イーバンク銀行への200億円出資と傘下化——楽天銀行として金融の中核を取り込む

経済圏に欠けた「銀行」を、経営難のネット銀行の救済で埋められるか

更新:

時期 2008年9月
意思決定者 三木谷浩史 会長兼社長
論点 金融事業の中核取り込みと経済圏の完成
概要
2008年9月、楽天がインターネット専業のイーバンク銀行(後の楽天銀行)へ約200億円の優先株式を引き受けて資本・業務提携し、2009年2月に連結子会社化した経営判断。証券・クレジットに続いて銀行という決済インフラをグループへ取り込み、金融事業の中核を固めた。
背景
楽天は楽天市場を土台に証券・クレジット・ポイントを束ねる「楽天経済圏」を築こうとしていたが、資金が出入りする銀行だけは自前で持たなかった。一方のイーバンク銀行はサブプライム関連損失で経営難に陥り、増資を迫られていた。
内容
楽天は2008年9月に199億8,000万円の優先株式を引き受けて取締役4名を派遣し、2009年2月に金融庁の主要株主認可を得て普通株へ転換、議決権比率48.69%で連結子会社化した。2010年5月にイーバンク銀行を楽天銀行へ改称し、同年10月に株式交換で完全子会社とした。
含意
海外投資の減損で創業以来初の赤字を計上した年に、国内の金融基盤へ資本を投じた判断であった。取り込んだネット銀行は楽天経済圏の決済の受け皿として育ち、2023年4月に東証プライムへ単独上場した。
筆者の見解

経済圏の中核を、なぜ買ったか

楽天のイーバンク出資は、単体の投資収益を狙った買収というより、経済圏という構想に欠けた一片を埋める判断であったとみることができる。証券もカードもポイントも押さえながら、資金の出入りする銀行口座だけを外部に委ねていては、囲い込みの環は閉じない。経営難に沈んでいた同行を200億円で支えたのは、救済であると同時に、割安に決済の基盤を手に入れる好機でもあった。海外投資の減損で創業以来初の赤字を計上したその年に、国内の金融インフラへ資本を振り向けた選択には、成長の軸をネットの金融サービスへ寄せる意思がにじむ。

買収それ自体の成否は、10年以上を経た預金9.5兆円という規模と、単独上場という到達点にひとまず表れている。ただ、楽天銀行が経済圏の一部であり続けることと、上場企業として少数株主の利益を守ることは、つねに同じ方向を向くとは限らない。グループとの取引が特別委員会の検証にかかるようになった現在の姿は、その緊張を制度で受け止めようとする試みともみられる。決済の基盤を自前で持つという判断が、経済圏の強みと、金融機関としての独立性の両立という次の問いを呼び込んだといえる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

金融サービスの拡大と、決済という空白

楽天は2000年代を通じて楽天市場を土台に金融サービスへ手を広げ、証券・クレジットカード・ポイントを束ねる「楽天経済圏」を築こうとしていた。決済の入り口となる証券やクレジットの業務は担っていた一方で、資金の出入りする銀行というインフラだけは自前で持たず、口座というインフラをグループの外に委ねる状態が続いていた。この空白を埋める相手として浮かんだのが、インターネット専業のイーバンク銀行であった[1]

出資を決めた2008年は、楽天にとって順風の年ではなかった。同年12月期の連結は売上高2,498億円・営業利益472億円を確保しながら、米国のTVショッピング事業などの減損で当期損益は549億円の赤字に転じ、創業以来初の純損失を計上していた。海外投資の失敗が表面化するなかで、国内の金融基盤へ資本を振り向けた点に、この判断の性格がうかがえる[2]

決断

200億円の優先株引受という一手

2008年8月、楽天はイーバンク銀行と資本・業務提携で基本合意した。イーバンクはサブプライム関連の損失で2007年度に234億円の最終赤字を抱え、2008年6月末の自己資本比率は6.4%まで低下していた。同行が計画した最大400億円の増資のうち、楽天は9月29日に199億8,000万円分の優先株式を引き受け、取締役4名を送り込んだ。金融サービス拡大の意思と、経営難のネット銀行を資本で支える救済の側面が重なった一手であった[3][4]

出資はただちに支配へは結びつかなかった。引き受けた優先株は議決権の乏しい種類株であり、傘下化には銀行法上の関門が残っていた。楽天は2009年2月、金融庁からイーバンク銀行の議決権保有に必要な主要株主認可を取得し、保有する乙種優先株式66万6,000株の全株を普通株式へ転換した。これにより議決権保有比率は0.05%から48.69%へと跳ね上がり、イーバンク銀行は楽天の連結子会社となった[5]

結果

完全子会社化と楽天銀行への改称

傘下化のあと、楽天はイーバンク銀行をグループの内側へ深く取り込んでいった。2010年5月、イーバンク銀行は楽天銀行へ商号を変更し、グループとしての位置づけを明確にした。同年3月にはTOBに約166億円を投じて持株比率を67.22%から88.57%へ引き上げ、10月には楽天銀行株1株に楽天株0.52株を割り当てる株式交換で、同行を完全子会社とした。出資から2年余りで、ネット銀行はグループの金融の中核へと組み込まれた[6][7]

楽天銀行はその後、楽天経済圏の決済と資金の受け皿として伸びていった。買い物や振り込みのたびにポイントが貯まる仕組みで会員基盤を取り込み、2023年4月には東証プライムへ単独で上場した。2023年6月末の預金量は約9.5兆円と上位地方銀行に肩を並べ、かつて自己資本比率6.4%まで沈んだネット銀行は、グループの収益を支える柱の一つへと姿を変えた[8]

出典・参考

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