三菱商事と資本業務提携(2018年・TOYOTIREの決断)

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論点設備資金を1社への割当で調達するか
TOYOTIRE:業績の推移
売上高(億円)営業利益率(%)
工場の建設資金と海外の販路・人材を、1社への新株割当で得た選択

何をなぜ決めたか:工場の建設資金と海外の販路・人材を、1社への新株割当で得た選択

概要

2018年11月1日、東洋ゴム工業の取締役会は、三菱商事との資本業務提携契約の締結と、三菱商事を割当先とする第三者割当増資を決議した。新株26,931,956株を1株1,890円で発行し、三菱商事の持株比率を3.05%から20.00%へ引き上げる内容である。発表時の代表取締役社長は清水隆史氏であった。

提携は社名の変更と組で進んだ。会社は2018年2月の取締役会で、2019年1月1日付で社名を「TOYO TIRE株式会社」へ改めると決めていた。提携の発表でも新しい社名に触れ、タイヤを中心とするモビリティ分野を事業の中核に置くと改めて示し、社名は予定どおり2019年1月に変わった。

背景

三菱商事とは海外で長い取引があった。1974年のオーストラリアを皮切りに、欧州・中国・カナダ・ロシアで三菱商事とタイヤ販売の合弁会社を設立し、海外市場を開拓してきた。提携前の2018年6月末時点で、三菱商事は東洋ゴム工業株3,890,250株を保有し、従業員7名を出向させていた。

一方、会社は不祥事の処理の途中にあった。2015年3月、建築用の免震積層ゴムが国土交通大臣の認定に適合していないことを公表した。2016年12月期は親会社株主に帰属する当期純損失12,260百万円を計上し、提携を決めた2018年12月期末の純資産は157,251百万円と、総資産469,377百万円の3分の1ほどにとどまった。

内容

業務提携は「販売力強化」「技術力強化」「リソース強化」の3テーマで組まれた。日本・中国・欧州・中東アフリカ・アジアの地域ごとに三菱商事と共同タスクフォースを立ち上げ、営業とコーポレート部門の人材を三菱商事から出向者として受け入れるとした。三菱商事は取締役候補1名を指名でき、2019年3月には三菱商事出身の山田保裕氏が取締役会長に就任した。

増資の払込みは2019年2月12日に完了し、509億1百万円が入った。資金は米国とマレーシアの工場の能力増強、新しい生産拠点の建設、トラック・バス用タイヤの設備増強に充て、なかでも新拠点の建設に330億円を見込んだ。発行価額は決議前営業日の終値と同じ1,890円で、発行済株式総数に対する希薄化は21.18%であった。

含意

新しい生産拠点はセルビアに決まった。2019年10月に生産子会社を設立し、投資額約488億円・年産500万本の計画を公表した。工場は2022年7月に欧州初の生産拠点として稼働した。全社では、2023年12月期の純資産が395,199百万円、経常利益が86,047百万円となり、提携前の2018年12月期の157,251百万円・38,379百万円から大きく増えた。

ただし、資金の最大の使い道だったセルビア工場は計画どおりに進んでいない。2025年12月期、米国の関税政策などを受けて事業計画を見直し、セルビアのタイヤ製造設備に13,500百万円の減損損失を計上した。三菱商事の持株比率は2025年末も20.01%で、TOYO TIREは三菱商事の持分法適用会社として、同社から複数の人材を受け入れている。

いつ何が起きたか12件
考察:資金と人材を1社に頼んだ増資
考察

考察:資金と人材を1社に頼んだ増資

なぜ東洋ゴム工業は、三菱商事1社に新株を割り当てたのか。公募増資なら株主は分散し、1社に議決権の20%を渡さずに済む。それでも1社を選んだのは、必要なものが資金だけではなかったからだと考えられる。新しい工場を建設する資金に加えて、海外で売る販路と、営業や管理を担う人材が要った。三菱商事は1974年から販売の合弁を組んできた相手で、すでに社員を出向させていた。工場の資金と人材を同じ相手に頼める会社は、ほかに見当たらなかった。

もっとも、1社への大口の割当には代償があった。発行価額は直前の終値と同じ1,890円で、既存株主の持分は21.18%分薄まった。三菱商事は取締役1名の指名権を得て、同社出身の山田保裕氏が取締役会長に就任した。不祥事の後で信頼を立て直している会社が、社外の株主から会長を迎えたことになる。社外の会長は統治を強める。その一方で、議決権の20%を持つ株主の意向が経営に及ぶ余地も生んだ。資金と人材を一度に得た見返りに、経営の独立を一部差し出した選択だったのだろう。

提携から5年で、会社の財務は大きく変わった。純資産は2018年12月期の157,251百万円から、2023年12月期には395,199百万円まで積み上がり、経常利益も2倍を超えた。しかし、増資の資金で最も大きな額を見込んだセルビア工場は、2025年12月期に13,500百万円の減損を計上した。全社の利益は伸びたが、増資で建設した新拠点はまだ投資を回収できていない。この増資の評価は、欧州の工場が利益を生む拠点になるかどうかで最後に決まるとみられる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月
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図と表

