上場廃止
かつて東証への上場は企業の格を示し、上場廃止は失格を意味した。上場企業は監査を受けた決算を公表し、取引所の基準を満たし続けている。その事実自体が信用の証明であり、取引先の与信も、銀行の融資条件も、新卒の採用も、その証明を前提にしていた。上場は取引所が認めた企業だけの地位で、承認までに年数もかかる。いったん失えば、再上場の保証はない。したがって上場廃止は基準の未達か不祥事の結果であって、会社が選ぶものではなかった。山一證券は会社更生法によらず自主廃業に踏み切り、西武鉄道の有価証券報告書虚偽記載は東証の上場廃止を招いている。
上場そのものに費用が伴うと見られるようになったのは2000年代である。株価を経営の指標に置けば、四半期ごとの説明に時間を取られ、回収の遅い投資は選びにくい。株主構成が変われば、求められる還元の水準も変わる。2000年代前半、上場をやめて株価を追わない選択が非公開化として論じられた。投じた資本に対する利益の水準、すなわち資本効率を外部へ約束する動きが現れてから、およそ十年後である。同じころに原点回帰や規模拡大への懐疑が並んだのも、拡大を是としてきた経営を見直す動きであった。
非公開化が論じられたのと前後して、創業家と経営陣は投資ファンドの資金を利用できるようになった。株式の取得代金を外部から調達できれば、市場に流通する株式を買い戻せる。ワールドは寺井秀蔵氏の主導でMBOを実施し、すかいらーくは創業家とファンドで2,700億円超のMBOを組んだ。いずれも業績不振の末の退出ではない。
2019年前後には、別の理由が加わった。親会社と子会社がともに上場する親子上場では、子会社の少数株主と親会社の利害が衝突する。どちらの株主にも説明が立たなくなり、親会社は子会社株式の取得へ動いた。NTTはNTTドコモを完全子会社化し、日立製作所は日立金属株の譲渡で上場子会社群を解体した。
取引の規模も拡大した。東芝は日本産業パートナーズの約2兆円の提案を受け入れ、豊田自動織機はトヨタ主導の非公開化に応じた。上場をやめるには、市場に流通する株式の全量を誰かが引き取らなければならない。その資金の調達先が、事業への投資と並んで経営判断の対象になっている。
財務諸表のどこを見るか
非公開化なら、まず支配株主の異動と主要株主の異動を届け出た臨時報告書で買い手と取得比率を押さえる。買収資金が借入なら、最終年度の連結貸借対照表で有利子負債が急増し、支払利息が損益計算書の重い負担となる。親子上場の解消では、連結の非支配株主持分が消え、追加取得の差額が資本剰余金を減少させる。破綻による廃止は継続企業の前提に関する注記と監査報告書の意見が先に動くため、そこから遡る。