伊藤忠商事 ファミリーマートの子会社化 株式公開買付けによる完全子会社化と、親子上場の解消

更新:

時期 2020年7月
当時の社長 岡藤正広
論点 親子上場の解消と少数株主保護
何をなぜ決めたか
概要

2020年7月8日、伊藤忠商事は、出資比率50.2%の子会社ファミリーマートを非公開化するため、買付価格を1株2,300円とする公開買付けを実施すると公表した。買付けは翌9日から8月24日まで行われ、応募は79,017,984株で買付予定数の3割強にとどまり、買付け等後の公開買付者の所有割合は15.61%となった。応募しなかった株式は株式併合の端数処理で同じ1株2,300円相当で買い取り、ファミリーマートは11月12日に上場廃止となった。

背景

伊藤忠は1998年にファミリーマートの発行済株式の約30%を取得して小売事業へ本格参入し、以後も持分を高めていった。2018年8月16日には公開買付けで議決権の8.6%を取得し、既保有分と合わせた50.29%を握って子会社としている。国内に約16,500店を構え、1日約1,500万人の購買に関わるコンビニは生活消費分野の中核事業で、2020年3月末の出資比率は50.2%だった。

内容

公開買付けは、伊藤忠商事が99%、東京センチュリーが1%を出資するリテールインベストメントカンパニー合同会社が実施した。ファミリーマートの取締役会は非公開化には賛同したが、2,300円が特別委員会側の第三者評価機関によるDCF算定レンジの下限2,472円を上回らないとして、応募推奨の是非については中立の立場をとり、判断を株主に委ねている。応募しなかった株式は2020年10月22日の臨時株主総会で決議した株式併合の端数処理で取得し、非公開化に伴う投資額は約5,200億円だった。取締役会はこの年、経営計画に次ぐ主要議題として非公開化を審議している。

含意

会計上は非支配持分の追加取得という資本取引で、のれんは新たに発生せず、資本剰余金が約2,059億円減った。非支配持分割合は2020年3月末の49.8%から2021年3月末には5.3%へ下がり、取込比率は94.7%となった。残るのは、支配株主と少数株主の利害をどう調整するかという問いである。

いつ何が起きたか 8件
筆者の見解
筆者の見解

親子上場の解消と、支配株主による非公開化

この判断の核心は、過半を握る親会社が上場子会社を非公開化するとき、買い取りの価格をだれがどう決めるのかという点にある。示された価格に対し、少数株主に残された選択は、応募するか、応募せずに株式併合の端数処理で同じ価格のもとに買い取られるかの二つしかない。応募は買付予定数の3割強にとどまり、対象会社の取締役会自身が応募推奨を中立に置いたにもかかわらず、非公開化はそのまま完了した。売り渡しが実質的に強制される取引では、価格の当否を測る物差しは、取締役会が交渉で引き出せた条件そのものになる。

もっとも、伊藤忠にとってコンビニを商社の一体経営へ取り込むという戦略の目的は達せられている。企業結合ではない資本取引のため、のれんは増えず、支払いは資本剰余金の減少として処理された。買った資産が損益計算書に現れないぶん、この取引の成否は、取込比率が94.7%まで上がった第8カンパニーの利益で測るほかない。残るのは、対象会社が求めたマジョリティ・オブ・マイノリティの下限が容れられないまま手続が進んだという事実で、親子上場の解消は、支配株主のいる会社に付いてまわる緊張を価格という一点に集約する取引でもあったとみられる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

