古河電工銅管・巻線・TOTOKU・UACJ・古河電池の売却と、データセンター向け光事業への集中投資
資本効率を指標に据えた会社は、財閥時代から抱えた系列子会社をどこまで手放したか
- 概要
- 古河電気工業は2020年の銅管事業売却を皮切りに、太物巻線、東京特殊電線(現TOTOKU)、UACJ株式、古河電池と、系列の事業・子会社を順に手放した。得た資金と経営資源は、データセンター向けの光ファイバ・光部品・放熱冷却製品へ振り向けられ、2025年4月には世界4地域の光ファイバ・ケーブル事業がLighteraへ統合された。
- 背景
- 2001年のOFS買収で膨らんだ有利子負債を抱えたまま、電線・銅管・巻線・アルミという低採算の事業が並んでいた。2022年3月期の連結営業利益は売上9,304億円に対し114億円にとどまる。コロナ禍で次期中期経営計画を1年延期した古河電工は、その間にROICとFVAという資本効率の指標を導入する方針を固めた。
- 内容
- 2020年4月に銅管事業を会社分割して6月に譲渡、同年10月に太物巻線をEssex Furukawaへ、2022年12月に東京特殊電線株式を譲渡した。2024年4月にEssex Furukawa株、同年6月にUACJ株の一部を譲渡して持分法適用範囲から外し、2024年7月には古河電池への公開買付けに賛同して非公開化へ動いた。
- 含意
- 古河電池は1950年9月に電池部門を分離独立させて生まれ、1972年8月に東証一部へ上場した子会社であり、2025年12月22日に上場を廃止した。中期経営計画では最大500億円の戦略投資枠が設けられ、2025年度の連結業績予想は売上高1兆3,000億円・営業利益560億円へ上方修正された。
二十年抱えた事業が主役に戻るまで
手放した順番には、系列の古さと反比例する規則があった。銅管、巻線、東京特殊電線と外側から剥がし、最後に残ったのが1950年に自ら分離独立させ、1972年に上場させた古河電池であった。七十五年抱えた子会社の株を売る判断は、ROICという一つの物差しを全社に通したことで初めて動き出したとみられる。指標を入れ替えるという、社外からは地味に見える決定が、事業の顔ぶれを変える力を持った例といえる。
ただ、集中した先は新しく買った事業ではない。データセンター向けの光ファイバと光部品は、2001年のOFS買収でルーセントから引き継いだ資産の延長にある。売却で得た資金の多くは、二十年以上赤字のまま抱えてきた事業の増産に投じられた。古河電池株の約20%を間接保有として残した設計も含め、この判断は切ることと持ち続けることの配分を組み替えたものであった。営業利益率1%台からの脱却が続くかどうかは、2025年度の予想の先を見なければ分からない。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
売上1兆円で営業利益100億円台
2020年代に入っても、古河電工の収益は薄いままであった。2022年3月期は連結売上高9,304億円に対して営業利益114億円、2024年3月期は売上高1兆565億円に対して営業利益112億円で、いずれも営業利益率は1%台にとどまる。電線、銅管、巻線、アルミと事業の数は多く、そのどれもが銅価と自動車生産に左右された。2001年のOFS買収で負った有利子負債も、まだ財務に残っていた[1]。
2021年度から始める予定であった次期中期経営計画は、新型コロナウイルスの流行で1年延期された。延期した1年は、体質強化と次期計画の準備に充てられる。低採算・非コア事業への対応による事業ポートフォリオの見直しを続けること、環境配慮型・社会課題解決型の新規事業を育てること、そして資本効率重視の経営を強めることが、2021年度の方針として掲げられた[2]。
ROICとFVAを持ち込む
それまでの中期経営計画は、たな卸資産と固定資産に対する営業利益の比率である事業資産営業利益率を、低採算事業の管理指標に使ってきた。運転資本の改善には効いたものの、資本コストとの関係は測れない。そこで新しい計画では、投下資本利益率(ROIC)を新指標に、投下資本付加価値額(FVA)を社内管理指標に据える方針が示された[3]。
