日立化成昭和電工による9,640億円のTOBでの完全子会社化と東証1部上場廃止

自主独立を保った日立系材料メーカーは、なぜ親会社の手で化学専業の傘下へ売られたか

時期 2019年12月
意思決定者(推定) 東原敏昭 日立製作所 社長兼CEO
論点 親子上場の解消と機能材料メーカーの帰属
概要
2019年12月18日、昭和電工が、日立製作所が約51%を握る上場子会社・日立化成を、1株4,630円・総額最大9,640億円のTOBで完全子会社化すると発表した。日立が進めた上場子会社再編の一環で、日立化成は日立グループ「御三家」の一角から化学専業の傘下へ移り、2020年6月に東証1部の上場を廃止した。日本の化学業界で過去最大のM&Aとなった。
背景
日立製作所はIoT基盤「ルマーダ」との関わりが薄く利益率の低い子会社の売却を進め、10年前に20社を超えた上場子会社を4社まで減らしていた。2018年末には日立化成で品質データの不正が発覚し、業績も低迷しており、御三家の一角は最初の売却対象となった。
内容
昭和電工は買付主体として完全子会社HCホールディングスを設け、日立保有分を含む全株式の取得を目指した。TOBは独占禁止法の審査で当初予定から遅れ、2020年3月24日開始・4月20日まで実施して発行済み株式の約87.6%を取得。その後の手続きを経て、日立化成は6月19日に上場を廃止した。
含意
買収額は日立化成の営業利益363億円に対して割高との批判が絶えず、昭和電工は約5,000億円ののれんを抱えて2020年12月期に巨額の最終赤字を計上した。旧日立化成は2020年10月に昭和電工マテリアルズへ社名を変え、2023年に統合会社レゾナックの中核事業となった。
筆者の見解

誰の判断だったのか

この買収は、日立製作所によるポートフォリオ整理の一手として語られることが多い。だが売られた側へ視点を移すと、話はそれほど単純ではない。日立化成は持株比率約51%という距離のもとで経営を任され、グループ外へ材料を売る自主独立の会社として歩んできた。その独立性ごと化学専業の傘下へ移された点に、この判断が親会社の資本政策に主導された性格がうかがえる。売る相手を先に決めたのは、日立化成ではなく日立であった。

もっとも、被買収を一方的な不運と片づけるのも実態には合わない。売却観測が広がって株価は高騰し、営業利益363億円に対する9,640億円という価格には「高値づかみ」の批判が絶えず、買った昭和電工は約5,000億円ののれんと巨額赤字を抱えた。それでも高く値づけされたのは、日立化成の機能材料が化学再編の主役になりうると見込まれたからである。世界で戦う体制に入る機会と、独立を失う代償とが、一つの判断のなかに同居していたといえる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

自主独立を保った日立系材料メーカー

日立化成の源流は、1912年に日立製作所が電気絶縁ワニスの国産化へ着手したところにさかのぼる。その化学製品事業部を母体として、1962年10月に日立化成工業が分離独立した。半導体や配線板向けの機能材料を主力に、日立金属・日立電線と並ぶ日立グループ「御三家」の一角を占めながらも、グループ外への売上が大半を占めた。日立の持株比率は約51%にとどまり、大株主の意向は尊重しつつ経営は任されるという、自主独立の色合いを保ってきた会社であった[1][2]

その距離感が変わったのは、親会社の資本政策によってであった。日立製作所はIoT基盤「ルマーダ」との関わりが薄く利益率の低い子会社の売却を進め、10年前に20社を超えた上場子会社を、日立ハイテク・日立建機・日立金属・日立化成の4社まで減らしていた。2018年末には日立化成で品質データの不正が発覚し、業績も低迷していた。残る上場子会社を整理するなかで、御三家の一角は最初の売却対象となった[3][4]

決断

昭和電工による9,640億円のTOB

2019年12月18日、昭和電工は日立化成を株式公開買い付け(TOB)で完全子会社化すると正式発表した。買付主体として完全子会社HCホールディングスを設け、日立保有分を含む全株式の取得を目指した。買付価格は1株4,630円と発表前日終値に約13%のプレミアムを乗せ、買付予定総額は最大9,640億円、下限は議決権の3分の2に置いた。日立製作所はTOBへの応募に合意しており、日本の化学業界で過去最大のM&Aとなった[5][6]

買収を主導した昭和電工の森川宏平社長は、当時の絶好調な業績が黒鉛電極の市況に支えられている点に危機感を抱いていた。市況が反転すれば次の成長の柱を欠くなか、機能材料に強い日立化成を取り込めば半導体材料などで世界上位に立てるとみた。森川社長は会見で「機能性化学で世界トップ企業になれるチャンスを逃したくなかった」と述べ、単独での成長より買収を選んだ理由を語っている[7]

結果

TOBの成立と上場廃止

TOBは各国の独占禁止法審査に時間を要し、当初見込んだ2020年2月開始から遅れた。実施は同年3月24日から4月20日までとなり、昭和電工は発行済み株式の約87.6%を取得してTOBを成立させた。残る株式はその後の手続きで買い集められ、日立化成は6月19日に東証1部の上場を廃止した。1962年の独立以来つづいた上場は、親会社が交代して幕を閉じた[8][9][10]

完全子会社となった日立化成は、2020年10月に昭和電工マテリアルズへ社名を改めた。買収額は日立化成の営業利益363億円に対して割高との「高値づかみ」批判が絶えず、昭和電工は約5,000億円ののれんを抱え、買収費用の負担から2020年12月期に巨額の最終赤字を計上した。両社は2023年に統合して社名をレゾナックへと改め、旧日立化成は化学専業グループの中核事業として再編された[11][12][13]

出典・参考

免責事項およびポリシー