地面師事件で会長社長交代(2018年・積水ハウスの決断)

更新:
論点 詐欺被害の責任を経営陣がどう取るか
積水ハウス:業績の推移
売上高(億円)営業利益率(%)
分譲マンション用地取引で被った詐欺の引責による経営トップの刷新

何をなぜ決めたか:分譲マンション用地取引で被った詐欺の引責による経営トップの刷新

概要

2017年、分譲マンション用地の購入時の取引事故で代金が回収できなくなり、約55億円(5,559百万円)を貸倒損失として2018年1月期の特別損失に計上した。期が明けた2018年2月1日、和田勇代表取締役会長は取締役相談役に就任し、阿部俊則社長が代表取締役会長、仲井嘉浩取締役が代表取締役社長に就任した。

背景

用地の購入は稟議決裁で決まり、重要案件も取締役会決議か稟議決裁で処理されていた。この取引での詐欺事件による損害は5,559百万円にのぼり、分譲マンション用地購入時の取引事故により発生した未回収額として貸倒損失に立てられた。

内容

2018年をガバナンス改革元年と位置付け、重要な投資案件等を審議する経営会議を設け、起案部署・審査部署の双方でリスク要因の分析を徹底する稟議制度改革と、リスク情報の共有・部署間連携を図る機構改革を実施した。取締役会議長と招集権者を別の取締役が務めることを原則とし、女性社外役員の登用、取締役の任期短縮、相談役制度の廃止の方針決定が続いた。和田勇氏は2018年4月26日に取締役相談役を退任し、相談役に就任している。

含意

2018年5月以降、同一株主が当時の代表取締役4名に対し損害と同額の賠償を求める株主代表訴訟を起こし、会社は2018年7月以降、代表取締役側に補助参加した。2020年4月23日の第69回定時株主総会では、取締役の任期を2年以内から1年以内へ短縮し、取締役会の決議により相談役を置ける規定を削る定款変更が可決されている。ガバナンス改革の施策は2018年から3年間で21項目に及び、取引事故については総括検証委員会を設置して総括検証報告書を公表した。

いつ何が起きたか 10件
当時の取締役 11名

当時の取締役(2017年4月株主総会決議)

考察:稟議はどこで止まるか
考察

考察:稟議はどこで止まるか

この一件が残したのは、損害の大きさそのものより、用地の購入という日常の稟議がどこでも止まらなかったという事実であったといえる。事件のあとに会社が手を付けた場所が、それを裏返しに示している。重要な投資案件を取締役会決議や稟議決裁に先立って審議する経営会議を設け、起案部署と審査部署の双方でリスク要因の分析を徹底する形へ稟議制度を組み替え、リスク情報が部署をまたいで届くよう機構を改めた。改めるべきは人ではなく決裁の通り道だと、会社は判断したことになる。

経営体制の交代は、取締役会の議事として決着した。2018年1月24日、新しいガバナンス体制の構築に向けて、議長と招集権者の分離による権力集中の解消を目的に会長の解職その他の動議が出され、議長の交代と取締役会規則の改定が可決されたのち、会長から辞任の申し出があり全会一致で承認された。1998年から社長、2008年から会長を務めた和田勇氏が、その日に退いたことになる。もっとも、以後に積み上がった議長と招集権者の分離、取締役の任期短縮、相談役制度の廃止、社外取締役の増員は、いずれも動議が名目に掲げた方向と重なる。責任の追及が株主代表訴訟と株主提案として外から続くあいだに、残った体制がその中身を実現していっただろう。

Yutaka Sugiura, 2026年7月
数字で見る 2表

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図と表

積水ハウス:取締役会の構成の推移

積水ハウス:取締役会の構成の推移
(名) 取締役うち代表取締役うち社外取締役 備考
2013年1月期 1122
2014年1月期 1122
2015年1月期 1122
2016年1月期 1122
2017年1月期 1122 代表取締役は会長と社長の2名だった
2018年1月期 1143 取引事故が起きた期。2018年2月に会長・社長が交代し、代表取締役は4名になった
2019年1月期 1143
2020年1月期 1244 女性社外役員の登用が進み、社外取締役は4名になった
2021年1月期 1044 阿部俊則・稲垣士郎・内田隆が役員一覧から外れ、取締役は10名に
2022年1月期 1035 社外取締役が5名となり、取締役会の半数を占めた
2023年1月期 1035
出所:積水ハウス 有価証券報告書 第62〜72期【役員の状況】【コーポレート・ガバナンスの状況等】
出所:積水ハウス 有価証券報告書 第62〜72期【役員の状況】【コーポレート・ガバナンスの状況等】

取引事故の経緯と会社の対応

取引事故の経緯と会社の対応
科目 概要 備考
事故の発生 分譲マンション用地購入時の取引事故 2017年に発生し、支払った購入代金が未回収となった
損害の額 55億5,900万円 2018年1月期に貸倒損失5,559百万円として特別損失に計上した
経緯の公表 2018年3月6日付適時開示 経緯概要・発生原因・責任の所在・再発防止策・処分の内容を記載
調査対策委員会の意見 経営上、重い責任がある 社長(当時)の責任について調査報告書の原文を適時開示に掲載
調査報告書を全文公表しない理由 模倣犯への懸念、捜査上の機密保持、プライバシーへの配慮
2018年1月24日の取締役会 会長(当時)の解職その他の動議 議長交代と取締役会規則改定の動議が可決後、会長の辞任を全会一致で承認
役員の異動 2018年2月1日 和田勇が取締役相談役、阿部俊則が代表取締役会長、仲井嘉浩が代表取締役社長に
相談役の退任 2018年4月26日 和田勇が取締役相談役を退任し、相談役に就任した
再発防止の施策 経営会議の設置と不動産稟議制度改革 管理部門会議でのリスク情報共有、審査責任部署の明確化と電子稟議システム導入
株主代表訴訟 当時の代表取締役4名に5,559百万円を請求 2018年5月以降に提起。会社は同年7月以降、代表取締役側に補助参加
定款の変更 取締役の任期を1年に短縮し相談役の規定を削除 同じ第69回定時株主総会に第2号議案として付議され承認可決
ガバナンス改革の規模 2018年から3年間で21項目 2020年9月に総括検証委員会を設置し、同年12月7日に総括検証報告書を公表した
出所:積水ハウス 有価証券報告書 第67〜70期/第69回定時株主総会 招集ご通知・決議ご通知/適時開示
出所:積水ハウス 有価証券報告書 第67〜70期/第69回定時株主総会 招集ご通知・決議ご通知/適時開示
当時の取締役 11名

当時の取締役(2017年4月株主総会決議)

参考文献

参考文献

参考

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