トーセイ名古屋鉄道との資本業務提携と、創業者に代わる筆頭株主の登場

首都圏に絞ってきた不動産会社が、中部の大手私鉄を15.47%の筆頭株主として迎えた2024年の判断

時期 2024年5月
意思決定者(推定) 山口誠一郎 社長
論点 安定株主の確保と、首都圏の外への足がかり
概要
2024年5月、トーセイは名古屋鉄道と資本業務提携契約を締結した。名古屋鉄道は2024年11月末時点でトーセイ株式7,500,100株・15.47%を保有する筆頭株主となり、山口誠一郎社長の持株は12,885,500株から5,385,400株・11.11%へ減って第3位になった。
背景
トーセイは1994年の第二創業以来、首都圏の中小規模不動産の再生を主力としてきた。受託資産残高は2024年8月末で2兆4,500億円、その7割弱を海外投資家の案件が占める。一方で株主構成は創業者個人が四半世紀以上にわたり筆頭という状態が続いていた。
内容
提携で掲げたのは、大規模不動産への共同取り組み、名古屋圏での不動産投資、私募ファンドの拡大、不動産テックビジネスの四つである。従来100億〜200億円だった投資単位を、名古屋鉄道と組むことで300億〜500億円の規模まで引き上げる想定を示した。
含意
締結の翌月にキックオフミーティングを開き、業務提携推進委員会を設けて定例会議を毎週開催した。共同案件の第1弾は名鉄グループ保有物件を組み入れた不動産クラウドファンディング「TREC12号 名古屋市中区マンションファンド」(ファンド総額5.2億円)であった。
筆者の見解

筆頭株主が入れ替わった年

この提携は、事業の話と資本の話が同じ一枚に収まっている点に特徴がある。事業の側で語られたのは、投資単位を100億〜200億円から300億〜500億円へ引き上げること、名古屋圏の情報網に手が届くこと、名鉄の物件を私募ファンドやクラウドファンディングに載せることであった。資本の側で起きたのは、1994年の第二創業から一貫して筆頭株主であった創業者が持株の半分以上を放し、その分を事業会社が引き受けたことである。名古屋鉄道は安定株主であると同時に、案件の出し手でもある。

動き出しの速さと、実際に組んだ案件の大きさには開きがある。毎週の定例会議とガイドラインの整備は締結から半年で終わった一方、最初の共同案件は総額5.2億円のクラウドファンディングであり、掲げた300億〜500億円の規模にはまだ遠い。名古屋圏で検証した物件は30件内外あるが、2025年1月の時点で投資を決めた案件はなかった。名古屋鉄道が握る7,500,100株は、山口誠一郎社長が手放した株数とちょうど同じ数である。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

首都圏の「ぼろビル」に絞った30年

トーセイが扱ってきたのは、山口誠一郎社長本人の言い方を借りれば「ぼろビル」「ぼろマンション」と呼ばれる、稼働のよくない中古物件である。既存不適格の建物の耐震性を上げ、配管など目に見えない部分を直し、賃料を引き上げながら満室稼働へ持っていく。エリアは1都3県が中心で、首都圏の中古再生不動産の市場規模はおよそ10兆円ある。2023年11月期の再生事業の売上高は475億円であり、仮に1,000億円になってもシェアは1%にすぎない[1]

もう一方の柱であるファンド運用は、この再生の現場力を外部資金に貸す商売として伸びた。2024年8月末の受託資産残高は2兆4,500億円、うち7割弱が海外投資家の案件で、不動産関連特定投資運用業等の預かり資産は2年連続で国内首位となった。2024年11月期の連結売上高は822億円、営業利益185億円、当期純利益120億円である。ただし投資の単位は、一件あたり100億円から200億円というあたりが上限であった[2][3]

創業者個人が筆頭株主であり続けた資本構成

資本の側には、1994年の第二創業からほとんど動かない一点があった。2023年11月末時点の大株主一覧の首位は山口誠一郎社長個人で、12,885,500株・26.63%を保有していた。第2位は有限会社ゼウスキャピタルの6,000,000株・12.40%である。この12,885,500株という数字は、2016年11月末から2023年11月末まで一株も変わっていない。上場企業でありながら、議決権の四分の一強を創業者一人が握る状態が続いた[4][5]

会社は同じ時期に、次の9年の絵を描いていた。2024年から2032年までを3つのフェーズに分ける長期ビジョン2032を掲げ、その第1段が中期経営計画「Further Evolution 2026」となる。ここで示した方針の一つが、首都圏でシェアを広げつつ、培った手法を武器に名古屋圏・関西圏への進出を検討することであった。首都圏の外へ出るには土地勘と情報が要り、投資単位を上げるには自己資金だけでは足りない[6]

