いすゞ自動車 UDトラックスの取得 ボルボとの戦略的提携と引き換えに手にした国内商用車大手

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時期 2020年10月
当時の社長 片山正則
論点 商用車の体制と提携
何をなぜ決めたか
概要

2021年、いすゞ自動車は片山正則社長のもとで、スウェーデンのボルボ・グループと商用車で20年以上の戦略的提携を締結し、ボルボ傘下のUDトラックス(旧・日産ディーゼル工業)の全株式を取得した経営判断。取得原価は587億78百万円、借入金の代位弁済を含むボルボへの支払額は3,203億円にのぼる。中小型トラックに強いいすゞが大型トラックとアジア網を補い、国内中大型トラックの体制を固めた。

背景

CASE(電動化・自動運転・コネクテッド)の研究開発負担は商用車一社では重く、いすゞは大型トラックや欧州を含む海外の販売網で世界大手に見劣りした。次世代技術と地域網の両方を単独で賄うのは難しく、規模と地域を補い合える相手を要していた。

内容

2019年12月の覚書を経て、2020年10月にボルボと基本契約を締結。UDトラックス事業を企業価値2,430億円(約200億スウェーデン・クローネ)とする条件で合意し、2021年4月1日に全株式を取得した。有価証券報告書に記載された取得原価は587億78百万円で、UD社と傘下子会社のボルボ向け借入金2,615億円を代位弁済している。自動運転・コネクテッド・電動化の共同開発と、日本・アジア向け大型トラックの共同プラットフォームを主力に据えた。

含意

いすゞは軽から大型まで品揃えを揃え、国内の中大型トラックで日野自動車と競う体制を構築した。同時期にトヨタ・日野とCJPTを組み、GMに従属した1971年の提携とは逆に、買い手として提携相手を選ぶ立場へ回った。

いつ何が起きたか 5件
筆者の見解
筆者の見解

補完で埋める、という選び方

この判断の要は、単独主義を捨て、足りないものを提携と買収で補うという選び方にある。中小型に強いいすゞが、大型とアジア網を持つUDを買収し、CASEの重い開発負担をボルボと分かち合う。GMの資本に頼って生き延びた1971年の提携が、事業設計を相手に委ねる従属を残したのに対し、2021年のいすゞは買い手として相手を選び、自らの品揃えと開発体制を主体的に組み立てた。同じ外部との提携でも、いすゞの立ち位置は逆になった。

もっとも、株式の取得原価587億円に借入金の代位弁済2,615億円を重ね、総額3,203億円を投じて取り込んだUDには、収益力の立て直しという課題も付いてくる。のれん227億円と無形固定資産467億円は7年から20年にわたって償却され、先々の損益に乗っていく。CASEの技術がどこまで共同開発で実を結ぶか、ボルボとの20年契約が事業の自由度をどれだけ縛るかは、これから問われる。それでも、1942年に自ら切り離した日野と再び手を組み、UDを傘下に収めた2021年の一連の動きは、国内商用車が競争から協調へと組み替わる転換点にあたる。規模を単独で追うのではなく、誰と何を補い合うかで生き残りを描く——いすゞの選択は、その問いを商用車再編のただ中に置いている。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

業績の推移
買収と提携の条件

買収と提携の条件

科目 概要 備考
被取得企業 UDトラックス株式会社 トラックの開発・生産・輸出・販売、自動車用部品の製造・販売
企業結合を行った主な理由 日本と海外の大型トラック事業の強化 戦略的提携の第一弾として「戦略的協業効果の迅速な実現を図る」ためと記す
企業結合の法的形式 現金を対価とする株式取得 取得企業を決定した根拠も、現金を対価として全株式を取得したこと
企業結合日 2021年4月1日 連結した業績は2021年4月1日から12月31日まで。UD社の決算日は12月31日
取得した議決権比率 100.0% UD社傘下の子会社14社と関連会社3社もいすゞのグループ企業となった
取得の対価 56,898百万円 株式譲渡契約の価格調整を反映した額。決議期の暫定額は49,062百万円
条件付取得対価 1,880百万円 事業計画の達成度合いに応じ15,000百万円を上限に追加で支払う合意
取得原価 58,778百万円 取得の対価56,898百万円と条件付取得対価1,880百万円の合計
取得関連費用 1,810百万円 アドバイザリーに対する報酬・手数料等
代位弁済した借入金 261,534百万円 UD社と傘下子会社がAB Volvo社のグループ会社に負っていた借入金
AB Volvo社への支払額 320,312百万円 株式取得の対価と代位弁済の合計。決議期の暫定額は314,303百万円
受け入れた資産 413,571百万円 流動資産207,415百万円、固定資産206,156百万円
引き受けた負債 377,508百万円 流動負債353,245百万円、固定負債24,263百万円
のれん 22,716百万円 今後の事業展開によって期待される将来の超過収益力。7年間の均等償却
のれん以外の無形固定資産 46,755百万円 商標権20,513(10年)、特許権20,342(8年)、顧客関連資産5,900(20年)
通期換算した売上高の増加 67,047百万円 期首に結合したと仮定した概算額。営業利益は1,052百万円。監査証明を受けていない
ボルボとの協業基本契約 2020年10月締結 協業分野と、協業における意思決定の枠組みについて合意
VTEC社との技術協業基本契約 2020年10月締結 意思決定の枠組、費用負担の原則、知的財産権の取扱いを定める
トヨタ・日野との共同企画契約 2021年3月締結 商用車CASE領域の協業。トヨタとは相互に株式を保有する資本提携でも合意

