イーバンク銀行を傘下化(2008年・楽天グループの決断)

更新:
論点 経営難のネット銀行に出資し傘下に入れるか
楽天グループ:業績の推移
売上高(億円)営業利益率(%)
200億円の出資による銀行の取り込みと、金融事業の中核への据え直し

何をなぜ決めたか:200億円の出資による銀行の取り込みと、金融事業の中核への据え直し

概要

2008年8月4日の取締役会で資本・業務提携の基本合意を決議し、同年9月29日にインターネット専業のイーバンク銀行(後の楽天銀行)の優先株式199億8,000万円分を引き受け、2009年2月10日に連結子会社化した経営判断。証券・クレジットに続いて銀行という決済インフラをグループへ取り込み、金融事業の中核を固めた。

背景

楽天は楽天市場を土台に証券・クレジット・ポイントを集約した「楽天経済圏」を築こうとしていたが、資金が出入りする銀行だけは自前で持たなかった。一方のイーバンク銀行はサブプライム関連損失で経営難に陥り、増資を迫られていた。

内容

楽天は2009年2月10日に金融庁からイーバンク銀行の主要株主認可を受け、前年9月に取得した優先株式を普通株式へ転換して議決権比率48.7%で連結子会社とした。取得原価は300億80百万円、のれんは177億43百万円で、20年間の均等償却とされた。2010年5月4日に楽天銀行へ商号を変更し、3月から4月の公開買付けを経て同年10月15日に株式交換で完全子会社とした。

含意

海外投資の減損で創業以来初の赤字を計上した年に、国内の金融基盤へ資本を投じた判断であった。企業結合日に受け入れた預金は7,726億円で、連結の総資産は1年で1兆869億円から1兆7,592億円へ膨らんだ。取り込んだネット銀行は楽天経済圏の決済の基盤として育ち、2023年4月に東証プライムへ単独上場した。

いつ何が起きたか 10件
考察:経済圏の中核を、なぜ買収したか
考察

考察:経済圏の中核を、なぜ買収したか

楽天のイーバンク出資は、単体の投資収益を狙った買収というより、経済圏という構想に欠けた一片を埋める判断であっただろう。証券もカードもポイントも押さえながら、資金の出入りする銀行口座だけを外部に委ねていては、囲い込みの環は閉じない。経営難に沈んでいた同行を199億8,000万円で支えたのは、救済であると同時に、割安に決済の基盤を取得する好機でもあった。海外投資の減損で創業以来初の赤字を計上したその年に、国内の金融インフラへ資本を振り向けた選択には、成長の軸をネットの金融サービスへ寄せる意思がにじむ。

買収それ自体の成否は、銀行業の預金が2009年12月期の6,983億円から2013年12月期の9,599億円へ積み上がったことと、2023年の単独上場という到達点にひとまず表れている。ただ、楽天銀行が経済圏の一部であり続けることと、上場企業として少数株主の利益を守ることは、つねに同じ方向を向くとは限らない。グループとの取引が特別委員会の検証にかかるようになった現在の姿は、その緊張を制度で受け止めようとする試みともみられる。決済の基盤を自前で持つという判断が、経済圏の強みと、金融機関としての独立性の両立という次の問いを呼び込んだといえる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月
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図と表

楽天グループ:のれんと総資産の推移

のれん(百万円)
楽天グループ:のれんと総資産の推移
(百万円) のれん総資産 備考
2003年12月期 −188,016 当時の科目は連結調整勘定。第9期以降の連結貸借対照表しか手元にない
2004年12月期 0307,556 連結調整勘定の計上はない。無形固定資産合計は3,761
2005年12月期 56,8681,657,708 国内信販(後の楽天KC)の取得で連結調整勘定が立った
2006年12月期 63,7431,296,062
2007年12月期 64,4651,158,923 第12期から連結調整勘定と営業権をのれんへ表示替え
2008年12月期 65,0831,086,937 優先株式は投資有価証券に計上。連結子会社化は翌期
2009年12月期 87,0471,759,236 銀行を連結し総資産が6,723億円増。のれんは17,743と3,428が加わる
2010年12月期 127,4551,949,516 公開買付け10,815と株式交換2,752ののれんが加わる
2011年12月期 115,0641,915,892
2012年12月期 131,0582,108,409 Buy.comののれん12,566を減損。銀行に係る分ではない
2013年12月期 142,2263,209,808 この期からIFRS。のれんは償却されず減損テストの対象になる
出所:楽天 有価証券報告書 第9期〜第17期(連結貸借対照表、連結財政状態計算書、主要な経営指標等の推移)
出所:楽天 有価証券報告書 第9期〜第17期(連結貸借対照表、連結財政状態計算書、主要な経営指標等の推移)