業績の推移
完全子会社化の条件

完全子会社化の条件

科目 概要 備考
対象会社 株式会社ファミリーマート 証券コード8028。東京証券取引所市場第一部に上場していた
公開買付け前の所有割合 50.10% 伊藤忠商事41.50%と伊藤忠リテールインベストメント8.60%の合計
子会社化時の議決権比率 50.29% 2018年8月16日に議決権8.6%を取得。取得価額は119,684百万円
公開買付者 リテールインベストメントカンパニー合同会社 2020年3月18日設立。伊藤忠商事が99%、東京センチュリーが1%を出資
取引の法的形式 公開買付けと株式併合 応募しなかった株式は株式併合の端数処理で取得した
公表日 2020年7月8日 公開買付者と対象会社が同じ日にそれぞれ取締役会で決議した
公開買付価格 1株2,300円 前営業日終値1,766円に対するプレミアムは30.24%
買付予定数 252,557,288株 伊藤忠商事らの所有株式と対象会社の自己株式を除く全株。上限は設定せず
買付予定数の下限 50,114,060株 所有割合9.90%。成立時に伊藤忠商事らが60%以上となる水準に置いた
買付代金 580,881百万円 買付予定数に買付価格を乗じた最大額
公開買付期間 2020年7月9日〜8月24日 法令上の最短期間は20営業日で、これに対し30営業日を置いた
対象会社の意見 賛同するが応募推奨は中立 2020年7月8日の取締役会決議。応募の判断は株主に委ねた
特別委員会側の株式価値算定 2,472円〜3,040円 PwCアドバイザリーのDCF方式。買付価格は下限を上回らない
対象会社FAの株式価値算定 2,054円〜3,432円 メリルリンチ日本証券のDCF分析。買付価格はレンジ内に入る
応募株券等の数 79,017,984株 買付予定数の3割強。買付け等後の公開買付者の所有割合は15.61%
決済の開始日 2020年8月28日 決済を行う金融商品取引業者は野村證券
株式併合の決議 2020年10月22日 ファミリーマートの臨時株主総会。253,043,334株を1株に併合
端数処理で交付する金銭 1株あたり2,300円 裁判所の許可を前提に、公開買付価格と同額になるよう設定
上場廃止日 2020年11月12日 10月22日から11月11日まで整理銘柄に指定された
株式併合の効力発生日 2020年11月16日 2021年1月8日に1株を253,043,334株へ分割し株式数を戻した
会計上の取扱い 非支配持分の追加取得(資本取引) 企業結合ではないため、のれんは新たに発生していない
取締役会の審議 2020年度の主な検討事項 経営計画に次ぐ2番目の項目として非公開化を挙げている
非公開化に伴う投資額 約5,200億円 統合レポート2021でCFOが説明した2020年度の大型投資額
公開買付者の借入金に対する保証 417,379百万円 第97期末。伊藤忠商事の同社への関係会社出資金は103,901百万円
投資実行後の株主資本比率 29.7% 2020年度末。前年度末比2.2ポイント上昇。A格の財務体質を堅持と説明
非支配持分との資本取引による支出 531,774百万円 第97期の財務活動の年間総額。他の取引も含む。前期は5,774百万円
資本剰余金の減少額 205,887百万円 連結持分変動計算書「子会社持分の取得及び売却による増減等」の行
非支配持分の減少額 337,187百万円 同じ行でその他の資本の構成要素が13,988百万円増えている
取引前の非支配持分割合 49.8% 2020年3月末。非支配持分の累積額は363,346百万円
2020年度の取込比率 50.2% → 65.6% → 94.7% 第97期【主要な関係会社の状況】。第2・第3・第4四半期の順
取引後の非支配持分割合 5.3% 2021年3月末。統合レポート2021は取込比率94.7%と記す
ファミリーマート由来ののれん 248,757百万円 2021年3月末。2020年3月末は251,951百万円で増えていない

出所:ファミリーマート 適時開示(2020年7月8日 意見表明/2020年8月25日 公開買付けの結果・臨時株主総会の招集請求/2020年10月22日 株式併合の承認決議) / 伊藤忠商事 有価証券報告書 第96期(2020年3月期)注記5「企業結合」・第97期(2021年3月期)【連結持分変動計算書】【連結キャッシュ・フロー計算書】注記12・35、提出会社の財務諸表 / ファミリーマート 有価証券報告書 第40期(2021年2月期) / 伊藤忠商事 統合レポート2020・2021

第8セグメント(主要な関係会社は㈱ファミリーマート)の業績

伊藤忠商事:第8セグメント(主要な関係会社は㈱ファミリーマート)の業績

(百万円) 収益当社株主に帰属する当期純利益セグメント別資産 備考
2019年3月期 520,543166,8271,691,617 開示のある最初の期。第8カンパニー新設に伴う組替後の数値
2020年3月期 517,08826,0562,293,647
2021年3月期 480,72921,2672,280,472 コロナでファミリーマートの日商が減り、減損損失も出た期
2022年3月期 459,86244,1751,813,769 台湾FMの区分変更でセグメントの従業員数は6,189名減った
2023年3月期 471,15616,5941,906,655 純利益は第99期では23,047百万円。第100期の比較情報で修正
2024年3月期 519,25935,8091,978,342
2025年3月期 515,83065,0952,014,240
2026年3月期 518,08445,0102,197,297
第8セグメントの収益と利益率
収益(百万円)当社株主に帰属する当期純利益率(%)

出所:伊藤忠商事 有価証券報告書 第96期〜第102期(セグメント情報)

のれんと無形資産の推移

伊藤忠商事:のれんと無形資産の推移

(百万円) のれん無形資産総資産 備考
2016年3月期 144,056261,8068,036,395
2017年3月期 131,662237,7168,122,032
2018年3月期 129,283233,2888,663,937
2019年3月期 391,560736,20010,098,703 ユニー・ファミリーマートHDを子会社化し、のれんと無形資産が急増
2020年3月期 403,940759,16710,919,598
2021年3月期 396,869728,96711,178,432 資本取引のためのれんは増えず、ファミマ由来分は248,757百万円へ
2022年3月期 368,989712,61812,153,658 ファミリーマートで台湾FMが子会社から関連会社へ移った
2023年3月期 366,659712,59413,115,400 総資産は第99期では13,111,652百万円。第100期で遡及修正
2024年3月期 383,878744,42814,489,701
2025年3月期 405,339804,04915,134,264
2026年3月期 427,666800,76216,732,815
のれんと無形資産
のれん(百万円)無形資産(百万円)

出所:伊藤忠商事 有価証券報告書 第92期〜第102期(連結財政状態計算書、注記12 のれん及び無形資産)

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参考文献
出典・参考

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