指標の置き換えは、事業を残すか手放すかの基準を変えることを意味した。株主に安心してもらうには加重平均資本コスト(WACC)を上回るROICを常に作り出さねばならない、というのが当時示された考え方であった。あわせて事業ポートフォリオ検討委員会が設けられ、変革を実行に移す判断基準と規律の整備が進んだ。事業の足し算をやめる仕組みが、ここで社内に据えられた[4][5]。
決断
系列を順に手放す
売却は年ごとに続いた。2020年4月に銅管事業を新設子会社へ会社分割し、同年6月にその株式を譲渡する。同年10月には太物巻線等の製造事業をEssex Furukawa Magnet Wire LLCへ承継させ、同社を持分法適用関連会社とした。2022年12月に東京特殊電線(現TOTOKU)株式を譲渡し、2024年4月にはEssex Furukawa株式も手放す。同年6月にはUACJ株式の一部を譲渡し、持分法適用範囲から外した[6]。
最後に残ったのが古河電池であった。1950年9月に電池部門を分離独立させて設立し、1972年8月に東京証券取引所市場第一部へ上場させた子会社である。2024年7月23日、古河電池の取締役会は、投資ファンドのアドバンテッジパートナーズが関わる株式会社AP78による公開買付けに賛同する意見を表明した。買付価格は1株1,400円に置かれた[7][8]。
売り切らずに二割を残す
古河電池の手放し方は単純な売却ではなかった。古河電工は保有する18,781,200株(所有割合57.30%)の全てについて公開買付けに応募せず、株式併合の効力発生を条件に、古河電池自身へ自己株式として取得させる形をとった。日本およびタイの競争法対応に時間を要し、公開買付けの開始は2025年8月8日まで待つことになる。同年9月9日に買付けが成立し、11月20日の臨時株主総会で株式併合が決まり、12月22日に上場を廃止した[9][10]。
完全に手を切ったわけでもない。自己株式取得の完了後、古河電工は買付者の親会社であるサステナブル・バッテリー・ホールディングスへ出資し、取引完了後も古河電池株の約20%を間接的に保有する見込みとされた。連結からは外し、資本の一部と取引関係は残す。切り離しと関係維持を両立させる設計が採られた[11]。
結果
資金の行き先とデータセンター
手放して得た資金は、データセンター向けの製品群へ向かった。中期経営計画では最大500億円の戦略投資枠が設けられ、光ファイバ・ケーブルと光部品、放熱・冷却システムに投じられた。2025年4月には、日本・北米欧州・中南米の光ファイバ・ケーブル事業がLightera Holding合同会社のもとへ統合される。DFBレーザチップは2025年12月に追加の増産投資が発表され、水冷モジュールも2024年7月の工場新設から2025年11月の拡張へ進んだ[12][13]。
数字は2025年度に反転した。通期の連結業績予想は売上高1兆3,000億円・営業利益560億円へ上方修正され、データセンタ関連製品の売上は情報通信ソリューション全体の3割を超えた。CPO関連製品の量産化目標は2030年から2028年度へ前倒しされている。UACJ株はさらに売られ、2025年12月3日の発表で保有比率は14.34%から7.10%へ下がり、160億円の売却益が計上された。一方、配当性向は20.9%にとどめられた[14][15][16]。
- 古河電気工業 有価証券報告書【沿革】
- 古河電気工業 有価証券報告書(2022年3月期・2024年3月期・連結)
- 古河電気工業 有価証券報告書(2025年3月期・連結)
- 古河電気工業 統合報告書2021
- 古河電気工業 統合報告書2025
- 古河電気工業 2025年度第3四半期 決算説明会 質疑応答
- 古河電気工業 2025年度第3四半期 決算説明会資料
- 古河電池 適時開示 2025年8月7日「株式会社AP78による当社株式に対する公開買付けに関する賛同の意見表明及び応募推奨のお知らせ」
- 古河電池 IRニュース 2025年11月20日「当社株式公開買付けに伴うスクイーズアウト手続きに関して」
- 日本経済新聞(2025年12月3日)「古河電工のUACJ株保有率、14%から7%に減少」