中部電力東京電力との合弁JERAの設立と国内火力発電事業の全面移管
発電所を持たない電力会社になってでも規模を取るか——燃料上流から卸販売までを東京電力と束ねた統合
- 概要
- 2015年4月、中部電力は東京電力フュエル&パワーと折半出資の合弁会社JERAを設立し、燃料の上流・調達から発電、電力・ガスの卸販売までを段階的に移した。2019年4月1日には燃料受入・貯蔵・送ガス事業と既存火力発電事業をJERAへ承継し、統合を完了した。中部電力は自社で火力発電所を持たない電力会社となった。
- 背景
- 2011年5月の浜岡原子力発電所の全炉停止で火力への依存が高まり、燃料費の負担から2012年3月期以降3期続けて経常赤字を計上していた。省エネルギーの進展と人口減少で国内需要は縮小へ向かい、2016年4月の小売全面自由化は顧客の流出という圧力を加えた。
- 内容
- 2015年10月に燃料輸送・燃料トレーディング事業、2016年7月に既存燃料事業の上流・調達と海外発電・エネルギーインフラ事業、2019年4月に既存火力発電事業等を、それぞれ吸収分割でJERAへ承継した。4年をかけた三段階の統合であった。
- 含意
- JERAは国内の火力発電量の半分を占める発電能力を持つ会社となり、中部電力の利益は持分法による投資利益へ置き換わった。2020年3月期のJERAセグメント利益712億円は、同期の連結経常利益1,918億円のおよそ4割を占めた。
規模を取り、電源を手放すということ
この統合を、原子力を失った電力会社の苦しまぎれの合従連衡と読むのは、事の順序を取り違えている。中部電力が渡したのは発電量の8割超を占める主力であり、地域独占の時代から電力会社の存在理由そのものであった自前の電源であった。それでも折半出資という対等の形にこだわり、燃料の上流から卸販売までを一社に束ねた点に、この判断の芯があったとみることができる。狙いは赤字の穴埋めではなく、年間3,500万トンの液化天然ガスを買う側に立つ交渉力であった。
もっとも、規模の獲得には代償があった。2022年3月期、燃料価格の高騰は中部電力ミライズに834億円の損失をもたらし、連結を経常損失593億円へ沈めている。電気を買う条件が悪化したとき、発電所を持たない会社は自力で吸収する手立てを持たない。しかも50対50の合弁である以上、JERAを一存で動かすこともできず、2024年の決算説明会では出資の持ち方そのものを考え直したいという説明が出た。規模を取るために手放したものの重さは、統合から5年を経てなお勘定され続けているといえる。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
浜岡停止と3期連続の経常赤字
2011年5月、中部電力は政府の要請を受けて浜岡原子力発電所の全炉を停止した。以後、失われた電源を火力で埋め合わせる運転が続き、燃料費の負担が収支を圧迫した。連結の経常損益は2012年3月期に679億円の赤字となり、2013年3月期435億円、2014年3月期926億円と3期続けて赤字を計上した。地域独占のもとで安定した収益を上げてきた電力会社が、燃料の市況に業績を左右される会社へ変わっていた[1]。
燃料費の重さは、そのまま調達の交渉力という問題につながった。液化天然ガスの購入では買い手としての規模が価格条件を左右し、一社で動かせる幅は限られる。国内に目を向ければ、省エネルギーの進展と人口減少によって電力需要は縮小へ向かい、2016年4月の小売全面自由化は顧客の流出という新しい圧力を加えた。既存の枠組みを保ったままでは、収益の回復に届く見通しが立ちにくかった[2]。
バリューチェーンを一社に束ねる構想
2015年4月、中部電力は東京電力ホールディングスの100%子会社である東京電力フュエル&パワーとともに、折半出資の合弁会社JERAを設立した。燃料の上流・調達から輸送、受入・貯蔵、発電、電力・ガスの販売までを一つの会社に束ねるという構想であった。国内の電力会社2社が主力の一部を持ち寄る枠組みに前例はなく、目標は国際エネルギー市場で競合他社と互角に戦えるだけの規模を得ることに置かれた[3][4]。
統合は一度に行われず、三段階に分けて進んだ。2015年10月に燃料輸送事業と燃料トレーディング事業が、2016年7月には既存燃料事業の上流・調達、既存の海外発電・エネルギーインフラ事業が、それぞれ吸収分割でJERAへ承継された。この時点でJERAは燃料と海外の機能を手にしたが、国内の火力発電所は両社の手元に残っていた。最も重い部分の扱いは、次の交渉へ持ち越された[5]。
決断
既存火力の全面統合という合意
