パソナグループ ベネフィット・ワン売却 公開買付けへの応募ではなく自己株式取得による全保有株の売却
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何をなぜ決めたか
- 概要
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2024年5月23日、パソナグループは51.16%を握っていた上場子会社ベネフィット・ワンの株式を全て手放した。第一生命ホールディングスが実施した公開買付けには応募せず、成立後にベネフィット・ワン自身が実施した自己株式取得へ応じる形をとり、関係会社株式売却益1,120億40百万円を特別利益に計上した。
株式売却により現金及び預金は1,152億円増え、受託案件の預り金を除く自己資本比率は26.9%から60.3%へ上がった。
- 背景
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ベネフィット・ワンはパソナの社内ベンチャーから育ち、2004年9月にジャスダックへ店頭登録した福利厚生代行の上場子会社である。
2023年5月期のアウトソーシングセグメントは売上高417億79百万円に対しセグメント利益104億87百万円で、利益率25%は派遣・BPOを担うエキスパートサービス、BPOサービス他の5.0%(売上3,031億64百万円・利益151億32百万円)を大きく上回っていた。時価総額は親会社を超え、2017年には香港のオアシス・マネジメントが上場子会社の整理と株主還元を迫っていた。
- 内容
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2023年11月に医療情報のエムスリーが対抗する公開買付けを仕掛けて争奪となり、第一生命は買付価格を引き上げたうえで、2024年2月8日にパソナと合意書を締結した。
パソナは公開買付けに応募しない一方、成立後に株式併合で株主を第一生命と自社のみに絞り、第三者割当増資を経た自己株式取得で全保有分を譲渡する道を選んだ。公開買付けは3月11日に成立し、5月23日の自己株式取得の実行をもって分離が完了している。
- 含意
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移転した資産は505億87百万円、負債は262億56百万円。手放した事業が2024年5月期に稼いだのは売上高389億62百万円・営業利益76億15百万円で、この期の連結営業利益67億94百万円を上回る。
稼ぎ頭を欠いた翌2025年5月期、連結は売上高3,092億40百万円・営業損失12億37百万円と赤字に転じ、2026年5月期も営業損失11億49百万円が残った。買い手の第一生命が投じた取得原価は2,920億56百万円である。
いつ何が起きたか 7件
筆者の見解
抱え続けた高収益子会社を、なぜ今手放したか
この決断の核心は、20年近く抱えてきた親子上場の歪みを、創業者みずからが解いた点にある。2017年にオアシスが求めた"上場子会社の整理"を、南部靖之氏は当時退けた。それを6年を経て、稼ぎ頭ベネフィット・ワンの売却という形で自ら実行したことになる。取引の設計にも目を引くところがある。公開買付けに応募せず、保有分を株式併合後の自己株式取得に回したのは、みなし配当の益金不算入で生じる税務上の差を一般株主の買付価格へ回すための組み立てで、親会社の取り分だけを最大化する売り抜けとは一線を画す。エムスリーとの争奪が価格をつり上げたことも、結果として売り手と一般株主の双方に働いたと推察される。
もっとも、価値を現金へ換えたあとに何が残るかは、これからの問いである。手放した事業は2024年5月期に営業利益76億15百万円を稼ぎ、これは同期の連結営業利益67億94百万円を上回っていた。稼ぎ頭を欠いた連結は翌期に営業損失12億37百万円へ転落し、2026年5月期も赤字が残る。1,120億40百万円をどこへ配るのか——本業の立て直しか、新領域への投資か、株主への還元か。売却の直後にオアシスがふたたび株を買い増したことは、子会社の価値実現が資本効率をめぐる緊張の終点ではなく、本体そのものへ問いが向き直る起点になったことを示しているのだろう。売った稼ぎ頭に代わる収益源を自力で立てられるかどうかに、この決断の評価はかかっている。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
業績の推移
事業分離の条件
事業分離の条件
| 科目 | 概要 | 備考 |
|---|---|---|
| 分離先企業 | 第一生命ホールディングス | |
| 分離した子会社 | 株式会社ベネフィット・ワン | 福利厚生、パーソナル、CRM、インセンティブ、ヘルスケア、購買・精算代行、ペイメントの各事業 |
| 分離前の議決権所有割合 | 51.16% | 2023年5月期末時点。うち間接所有はない |
| 分離前の報告セグメント | アウトソーシング | 2025年5月期からこの報告セグメントは無くなった |
