ケンウッドと経営統合(2007年・日本ビクターの決断)

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論点 親会社からの離脱と経営統合
売上高(億円)経常利益率(%)
松下電器の連結からの離脱と、共同株式移転による単独上場会社としての幕引き

松下電器の連結からの離脱と、共同株式移転による単独上場会社としての幕引き

概要

2007年7月24日、日本ビクターはケンウッド、スパークス インターナショナル(ホンコン)リミテッド、親会社の松下電器産業との間で株式引受契約書と資本業務提携契約書を締結した。8月10日に払い込まれた第三者割当増資は107,693千株・350億円で、ケンウッドが17.00%、スパークスが運用する2つのファンドが合わせて12.75%を持った。

松下電器産業の所有株式数133,227千株は動かないまま、持株比率だけが52.40%から36.81%へ下がり、親会社からその他の関係会社へ退いた。53年続いた連結子会社の関係は、株式の譲渡ではなく希薄化によって解かれている。

背景

デジタル化の進展で設備投資とソフト開発の負担が増える一方、汎用部品によって商品の差別化は難しくなり、韓国・台湾・中国のメーカーが台頭した。AV業界にはIT業界からの参入も重なり、この競争環境を生き残るには日本のAV専業メーカーの再編が不可欠だというのが、両社が企業結合を行った主な理由である。

日本ビクターの連結売上高は2003年3月期の9,676億円から2008年3月期の6,584億円へ3割減り、当期純損益は2005年3月期から4期続けて赤字となった。2008年3月期の当期純損失は475億円、純資産は1,141億円まで細っていた。

内容

統合は一方による他方の買収ではなく、共同株式移転で行われた。2008年5月12日の取締役会で統合契約の締結を決議して株式移転計画書を作成し、6月27日の定時株主総会の承認を経て、10月1日にJVC・ケンウッド・ホールディングスが設立された。移転比率は日本ビクターの1株に持株会社の2株、ケンウッドの1株に1株で、交付株式数は723,196,886株、評価額は968億円だった。

会計処理はパーチェス法で、被取得企業とされたのは日本ビクターである。取得原価973億円が企業結合日の時価純資産を下回ったため、持株会社には3,244百万円の負ののれんが生じ、2年間で均等償却された。

含意

1960年11月の上場から48年、日本ビクターは2008年9月に東京・大阪両証券取引所市場第一部の上場を廃止し、持株会社が発行済株式の100%を持つ完全子会社となった。2008年3月期の売上高が1,652億円と日本ビクターの4分の1にすぎないケンウッドが会計上の取得企業となり、ビクターの資産3,208億円と負債2,214億円は持株会社の連結貸借対照表へ時価で計上された。

統合と同じ10月1日には記録メディア事業の株式65%を太陽誘電へ譲渡し、カーエレクトロニクス事業をケンウッドとの合弁J&Kテクノロジーズへ移している。1927年に米国ビクターの全額出資で生まれた会社は、事業を切り出しながら持株会社の下へ入った。

いつ何が起きたか 7件
筆者の見解 株を売却せずに親会社を降りるということ
筆者の見解

株を売却せずに親会社を降りるということ

この統合でまず目を引くのは、松下電器産業が1株も手放していないことである。所有株式数133,227千株は増資の前後で変わらず、下がったのは比率だけで、52.40%から36.81%への低下はすべて新株の希薄化によって起きた。連結の対象から外れれば、日本ビクターの赤字は松下の連結損益に乗らなくなる。それでいて36.81%の持分は残り、統合後の持株会社の株主としての立場も保たれる。53年間の親子関係の終わり方として選ばれたのは、売却による清算ではなく、出資比率の引き下げによる責任の切り離しだったと推察される。

もっとも、迎えた側の構図も通常の統合とは逆さまだった。2008年3月期の売上高で4分の1のケンウッドが会計上の取得企業とされ、日本ビクターが被取得企業として時価評価を受ける側に回っている。VHSを世界標準にした会社が、自らより小さな相手の連結貸借対照表へ資産3,208億円として計上され直したことの意味は小さくない。しかも取得原価は企業結合日の時価純資産を下回り、生じたのは正ののれんではなく3,244百万円の負ののれんだった。市場が日本ビクターに付けた値は、その帳簿の価値に届いていなかったのである。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

