日本ハム 牛肉偽装事件と経営刷新 食肉の産地表示をめぐる不正の発覚と、これを受けた執行部の総入れ替え
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何をなぜ決めたか
- 概要
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2002年、子会社の日本フードがBSE対策の牛肉買い取り制度を悪用していた偽装が発覚した。買い取り制度は国内産牛肉を対象としていたが、輸入牛肉に国産牛肉のラベルを貼って申請していた。同年8月、常務取締役営業本部長だった藤井良清氏が代表取締役社長に就任し、6年間社長を務めた大社啓二氏は専務取締役東京支社長となった。1942年の創業から60年の年に、経営体制の刷新を迫られた判断である。
- 背景
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会社は自らの沿革で、2000年代の主題を品質No.1経営による顧客満足度の向上と置き、その背景に消費者の食に対する安全・安心の要求の高まりと国内初のBSE発生を挙げている。1942年に徳島の食肉加工場として興った会社は、食肉から加工食品、水産加工、乳製品へ事業を多角化し、米国・豪州・英国にも生産と販売の拠点を築いていた。
- 内容
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社長交代の翌月にあたる2002年9月、品質保証部とお客様サービス室、改革推進本部を設置した。あわせて企業倫理委員会を設置し、ニッポンハムグループ行動規範を改訂した。2003年4月には執行役員制度を導入して取締役の員数を削減し、コンプライアンス委員会・危機管理委員会・報酬制度検討委員会を設置して、社内外に相談・通報の窓口を置いた。同年、新中期経営計画パートⅠを始めている。
- 含意
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会社存亡の危機に瀕した事件から20年が経ち、事件を知る役員・従業員は2割ほどになった。毎年8月にコンプライアンス委員長のメッセージ配信、経験者による語り部活動、当時の新聞資料を閲覧できるデジタルアーカイブを続けている。一方で社長は、事件以降のコンプライアンス強化と厳しい自社ルールのもとで挑戦して何かを変えようという意識が希薄になったと認識し、挑戦する風土への変革に着手した。
いつ何が起きたか 7件
筆者の見解
けじめの重さと、統制が残したもの
この事件が日本ハムに迫ったのは、責任者の交代だけではなく、会社の統治のかたちそのものへの問い直しであった。社長の座は、6年務めた大社啓二氏から、営業本部長を経て役員となった藤井良清氏へ移った。それと並んで会社が急いだのは、品質保証部と改革推進本部を新設し、企業倫理委員会を外部の委員長に委ね、翌年には執行役員制度で取締役を絞り込み、相談・通報の窓口を社外にも置くことであった。人を替えるだけでは足りないという認識が、この一年半に置かれた機関の数に表れている。
もっとも、区切りをつけたはずの体制刷新が、次の時代に別の課題を残した面も見落とせない。事件後に強化された検査体制と統制は、失った信頼を取り戻す土台になった一方で、各事業本部が自ら攻める意識を薄める方向にも働いたと、後の経営者自身が振り返ることになる。守りを固める要請と、攻めを取り戻す要請は、しばしば相反する。信頼回復のために積み上げた仕組みを、成長を妨げない形へどう組み替えるか——牛肉偽装事件が突きつけた課題は、20年を経た構造改革の議論にまで尾を引いていると推察される。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
業績の推移
事案と対応の経緯
事案と対応の経緯
| 科目 | 概要 | 備考 |
|---|---|---|
| 事案の性質 | BSE対策の牛肉買い取り制度の悪用 | 買い取り制度は国内産牛肉が対象だったが、輸入牛肉に国産牛肉のラベルを貼って申請した |
| 関与した組織 | 子会社の日本フード | グループ内で発覚した不祥事として、会社は自らの沿革に2002年の出来事として記録している |
| 調査主体 | 農林水産省の調査と企業倫理委員会 | 買い取り制度の対象と申請内容の食い違いは、当時の農林水産省の調査で示された |
| 調査期間 | 2002年〜2004年 | 企業倫理委員会の設置期間。委員長の髙巖はのちに当社の社外取締役に就任した |
| 責任の取り方 | 2002年8月に社長が交代 | 藤井良清が代表取締役社長に就任し、第61期(2006年3月期)末も同職にあった |
| 再発防止策(2002年) | 品質保証部と企業倫理委員会の設置 | 9月に品質保証部と改革推進本部を設置。ニッポンハムグループ行動規範も改訂した |
| 再発防止策(2003年) | コンプライアンス委員会など3委員会の設置 | 危機管理委員会と報酬制度検討委員会を併設。4月に執行役員制度を導入し取締役を削減した |
| 再発防止策(継続) | 毎年8月の風化させない活動 | コンプライアンス委員長のメッセージ配信、経験者の語り部活動、新聞資料の閲覧を続けている |
出所:日本ハム 有価証券報告書 第61期(2006年3月期)【役員の状況】【コーポレート・ガバナンスの状況】 / ニッポンハムグループ 統合報告書2018・統合報告書2019・統合報告書2022・統合報告書2024・統合報告書2025 / 同 アニュアルレポート2012 / 政財界 2004年6月号「カリスマ経営者の落日 大社義規・元会長」
事件前後の連結業績
日本ハム:事件前後の連結業績
| (百万円) | 売上高 | 法人税等及び持分法による投資損益前当期純利益 | 当期純利益 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 2002年3月期 | 945,099 | 30,786 | 17,733 | 第57期。事件の前期にあたる |
| 2003年3月期 | 909,999 | 13,301 | 4,409 | 8月に子会社の牛肉偽装が発覚。不買運動により食肉事業の売上が減少した |
| 2004年3月期 | 926,019 | 19,576 | 10,641 | 売上高は増加に転じた |
| 2005年3月期 | 934,678 | 22,382 | 11,839 | |
| 2006年3月期 | 963,664 | 2,335 | 952 | 米国のBSE発生後の豪州牛生体価格の高騰で輸入食肉事業が苦戦した |
| 2007年3月期 | 977,296 | 13,668 | 11,386 | |
| 2008年3月期 | 1,032,291 | 4,923 | 1,555 | 第67期の有価証券報告書では非継続事業への組替で1,029,694百万円となる |
出所:日本ハム 有価証券報告書 第61期(2006年3月期)【主要な経営指標等の推移】 / 日本ハム 有価証券報告書 第63期(2008年3月期)【主要な経営指標等の推移】 / 日本ハム 有価証券報告書 第67期(2012年3月期)【主要な経営指標等の推移】
同じ問いに直面した会社
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参考文献
- 日経ビジネス 1989年4月10日号
- 政財界 2004年6月号「カリスマ経営者の落日 大社義規・元会長」
- ニッポンハムグループ 統合報告書「統合報告書2018」
- ニッポンハムグループ 統合報告書「統合報告書2019」
- ニッポンハムグループ 統合報告書「統合報告書2022」
- ニッポンハムグループ 統合報告書「統合報告書2024」
- ニッポンハムグループ 統合報告書「統合報告書2025」
- ニッポンハムグループ アニュアルレポート「アニュアルレポート2012」
- 日本ハム 有価証券報告書「第61期(2006年3月期)【主要な経営指標等の推移】【役員の状況】【コーポレート・ガバナンスの状況】」
- 日本ハム 有価証券報告書「第63期(2008年3月期)【主要な経営指標等の推移】」
- 日本ハム 有価証券報告書「第67期(2012年3月期)【主要な経営指標等の推移】」