の看板がグループに並んだ[13][14]。
結果
増える売上と、届かない利益
買収を重ねた期間の売上高は伸びた。2023年2月期の483億円から2024年2月期551億円、2025年2月期610億円、2026年2月期655億円と3期続けて過去最高を更新している。ただし営業利益は2024年2月期47億円、2025年2月期49億円、2026年2月期47億円と、新型コロナウイルス禍の前にあたる2020年2月期の52億円へ届かない水準で推移した。売上の伸びが利益に結びつききっていない[15]。
それでも外部から業態を取り込む方法は続いている。2025年1月にラーメン業態のKOZOU、同年12月には夜パフェ専門店を運営するGAKUを子会社とした。2025年に示した資本政策では、利益剰余金の投資先としてM&Aによる新規業態と海外事業を明示し、長期の目標として2030年2月期の連結営業利益100億円と北米事業への注力を掲げている。カレー専業から数えて半世紀近くを経た会社の設計図が書き換えられた[16][17]。
- 週刊東洋経済 2016年1月30日号「孤高のココイチここにあり! 個客適応力が支持の秘密だった CoCo壱番屋」
- 週刊東洋経済 2020年1月25日号「変貌するインドビジネス 外食 ココイチ、吉野家… 飲食チェーンの勝負」
- 流通ニュース(2022年12月15日)「壱番屋/スパイス使ったパンの新業態「ココイチベーカリー」」
- 流通ニュース(2023年3月29日)「壱番屋/つけ麺屋経営の「竹井」買収」
- 日本経済新聞(2023年3月29日)「「ココイチ」壱番屋、京都のつけ麺店を買収 海外展開も」
- 壱番屋 有価証券報告書【沿革】
- 壱番屋 有価証券報告書(連結)
- 壱番屋 2025年2月期決算説明会資料