サンリオ 辻信太郎氏の社長退任と辻朋邦氏への継承 創業60年で初のトップ交代と、第二の創業を掲げた構造改革

更新:

時期 2020年7月
当時の社長 辻朋邦
論点 経営承継とキャラクター事業の再構築
何をなぜ決めたか
概要

2020年7月、創業者の辻信太郎氏(92歳)が1960年8月の設立から60年務めた社長を孫の辻朋邦氏(31歳)へ譲り、創業以来初のトップ交代に踏み切った。辻朋邦氏は2014年1月の入社から6年、2017年6月に専務取締役へ就任していた。交代時の役員は13名で、前期の18名から5名が減っている。

翌2021年3月期は1995年以来の営業赤字となり、新体制はこれを「第二の創業」という覚悟で受け止めた中期経営計画(2022年3月期〜2024年3月期)を掲げ、最終年度に営業利益30億円までの反転を目標に置いた。

背景

2015年3月期から7期続けて減収減益となり、売上高は745億円から410億円へ、営業利益は174億円から32億円の赤字に転落した。欧州と北米は恒常的な赤字で、2020年3月期の北米は売上26億円に対し11億円の損失を計上している。国内物販は赤字が許容され、商品のSKUは業務量増・ロット減・原価高止まりを招いていた。中国・東南アジアも旧態依然のライセンス事業に留まり、稼ぎはアジアの取り込みに偏っていた。創業者が60年にわたり社長を務め、後継の体制は空いたままだった。

内容

2020年7月、辻朋邦氏が代表取締役社長に就任し、辻信太郎氏は代表権のある会長となった。取締役の任期は1年で、2020年8月26日の定時株主総会の終結の時から起算する。

新体制は組織風土改革・国内外の構造改革の完遂・再成長の種まきを三本柱に据え、社長中心の新・経営チームへ刷新したうえで、KGI・KPI体系を評価に紐付けて責任の所在を明確にした。国内物販は利益重視へ転換し、米国では11億円の赤字解消を目指し、中国ではEC・ゲームを注力分野に定めた。2021年6月24日には社内2名・社外3名の任意の指名・報酬諮問委員会を設置し、代表取締役の選定・解職を諮問の対象に置いた。

含意

2021年3月期の営業損失32億円を底に、2022年3月期25億円、2023年3月期132億円、2024年3月期269億円、2025年3月期518億円と営業利益は伸び続けた。中期経営計画が最終年度に掲げた30億円は、2023年3月期の時点で4倍を超えている。地域別では北米の売上高が2021年3月期の21億円から2025年3月期の274億円へ、アジアが58億円から234億円へ伸び、承継時に赤字だった北米は利益の出る地域へ変わった。役員は13名に絞られたまま、女性が0名から4名へ増えた。

いつ何が起きたか 7件
筆者の見解
筆者の見解

求心力を、一人と一頭から仕組みへ

この承継の核心は、誰に社長を承継しせたかではなく、会社の稼ぎ方を一人と一頭から引き剥がした点にある。創業者の辻信太郎氏が60年かけて築いた求心力と、ハローキティという一頭の人気は、サンリオの強みであると同時に、それが揺らげば全体が傾く弱さでもあった。辻朋邦氏が掲げた「第二の創業」は、この二つの依存を同時に薄める作業だったのだろう。組織の壁とサイロ化を壊し、赤字が許容されてきた国内物販を利益重視へ転換し、海外は外部パートナーと組んで採算の高いライセンスへ寄せた。

もっとも、V字回復がそのまま安泰を約束するわけではない。2021年3月期に3,280百万円の営業損失だった会社が2025年3月期に51,806百万円を稼ぐまでになったのは、構造改革の成果と50周年の追い風が重なった結果でもある。海外市場の比重の高さは為替や規制の影響を受けやすく、複数キャラクター化は一頭への依存を薄めた反面、どれも決め手を欠けば全体が緩む。カリスマ創業者の求心力を、辻朋邦氏は指名・報酬諮問委員会やKPI体系という仕組みへ移そうとしている。一代の才覚に頼らずに競争優位を保ち続けられるかどうかが、この承継のほんとうの評価を決める。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

