創業者から孫への60年ぶりの世代承継と「第二の創業」による多キャラクター経営への転換

ハローキティ一本足のライセンス経営を、31歳の3代目はどう組み替えたのか——7期続いた後退から過去最高益へ

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時期 2020年7月
意思決定者 辻朋邦・辻信太郎(前社長)から承継 社長
論点 経営承継とキャラクター事業の再構築
概要
2020年7月、創業者の辻信太郎(92歳)が60年務めた社長を孫の辻朋邦(31歳)へ譲り、創業以来初のトップ交代に踏み切った経営判断。辻朋邦は「第二の創業」を掲げ、ハローキティ中心のライセンス経営を複数キャラクターの育成と海外ライセンスへ組み替えた。
背景
2015年3月期から2021年3月期まで7期続けて減収減益となり、収益はハローキティ一本に偏っていた。創業者の辻信太郎が60年にわたり社長を務め、後継体制の構築が課題として残っていた。
内容
2020年7月1日、辻朋邦が31歳で社長に就任し、辻信太郎は代表権のある会長へ退いた。辻朋邦はキャラクター戦略を立てる部署を設け、ハローキティに頼らないキャラクターの品ぞろえと、米国・中国を軸とする採算の高いライセンス営業へ収益の柱を組み替えた。
含意
2021年3月期を底に営業利益は2026年3月期の779億円まで回復し、株価は就任4年で6倍、時価総額は10倍を超えた。一頭のキャラクターへの依存を薄め、複数キャラクターと海外ライセンスで稼ぐ構造へ作り替えた点に、この承継の性格がある。
筆者の見解

求心力を、一人と一頭から仕組みへ

この承継の核心は、誰に社長を継がせたかではなく、会社の稼ぎ方を一人と一頭から引き剥がした点にある。創業者の辻信太郎が60年かけて築いた求心力と、ハローキティという一頭の人気は、サンリオの強みであると同時に、それが揺らげば全体が傾く弱さでもあった。辻朋邦が掲げた「第二の創業」は、この二つの依存を同時に薄める作業だった。キャラクターを複数育てて浮き沈みを均し、採算の高い海外ライセンスへ収益を寄せたことで、一頭の波に振られにくい収益構造へ組み替わった。

もっとも、V字回復がそのまま安泰を約束するわけではない。複数キャラクター化は依存を薄めた反面、どのキャラクターも決め手を欠けば全体が緩むという別の課題を抱える。ライセンス収益は採算こそ高いが、流行の移ろいやすさに左右されやすく、米国・中国という海外市場の比重の高さは為替や規制の影響も受ける。カリスマ創業者の求心力を、辻朋邦は組織の仕組みへ移そうとしている。一代の才覚に頼らずに勝ち続けられるかどうかが、この承継のほんとうの評価を決める。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

ハローキティ一本足のライセンス経営と7期続いた後退

サンリオは、ハローキティをはじめとするキャラクターを育て、その使用権を他社の商品に貸すライセンス(商品化権)と、自社商品の物販で稼ぐ会社である。ただし収益はハローキティ一本に偏り、他社へ貸す使用権もこのキャラクターが中心だった。連結売上高は2014年3月期の770億円を頂点に、2021年3月期の410億円まで7期続けて減り、営業利益も210億円から2020年3月期の21億円へ細った。単一のキャラクターに頼る収益構造の弱さが、そのまま数字に出ていた[1][2]

60年におよぶ創業者の長期政権と後継の課題

創業者の辻信太郎は、1960年に前身の山梨シルクセンターを興して以来、60年にわたり社長を務めてきた。一人の創業者が長く率いる経営は、後継者をどう定めるかという課題と裏表だった。信太郎の長男で海外事業を主導した辻邦彦が急逝すると、その子の辻朋邦は2014年1月に勤め先の食品会社からサンリオへ移り、経理から実務を積んだ。祖父から孫へ世代をひとつ飛ばす承継の下地が、この時期にできていた[3]

決断

創業60年で初のトップ交代

2020年6月11日、サンリオは辻朋邦専務(31歳)が7月1日付で社長へ昇格する人事を固めた。創業者の辻信太郎(92歳)は代表権のある会長へ退いた。1960年の創業から60年で、社長が交代するのは初めてだった。当時の上場企業の社長として最年少の部類にあたる31歳への承継は、同族経営を保ちながら世代をひとつ飛ばして次代へ渡す選択だった。カリスマ創業者が築いた求心力を、孫の代で組み替える試みでもあった[4]

「第二の創業」と複数キャラクターへの組み替え

就任にあたり辻朋邦は「第二の創業」を掲げた。創業者の残した「みんななかよく」という理念を守りつつ、事業のかたちは自分の代で作り直すという覚悟だった。7期続いた減収減益とコロナ禍による店舗・テーマパークの休業が重なり、キティ人気の波にそのまま業績が振られる収益構造の弱さは、承継の前から誰の目にも明らかだった。辻は、ハローキティ一本足の経営を組み替えることを、承継後の最初の課題に据えた[5]

辻がまず手をつけたのは、キャラクター戦略の不在だった。ライセンス営業の現場では、営業力だけでキティを売り続けることが難しくなっていた。辻は2018年、キャラクター戦略を立てるマーケティングの部署を設け、ハローキティに頼らないキャラクターの品ぞろえを組み直した。脇に置かれていたキャラクターを育て、物販より採算の高い海外ライセンスへ収益の柱を寄せる方針も、並行して進めた[6]

結果

2021年3月期を底にした営業利益のV字回復

収益構造の組み替えは、数字に表れた。コロナ禍が重なった2021年3月期を底に、サンリオの業績はV字を描いて回復した。営業利益は承継前の2020年3月期の21億円から、2024年3月期には当時の過去最高となる270億円へ伸び、2026年3月期には779億円に達した。一頭のキャラクターの人気に振られていた収益は、複数キャラクターと海外ライセンスの伸びに支えられ、桁を変える規模へ育った[7]

株価6倍と、キティ依存を脱した収益構造

市場の評価も一変した。株価は辻朋邦の就任から4年で6倍に上がり、時価総額は10倍を超えた。牽引したのは、米国と中国を軸にしたキャラクターのライセンス営業で、この事業の営業利益率は30%近くに達した。ハローキティに集めていた収益を複数キャラクターへ散らし、在庫を抱える物販より採算の高い使用権収入へ寄せた組み替えが、株式市場に映った成果だった。一頭立ての会社という長年の弱点を、辻は5年ほどで塗り替えた[8][9][10]

出典・参考