決断

15.47%と、創業者が手放した7,500,100株

2024年5月、トーセイは名古屋鉄道と資本業務提携契約を締結した。2024年11月末時点の大株主一覧では、名古屋鉄道が7,500,100株・15.47%で首位に立ち、有限会社ゼウスキャピタルの6,000,000株・12.38%が続き、山口誠一郎社長は5,385,400株・11.11%で第3位となった。社長の保有株数は12,885,500株から5,385,400株へ減っており、その差は7,500,100株、名古屋鉄道が取得した株数とちょうど同じである[7][8]

相手の顔ぶれは、資本の受け皿としてわかりやすい。名古屋鉄道は名古屋圏で鉄道を中心とした交通事業と不動産事業を広く営み、同地でのブランド力と経営資源、安定した財務基盤を持つ。対するトーセイの持ち味は首都圏での不動産投資の実績とファンドの運用実績である。両社は互いの強みをこう整理したうえで、不動産事業で共同プロジェクトを進め、首都圏と名古屋圏での不動産投資とファンドビジネスを厚くすることを提携の目的に据えた[9]

投資単位を三倍にする、という具体

山口誠一郎社長は2024年7月の決算説明会で、提携の中身を四つに分けて説明した。第一が大規模不動産への取り組みである。それまでトーセイ単独ではアセット投資やバルク投資で100億円から200億円というのが大きな案件であったが、名鉄と一緒であれば300億円、400億円、500億円の開発投資機会に手を出せる。第二が名古屋圏での不動産投資で、名鉄が持つ地域のインフラと情報を、トーセイが得意とする中小型ビルの再生に結びつける想定であった[10][11]

第三が私募ファンドの拡大である。受託資産残高で国内首位に立ったアセットマネジメントの能力を使い、名古屋圏の物件を私募ファンド化して運用報酬を得る。第四が不動産テックで、シンガポールのADDXに第1弾を上場させたセキュリティ・トークンと、第10号まで積み上げたクラウドファンディングを、名古屋圏の物件や名鉄の顧客層に向けて使う構想であった。四つとも、名鉄の持つ物件と地域、トーセイの持つ運用と小口化の技術を掛け合わせる形になっている[12]

結果

毎週の定例会議と、名古屋の情報

締結は5月末で、翌6月には名古屋鉄道の担当者とキックオフミーティングを開いた。トーセイ側は名古屋鉄道の保有アセットについてデューデリジェンスと値付けの検討に入り、共同事業の形を探り始めた。山口誠一郎社長は7月の説明会で、発表後の6月から東京にいる自分たちのところへ名古屋の不動産情報がかなり入ってくるようになったと述べている。提携そのものが、情報の流れを変えた[13][14]

協議の場は常設された。両社は業務提携推進委員会を設け、定例会議を毎週開いている。2025年1月の決算説明会で山口誠一郎社長は、名古屋圏のアセットを30物件内外検証しているものの、確実に投資すると決めた具体案件はまだないと答えた。同時に、互いのエクイティ投資の出資額に関するガイドラインを2024年12月に作り終えたことも明かしている。共同投資の枠組みを先に決め、案件は数を当たって選ぶという運びであった[15][16]

第1弾は5.2億円のクラウドファンディング

共同案件の第1弾は、大規模不動産ではなく小口の商品であった。トーセイが運営する不動産クラウドファンディング「TREC FUNDING」の第12号として、名鉄グループが保有していた名古屋市中区の1棟収益マンションを組み入れたファンドを組成し、2025年1月中旬に募集を始めた。ファンド総額は5.2億円、予定分配率は年6.5%、予定運用期間は2年である。名鉄の物件をトーセイの小口化の仕組みに載せる、という組み合わせが最初に形になった[17]

翌期にはもう一段進んだ。2025年11月期には「TREC13号 国立マンションファンド」に名鉄都市開発とトーセイの両社が劣後出資し、投資家の優先出資部分の元本の安全性を高める設計を採った。名古屋の物件を東京で売る第12号に対し、第13号では東京の物件に名鉄グループが資金を入れている。同期のトーセイの連結業績は売上高946億円、営業利益223億円、当期純利益147億円で、いずれも過去最高を更新した[18][19]

出典・参考
  • トーセイ 2024年11月期第2四半期 決算説明会 質疑応答(2024年7月5日)
  • トーセイ 2024年11月期 決算説明会 質疑応答(2025年1月10日)
  • トーセイ 決算説明資料(2024年11月期)
  • トーセイ 決算説明資料(2025年11月期)
  • 週刊東洋経済 2024年11月30日号「トップに直撃 トーセイ 社長 山口誠一郎 『日本の“利回り”は世界一 不動産価格はまだ上がる』」
  • トーセイ 有価証券報告書(連結・IFRS)/同【大株主の状況】

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