NTTドコモの完全子会社化(2020年・NTTの決断)

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論点 最大の上場子会社を完全子会社にするか
NTT:業績の推移
売上高(億円)営業利益率(%)
完全子会社化による親子上場の解消

何をなぜ決めたか:完全子会社化による親子上場の解消

概要

2020年9月29日、上場子会社NTTドコモの普通株式と米国預託証券を金融商品取引法に基づく公開買付けで取得することを決定した。買付価格は1株3,900円、買付期間は9月30日から11月16日までで、公開買付けによる取得額は3兆1,786億円となった。

続いて11月27日に会社法第179条第1項の株式売渡請求を行い、12月29日にドコモは完全子会社となった。取得した非支配持分の帳簿価額1兆8,880億円に対し、売渡対価は4兆2,531億円だった。

背景

固定通信と移動通信の垣根がなくなり、グローバルプレーヤーを含む通信レイヤーを超えた多面的・多層的な市場競争が進んでいた。新型コロナウイルス感染症の拡大を受け、リモートワールド(分散型社会)が基本となる社会への変化も想定された。

こうした環境で中期的に成長するには、グループ横断でのリソース・アセットの戦略的活用と意思決定の迅速化が不可欠と判断した。ドコモはNTTコミュニケーションズやNTTコムウェアの能力を活用し、移動固定融合型で総合ICT企業へ進む道が描かれた。

内容

公開買付け前の所有持分は66.2%で、買付けの完了により91.5%へ上昇した。残る非支配持分8.5%には総額1兆758億円の株式売渡請求を行い、ドコモ取締役会が同日これを承認している。

共通支配下の取引であるためのれんは生じず、非支配持分との資本取引として処理された。資本剰余金は2兆3,650億円減少して2021年3月31日にはゼロとなり、負となる部分は利益剰余金から減額されている。資金はブリッジローンで確保し、返済資金の一部として総額2兆1,069億円の社債を発行した。

含意

有利子負債は4兆6,999億円から7兆6,243億円へ増え、株主資本に対する比率は51.9%から100.8%へ跳ね上がった。2022年1月にはNTTコミュニケーションズとNTTコムウェアがドコモ傘下へ移り、2022年3月期からセグメントは5区分から4区分へ改まり、移動通信事業は総合ICT事業となった。

2025年にはNTTデータグループの完全子会社化が同じ形で続き、非支配持分からの子会社持分取得に2兆3,957億円を投じている。親子上場の解消はここで終わらなかった。

いつ何が起きたか 6件
当時の取締役 8名

当時の取締役(2020年6月株主総会決議)

考察:自己資本を削って買い戻した指揮権
考察

考察:自己資本を削って買い戻した指揮権

この取引は買収というより、外部へ出していた指揮権の買い戻しである。共通支配下の資本取引だからのれんは一円も立たず、代わりに帳簿へ残ったのは、取得した非支配持分の帳簿価額1兆8,880億円と売渡対価4兆2,531億円の差である。その差は資本剰余金2兆3,650億円を全額消し、なお足りずに利益剰余金まで削っている。買った資産が増えるのではなく、自己資本が減る買い物だっただろう。

もっとも、削ったのは資本だけではない。有利子負債は4兆6,999億円から7兆6,243億円へ増え、株主資本に対する比率は100.8%と資本を上回った。その対価として得たのは、2022年1月にNTTコミュニケーションズとNTTコムウェアをドコモ傘下へ移し、セグメントを総合ICT事業へ集約し直す自由度だろう。総合ICT事業の利益は2024年3月期の1兆1,444億円を頂に足踏みしており、集約し直した体制が収益として返るかはまだ見えていない。2025年のNTTデータグループ完全子会社化も同じ構図で、親子上場の解消はNTTにとって一度きりの決断ではなかった。

数字で見る 3表

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図と表

NTT:資本の構成と有利子負債の推移

資本剰余金(百万円)非支配持分(百万円)
NTT:資本の構成と有利子負債の推移
(百万円) 資本剰余金非支配持分有利子負債 備考
2017年3月期 2,410,5722,421,432− IFRSへの移行日の数値。有利子負債は米国会計基準での開示のため置いていない
2018年3月期 2,396,5552,515,2963,971,600 有利子負債はIFRSへ組み替えた数値。米国会計基準では3兆8,548億円だった
2019年3月期 2,341,2062,539,8774,262,700
2020年3月期 2,252,6722,401,5244,699,900
2021年3月期 0640,3367,624,300 完全子会社化で資本剰余金は全額取り崩され、非支配持分は4分の1近くまで減った
2022年3月期 0735,6767,364,300
2023年3月期 0789,2748,230,500
2024年3月期 01,048,8999,591,000
2025年3月期 01,123,05210,010,100
2026年3月期 0489,91015,711,600 NTTデータグループの完全子会社化と住信SBIネット銀行の連結子会社化を反映
出所:日本電信電話 有価証券報告書 第32〜41期(連結財政状態計算書・経営成績等の状況の分析)
出所:日本電信電話 有価証券報告書 第32〜41期(連結財政状態計算書・経営成績等の状況の分析)

