ゴーン会長の逮捕(2018年・日産自動車の決断)

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論点 会長への権力集中をどう解消するか
日産自動車:業績の推移
売上高(億円)営業利益率(%)
一人に集まった権力の解体と、指名委員会等設置会社への移行

何をなぜ決めたか:一人に集まった権力の解体と、指名委員会等設置会社への移行

概要

2018年11月19日、東京地検特捜部が金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)の疑いで日産自動車のカルロス・ゴーン会長を逮捕し、日産は3日後の11月22日付で、同氏を会長職および代表職から解職した経営判断。V字回復の立役者であり、ルノー・日産・三菱の3社連合を率いたカリスマの退場劇であった。

背景

ゴーン会長は大株主ルノーから送り込まれ、アライアンスの要として権力を集中させていた。規模を追う経営への傾斜と、周囲がイエスマンで固まる統治の空洞化のなかで、報酬の不透明さや軌道修正の難しさが積み重なっていた。

内容

金融商品取引法違反(虚偽有価証券報告書提出罪)で元代表取締役が起訴され、元代表取締役会長は会社法違反(特別背任罪)でも起訴された。併せて日産自身も法人として起訴された。

過年度に未計上だった報酬は2006年3月期から2018年3月期までの13期分で4,411百万円にのぼり、2019年3月期に一括して費用計上した。退職慰労金の打切り支給分4,444百万円は不支給とし、株価連動型インセンティブ受領権もすべてキャンセルした。

含意

独立第三者と独立社外取締役で構成するガバナンス改善特別委員会が2019年3月27日に提言をまとめ、日産は同年6月25日の株主総会をもって指名委員会等設置会社へ移行した。取締役11名のうち7名を社外取締役とし、指名・報酬・監査の3委員会を設置して執行と監督・監視・監査を分けた。

もっとも2020年2月には24億2,489万5,000円の課徴金納付命令を受け、西川廣人氏自身も同じ年度のうちに取締役を退任している。後任には指名委員会が選んだ内田誠氏が2019年12月に就任し、代表執行役の選定と社長兼最高経営責任者の後継者計画は、いずれも委員会の権限へ移った。統治の立て直しは一人の退場では終わらなかった。

いつ何が起きたか 11件
考察:権力の集中と、それを正す手だて
考察

考察:権力の集中と、それを正す手だて

この一件が問うているのは、権力が一人に集まった組織を、内側からどう正すのかという難題である。日産を救った実績が統治の目を曇らせ、異論を挟む者は中枢から遠ざけられ、監視の仕組みも実質を失っていた。そこまで空洞化した統治のもとで、社内が最後に頼ったのが検察の捜査であった点に、この決断の重さと危うさが同居していると推察される。正規の手続きで会長を退場させる道が閉ざされていたからこそ、外部の強制力に委ねる選択が現実味を帯びたのだろう。

会長を退けた社長がほどなく自らも退場し、ルノーとの資本関係の対立が表面化したことも、一つの摘発では統治のひずみが解けなかったことを物語っている。カリスマに頼って危機を脱した会社が、そのカリスマへの依存をどう清算するのか——日産の統治の立て直しは、この逮捕を機に長い時間をかけて続いているといえる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月
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図と表

日産自動車:取締役会の構成

取締役(人)うち社外取締役率(%)
日産自動車:取締役会の構成
(人) 取締役うち社外取締役 備考
2017年3月期 91 監査役会設置会社。監査役は5名で、うち3名が社外監査役
2018年3月期 93 監査役は4名で、うち3名が社外監査役
2019年3月期 117 2019年6月25日の株主総会で指名委員会等設置会社へ移行した後の員数
2020年3月期 127 議長と副議長、筆頭独立社外取締役をいずれも社外取締役が務める
2021年3月期 127
2022年3月期 127
2023年3月期 106
2024年3月期 128
出所:日産自動車 有価証券報告書 第118〜125期(役員の状況・コーポレート・ガバナンスの状況等) / 日産自動車 コーポレート・ガバナンスに関する報告書(2021年12月16日・2023年6月29日・2024年7月2日)
出所:日産自動車 有価証券報告書 第118〜125期(役員の状況・コーポレート・ガバナンスの状況等) / 日産自動車 コーポレート・ガバナンスに関する報告書(2021年12月16日・2023年6月29日・2024年7月2日)

日産自動車:有価証券報告書の虚偽記載に係る年度ごとの未計上額

日産自動車:有価証券報告書の虚偽記載に係る年度ごとの未計上額
(百万円) 年度ごとの金額 備考
2014年3月期 △1,660 2006年3月期からの13期分のうち、窓に入る5期を示す。合計は4,411百万円
2015年3月期 △106
2016年3月期 1,127
2017年3月期 498
2018年3月期 994 過年度への配分はこの期で終わる
出所:日産自動車 有価証券報告書 第120期(2019年3月期)【事業上及び財務上の対処すべき課題】
出所:日産自動車 有価証券報告書 第120期(2019年3月期)【事業上及び財務上の対処すべき課題】

