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玉木伸弥氏への世代承継——創業者から生え抜き第二世代への交代

2018年実施

上場直後の消費増税で2期連続赤字を経たタマホームが、同族第二世代に経営を託した判断

時期 2018年8月
意思決定者 玉木康裕氏(創業者・代表取締役社長)
論点 事業承継と第二世代体制の確立
概要
2018年8月、創業者・玉木康裕氏が代表取締役会長に退き、長男で生え抜き入社の玉木伸弥氏が代表取締役社長へ昇格した事業承継の判断。創業20年、上場5年の節目での同族第二世代への交代だった。
背景
2013年の東証一部上場直後、2014年4月の消費増税による住宅市場の反動減でタマホームはFY14(2015年5月期)・FY15(2016年5月期)の2期連続で純損失に沈んだ。低価格訴求モデルの弱さと出店ピーク期の固定費が収益を圧迫し、体制刷新が課題になった。
内容
玉木伸弥氏は2001年入社の生え抜きで、広告宣伝部長などを経て2014年に代表取締役副社長兼COOとして経営改革を担っていた。2018年8月、玉木康裕氏が会長へ退き、玉木伸弥氏が社長へ昇格することで、実務を担う世代の交代を形式面でも確定させた。
含意
創業者個人の問題意識を出発点とした第一期から、生え抜き第二世代が経営する第二期への切り替えとなった。商品単価引き上げと店舗整理、環境性能対応の商品標準化が進み、コロナ巣ごもり需要のFY22(2022年5月期)に売上ピーク2,560億円を記録した。
筆者の見解

好調に戻してから渡す——創業者が選んだ承継のタイミング

この承継判断の特徴は、危機のただ中ではなく、回復の軌道が見えた段階で創業者が第一線を退いた点にある。玉木康裕氏は上場直後の2期連続赤字に対し、外部から経営者を招くのではなく、生え抜きの長男・玉木伸弥氏を副社長兼COOに据えて4年間の経営改革を任せた。商品単価引き上げと店舗整理でFY17の黒字回復が固まったところで社長を譲り、みずからは会長へ退いた。赤字を第二世代に押し付けて交代させるのではなく、回復の道筋を自らの体制で付けてから渡すという順序をとったとみられる。

広告宣伝畑で育った玉木伸弥氏へ経営を託したことは、低価格の量販というモデルの延長線上で、ブランドと商品ラインの立て直しを担わせる選択でもあった。承継後にコロナ需要も重なって売上は過去最高へ伸びたが、FY24の急減が示すように、住宅需要の変動を受けやすい事業の性格は第二世代でも変わっていない。創業者の一人称の問題意識で立ち上げた会社を、その価値観を共有する生え抜き第二世代へどう引き継ぐか——タマホームの2018年の交代は、同族企業の承継を、業績回復のタイミングと組み合わせて設計した事例として読める。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

上場直後の消費増税と2期連続の純損失

世代承継の背景には、上場直後にタマホームを直撃した業績の落ち込みがあった。2013年3月に東京証券取引所第一部へ直接上場した同社は、翌年の消費増税で急速に収益を崩した。2014年4月に消費税率が8%へ引き上げられると、駆け込み需要の反動で住宅市場が縮み、FY14(2015年5月期)の連結売上高は1,495億円・純損失64億円と上場後初の赤字決算になった。続くFY15(2016年5月期)も売上1,383億円・純損失44億円と2期連続の純損失に沈んだ[1][2]

赤字の主因は二つあった。第一に、「日本の住宅は高すぎる」という創業の問題意識から生まれた低価格訴求の主力商品が、消費増税で可処分所得が圧縮される場面ではむしろ顧客の購買判断を鈍らせた。第二に、創業期から続けた出店拡大の慣性で、200店を超える店舗網を抱えたまま売上が縮み、固定費が重く乗った。創業者・玉木康裕氏が築いたローコスト一本足のモデルは、上場後の市場環境の変化に対する耐性を欠いていた。年商1,500億円規模の上場ハウスメーカーが増税のショックで2期連続赤字に転じた事例として、業界内でも注目を集めた[3]

