パルコを完全子会社化(2019年・J.フロント リテイリングの決断)

更新:
論点 上場子会社を完全子会社化するか
J.フロント リテイリング:業績の推移
売上高(億円)営業利益率(%)
公開買付けと株式売渡請求による、親子上場という状態の解消

何をなぜ決めたか:公開買付けと株式売渡請求による、親子上場という状態の解消

概要

J.フロント リテイリングが、すでに所有持分64.98%を握る上場子会社パルコの残る持分を買い取り、完全子会社とした経営判断。2019年12月27日から公開買付けを実施し、2020年2月25日に31.45%を追加取得して590億円を非支配株主等へ支払い、所有持分は96.43%となった。残る3.57%は同月27日の株式売渡請求により取得し、パルコは2020年3月に完全子会社となった。山本良一氏(代表執行役社長)のもとでの決定である。

背景

大丸と松坂屋の統合で発足したJ.フロントは、店舗をテナントに貸して賃料を得る不動産型のモデルへ主力を移していた。2012年に持分法適用関連会社としたパルコを同年8月に連結子会社化した後も所有持分は約65%にとどまり、統合報告書2020は、パルコが上場会社として運営に一定の独立性を有するため、グループとしての意思決定に時間を要し戦略の遂行に制約があったと記している。

内容

すでに支配を得ている子会社の持分の買い増しであるため、会計上は企業結合ではなく「非支配持分との取引」、すなわち資本取引として処理された。のれんは発生していない。取得した非支配持分の帳簿価額42,465百万円に対し支払う対価は65,494百万円で、差額23,028百万円は親会社の所有者に帰属する持分の減少として資本から控除されている。連結の非支配持分は55,784百万円から12,493百万円へ減った。

含意

百貨店(大丸松坂屋)と商業ディベロッパー(パルコ)を一つの資本のもとに統合し、意思決定の速度と収益源の多角化を狙った判断であった。完全子会社化の直後にコロナ禍が直撃し、2021年2月期は連結営業損失242億円・親会社の所有者に帰属する当期損失261億円へ転落したが、その後は不動産事業をパルコへ移してSC事業へ改め、2025年2月期のセグメント利益は12,850百万円と買収前の水準を回復した。

いつ何が起きたか 8件
当時の取締役 13名

当時の取締役(2019年5月株主総会決議)

  • 山本良一:取締役
  • 橘フクシマ咲江:取締役
  • 小林泰行:取締役会議長
  • 好本達也:取締役
  • 牧山浩三:取締役
  • 太田義勝:取締役
  • 若林勇人:取締役
  • 堤啓之:取締役
  • 石井康雄:取締役
  • 西川晃一郎:取締役
  • 佐藤りえ子:取締役
  • 村田荘一:取締役
  • 内田章:取締役
考察:のれんの立たない買い物
考察

考察:のれんの立たない買い物

この決断の核心は、縮んでいく百貨店本業を抱えた会社が、性格の異なる成長事業をあえて資本ごと買い切った点にある。すでに64.98%を握り、連結の数字には取り込めていた相手に、なお590億円の現金を投じて100%にする——買うのは事業ではなく、少数株主が持っていた発言権そのものであった。会計上も企業結合ではなく資本取引として扱われ、のれんは1円も立っていない。対価65,494百万円と帳簿価額42,465百万円の差額23,028百万円は、資産ではなく親会社の持分の減少として処理されている。買収の成否がのれんの減損として表に出ない以上、この判断は事業の数字そのもので測るほかない。

統合報告書2020が制約として挙げたのは、パルコが上場会社として運営に一定の独立性を有することであった。その制約を外した直後にコロナ禍が全店を襲い、2021年2月期のパルコ事業は69億円のセグメント損失を計上する。もっとも、完全子会社となったことで大丸松坂屋百貨店の不動産事業をパルコへ移し、区分をSC事業へ改める再編は一息に進んだ。事業会社単独では担えない規模の投資に踏み込める体制が整い、2025年2月期のSC事業のセグメント利益は12,850百万円と、買い切る前の水準を超えた。のれんという形では資産に残らなかった590億円の値打ちは、この数字の側にしか現れない。