業績の推移
社長交代の経緯と対応

社長交代の経緯と対応

科目 概要 備考
交代の時期 2020年7月 1960年8月の設立から60年で初めての社長交代。日は開示に記載がない
新たに代表取締役社長となった者 辻朋邦(31歳) 旧役職は専務取締役。2014年1月入社、2016年6月に取締役、2017年6月に専務取締役
代表取締役社長でなくなった者 辻信太郎(92歳) 1960年8月の設立以来社長を務め、代表権のある会長へ就任した
新旧の親族関係 代表取締役会長の孫 役員の状況に、代表取締役社長は代表取締役会長の孫であると注記されている
就任時の役員数 13名(うち女性0名) 前期の18名から5名減。人数は2020年8月27日提出の有価証券報告書の提出日現在
取締役の任期 1年 2020年8月26日開催の定時株主総会の終結の時から1年間
指名・報酬諮問委員会 2021年6月24日に設置 任意の委員会。取締役会の諮問に応じて審議し、取締役会に対して答申を行う
委員会の構成 5名(社内2名・社外3名) 社外取締役3名はいずれも東京証券取引所に独立役員として届け出ている
委員会の諮問事項 代表取締役の選定・解職ほか 取締役の選任・解任、役付取締役の選定・解職、取締役の報酬に関する事項
委員会の開催 2023年3月期に2回 委員5名の全員が2回とも出席した
新体制が掲げた中期経営計画 2022年3月期から2024年3月期 1995年以来の営業赤字を痛切な反省の下、「第二の創業」の覚悟で取り組むとした
中期経営計画の目標 最終年度に営業利益30億円 組織風土改革・国内外の構造改革の完遂・再成長の種まきを三本柱に据えた
経営チームの刷新 社長中心の新・経営チームへ 組織風土改革の第一項目。KGI・KPI体系を整備し、責任の所在を明確化する

出所:サンリオ 有価証券報告書 第60期(2020年3月期)【役員の状況】、第61期(2021年3月期)【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】【コーポレート・ガバナンスの状況等】、第63期(2023年3月期)【コーポレート・ガバナンスの状況等】

業績の推移

サンリオ:業績の推移

(百万円) 売上高営業利益親会社株主に帰属する当期純利益 備考
2016年3月期 72,47612,6759,609
2017年3月期 62,6956,9046,475
2018年3月期 60,2205,7344,928
2019年3月期 59,1204,7863,880
2020年3月期 55,2612,106191 辻信太郎社長の最後の通期。7期続いた減収減益の末で、純利益は191百万円
2021年3月期 41,053△3,280△3,960 辻朋邦社長が就任した期。1995年以来の営業赤字で、営業損失は3,280百万円
2022年3月期 52,7632,5373,423 中期経営計画の初年度。組織風土改革と国内外の構造改革に着手した期
2023年3月期 72,62413,2478,158 中期経営計画の最終年度目標3,000百万円を、2年目で4倍超に上回った
2024年3月期 99,98126,95217,584 中期経営計画の最終年度。売上高は承継前の2020年3月期を上回った
2025年3月期 144,90451,80641,731
売上高と営業利益率
売上高(百万円)営業利益率(%)

出所:サンリオ 有価証券報告書 第56〜65期(2016年3月期〜2025年3月期)【主要な経営指標等の推移】【連結損益計算書】

地域別の売上高(外部顧客への売上高)

サンリオ:地域別の売上高(外部顧客への売上高)

(百万円) 日本アジア北米 備考
2016年3月期 49,9599,6965,933
2017年3月期 46,1048,7364,025
2018年3月期 45,3598,8543,042
2019年3月期 45,1908,9432,661
2020年3月期 43,0847,6052,607 北米はセグメント損失1,126百万円。欧州も553百万円の損失を計上している
2021年3月期 31,5825,8252,136 承継の期。日本は前期比11,502百万円の減収で、全社の営業赤字の主因となった
2022年3月期 40,1836,9523,574
2023年3月期 52,30511,5176,473 北米のセグメント利益が726百万円となり、赤字が続いた地域が黒字へ転じた
2024年3月期 68,95115,14012,439 北米は売上高が前期の1.9倍。セグメント利益2,838百万円で日本に次ぐ規模
2025年3月期 85,98923,40727,487 北米がアジアを上回った。欧州6,230・南米1,789百万円は列に置いていない

出所:サンリオ 有価証券報告書 第56〜65期(2016年3月期〜2025年3月期)【セグメント情報】

役員数と従業員数

サンリオ:役員数と従業員数

(名) 役員数うち女性連結従業員数 備考
2016年3月期 1821,331
2017年3月期 1921,326
2018年3月期 1821,321
2019年3月期 1821,297
2020年3月期 1301,276 役員13名は交代後の提出日現在。従業員数は2020年3月31日現在で就業人員数
2021年3月期 1311,208 女性役員が1名となった。従業員数は承継前の2020年3月期から68名減った
2022年3月期 1211,181
2023年3月期 1211,217
2024年3月期 1341,300 女性比率30.7%。中期経営計画がESGに掲げた社外取締役比率の適正化が進んだ
2025年3月期 1341,445

出所:サンリオ 有価証券報告書 第56〜65期(2016年3月期〜2025年3月期)【役員の状況】【従業員の状況】

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参考文献
出典・参考
  • サンリオ 有価証券報告書「第60期(2020年3月期)【役員の状況】」
  • サンリオ 有価証券報告書「第61期(2021年3月期)【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】」
  • サンリオ 有価証券報告書「第61期(2021年3月期)【コーポレート・ガバナンスの状況等】」
  • サンリオ 有価証券報告書「第63期(2023年3月期)【コーポレート・ガバナンスの状況等】」
  • サンリオ 有価証券報告書「第65期(2025年3月期)【主要な経営指標等の推移】【セグメント情報】【従業員の状況】」

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