楽天グループ:銀行業の預金と貸出金

預金(百万円)
楽天グループ:銀行業の預金と貸出金
(百万円) 預金貸出金 備考
2009年12月期 698,35392,876 企業結合日に受け入れた預金は772,640、貸出金は1,500
2010年12月期 713,272125,880
2011年12月期 741,501155,677
2012年12月期 808,080189,471
2013年12月期 959,960− IFRSでは銀行事業の預金として表示。貸出金は区分掲記されない
出所:楽天 有価証券報告書 第13期〜第17期(連結貸借対照表、連結財政状態計算書)
出所:楽天 有価証券報告書 第13期〜第17期(連結貸借対照表、連結財政状態計算書)

買収の条件

買収の条件
科目 概要 備考
被取得企業の名称 イーバンク銀行(株) 子会社のイーバンクシステム、イートラスト信託、eBANK Capital Managementを含む
事業の内容 銀行業 第14期の記載は電子メディアによる銀行業
企業結合を行った主な理由 顧客利便性の高い金融サービスの提供 グループ会員を持つ当社と、質の高い先進的な決済サービス・機能を持つ同行の提携
基本合意の決議 2008年8月4日の取締役会 同年9月29日に優先株式666,000株を19,980百万円で取得
企業結合日 2009年2月10日 金融庁から主要株主の認可を受け、優先株式を普通株式へ転換した日
企業結合の法的形式 株式取得 取得した株式の数は666,400株
取得した議決権比率 48.7% 2009年3月の増資引受と普通株式への転換を経て58.8%
取得原価 30,080百万円 対価の現金29,991と取得に直接要した支出89の合計
資金調達方法 外部からの借入等 第12期の【重要な後発事象】の記載
のれんの金額 17,743百万円 20年間で均等償却。第12期の後発事象では15,582と記していた
受け入れた資産の額 814,696百万円 うち有価証券675,941、貸出金1,500、貸倒引当金△13,945
引き受けた負債の額 804,235百万円 うち預金772,640
連結に含めた被取得企業の業績の期間 2009年1月1日から12月31日 企業結合日は2月10日だが、通年が連結に取り込まれている
追加の増資引受 9,990百万円 優先株式333,000株を1株30,000円で引受。払込日は2009年3月19日
会社分割による追加取得 交付株式579,735株 評価額17,392。カードローン事業の吸収分割でのれん3,428が発生
公開買付けによる追加取得 16,786百万円 2010年3月19日から4月30日。のれん10,815が発生
株式交換による完全子会社化 2010年10月15日 交換比率は楽天1対楽天銀行0.52。交付61,934株、のれん2,752
商号変更 2010年5月4日 イーバンク銀行から楽天銀行(英文名Rakuten Bank, Ltd.)へ
出所:楽天 有価証券報告書 第12期(2008年12月期)・第13期(2009年12月期)・第14期(2010年12月期)【企業結合等関係】【経営上の重要な契約等】【重要な後発事象】
出所:楽天 有価証券報告書 第12期(2008年12月期)・第13期(2009年12月期)・第14期(2010年12月期)【企業結合等関係】【経営上の重要な契約等】【重要な後発事象】
参考文献

参考文献

参考
  • 楽天株式会社「イーバンク銀行株式会社の第三者割当増資引受に関するお知らせ」(2008年9月4日)
  • 楽天株式会社「イーバンク銀行株式会社の連結子会社化について」(2009年2月10日)
  • 楽天株式会社「当社子会社(イーバンク銀行株式会社)の商号変更日に関するお知らせ」(2010年1月21日)
  • 楽天 有価証券報告書 第12期〜第17期(企業結合等関係・経営上の重要な契約等・重要な後発事象・連結貸借対照表)

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