ブリヂストン 非タイヤ事業の切り離し 非タイヤ・非中核事業の一斉売却とタイヤ×ソリューションへの資源集中

更新:

時期 2020年4月
当時の社長 石橋秀一
論点 事業ポートフォリオと集中領域
何をなぜ決めたか
概要

2020年3月にGlobal CEOへ就任した石橋秀一氏は、同年4月の取締役会で中長期事業戦略を決定した。2020年からを「第三の創業」(Bridgestone3.0)と位置づけ、タイヤ・ゴム事業をコアに、ソリューション事業を成長事業として据え直す構えである。

その実行計画が中期事業計画(2021-2023)で、2023年に売上収益3兆3,000億円レベル、調整後営業利益4,500億円レベル、調整後営業利益率13%レベル、ROIC10%レベル、ROE12%レベルを掲げた。ROICを最重要指標に置いたことで、稼ぐ事業であっても資本効率が見合わなければ手放す筋道が通った。

背景

2020年12月期は新型コロナウイルス感染症の直撃を受け、売上収益2兆9,945億円、営業利益641億円、親会社の所有者に帰属する当期損失233億円に減少した。前期の売上収益3兆5,072億円、営業利益3,493億円、当期利益2,401億円からの急落である。

高コスト・高経費体質と価格マネジメントの課題が営業利益低下の要因として洗い出されており、1988年の米ファイアストン買収以来ひろげてきた化工品・多角化事業は、その低収益が本業の成熟と重なっていた。

内容

最初に切ったのは米国建築資材事業である。2021年1月6日の取締役会決議と同日の契約で、屋根材大手のFIRESTONE BUILDING PRODUCTS COMPANY, LLCをHolcim Participations (US) Inc.へ全株式譲渡し、3月31日に完了した。現金による受取対価は3,833億円、売却益は3,035億円にのぼる。

続く2021年12月10日には、防振ゴム事業と化成品ソリューション事業の譲渡を決定した。吸収分割で株式会社プロスパイラと株式会社アーケムを新設して事業を集約し、前者は安徽中鼎控股(集团)股份有限公司へ2022年9月1日、後者はエンデバー・ユナイテッドが運営する投資組合へ同年8月1日に引き渡した。

含意

3事業の収益は2020年12月期で米国建築資材1,898億円、防振ゴム546億円、化成品ソリューション561億円。売れば全社の売上収益は3,000億円規模で削れる。それでも2021年12月期の継続事業は売上収益3兆2,460億円、営業利益3,767億円へ戻り、翌期には4兆1,100億円に達した。

ただし手放す過程の損失は小さくない。防振ゴムは2021年12月期に評価損977億円を含む税引前損失1,148億円、化成品ソリューションは評価損449億円を含む同549億円を計上している。売却益で出た利益と、切り離しに要した損失は別勘定である。

いつ何が起きたか 10件
筆者の見解
筆者の見解

規模より、どの事業構成で強みを活かすか

この改革の核心は、財務の危機に追われた縮小ではなく、成功体験として抱えてきた事業を自ら手放した点にある。1988年の米ファイアストン買収以来、ブリヂストンは事業を買い、広げることで世界大手の座を保ってきた。石橋秀一氏はその蓄積の一部を、タイヤとソリューションという二本へ絞るために売った。ROICを最重要指標に据えたことが、その筋道を通している。資本効率で測れば、屋根材で稼ぐ3,000億円の収益も、タイヤに投じるべき資本を占める事業でしかない。買って広げる経営から、売って絞る経営への転換だった。

もっとも、絞る過程で払った代償は帳簿に残っている。防振ゴムと化成品ソリューションの2事業だけで、2021年12月期に1,697億円の税引前損失を計上した。売り手がつく値段まで資産を落として初めて引き取り手が現れた、ということでもある。米国建築資材の売却益3,035億円がそれを覆い隠したが、切り離しの巧拙は個別の案件ごとに分かれたとみられる。2026年1月、石橋氏はGlobal CEOを森田泰博氏へ譲った。絞り込んだ事業構成をどう伸ばすかは、次の体制に託されている。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