経緯と対応

経緯と対応
科目 概要 備考
会長職と代表職の解職 2018年11月22日 カルロス・ゴーン元会長を会長職および代表職から解職した
解職後の報酬の減額 2,544百万円から1,647百万円へ 2018年11月23日から期末までの報酬を、非常勤取締役の報酬相当額へ減額した
退職慰労金 不支給 2007年6月20日の株主総会決議に基づく打切り支給分。未払計上額4,444百万円に相当
株価連動型インセンティブ受領権 すべてキャンセル 過去に報酬開示した公正価額の合計は2,271百万円
起訴 金融商品取引法違反・会社法違反 元代表取締役が虚偽有価証券報告書提出罪、元代表取締役会長は特別背任罪でも起訴
法人としての起訴 金融商品取引法違反 会社自身も起訴された
過年度の報酬の未計上額 4,411百万円 2006年3月期から2018年3月期までの13期分を、2019年3月期に一括して費用計上
ガバナンス改善特別委員会の設置 独立第三者と独立社外取締役で構成 ガバナンスの改善策と、健全なガバナンス体制の在り方を検討した
委員会の報告書受領 2019年3月27日 改善策と、将来にわたり事業活動を行う基盤となる体制の在り方についての提言
統治機構の移行 指名委員会等設置会社 2019年6月25日の株主総会をもって移行し、執行と監督・監視・監査を分離した
社内調査の報告 2019年9月9日 取締役会が監査委員会から報告を受け、ゴーン氏らの不正行為を認定した
会社資産の私的流用 約2,700万米ドル 子会社Zi-A Capital社の投資資金を、個人のための住宅の購入に流用した
為替スワップ契約の含み損 約18億5,000万円 2008年に個人で抱えた含み損を会社へ承継させ、2009年に関連企業へ再承継した
合弁会社からの受領 780万ユーロ 2018年4月以降、三菱自動車工業との合弁会社から決議を欠く支払いを受けた
CEOリザーブからの支出 1,470万米ドル 私的な資金援助を得ていた知人が経営する企業へ、子会社から支払わせた
販売奨励金名目の支出 3,200万米ドル 国外の販売代理店へ、CEOリザーブを使用して子会社から支払わせた
株価連動型インセンティブ受領権の廃止 2020年度以降の付与を廃止 2019年9月9日の報酬委員会で決定し、2020年度に新長期インセンティブプランを導入する
社長兼最高経営責任者の退任 西川廣人氏 当事業年度に取締役を退任。退職慰労金制度の打切り支給額114百万円が支給された
新しい経営体制の発足 2019年12月 指名委員会の選出による経営層の新体制。同年12月1日付で執行体制を変更した
後任の社長兼最高経営責任者 内田誠氏 2003年10月入社。東風汽車有限公司総裁を経て2019年12月に代表執行役社長兼CEOへ
課徴金納付命令 24億2,489万5,000円 2020年2月27日付で金融庁長官から決定の送達を受け、14億625万円を納付した
損害賠償請求の提起 2020年2月12日 日本国内で提起。英領バージン諸島では豪華ヨットの仮処分命令も得ている
改善状況報告書の提出 2020年1月16日 東京証券取引所へ提出。2019年6月には改善報告書を提出していた
出所:日産自動車 有価証券報告書 第120期(2019年3月期)【事業上及び財務上の対処すべき課題】【コーポレート・ガバナンスの状況等】・第121期(2020年3月期)【事業上及び財務上の対処すべき課題】【役員の状況】【役員の報酬等】・第127期(2026年3月期)【事業等のリスク】
出所:日産自動車 有価証券報告書 第120期(2019年3月期)【事業上及び財務上の対処すべき課題】【コーポレート・ガバナンスの状況等】・第121期(2020年3月期)【事業上及び財務上の対処すべき課題】【役員の状況】【役員の報酬等】・第127期(2026年3月期)【事業等のリスク】
参考文献

参考文献

参考
  • 日産自動車 適時開示「元会長らによる不正行為に関する社内調査報告について」
  • 日産自動車 有価証券報告書「第120期(2019年3月期)【事業上及び財務上の対処すべき課題】」
  • 日産自動車 有価証券報告書「第120期(2019年3月期)【コーポレート・ガバナンスの状況等】」
  • 日産自動車 有価証券報告書「第121期(2020年3月期)【事業上及び財務上の対処すべき課題】」
  • 日産自動車 有価証券報告書「第121期(2020年3月期)【役員の状況】【役員の報酬等】」
  • 日産自動車 有価証券報告書「第127期(2026年3月期)【事業等のリスク】」

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