紅麹問題で経営陣退任(2024年・小林製薬の決断)

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論点 健康被害の責任を創業家がどう取るか
小林製薬:業績の推移
売上高(億円)営業利益率(%)
サプリ健康被害の引責による創業家の後退と、統治体制の刷新

何をなぜ決めたか:サプリ健康被害の引責による創業家の後退と、統治体制の刷新

概要

2024年3月22日、機能性表示食品「紅麹コレステヘルプ」等の自主回収を公表した。成分分析の結果、一部の紅麹原料に腎毒性を有するプベルル酸が含まれていることが判明し、3月27日には大阪市保健所から食品衛生法に違反するとして対象製品の回収を命じる行政処分を受けた。

7月23日、事実検証委員会の調査報告を踏まえた取締役会の総括を公表し、代表取締役会長の小林一雅氏が会長と取締役を辞任した。8月8日には小林章浩氏が代表取締役社長を辞任して取締役となり、専務取締役の山根聡氏が代表取締役社長に就任している。1886年の創業以来、創業家以外から社長が立つのは初めてであった。

背景

紅麹原料は直接の取引企業52社を通して国内外の取引先へ販売されており、自主回収は取引先の製品にまで及んだ。3月25日からは原料を扱う企業に対しても、健康被害の拡大を防ぐ予防的措置として自主回収を要請している。

取締役会の議長は小林一雅氏が務め、代表取締役の会長と社長を創業家の二人が占める体制が続いていた。事案の判明後、社外取締役が他の社外取締役とともに、取締役会が主導的に調査し事後的検証を行う体制を構築し、法曹三者出身の専門家からなる事実検証委員会の設置を進めた。監査役も独立した外部弁護士2名を起用し、一連の対応と内部統制システムの構築・運用について独自に調査している。

内容

報酬では、山根聡氏が2024年1〜6月の月額報酬の40%、小林章浩氏が同50%を自主返上した。社外取締役と監査役も、10〜12月の月額報酬の10%の受領を辞退している。小林一雅氏は辞任後、製品開発・マーケティングの観点で助言を行う特別顧問となり、2024年12月期に10百万円の特別顧問報酬を受けた。

補償では、7月1日に専門の補償対応本部を設置し、8月8日に補償方針を公表、19日からは医療費・交通費に加えて慰謝料、休業補償、後遺障害による逸失利益の補償を本格的に始めた。9月17日には、品質・安全に関する意識改革と体制強化、コーポレート・ガバナンスの抜本的改革、全員が一丸となって創り直す新小林製薬を3本柱とする再発防止策を取締役会で決議している。

含意

2024年12月期は製品回収関連損失12,524百万円を特別損失に計上し、親会社株主に帰属する当期純利益は前期の20,338百万円から10,067百万円へ半減した。2023年2月14日に公表した2025年12月期を最終年度とする中期経営計画は、前提条件からの乖離が大きく取り下げられている。

山根聡氏の社長在任は2025年3月28日の第107期定時株主総会までで、7か月余にとどまった。同日、取締役会長を外部から招いて大田嘉仁氏が就任し、豊田賀一氏が代表取締役社長となり、取締役10名のうち6名を社外取締役が占める構成へ改まった。2026年3月27日には監査等委員会設置会社への移行が決議されている。

いつ何が起きたか 7件
当時の取締役 7名

当時の取締役(2024年3月株主総会決議)

考察:効率ではなく信頼を問われた統治交代
考察

考察:効率ではなく信頼を問われた統治交代

この決断が特異なのは、成長や効率をめぐる戦略ではなく、消費者の生命にかかわる品質と情報開示の失敗が、約140年続いた創業家経営に区切りをつけさせた点にある。ニッチな市場を独自の商品で押さえ、全社員がアイデアを出す仕組みで新製品を生み続ける社風は、同社の高収益を支えてきた強みであった。その同じ社風が、統治や品質管理の面では創業家への集中と外部規律の弱さと表裏になっていたと思われる。強みの裏側にあった弱さが、最悪のかたちで露呈した事態であったといえる。

もっとも、引責の中身を見ると踏み込みには濃淡がある。辞任したのは会長職の一人で、社長を退任した小林章浩氏は取締役として残り、辞任した小林一雅氏も特別顧問として社に留まった。踏み込みが明確になるのは翌年で、外部から招いた会長のもとで社外取締役が取締役会の過半数を占め、監査等委員会設置会社への移行まで進んだ。創業家の求心力に頼ってきた企業が、その求心力を手放したあとに何を統治の芯に据えるのか——紅麹問題が突きつけた問いは、機関設計の組み替えが終わってもなお開かれたままなのだろう。

Yutaka Sugiura, 2026年7月
数字で見る 3表

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図と表

小林製薬:業績と製品回収関連損失の推移

売上高(百万円)営業利益率(%)
小林製薬:業績と製品回収関連損失の推移
(百万円) 売上高営業利益製品回収関連損失 備考
2019年12月期 158,34025,658−
2020年12月期 150,51425,943−
2021年12月期 155,25226,065−
2022年12月期 166,25826,669−
2023年12月期 173,45525,780−
2024年12月期 165,60024,86012,524 自主回収の公表は3月22日。製品回収関連損失を特別損失に計上した期
2025年12月期 165,74214,9233,690 広告の本格再開などで販売費及び一般管理費が7,046増え、営業利益は40.0%減
出所:小林製薬 有価証券報告書 第102〜108期(連結損益計算書)
出所:小林製薬 有価証券報告書 第102〜108期(連結損益計算書)

