壱番屋創業家保有株23.17%のハウス食品グループ本社への譲渡と、同社の連結子会社化

単独で立ちゆかないわけではなかった壱番屋は、なぜ過半の株式を手放したか

時期 2015年10月
意思決定者(推定) 浜島俊哉・宗次徳二(創業者) 社長
論点 創業家保有株の承継と資本関係
概要
2015年10月30日、ハウス食品グループ本社が壱番屋株式の公開買付けを発表し、同年12月に所有割合を51.00%へ引き上げて壱番屋を連結子会社とした。創業者の宗次徳二氏と直美氏、資産管理会社の有限会社ベストライフは保有する23.17%すべてを応募し、創業家は資本からも退いた。
背景
ハウス食品と壱番屋の関係は1974年のルウ選びにさかのぼり、CoCo壱番屋のカレールウは全量がハウス製であった。ハウスは1998年から株式を取得し、2002年には19.50%を持つ持分法適用関連会社としていた。宗次徳二氏は2002年の引退後も13年にわたり大株主のまま経営に関与しなかった。
内容
買付価格は1株6,000円で、公表前営業日の終値5,370円に11.7%のプレミアムを乗せた。買付予定数の上限は502万1,100株(31.45%)、買付予定額は301億2,660万円。上場維持を前提に上限を置き、宗次夫妻とベストライフとは応募契約を結んだ。
含意
壱番屋の株主構成は、創業家の相続という不確実性を抱えた形からハウス食品グループを親会社とする形へ移った。ハウス側はルウの製造販売、壱番屋はレストラン運営という役割分担を敷き、2017年3月には中国・台湾のおよそ60店を直営へ改めた。
筆者の見解

誰のための株式譲渡だったか

創業家が高値で持ち株を現金化した話として読むと、この譲渡の要点を取り違える。動かしたのは売り手でも買い手でもなく、経営を引き継いだ側であった。2015年7月にハウス食品へ出向いたのは浜島俊哉氏で、理由として挙げたのは創業者が亡くなったときのことであった。相続で23.17%が分散すれば、経営に一切関与しないという創業者の作法ごと崩れる。最高益を出している時期にそれを先回りして処理したところに、この判断の芯があるとみることができる。

もっとも、資本の安定が経営の安定を保証したわけではない。子会社化のわずか1カ月後には廃棄カツの横流しが表沙汰になり、ハウスの傘下に入ったことは何の盾にもならなかった。子会社化の狙いだった海外の加速も、中国・台湾のおよそ60店を直営へ戻すまでに1年余りを要している。株主構成を整えることでできるのは、経営が長い時間軸で物を考えられる状態を用意することまでであり、その先の成否は別の努力に委ねられるといえる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

ルウの取引から始まった資本関係

両社の関係は、CoCo壱番屋が生まれる前にさかのぼる。1974年に宗次徳二氏と直美氏が名古屋市内で開いた喫茶バッカスで、客単価を上げるためカレーを品書きへ加えるにあたり、近隣のスーパーでルウを買い集めて食べ比べた末に選んだのがハウス食品製であった。以来、CoCo壱番屋のカレールウは全量がハウス食品から供給されている。取引の縁は資本にも及び、1998年10月と2000年2月の取得に続いて、2002年1月にハウス食品は310万株を買い増した[1][2]

2015年10月の時点で、ハウス食品グループ本社は312万株、所有割合にして19.55%を持っていた。これに対し創業家の側は、資産管理会社である有限会社ベストライフが19.97%で筆頭株主に立ち、宗次徳二氏が2.07%、直美氏が1.13%を保有して、合計は23.17%に及んだ。宗次徳二氏は2002年の引退から13年、株を持ち続けたかったわけではなく会社の方針に従っていただけだと述べており、経営には一切関与しないまま大株主の位置にとどまっていた[3][4]

決断

経営側から持ちかけた過半取得

話を動かしたのは買い手ではなかった。2015年7月、浜島俊哉氏はハウス食品へ出向き、実は創業者が株を売却したい意向を持っている、考えがあれば話をまとめると伝えた。両社はこれを受けて連携のあり方の協議に入る。ハウス側にも事情があり、成熟した国内のカレー市場では規模の拡大が見込みにくい一方、中国や東南アジアの市場は伸びており、いかに速く事業を広げるかが課題となっていた[5][6]

10月30日、ハウス食品グループ本社は公開買付けの開始を発表した。買付価格は1株6,000円で、公表前営業日の終値5,370円に11.7%のプレミアムを乗せた水準にあたる。買付予定数の上限は502万1,100株、買付予定額は301億2,660万円で、買付け後の所有割合は51.00%になる計算であった。上限を設けたのは、完全子会社化ではなく連結子会社化が目的で、成立後も上場を維持する方針だったためである[7][8]

手放す側の理屈

壱番屋が単独で経営を続けられない状況にあったわけではない。2015年5月期は売上高440億円・純利益27億円で最高益を更新しており、外食で苦戦する企業が並ぶなかでは例外的な位置にあった。それでも浜島俊哉氏は会見で、もう少し長いレンジでものを見ている、創業者が亡くなったときのことも考えて株を安定的にしっかり持ってくれるハウスに任せるのがいいだろうと語った。相手について迷いはなく、ハウスしかないと思ったとも述べている[9][10]

創業者の側にも異論はなかった。会社からハウスが持ち株比率を51%にしたいと言っていると伝えられた宗次徳二氏は、ああ、いいんじゃないのと答えている。浜島君の後はハウスさんでもいいかなと以前から夫婦で話していたためで、経営に口を出さないと決めた立場からすれば、資本の扱いも会社の方針に従うだけであった。譲渡で得た資金は、自ら設立したNPOと名古屋のクラシック音楽ホールを通じた芸術・福祉の支援に向けられた[11][12]

結果

子会社化のあとに来たもの

公開買付けは2015年12月1日に期間を終え、ハウス食品グループ本社の所有割合は51.00%となった。宗次夫妻とベストライフは保有していた23.17%すべてを応募し、その対価は約200億円に及んだ。壱番屋は上場を維持したまま親会社を得て、2016年5月期は売上高449億円・営業利益49億円と前期を上回った。ただし子会社化の直後、2016年1月には廃棄を委託した冷凍ビーフカツが処理業者から横流しされていたことが発覚している[13][14][15]

資本関係の組み替えは、事業の分業として形になった。ハウス食品グループ本社の浦上博史社長は、ルウの製造販売はハウス、レストランの運営は壱番屋という役割で、中国だけでなく東南アジアへも日本式のカレー文化を広げると説明している。2017年3月、壱番屋はハウス食品グループから上海を中心に33店を運営する現地法人と25店の台湾カレーハウスレストランを取得し、合弁相手に委ねてきた中国・台湾のおよそ60店を直営に改めた[16][17][18]

出典・参考

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