経営改革を担った生え抜きの長男・玉木伸弥氏

承継の相手となった玉木伸弥氏は、外部から招いた経営者ではなく、社内で育った生え抜きだった。1978年生まれの玉木伸弥氏は2001年6月にタマホームへ入社し、広告宣伝部長などを経て取締役・常務・専務・副社長と昇進を重ねていた。赤字対応のさなかの2014年7月、当時35歳で代表取締役副社長兼COOに就いた玉木伸弥氏は、同年8月にCOOとして営業本部長を兼務し、現場販売の指揮権を集中させた。創業者・玉木康裕氏が代表取締役社長を続けるなか、実務の中心は次世代へ移り、出店拡大路線から赤字克服のための商品・店舗整理路線への切り替えが玉木伸弥氏のもとで始まった[4][5]

決断

創業者の会長退任と長男・玉木伸弥氏の社長昇格

商品ライン再構築の効果がFY17(2018年5月期)の連結売上高1,679億円・純利益20億円として表れ、回復の軌道が固まった。その回復を確かめたうえで創業者・玉木康裕氏は、みずからが20年率いた経営の第一線を退く判断を下した。2018年8月、玉木康裕氏は代表取締役社長を長男の玉木伸弥氏に譲り、みずからは代表取締役会長へ転じた。経営改革委員会担当として4年間にわたり体制刷新を主導してきた玉木伸弥氏が社長へ昇格することで、実務を担う世代の交代が形式面でも確定した。日刊工業新聞は2018年8月29日付で「タマホーム、社長に玉木伸弥氏[8]」と、この社長交代を報じている[6][7]

玉木伸弥氏は就任にあたり、創業者からの継承と自らの役割を公式サイトのトップメッセージで示した。玉木伸弥氏は「創業20年目を迎えた2018年、私は社長に就任いたしました。これまでタマホームが大切にしてきた家づくりに対する想いや努力を受け継ぎながら、さらなる成長に向けてチャレンジをしてまいります」と述べ、創業の価値観を引き継ぐ考えを示した。あわせて「『家づくりは家庭づくり』というのは創業者である会長の口癖でしたが、新しく建てる家に託したご家族のご希望やご期待を実現するため、『Happy Life』を支える温かい家づくりを目指していきます」と、創業者・玉木康裕氏の言葉を引きながら自らの方針を重ねた[9][10]

結果

同族第二世代体制の確立と商品ラインの再構築

この交代により、創業から20年・上場から5年での同族第二世代承継が完了した。創業者個人の問題意識を出発点とした第一期から、生え抜き第二世代が経営する第二期への切り替えとなった。玉木伸弥氏のもとでは、赤字期に始めた商品単価引き上げと不採算店舗の整理が続いた。2014年10月投入の上位グレード「大安心の家 PREMIUM」を皮切りに、2016年4月にはZEH対応の「大安心の家 ZERO」を出すなど、低価格訴求一本足から価格帯と性能帯を組み合わせた多軸の商品戦略へ方針を変えた。就任翌年の2018年10月には連結子会社タマホーム沖縄を吸収合併し、組織の簡素化にも踏み込んだ[11][12]

商品ライン再構築と店舗整理を経た業績は、承継後に伸びた。連結売上高はFY19(2019年5月期)1,868億円、FY20(2020年5月期)2,092億円と回復を続け、コロナ巣ごもり需要が重なったFY22(2022年5月期)には売上ピーク2,560億円・営業利益132億円を記録した。玉木伸弥氏は「タマホームは、お客様のご要望に丁寧に耳を傾け、ローコストながら常に最高品質の住宅をご提供していると自信を持っております」と、低価格と品質の両立という創業の価値観を第二世代の経営でも掲げている。もっとも、FY24(2025年5月期)は金利上昇と物価高で売上高2,008億円・純利益率0.7%へ急減しており、第二世代の経営も市況変動と無縁ではない[13][14]

出典・参考