FOOD&LIFECOMPANIESユニゾン・キャピタルによる公開買付けの受け入れと東証2部からの上場廃止
ゼンショーとの統合を退けたスシローは、なぜ上場の看板を手放してファンド傘下の非公開企業になったか
- 概要
- 2008年9月24日、ユニゾン・キャピタル系の受け皿会社エーエスホールディングスが、東証2部上場のあきんどスシロー(証券コード2781)に対し1株3,250円の公開買付けを開始し、11月に発行済普通株式の65.19%を取得して子会社化、2009年4月に上場を廃止した非公開化。筆頭株主ゼンショーとの統合構想を退け、独立を保つための資本の組み替えであった。
- 背景
- 2007年、創業者の実弟がスシロー株をゼンショーへ売却して同社が筆頭株主となり、かっぱ寿司との「1位2位連合」による統合を描いた。原価率50%と店内調理を譲らないスシローは統合を拒み、ユニゾン・キャピタルと組んで独立路線を選んだ。
- 内容
- エーエスホールディングスが1株3,250円・買付予定総額92億6,000万円でTOBを実施し、第三者割当増資とあわせてゼンショーの持ち分を薄めた。ゼンショーはTOBに応募せず保有株を売却して関係を解消し、あきんどスシローは発行済普通株式の65.19%取得で子会社化された後、2009年5月に合併・上場廃止された。
- 含意
- 非公開化で四半期開示の負担を離れたスシローは、中長期の出店と店舗改善に踏み込んだ。ユニゾンからペルミラへとファンドの手を渡り、2017年に東証1部へ再上場して回転寿司首位の地位を固めた。支配株主を入れ替える資本の一手が、その後の成長につながったとみることができる。
誰の傘の下で戦うかという問い
この非公開化を、単なる投資ファンドによる買収と読むと芯を外す。スシローが上場の看板を手放した最大の理由は、筆頭株主ゼンショーが描いたかっぱ寿司との統合、すなわち規模で市場を束ねる「1位2位連合」に呑み込まれることを避ける点にあった。原価率50%と店内調理という、寿司職人の出自に根ざした自らのやり方を守るために、ユニゾン・キャピタルと組んで支配株主を入れ替える資本の一手を選んだ。そこにこの判断の核があるとみられる。
もっとも、独立を保つ代償として、同社は自社の株式をファンドの持ち物として差し出した。上場を去った先で待っていたのは、ユニゾンからペルミラへと支え手が替わり、経営が投資家の投資回収の時間軸に縛られる日々であった。それでも四半期開示から離れて出店と店舗改善に資源を注げたことが、後の再上場と回転寿司首位の地歩につながった。誰の傘の下で戦うかを選び直すこと自体が経営判断でありうる——スシローの非公開化は、その一例として読むことができる。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
ゼンショーの筆頭株主化と統合構想
あきんどスシローは2003年9月に東京証券取引所第二部へ上場していた。2007年、創業者の実弟である清水豊氏が保有していたスシロー株を、牛丼「すき家」を展開するゼンショーへ売却し、ゼンショーが筆頭株主となった。ゼンショーはかっぱ寿司を運営するカッパ・クリエイトの大株主でもあり、当時の回転寿司で売上高首位のかっぱ寿司と2位のスシローを束ねる「1位2位連合」による市場支配を描いていた[1]。
だがスシロー側は統合に応じなかった。交渉は、スシローが「原価率50%」と「店内調理」という自らの経営方針を譲らなかったことで決裂したと伝えられる。寿司職人の出自に根ざした品質本位のやり方を、規模の論理に明け渡すかどうかが、ここで問われた。統合を退けた以上、筆頭株主として残るゼンショーとの関係をどう整理するかが、次の課題として残された[2]。
独立路線とユニゾン・キャピタルとの提携
統合を退けたスシローが選んだのは、投資ファンドを後ろ盾に独立を保つ道であった。2007年8月、同社は水産大手の極洋、およびユニゾン・キャピタル・グループと戦略的業務提携を結んだ。あわせて2012年に売上高を倍増して1,000億円へ伸ばす5カ年計画を掲げ、ネタの調達と資本の両面で支えを得ながら、自力での成長を描く布石を打った[3][4]。
この提携には、筆頭株主ゼンショーの影響力をどう薄めるかという主題が重なっていた。原価の高騰と出店競争の激化という外部環境も重荷となっており、上場を保ったまま支配権をめぐる綱引きを続けるより、資本構成そのものを組み替える構想が現実味を帯びていった。独立を守る手立ては、市場からいったん退くという形へ向かっていった[5]。