出所:いすゞ自動車 有価証券報告書 第119期(2021年3月期)【重要な後発事象】【経営上の重要な契約等】・第120期(2022年3月期)【企業結合等関係】

のれんと無形固定資産の推移

いすゞ自動車:のれんと無形固定資産の推移

(百万円) のれん無形固定資産総資産 備考
2017年3月期 2,64319,6401,879,853
2018年3月期 10,09326,7112,066,539
2019年3月期 7,05825,3792,130,894
2020年3月期 4,57323,2742,152,090
2021年3月期 2,01818,9642,244,970 UDトラックスの取得は2021年4月1日で、この期末にはまだ入っていない
2022年3月期 20,51987,4072,856,139 UDトラックスののれん22,716と無形固定資産46,755が加わった
2023年3月期 18,01074,6783,046,777
2024年3月期 15,213111,9793,263,001 第123期からIFRS会計基準で、この期は組替後の数値。日本基準ののれんは15,836
2025年3月期 15,213133,4013,288,944 IFRS会計基準ではのれんを償却しない
2026年3月期 15,213147,9663,663,138
のれんと無形固定資産
のれん(百万円)のれん以外の無形固定資産(百万円)

出所:いすゞ自動車 有価証券報告書 第115期〜第124期(連結貸借対照表。第123期からIFRS会計基準)

従業員数の推移

いすゞ自動車:従業員数の推移

(人) 連結の従業員数いすゞ自動車単体 備考
2017年3月期 33,6318,111
2018年3月期 35,2628,289
2019年3月期 37,2638,186
2020年3月期 36,8568,172
2021年3月期 36,2248,149
2022年3月期 44,2998,056 UDトラックスと傘下の子会社14社の連結で8,075人増えた
2023年3月期 44,4958,056
2024年3月期 45,0348,491
2025年3月期 42,1178,804
2026年3月期 43,0059,089
連結と単体の従業員数
いすゞ自動車単体(人)子会社(人)

出所:いすゞ自動車 有価証券報告書 第115期〜第124期(従業員の状況。就業人員数で、臨時従業員は含まない)

同じ問いに直面した会社

同じ問いに直面した会社

資本提携と政策保有2020年みずほリース単独ではなく丸紅と組んだ共同買収と、議決権25%の取得海外事業の拡大手法と出資比率の置き方
2019年住友ファーマ戦略的提携によるスミトバントの子会社化と、相手方株式11%の取得ラツーダの米国独占販売終了に備えた後継製品群の確保
2016年NISSHAメディカルへの事業転換 — Graphic Controls 買収に始まるCDMOシフト事業ポートフォリオの転換と資本配分
2008年三菱UFJフィナンシャル・グループリーマン危機のさなかに踏み切った米投資銀行への90億米ドルの資本投入海外展開と投資銀行ビジネス
2024年DCMホールディングス持分法適用だった関連会社の全株取得と、本体への吸収合併提携先の取り込みと店舗網の統合
海外企業の買収2021年森永乳業海外買収への資金集中による、乳業の外への収益源の広がり成長軸の再定義と事業領域の拡張
2021年日立製作所デジタルエンジニアリングの内製力の9,222億円での外部からの調達デジタル事業の強化と大型M&A
2021年ルネサスエレクトロニクス3度目の巨額M&Aに踏み切ったうえでの、車載依存からの脱却車載マイコン依存からの脱却と、連続する巨額買収に伴う財務戦略
2022年飯田グループホールディングスロシア極東の林業大手19社の取り込みと、侵攻直後の暗転木材調達の垂直統合とカントリーリスク
2022年クボタインド農機大手への1,950億円の出資と議決権44.8%の取得インド市場の攻略手法と過去最大の買収
参考文献
出典・参考
  • いすゞ自動車 ニュースリリース(2019年12月18日)「いすゞとボルボ・グループ、商用車分野での戦略的提携に関する覚書を締結」
  • いすゞ自動車 ニュースリリース(2020年10月30日)「いすゞとボルボ・グループ、戦略的提携に関する基本契約を締結」
  • いすゞ自動車 ニュースリリース(2021年4月1日)「いすゞとボルボ・グループ、戦略的提携を本格的に開始」
  • いすゞ自動車 有価証券報告書 第119期(2021年3月期)・第120期(2022年3月期)
  • いすゞ自動車 有価証券報告書「第119期(2021年3月期)【重要な後発事象】【経営上の重要な契約等】」
  • いすゞ自動車 有価証券報告書「第120期(2022年3月期)【企業結合等関係】」
  • いすゞ自動車 有価証券報告書「第123期(2025年3月期)」

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