| 合意書の締結 | 2024年2月8日 | 公開買付けに応募せず、成立後の自己株式取得で全保有株を売却する旨を取締役会で決議 |
| 公開買付けの成立 | 2024年3月11日 | 合意書に基づき株式併合・第三者割当増資・自己株式取得の各議案に賛成の議決権を行使 |
| 事業分離日 | 2024年5月23日 | 自己株式取得の実行日。同日をもって対象者とその子会社等を連結の範囲から除外 |
| 法的形式 | 受取対価を現金等の財産のみとする株式譲渡 | 公開買付けへの応募ではなく、株式併合後のベネフィット・ワンによる自己株式取得 |
| 移転損益 | 112,040百万円 | 関係会社株式売却益として特別利益に計上。関係会社株式売却関連費用1,164百万円は特別損失 |
| 移転した資産 | 50,587百万円 | 流動資産24,142百万円、固定資産26,444百万円 |
| 移転した負債 | 26,256百万円 | 流動負債16,870百万円、固定負債9,385百万円 |
| 分離した事業の当期損益 | 売上高38,962百万円/営業利益7,615百万円 | 2024年5月期の連結損益計算書に計上されている概算額 |
| 分離後の持分 | 0% | 保有していた対象者株式の全てを売却し、対象者は第一生命の完全子会社となった |
| 株式売却による現金の増加 | 1,152億円 | 預り金を除く自己資本比率は26.9%から60.3%へ。非支配株主持分は121億円減少 |
出所:パソナグループ 有価証券報告書 第17期(2024年5月期)【企業結合等関係】【経営上の重要な契約等】・第16期(2023年5月期)【関係会社の状況】・2024年5月期決算説明資料
手放したアウトソーシング(ベネフィット・ワン)の推移
パソナグループ:手放したアウトソーシング(ベネフィット・ワン)の推移
| (百万円) | 外部顧客への売上高 | セグメント利益 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 2019年5月期 | 34,111 | 7,641 | |
| 2020年5月期 | 36,603 | 8,375 | |
| 2021年5月期 | 36,747 | 9,794 | |
| 2022年5月期 | 37,040 | 12,765 | |
| 2023年5月期 | 41,779 | 10,487 | 売上高は連結の11.2%、セグメント利益は報告セグメント合計の38.6% |
| 2024年5月期 | 38,431 | 7,615 | 5月23日に連結から除外。セグメント間を含む売上高は38,962 |
出所:パソナグループ 有価証券報告書 第12〜18期(セグメント情報)
連結業績と特別利益
パソナグループ:連結業績と特別利益
| (百万円) | 売上高 | 営業利益 | 特別利益 | 親会社株主に帰属する当期純利益 | 備考 |
|---|---|---|---|---|---|
| 2019年5月期 | 326,984 | 9,465 | 17 | 1,975 | |
| 2020年5月期 | 324,984 | 10,577 | 52 | 594 | |
| 2021年5月期 | 334,540 | 19,940 | 5 | 6,784 | |
| 2022年5月期 | 366,096 | 22,083 | 28 | 8,621 | |
| 2023年5月期 | 372,579 | 14,377 | 1,530 | 6,099 | |
| 2024年5月期 | 356,733 | 6,794 | 112,060 | 95,891 | 特別利益の大半が売却益112,040。特別損失には減損損失10,811を含む |
| 2025年5月期 | 309,240 | △1,237 | 178 | △8,658 | 万博出展関連費用4,821を特別損失に計上 |
| 2026年5月期 | 308,496 | △1,149 | 918 | △3,388 |
出所:パソナグループ 有価証券報告書 第12〜19期(連結損益計算書)
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参考文献
- パソナグループ 有価証券報告書【沿革】
- パソナグループ 適時開示「子会社株式に対する合意書の締結及び特別利益・特別損失の計上見込み並びに2024年5月期通期連結業績予想の修正に関するお知らせ」
- 第一生命ホールディングス 適時開示「株式会社ベネフィット・ワン株式に対する公開買付けの開始に関するお知らせ」
- パソナグループ 有価証券報告書「第17期(2024年5月期)【企業結合等関係】事業分離」
- パソナグループ 有価証券報告書「第17期(2024年5月期)【経営上の重要な契約等】」
- パソナグループ 決算説明会資料「2024年5月期 決算説明資料」
- パソナグループ 有価証券報告書「第18期(2025年5月期)」
- 第一生命ホールディングス 有価証券報告書「第123期(2025年3月期)【企業結合等関係】」