2018年2月27日、中部電力と東京電力フュエル&パワーは、既存火力発電事業等のJERAへの統合について、対象となる資産・負債の範囲と詳細なスケジュールで合意したと発表した。同年5月9日には吸収分割契約を結び、効力発生日を2019年4月1日と定めた。承継の対象は燃料受入・貯蔵・送ガス事業および既存火力発電事業等で、中部電力が国内に持つ火力発電所は残らずJERAへ移る内容であった[6]。
2019年4月1日、承継は予定どおり実行され、JERAは燃料上流・調達から輸送、受入・貯蔵、発電、電力・ガス販売までの一連のバリューチェーンを手中にした。規模の面では国内の火力発電量のおよそ半分を占める発電能力を備え、燃料の取り扱い量でも世界の上位に並んだ。国内で競い合ってきた電力会社が、国際市場で相対する相手を基準に事業の単位を組み替えた統合であったといえる[7][8]。
発電所を手放す側の計算
移す側から見れば、この統合は主力の切り離しでもあった。中部電力の発電量の8割超を占める事業が本体から抜け、中部電力とJERAは電力の買い手と売り手の関係に変わる。売買の条件次第で小売の採算が動くため、両社の間には利益相反をどう避けるかという課題が生まれた。規模の利を得るために、自社で電気をつくるという電力会社の基本を手放す判断であった[9]。
統合と同じ2019年4月、JERAの社長には中部電力副社長で発電カンパニー社長を務めた小野田聡氏が就いた。小野田氏は就任直後の取材で、年間3,500万トンを扱う液化天然ガスの規模を保つために国内のほかアジア諸国へ販売を広げると述べ、2025年度の連結純利益を当時の水準から1,000億円積み増す計画を示した。移した事業をどう伸ばすかの設計は、移した側から出た人材が引き受けた[10]。
結果
持分法利益へ置き換わった収益
統合の翌年度にあたる2020年3月期、中部電力の連結決算にはJERAという報告セグメントが並んだ。JERAセグメントの利益は712億円で、同期の連結経常利益1,918億円のおよそ4割を占めた。自社の発電所から生じていた利益は、持分法による投資利益というかたちに置き換わった。売上高は3兆659億円と前期の水準を保ったが、利益の出どころは大きく組み替わっていた[11]。
新しい構造の弱さは、燃料価格の急騰で表に出た。2022年3月期、電力の小売を担う中部電力ミライズは834億円の損失を計上し、連結でも593億円の経常損失に転じた。火力発電所を持たない体制では、電力をJERAや卸電力市場から調達するほかなく、燃料市況の変動を自社の発電で吸収する余地に乏しい。規模と引き換えに手放したものが何であったかが、統合から3年で表れた[12]。
50対50という持ち方
統合から5年を経ても、JERAをどう持つかは決着していない。中部電力は2024年3月期の決算説明会で、新しい技術力をJERAに任せたことが統合の発端であったと振り返り、50%の株主として、自社の利益への貢献、グループ全体の脱炭素戦略、事業ポートフォリオの三点からJERAを評価すると説明した。JERA自身は2035年に3,500億円の純利益を出す目標を掲げており、投資先としての成長性は高いと見込んでいる[13]。
同じ場で、出資比率そのものを見直す可能性にも言及があった。事業の重なりが大きくシナジーが強いほど出資の比率も大きいほうがよいという考え方を示したうえで、JERAが50対50である理由には政策的な事情もあると述べ、単なる株主と子会社の関係なのか、一体で運営するのか、パートナーなのかによって持ち方は変わると説明している。株式公開という選択肢にも触れ、結論は先送りされた[14]。
- 中部電力 有価証券報告書【沿革】
- 中部電力 有価証券報告書(2012年3月期〜2014年3月期・2019年3月期・2020年3月期・2022年3月期・連結)
- 中部電力 ニュースリリース 2018年2月27日「既存火力発電事業等の株式会社JERAへの統合に係る合意について」
- 中部電力 ニュースリリース 2018年5月9日「会社分割による既存火力発電事業等の株式会社JERAへの統合について」
- JERA「2019年4月1日 既存火力発電事業等の統合」特設サイト
- 日本経済新聞(2019年3月25日)「中部電、規模生かせるか 東電と火力をJERAに統合」
- 週刊東洋経済 2019年5月18日号「【第1特集 脱炭素時代に勝ち残る会社】 Part2 目覚める日本企業 エネルギーシフトの行方4 脱炭素化は難題 安定供給との両立が必要 小野田 聡」
- 週刊東洋経済 2019年12月14日号「深層リポート 02 大型買収で「再エネ」を拡大 三菱商事・中部電力の勝算」
- 中部電力 2024年3月期 決算説明会 質疑応答