決断
エーエスホールディングスによる公開買付け
2008年9月24日、ユニゾン・キャピタル系の受け皿会社エーエスホールディングスは、あきんどスシロー株に対する公開買付け(TOB)を発表した。買付価格は1株3,250円、買付予定数は284万9,200株、買付予定総額は92億6,000万円で、期間は9月25日から11月10日までとされた。上場企業として続けてきた資本構成を、市場から切り離して非公開へと移す提案であった[6]。
会社側はこれを、原価高騰や出店競争の激化という環境を打開するための「戦略的な株式の非公開化」と位置づけた。従来の提携関係を超えた強固な資本関係を築いて企業価値を高める、との説明であった。筆頭株主のゼンショーはこの公開買付けに応募せず、保有株を売却して関係を解消する道を選び、統合をめぐる対立はここで幕を下ろした[7]。
子会社化と支配権の移行
公開買付けは2008年11月に終わり、エーエスホールディングスは発行済普通株式の65.19%と新株予約権のすべてを取得して、あきんどスシローを子会社とした。ゼンショーが握っていた筆頭株主の座は投資ファンドの傘下へ移り、かっぱ寿司との統合をめぐる綱引きは決着した。第三者割当増資とTOBを組み合わせ、支配株主を入れ替える資本の手続きが一巡した[8]。
買収は資本構成の組み替えにとどまらず、その後の合併・上場廃止を織り込んだものであった。TOBの提案時点で、2009年5月までにエーエスホールディングスとあきんどスシローを合併させる筋書きが示されており、非公開化は一連の再編の入口に置かれていた。上場企業として市場に置かれてきた5年半の歴史を、ここで閉じる段取りが整えられた[9]。
結果
上場廃止と非公開下での再建
2009年2月、あきんどスシローは臨時株主総会で吸収合併を決議し、4月に東証2部の上場を廃止した。5月にはエーエスホールディングスが同社を吸収合併して商号を引き継ぎ、上場からわずか5年半で市場を去った。6月には豊崎賢一氏が3代目社長に就き、ユニゾン・キャピタルの傘下で店舗投資と収益改善を進める体制が整った[10][11]。
四半期ごとの開示や市場の短期的な評価から離れたことで、同社は中長期を見据えた出店と店舗運営の改善に資源を振り向けられるようになった。非公開化は、上場の看板を手放す代わりに、腰を据えた投資の自由度を得る選択であったとみることができる。ゼンショーの支配を脱したうえで、再生を担うファンドとともに立て直しへ向かう体制が動き出した[12]。
ファンドからファンドへ、そして再上場
ユニゾンのもとで立て直したスシローは、投資ファンドの持つ株式をふたたびファンドが引き継ぐ形で次の段階へ進んだ。2012年9月、ユニゾン・キャピタル・グループは保有するあきんどスシロー株の全てを、英国系ファンドのペルミラ系CEILジャパンへ譲渡した。日系ファンドから欧州系ファンドへ、支え手を替えながら成長を続けた。同時代の経済誌には、この株主交代を「ファンドの次もファンドを選んだスシロー」と題する記事も現れた[13][14]。
そして2017年3月、持株会社スシローグローバルホールディングスが東京証券取引所第一部へ株式を上場し、非公開化から8年を経て市場へ戻った。再上場はペルミラにとって投資回収の機会となった。上場廃止で始まった非公開下の再建は、二つのファンドの手を渡りながら、回転寿司首位に育った企業を株式市場へ送り返す道筋を用意したとみることができる[15]。
- ダイヤモンド・オンライン(2022年5月19日)「スシローが一軒のすし屋から日本一になれた理由、『職人が生みファンドが育てた』」
- M&A online(2008年9月24日)「ユニゾン・キャピタル・グループの投資ファンド、あきんどスシローをTOBで子会社化」
- 東洋経済オンライン(2012年12月29日)「ファンドの次もファンドを選んだスシロー 回転ずし首位の成長戦略」
- FOOD & LIFE COMPANIES 有価証券報告書【沿革】
- 新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)株式会社スシローグローバルホールディングス(2016年)