TOYOTIRE:純資産と総資産の推移

純資産額(百万円)負債(総資産−純資産)(百万円)

純資産は払込みのあった2019年12月期に224,509へ増えた

TOYOTIRE:純資産と総資産の推移
(百万円)純資産額総資産額備考
2013年12月期141,510433,327
2014年12月期184,638481,966
2015年12月期175,364522,9373月に免震積層ゴムの大臣認定不適合を公表
2016年12月期145,621491,088親会社株主に帰属する当期純損失12,260を計上
2017年12月期163,815473,876
2018年12月期157,251469,37711月に資本業務提携を決議。払込みは翌期の2019年2月
2019年12月期224,509468,7462月に509億1百万円の払込みが完了
2020年12月期222,694445,579
2021年12月期280,155531,229
2022年12月期320,915598,8897月にセルビア工場が稼働
2023年12月期395,199645,480
出所:東洋ゴム工業 有価証券報告書 第101期(2016年12月期)【主要な経営指標等の推移】 / TOYO TIRE 有価証券報告書 第104期(2019年12月期)【主要な経営指標等の推移】 / TOYO TIRE 有価証券報告書 第108期(2023年12月期)【主要な経営指標等の推移】
出所:東洋ゴム工業 有価証券報告書 第101期(2016年12月期)【主要な経営指標等の推移】 / TOYO TIRE 有価証券報告書 第104期(2019年12月期)【主要な経営指標等の推移】 / TOYO TIRE 有価証券報告書 第108期(2023年12月期)【主要な経営指標等の推移】

TOYOTIRE:売上高と経常利益の推移

売上高(百万円)経常利益率(%)
TOYOTIRE:売上高と経常利益の推移
(百万円)売上高経常利益備考
2013年12月期370,21838,293
2014年12月期393,78246,543
2015年12月期407,78956,814
2016年12月期381,63544,102
2017年12月期404,99940,167
2018年12月期393,22038,379
2019年12月期377,45736,645新株発行費を計上
2020年12月期343,76430,887
2021年12月期393,64755,909
2022年12月期497,21351,035
2023年12月期552,82586,047
出所:東洋ゴム工業 有価証券報告書 第101期(2016年12月期)【主要な経営指標等の推移】 / TOYO TIRE 有価証券報告書 第104期(2019年12月期)【主要な経営指標等の推移】 / TOYO TIRE 有価証券報告書 第108期(2023年12月期)【主要な経営指標等の推移】
出所:東洋ゴム工業 有価証券報告書 第101期(2016年12月期)【主要な経営指標等の推移】 / TOYO TIRE 有価証券報告書 第104期(2019年12月期)【主要な経営指標等の推移】 / TOYO TIRE 有価証券報告書 第108期(2023年12月期)【主要な経営指標等の推移】
参考文献

参考文献

参考
  • TOYO TIRE 有価証券報告書 第104期(2019年12月期)【沿革】
  • TOYO TIRE 有価証券報告書 第104期(2019年12月期)【主要な経営指標等の推移】
  • TOYO TIRE 有価証券報告書 第104期(2019年12月期)【役員の状況】
  • TOYO TIRE 有価証券報告書 第110期(2025年12月期)【注記事項】(連結損益計算書関係)
  • TOYO TIRE 有価証券報告書 第110期(2025年12月期)【大株主の状況】
  • 東洋ゴム工業 ニュースリリース「当社が製造した建築用免震積層ゴムの国土交通大臣認定不適合等について」
  • 東洋ゴム工業 ニュースリリース「東洋ゴム工業株式会社を「TOYO TIRE 株式会社」に社名を変更」
  • 東洋ゴム工業 適時開示「資本業務提携契約の締結及び第三者割当による新株式発行並びに主要株主である筆頭株主及びその他の関係会社の異動に関するお知らせ」
  • TOYO TIRE ニュースリリース「セルビア共和国にタイヤ新工場を設立」
  • TOYO TIRE ニュースリリース「マレーシア Silverstone 工場の閉鎖及び解散のお知らせ」
  • TOYO TIRE 適時開示「支配株主等に関する事項について」
  • 東洋ゴム工業 有価証券報告書「第101期(2016年12月期)【主要な経営指標等の推移】」
  • 東洋ゴム工業 有価証券報告書「第103期(2018年12月期)【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】」
  • TOYO TIRE 有価証券報告書「第104期(2019年12月期)【主要な経営指標等の推移】【沿革】【役員の状況】【大株主の状況】」
  • TOYO TIRE 有価証券報告書「第107期(2022年12月期)【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】」
  • TOYO TIRE 有価証券報告書「第108期(2023年12月期)【主要な経営指標等の推移】」
  • TOYO TIRE 有価証券報告書「第110期(2025年12月期)【注記事項】【大株主の状況】」

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