業績の推移
事業売却の条件

事業売却の条件

科目 概要 備考
米国建築資材事業の分離先 Holcim Participations (US) Inc. スイスの建設資材メーカーLafargeHolcim Ltdの米国子会社。持分割合100%を全て譲渡
米国建築資材事業の分離日 2021年3月31日 取締役会決議日と売却契約締結日はいずれも2021年1月6日(現地時間)
米国建築資材事業の受取対価 383,374百万円 現金による受取対価。決議時点では企業価値34億米ドルに運転資本等の調整を加えて確定と開示
米国建築資材事業の売却益 303,521百万円 法人所得税費用は71,045百万円。非継続事業からの当期利益に計上
防振ゴム事業の分離先 安徽中鼎控股(集团)股份有限公司 吸収分割で新設した株式会社プロスパイラへ事業を集約し、その全株式を譲渡
防振ゴム事業の分離日 2022年9月1日 株式譲渡契約日は2021年12月10日。一部の会社は後日の個別譲渡を予定
防振ゴム事業の移転損益 △14,955百万円 2022年の税引前損失。事業譲渡損失4,254百万円と公正価値測定による損失6,147百万円を含む
化成品ソリューション事業の分離先 エンデバー・ユナイテッド2号投資事業有限責任組合 投資ファンドのエンデバー・ユナイテッドが組成・運営。新設の株式会社アーケムへ集約後に譲渡
化成品ソリューション事業の分離日 2022年8月1日 株式譲渡契約日は2021年12月10日。一部の会社は後日の個別譲渡を予定
化成品ソリューション事業の移転損益 △9,239百万円 2022年の税引前損失。事業譲渡益5,691百万円と公正価値測定による損失13,014百万円を含む
中期事業計画(2021-2023)の目標 2023年に売上収益3兆3,000億円レベル 調整後営業利益4,500億円レベル・同利益率13%レベル・ROIC10%レベル・ROE12%レベル

出所:ブリヂストン 有価証券報告書 第102期(2020年12月期)【後発事象】・第103期(2021年12月期)【経営上の重要な契約等】【非継続事業】・第104期(2022年12月期)【非継続事業】【子会社及び関連会社等】

非継続事業に分類した3事業の収益

ブリヂストン:非継続事業に分類した3事業の収益

(百万円) 米国建築資材防振ゴム化成品ソリューション 備考
2020年12月期 189,83954,61656,158 3事業を非継続事業に分類し、遡って再表示した最初の期
2021年12月期 352,13458,58356,132 米国建築資材の収益には売却益303,521を含む。防振ゴムは公正価値測定による損失97,715を計上
2022年12月期 △62049,90142,295 米国建築資材は譲渡価格の変更による調整のみ。他2事業は譲渡完了までの8か月・9か月分
非継続事業3事業の収益
米国建築資材(百万円)防振ゴム(百万円)

出所:ブリヂストン 有価証券報告書 第103期・第104期(連結財務諸表注記「非継続事業」)

売上収益・営業利益・当期利益の推移

ブリヂストン:売上収益・営業利益・当期利益の推移

(百万円) 売上収益営業利益親会社の所有者に帰属する当期利益 備考
2019年12月期 3,507,243349,336240,111
2020年12月期 2,994,52464,114△23,301 中長期事業戦略を決定した期。新型コロナ禍で営業利益は前期の5分の1以下に減少した
2021年12月期 3,246,057376,799394,037 売上収益と営業利益は非継続事業を除く継続事業。当期利益は非継続事業の売却益を含む
2022年12月期 4,110,070441,298300,305
2023年12月期 4,313,800481,775331,305 中期事業計画(2021-2023)の最終年。調整後営業利益4,806億円・ROIC8.7%で着地
2024年12月期 4,430,096443,319284,989
2025年12月期 4,429,452381,237327,264
売上収益と営業利益率
売上収益(百万円)営業利益率(%)

出所:ブリヂストン 有価証券報告書 第102期〜第107期(連結損益計算書・主要な経営指標等の推移)

同じ問いに直面した会社
参考文献
出典・参考
  • ブリヂストン ニュースリリース「ラファージュホルシム社、ブリヂストンアメリカス インクよりファイアストン ビルディング プロダクツを買収」
  • ブリヂストン ニュースリリース「中期事業計画(2021-2023)」
  • ブリヂストン ニュースリリース「中期事業計画(2021-2023)に基づく内製事業再編の進捗について 中国合成ゴム事業 全株式売却完了」
  • ブリヂストン ニュースリリース「中期事業計画(2021-2023)に基づく化工品・多角化事業再編の進捗について ブリヂストンスポーツアリーナ株式会社の全株式売却」
  • ブリヂストン 有価証券報告書「第102期(2020年12月期)【後発事象】」
  • ブリヂストン 有価証券報告書「第103期(2021年12月期)【経営上の重要な契約等】【非継続事業】」
  • ブリヂストン 有価証券報告書「第104期(2022年12月期)【非継続事業】【子会社及び関連会社等】」

免責事項およびポリシー