Yutaka Sugiura, 2026年7月
数字で見る 3表

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図と表

J.フロント リテイリング:パルコ事業(現SC事業)と連結の利益の推移

連結営業利益(百万円)パルコ事業のセグメント利益(百万円)
J.フロント リテイリング:パルコ事業(現SC事業)と連結の利益の推移
(百万円) パルコ事業のセグメント利益連結営業利益 備考
2015年2月期 12,25542,167 日本基準。パルコ事業はテナント売上を含む総額表示であった
2016年2月期 12,58248,038
2017年2月期 12,52044,580
2018年2月期 11,75249,546 この期からIFRS。テナント売上を総額表示から純額表示に変更した
2019年2月期 5,44540,891
2020年2月期 10,82340,286 公開買付けの決済は2020年2月25日。渋谷PARCOが同期の11月に開業
2021年2月期 △6,895△24,265 翌期に不動産事業を分離しSC事業へ改称。組替後の同期は△6,968
2022年2月期 2,0559,380 ここからSC事業。不動産事業はデベロッパー事業へ移した
2023年2月期 4,24419,059
2024年2月期 9,41443,048
2025年2月期 12,85058,199 SC事業の利益は完全子会社化の前の水準を上回った
出所:J.フロント リテイリング 有価証券報告書 第9期〜第19期(セグメント情報、連結損益計算書)
出所:J.フロント リテイリング 有価証券報告書 第9期〜第19期(セグメント情報、連結損益計算書)

J.フロント リテイリング:親会社の所有者に帰属する持分と非支配持分の推移

親会社の所有者に帰属する持分(百万円)非支配持分(百万円)
J.フロント リテイリング:親会社の所有者に帰属する持分と非支配持分の推移
(百万円) 親会社の所有者に帰属する持分非支配持分 備考
2016年2月期 344,51050,290 IFRS移行日の残高。第11期の有価証券報告書で遡及して開示された
2017年2月期 368,57152,872
2018年2月期 395,51955,368
2019年2月期 412,70055,784
2020年2月期 387,18812,493 非支配持分が43,291減少。差額23,028は親会社の持分から控除した
2021年2月期 352,17112,171 残る非支配持分はパルコ以外の連結子会社に帰属する分である
2022年2月期 350,36811,751
2023年2月期 359,38512,025
2024年2月期 381,89812,333
2025年2月期 409,64613,588
出所:J.フロント リテイリング 有価証券報告書 第11期〜第19期(連結財政状態計算書)
出所:J.フロント リテイリング 有価証券報告書 第11期〜第19期(連結財政状態計算書)

完全子会社化の条件

完全子会社化の条件
科目 概要 備考
対象会社 株式会社パルコ ショッピングセンターの開発・経営・管理・運営を行う上場子会社
会計上の取り扱い 非支配持分との取引 支配の喪失に至らない子会社に対する親会社の所有持分の変動。資本取引として処理
のれんの計上 なし すでに支配を得ており企業結合に当たらないため、差額は資本から控除した
公開買付けの開始 2019年12月27日 統合報告書2020による。有価証券報告書に買付価格と買付期間の記載はない
公開買付けによる追加取得 31.45% 2020年2月25日に取得。所有持分は64.98%から96.43%へ増加した
公開買付けで支払った現金 590億円 非支配株主等へ支払った額
株式売渡請求 2020年2月27日 残る3.57%が対象。2020年2月29日時点で所有持分を100%として会計処理
非支配持分に支払う対価 65,494百万円 公開買付けと株式売渡請求を合わせた取引全体の対価
取得した非支配持分の帳簿価額 42,465百万円 連結上のパルコの純資産のうち非支配株主に帰属していた額
親会社の所有者に帰属する持分の減少 23,028百万円 対価と帳簿価額の差額。のれんではなく資本の減少として処理した
完全子会社となった時期 2020年3月 統合報告書2020による。有価証券報告書に具体的な日付の記載はない
結合の理由 事業ポートフォリオの抜本的な変革 迅速な意思決定のもと推し進めるため両社の関係を深め経営資源を集中する
出所:J.フロント リテイリング 有価証券報告書 第13期(2020年2月期)連結財務諸表注記(子会社/支配の喪失に至らない子会社に対する親会社の所有持分の変動)・【従業員の状況】 / 統合報告書2020
出所:J.フロント リテイリング 有価証券報告書 第13期(2020年2月期)連結財務諸表注記(子会社/支配の喪失に至らない子会社に対する親会社の所有持分の変動)・【従業員の状況】 / 統合報告書2020
当時の取締役 13名

当時の取締役(2019年5月株主総会決議)

  • 山本良一:取締役
  • 橘フクシマ咲江:取締役
  • 小林泰行:取締役会議長
  • 好本達也:取締役
  • 牧山浩三:取締役
  • 太田義勝:取締役
  • 若林勇人:取締役
  • 堤啓之:取締役
  • 石井康雄:取締役
  • 西川晃一郎:取締役
  • 佐藤りえ子:取締役
  • 村田荘一:取締役
  • 内田章:取締役
参考文献

参考文献

参考
  • J.フロント リテイリング 有価証券報告書「第13期(2020年2月期)」
  • J.フロント リテイリング 統合報告書「統合報告書2020」
  • J.フロント リテイリング 有価証券報告書「第9期〜第19期(セグメント情報、連結損益計算書、連結財政状態計算書)」

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