NTT:移動通信事業と総合ICT事業の推移

NTT:移動通信事業と総合ICT事業の推移
(百万円) 移動通信事業 営業収益移動通信事業 セグメント利益総合ICT事業 営業収益総合ICT事業 セグメント利益 備考
2018年3月期 4,699,842986,981−−
2019年3月期 4,774,7111,013,644−−
2020年3月期 4,586,125854,650−−
2021年3月期 4,640,255913,2275,627,3041,059,964 左は当期の有報の5区分、右は翌期の有報が4区分へ組み替えた数値
2022年3月期 −−5,581,8951,072,544 NTTコミュニケーションズとNTTコムウェアを含む総合ICT事業へ改まった
2023年3月期 −−5,777,8061,093,893
2024年3月期 −−5,864,4651,144,405
2025年3月期 −−5,907,8001,020,520
2026年3月期 −−6,146,232942,062
出所:日本電信電話 有価証券報告書 第34〜41期(注記2.1.セグメント情報。営業収益は外部顧客に対するもの)
出所:日本電信電話 有価証券報告書 第34〜41期(注記2.1.セグメント情報。営業収益は外部顧客に対するもの)

買収の条件

買収の条件
科目 概要 備考
被取得企業 NTTドコモ 対象は当社保有株式と対象者の自己株式を除く普通株式、および米国預託証券
取得の法的形式 公開買付けと株式売渡請求 金融商品取引法に基づく公開買付けののち、会社法第179条第1項の売渡請求で全株を取得
公開買付けの決定 2020年9月29日 同日、対象者の取締役会が賛同の意見表明と応募推奨を決議した
買付価格 1株3,900円 米国預託証券は円換算した同額を基準とした
公開買付期間 2020年9月30日から11月16日まで 対象者株式の全てを取得して完全子会社とする一連の取引の第一段階
公開買付けによる取得額 3兆1,786億円 期間中に取得した対象者株式の取得額
取得した議決権比率 66.2%から91.5%へ上昇 公開買付け直前の所有持分は66.2%。2019年度のドコモの自己株式取得で64.1%から上昇していた
株式売渡請求 2020年11月27日 非支配持分の所有者が持つ全持分8.5%が対象。同日、対象者の取締役会が承認した
株式売渡請求の総額 1兆758億円 これを踏まえ、対象者に対する所有持分を100%として会計処理している
企業結合日 2020年12月29日 株式売渡請求の効力発生により対象者株式の全てを取得した
会計処理 非支配持分との資本取引 共通支配下の取引にあたり、重要な企業結合として扱っていない。のれんは生じない
取得した非支配持分の帳簿価額 1,888,048百万円
売渡対価 4,253,138百万円 取引コストを含めていない
資本剰余金の変動 △2,365,090百万円 親会社の所有者に帰属する持分の減少。負となる部分は利益剰余金から減額している
資金調達 金融機関からのブリッジローン 返済資金の一部として総額2兆1,069億円の社債を発行した
有利子負債の増加 4兆6,999億円から7兆6,243億円へ 2021年3月31日現在。株主資本に対する比率は51.9%から100.8%へ上昇した
組織への反映 2022年1月に2社をドコモ傘下へ移管 NTTコミュニケーションズとNTTコムウェア。2022年3月期からセグメントを4区分に改めた
出所:日本電信電話 有価証券報告書 第36期(2021年3月期)【注記4.1.資本(7)非支配持分との資本取引】【経営成績等の状況の分析】、NTTドコモ 報道発表資料 2020年9月29日(公開買付けに係る賛同の意見表明及び応募推奨)
出所:日本電信電話 有価証券報告書 第36期(2021年3月期)【注記4.1.資本(7)非支配持分との資本取引】【経営成績等の状況の分析】、NTTドコモ 報道発表資料 2020年9月29日(公開買付けに係る賛同の意見表明及び応募推奨)
当時の取締役 8名

当時の取締役(2020年6月株主総会決議)

参考文献

参考文献

参考
  • NTTドコモ 会社沿革
  • NTTドコモ 適時開示「当社親会社である日本電信電話株式会社による当社株式等に対する公開買付けに係る賛同の意見表明及び応募推奨に関するお知らせ」
  • 日本電信電話 IR説明資料「NTTドコモの完全子会社化について」
  • NTTドコモ 適時開示「日本電信電話株式会社による当社株式に係る株式売渡請求を行うことの決定、当該株式売渡請求に係る承認及び当社株式の上場廃止に関するお知らせ」
  • 日本電信電話 有価証券報告書「第36期(2021年3月期)【注記4.1.資本(7)非支配持分との資本取引】」
  • 日本電信電話 有価証券報告書「第37期(2022年3月期)【事業の内容】【注記2.1.セグメント情報】」

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