数字で見る 2表
資本提携と経営統合の条件

資本提携と経営統合の条件

科目 概要 備考
契約の締結日 2007年7月24日 ケンウッド、スパークス インターナショナル(ホンコン)リミテッド、松下電器産業と締結
締結した契約 株式引受契約書・資本業務提携契約書 カーエレクトロニクスとホームエレクトロニクスの共同開発・製造委託・知的財産権の相互利用
第三者割当増資の払込日 2007年8月10日
発行した株式数 107,693千株 発行済株式総数は254,230千株から361,923千株へ増えた
発行価格 1株325円 資本組入額は1株162.5円
発行価額 35,000百万円 資本金17,500百万円、資本準備金17,500百万円がそれぞれ増加した
ケンウッドの引受 61,539千株・17.00% 払込額20,000百万円。日本ビクターの主要株主となった
スパークス系ファンドの引受 46,154千株・12.75% 2つのファンドがそれぞれ6.57%と6.18%を持った
松下電器産業の所有株式数 133,227千株(増減なし) 松下電器産業による株式の譲渡はなく、増資による希薄化で比率が下がった
松下電器産業の持株比率 52.40%→36.81% 2007年3月31日現在と2008年3月31日現在。議決権の被所有割合は36.9%
松下電器産業の位置づけ 親会社からその他の関係会社へ 連結子会社から持分法適用会社へ変わった
統合の決議日 2008年5月12日 同日に統合契約を締結し、株式移転計画書を作成。6月27日の定時株主総会で承認
統合の法的形式 共同株式移転 両社の発行済株式の全部を新設する共同持株会社へ移転する
効力発生日 2008年10月1日 共同持株会社の設立登記日。同日にJVC・ケンウッド・ホールディングス株式が上場
株式移転比率 ビクター1株に2株、ケンウッド1株に1株 ビクターはUBS証券会社、ケンウッドはGCAサヴィアンの算定をもとに両社協議で決定
交付株式数 723,196,886株 評価額96,835百万円。対価の種類は共同持株会社の普通株式および現金
取得企業を決定するに至った経緯 被取得企業は日本ビクター 企業結合会計基準の「取得」に該当しパーチェス法を適用。取得した議決権比率は100%
被取得企業の取得原価 97,359百万円 対価96,835百万円に、アドバイザリー費用等の取得に直接要した費用523百万円を加えた額
負ののれん 3,244百万円 発表前5日間の株価を基礎とした取得原価が時価純資産を下回った。2年間で均等償却
受け入れた資産・負債 資産320,843百万円/負債221,461百万円 流動資産201,334百万円、固定資産119,508百万円。少数株主持分は2,022百万円
上場廃止日 2008年9月 東京・大阪両証券取引所市場第一部。東京証券取引所の上場廃止日は9月25日
通期換算した影響額 売上高239,748百万円 営業利益2,676百万円、経常損失514百万円、当期純損失5,918百万円。監査証明は受けていない

出所:日本ビクター 有価証券報告書 第118期(2007年3月期)・第119期(2008年3月期)・第120期(2009年3月期)/JVC・ケンウッド・ホールディングス 有価証券報告書 第1期(2009年3月期)【企業結合等関係】

統合前後の業績と純資産の推移

日本ビクター:統合前後の業績と純資産の推移

(百万円) 売上高経常損益当期純損益純資産 備考
2003年3月期 967,64017,2976,335146,409
2004年3月期 921,97820,18415,608159,325 最後の最終黒字。翌期から4期続けて当期純損失となる
2005年3月期 840,5907,282△1,857158,235 2010年3月提出の訂正報告書で売上高840,581・当期純損失3,412に訂正
2006年3月期 806,899△15,038△30,607136,289
2007年3月期 742,685△11,695△7,891133,786 松下電器産業が52.40%を持つ連結子会社としての最後の期末
2008年3月期 658,449△7,951△47,521114,126 8月に第三者割当増資350億円。モータ事業とサーキット事業を分離した
2009年3月期 462,086△10,307△24,35088,145 10月に共同持株会社の完全子会社となり、記録メディア事業を分離した
売上高(百万円)当期純損益率(%)

出所:日本ビクター 有価証券報告書 第117期・第119期・第120期【主要な経営指標等の推移】(連結・日本基準)

参考文献
出典・参考
  • 日本ビクター 有価証券報告書(連結・日本基準)
  • JVCケンウッド 有価証券報告書【沿革】
  • 日本ビクター 決算説明会資料「2008年3月期 決算説明会資料」
  • 日本ビクター 有価証券報告書「第119期(2008年3月期)【経営上の重要な契約等】【重要な後発事象】」
  • 日本ビクター 有価証券報告書「第119期(2008年3月期)【発行済株式総数、資本金等の推移】【大株主の状況】」
  • 日本ビクター 有価証券報告書「第118期(2007年3月期)【大株主の状況】」
  • 日本ビクター 有価証券報告書「第120期(2009年3月期)【沿革】【大株主の状況】【企業結合等関係】」
  • JVC・ケンウッド・ホールディングス 有価証券報告書「第1期(2009年3月期)【企業結合等関係】」

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