スズキ燃費測定と完成検査をめぐる二度の不正と、再発防止への一七〇〇億円

「小少軽短美」が現場で誤解された構造

更新:

時期 2016年5月
意思決定者(推定) 鈴木俊宏・鈴木修 会長 スズキ 社長
論点 法令順守と、カリスマ経営の副作用
概要
2016年の燃費測定不正と2018年の完成検査不正という二度の法令違反を受け、スズキが約200万台のリコールと5年間で1700億円の設備投資に踏み切った経営判断。2019年4月公表の外部調査報告書は、検査人員や時間の不足に加え、無駄を排する「小少軽短美」の方針が現場で誤解されたことを原因に挙げた。鈴木修会長は2016年に責任を取ってCEO職を辞している。
背景
2016年、三菱自動車の燃費不正を受けて国土交通省が各社へ調査を求めた期限の5月18日、報告した41社のうちスズキだけが不正な測定方法の採用を申告した。国が定める惰行法によらず、タイヤやブレーキの転がり抵抗と車体の空気抵抗を屋内で個別に測り、積み上げて走行抵抗値を出していた。テストコースが海に近い丘の上にあって風が強く、規定の測定法ではデータのばらつきが大きいことが背景にある。
内容
2018年には完成検査の不正が発覚した。2019年4月公表の外部調査報告書は、ブレーキや速度計、前照灯など広い項目でのデータ書き換えと改ざんを記している。検査員が社内の資格試験で解答を教える、不合格者を合格にするといった行為や、資格のない者による検査もあった。2017年に国交省の要請で調査を行っている最中、発覚を避けるために書類を改ざんする隠蔽もあり、国内3工場の課長級が連絡を取り合っていた。二輪では1980年代から続き、一部は2019年1月まで及んでいる。
含意
約200万台のリコールで関連費用813億円を2019年3月期に特別損失として計上し、5年間で1700億円を投じて工場と検査設備を整えると決めた。鈴木俊宏社長は「必要なものまで削ることを経営陣は要求していないが、『小さくしろ』と言われた現場は『必要だ』と言えなかった」と述べている。長期政権のもとで異を唱えにくい風土が生まれたことが、二度の不正に共通する構造として指摘された。

一度目:燃費測定

四十一社のうち一社だけの申告

2016年、三菱自動車の燃費不正を受けて国土交通省が自動車メーカーへ調査を求めた。期限の5月18日、報告した41社のうちスズキだけが不正な測定方法の採用を申告[1]している。国が定める惰行法によらず、タイヤやブレーキの転がり抵抗と車体の空気抵抗を屋内で個別に測り、それらを積み上げて走行抵抗値[2]を出していた。対象は2010年以降に販売した全16車種と他社へ供給している11車種、約210万台[3]に及ぶ。

理由として挙げられたのは測定環境である。テストコースが海に近い丘の上にあって風が強く、規定の測定法ではデータのばらつきが大きい[4]。正確な結果を得るには測定を何度も繰り返す必要があり、限られた開発期間で申請に要るデータをそろえるのが難しかった[5]。あらためて正式な方法で取得した結果、申請値との差は誤差の範囲であることが確認されている[6]鈴木修会長はこの責任を取ってCEO職を辞した[7]

二度目:完成検査

広範な改ざんと隠蔽

2018年、完成検査の不正が発覚した。2019年4月に公表された外部調査報告書[8]は、ブレーキや速度計、前照灯など広い項目でのデータ書き換えと改ざん[9]を記している。検査員が社内の資格試験で解答を教える、不合格者を合格にするといった行為があり、資格のない者による検査も行われていた[10]。2017年に国交省の要請を受けた調査の最中には、発覚を避けるため書類を改ざんする隠蔽もあり、国内3工場の課長級が連絡を取り合っていた[11]。二輪では1980年代から続き、一部は2019年1月まで及んでいる[12]

報告書は原因として組織的・構造的な問題を挙げた。検査人員の不足、再検査のための時間やスペースの不足、検査部門が独立していないことによる製造部門からの圧力[13]である。その背景として、検査の重要性に対する経営陣の認識不足と、無駄を徹底的に排除する「小少軽短美」の方針が現場で誤解された[14]ことを指摘している。鈴木俊宏社長は「必要なものまで削ることを経営陣は要求していないが、『小さくしろ』と言われた現場は『必要だ』と言えなかった。企業体質を変えていく[15]」と述べた。

帰結

一七〇〇億円と、長期政権の副作用

国内で販売済みかつ3年目の車検を受けていない車両、約200万台のリコールを実施した。関連費用813億円を2019年3月期に特別損失として計上し、以後5年間で1700億円を投じて工場と検査設備を整えると決めた[16]鈴木修会長は2019年5月の決算会見で「生産本部がこのようなことをしでかしたことは、驚きもしましたし、いっさい見ていなかったことを反省しております[17]」と述べ、トップの責任は2016年より重いとした。

1978年から40年以上にわたる指揮のもとで、周囲が異を唱えにくい風土が生まれていた。取締役は技監を除く全員が鈴木修氏の社長就任後に入社しており、人事・報酬等諮問委員会の委員長も取締役会の議長も同氏が務めていた[18]。必要なものを必要だと言えない現場は、この長期政権の副作用にあたる。

出典・参考
  • 週刊東洋経済 2016年5月28日号「ニュース最前線03 スズキも裏切りの不正 燃費測定で“独自”手法」
  • 週刊東洋経済 2019年5月25日号「【企業リポート スズキ カリスマ経営者の光と影】好業績の裏で検査不正 スズキ「鈴木修経営」の光と影」
  • 週刊東洋経済 2015年8月1日号「【社長の器】スズキ社長交代から1カ月 おやじから託された後継者長男が挑む 脱カリスマ経営」

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