小林製薬:取締役会の構成

取締役(名)うち社外取締役率(%)
小林製薬:取締役会の構成
(名) 取締役うち社外取締役監査役 備考
2021年12月 735
2022年6月 844
2023年4月 744
2024年2月 744
2024年7月 644 創業家の会長が辞任し、取締役会の議長は社外取締役が務める体制へ移った
2025年3月 1064 取締役会長を外部から招き、取締役10名・社外6名の構成に改まった
2026年4月 106− 監査等委員会設置会社へ移行し、監査役会を廃止した
出所:小林製薬 コーポレート・ガバナンスに関する報告書(2021年12月〜2026年4月の各提出分)
出所:小林製薬 コーポレート・ガバナンスに関する報告書(2021年12月〜2026年4月の各提出分)

経緯と対応

経緯と対応
科目 概要 備考
自主回収の公表 2024年3月22日 機能性表示食品「紅麹コレステヘルプ」等。健康被害の報告を受けた自主回収
行政処分 2024年3月27日 大阪市保健所が食品衛生法に違反するとして対象製品の回収を命じた
判明した原因物質 プベルル酸 成分分析の結果、一部の紅麹原料に腎毒性を有するプベルル酸が含まれていた
原料の流通範囲 直接の取引企業52社 52社を通して国内外の取引先へ販売され、取引先でも関連製品の回収が実施された
調査体制 事実検証委員会 法曹三者出身の専門家で構成。社外取締役が主導して設置を進めた
監査役の独自調査 外部弁護士2名を起用 一連の対応と内部統制システムの構築・運用について独立して調査した
取締役会の総括 2024年7月23日 事実検証委員会の調査報告を踏まえた総括を公表した
代表取締役会長の辞任 2024年7月23日 小林一雅氏が会長と取締役を辞任。同日まで取締役会の議長を務めた
代表取締役社長の交代 2024年8月8日 小林章浩氏が社長を辞任して取締役となり、専務取締役の山根聡氏が社長に就任
役員報酬の自主返上 月額報酬の40%と50% 山根聡氏は2024年1〜6月の40%、小林章浩氏は同50%を自主返上した
社外役員の報酬辞退 月額報酬の10% 社外取締役と監査役が2024年10〜12月分の受領を辞退した
補償の枠組み 2024年8月8日 補償方針を公表。19日から慰謝料・休業補償・逸失利益の補償を始めた
再発防止策の決議 2024年9月17日 品質・安全の意識改革、ガバナンスの抜本的改革、新小林製薬の3本柱
製品回収関連損失 12,524百万円 2024年12月期の特別損失。製造用設備の減損217百万円は特別損失のその他
製品回収関連損失引当金 3,970百万円 2024年12月末の残高。2025年12月末は2,176百万円
補償費用の総額 記載なし 訴訟等、合理的な見積りに及ばない範囲は総額を見積ることが困難としている
中期経営計画 取り下げ 2023年2月公表の2025年12月期を最終年度とする計画。前提条件との乖離
取締役会構成の刷新 2025年3月28日 取締役10名中6名を社外取締役とし、取締役会長に大田嘉仁氏を外部から招いた
機関設計の変更 2026年3月27日 監査等委員会設置会社への移行を第108期定時株主総会で決議した
出所:小林製薬 有価証券報告書 第107期(2024年12月期)【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】【事業等のリスク】【コーポレート・ガバナンスの状況等】【連結貸借対照表関係】・第108期(2025年12月期)【事業等のリスク】
出所:小林製薬 有価証券報告書 第107期(2024年12月期)【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】【事業等のリスク】【コーポレート・ガバナンスの状況等】【連結貸借対照表関係】・第108期(2025年12月期)【事業等のリスク】
当時の取締役 7名

当時の取締役(2024年3月株主総会決議)

参考文献

参考文献

参考
  • 小林製薬 ニュースリリース「紅麹関連製品をめぐる当社対応の検証について」
  • 小林製薬 ニュースリリース「事実検証委員会の調査報告を踏まえた取締役会の総括について」
  • 小林製薬 ニュースリリース「当社の紅麹コレステヘルプ等の摂取により健康被害にあわれたお客様への補償について」
  • 小林製薬 ニュースリリース「再発防止策の策定に関するお知らせ」
  • 小林製薬 ニュースリリース「再発防止策の進捗に関するお知らせ」
  • 小林製薬 招集通知「第107期定時株主総会招集ご通知」
  • 小林製薬 有価証券報告書「第107期(2024年12月期)【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】」
  • 小林製薬 有価証券報告書「第107期(2024年12月期)【コーポレート・ガバナンスの状況等】」
  • 小林製薬 有価証券報告書「第107期(2024年12月期)【連結貸借対照表関係】【連結損益計算書関係】」
  • 小林製薬 有価証券報告書「第108期(2025年12月期)【事業等のリスク】」
  • 小林製薬 決議結果通知「第108期定時株主総会決議ご通知」

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