日立製作所 日立金属株式の譲渡 上場子会社群の売却と親子上場構造の解体
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何をなぜ決めたか
- 概要
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2016年から2023年にかけて、日立製作所が日立物流・日立化成・日立建機・日立金属を順次手放し、2009年3月時点で22社あった上場子会社を2022年度にゼロにした。日立化成は昭和電工側へ495,145百万円、日立金属はベインキャピタル傘下のBCJ-52へ382,042百万円、日立建機は日本産業パートナーズと伊藤忠商事の合弁会社へ182,457百万円で譲渡し、いずれも支配を手放している。
並行して日立ハイテクには531,084百万円を投じて完全子会社化しており、傘下で保有するか外へ出すかを事業ごとに割り振った判断であった。
- 背景
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1956年10月に日立金属工業と日立電線を分離独立させ、1969年12月には日立建設機械製造を切り出した。以来、本体が過半を握ったまま子会社を個別に上場させる形でグループを広げ、2018年3月期には連結子会社879社・持分法適用会社407社の計1,286社を数えるまでになっていた。
少数株主の持分は非支配持分として資本の部に積み上がり、2018年3月期末で1,233,647百万円と、親会社株主持分3,278,024百万円の4割近くに達していた。稼いだ利益のうち相応の部分が、外の株主のものとして連結から漏れ出す構造であった。
- 内容
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最初に動いたのは物流と金融で、2016年3月30日のSGホールディングスとの譲渡契約により同年5月19日に日立物流を59.0%から30.0%へ、同年5月13日の契約により10月3日に日立キャピタルを60.6%から33.4%へ落とし、いずれも持分法適用会社とした。2020年4月20日には日立化成株式を昭和電工側の公開買付に応募して売り切り、翌5月20日には逆に日立ハイテクを完全子会社化している。
2021年4月28日に日立金属株式の公開買付不応募契約を、2022年1月14日に日立建機株式の譲渡契約をそれぞれ締結し、2022年8月23日に日立建機、2023年1月5日に日立金属が連結から外れた。2023年3月1日には日立物流の自己株式取得に応じて残る株式も売り切っている。
- 含意
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連結子会社は2022年3月期の853社から2023年3月期に696社へ減り、非支配持分は1,013,441百万円から392,713百万円へ減少した。少数株主の持分を買い取り、あるいは外へ出す過程で、資本剰余金は2018年3月期の575,809百万円から2023年3月期にはゼロまで削られている。
事業を長く保有することを前提とした日本型のグループから、必要に応じて売買するポートフォリオ経営へと、経営の前提そのものが書き換えられた。
いつ何が起きたか 13件
筆者の見解
「保有」から「入替」へ
この判断の核心は、個々の売却の巧拙よりも、グループを長く保有する資産の束とみなす前提そのものを外した点にあるだろう。1956年に日立金属工業と日立電線を切り出して以来、上場子会社は支配権と資本市場を両立させる知恵であり、同時に総合電機という自己像の裏づけでもあった。その束をほどく代償は資本の部にはっきり出ている。少数株主の持分を買い取り、あるいは外へ出す過程で、資本剰余金は2018年3月期の575,809百万円から2023年3月期にはゼロまで削られた。もはや調整の余地を持たないところまで使い切ったということである。
もっとも、手放して得た資金がそのまま次の事業を買う原資になっている以上、これを縮小とみるのは早い。日立化成を売った2020年度には、その資金でパワーグリッド事業を取得している。残るのは、事業を保有し続けることに価値があるのか、それともそのつど入れ替えることに価値があるのか、という問いである。日立はポートフォリオを機動的に動かす側へ振れ、その速さを競争力に変えようとしている。ただし、売買を平常運転とする経営が、腰を据えた技術の蓄積や人の育成とどう折り合うかは、これからの数字が答えていくことになる。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
業績の推移
上場子会社の売却の条件
上場子会社の売却の条件
| 科目 | 概要 | 備考 |
|---|---|---|
| 解体の対象 | 上場子会社22社 | 2009年3月時点の社数。2022年度にゼロとなった |
| 取引の法的形式 | 株式譲渡、公開買付け、自己株式取得 | 案件ごとに異なる。日立金属は公開買付不応募契約と自己株式取得を組み合わせた |
| 日立物流の一部譲渡 | 2016年5月19日・対価の記載なし | SGホールディングスへ。2016年3月30日に譲渡契約。59.0%→30.0%、利益44,958百万円 |
| 日立キャピタルの一部譲渡 | 2016年10月3日・対価の記載なし | 三菱UFJフィナンシャル・グループと三菱UFJリースへ。60.6%→33.4%、損失に重要性なし |
| 日立化成の売却 | 2020年4月20日・495,145百万円 | 昭和電工の子会社HCホールディングスの公開買付に応募。51.4%→0%、利益278,839百万円 |
| 日立ハイテクの完全子会社化 | 2020年5月20日・531,084百万円 | 公開買付で買い増し100%に。資本剰余金321,627百万円と非支配持分209,457百万円が減少 |
| 日立建機の一部譲渡 | 2022年8月23日・182,457百万円 | 日本産業パートナーズと伊藤忠商事の合弁会社へ。51.4%→25.4%、利益39,211百万円 |
| 日立金属の売却 | 2023年1月5日・382,042百万円 | ベインキャピタル傘下のBCJ-52へ。2021年4月28日に不応募契約。53.4%→0%、利益95,324百万円 |
| 日立物流の売却 | 2023年3月1日・221,983百万円 | 自己株式取得に応じて売却し、持分法適用会社から外れた。利益140,293百万円 |
| 日立Astemoの一部譲渡 | 2023年10月16日・157,807百万円 | 本田技研工業とJICキャピタルへ。66.6%→40%、利益121,642百万円 |
| 日立建機に残る持分 | 25.4% | 持分法適用会社。2026年3月期第3四半期に持分の一部をさらに売却した |
| 日立Astemoに残る持分 | 40% | 持分法適用会社。売却益には残存持分の再評価による利益77,792百万円を含む |
| 日立物流に残る関係 | 公開買付者親会社の議決権10% | 総額100億円で取得。日立物流は2023年4月にロジスティードへ商号変更 |
| 日立化成の買付価格 | 1株当たり4,630円 | 昭和電工側の公開買付。買付期間は2020年3月24日から4月20日、取得価額964,050百万円 |
| 日立建機の買い手の持分 | 議決権26.0% | 伊藤忠商事が日本産業パートナーズとの折半出資会社を通じて取得し、筆頭株主となった |
| 非継続事業としての開示 | なし | 支配の喪失に伴う利益はその他の収益に計上し、注記に事業再編等損益として内訳が出る |
出所:日立製作所 有価証券報告書 第148期(2017年3月期)、第152期(2021年3月期)、第154期(2023年3月期)、第155期(2024年3月期)【注5.事業再編等】 / 日立製作所 統合報告書2023 / 昭和電工 有価証券報告書 第111期(2019年12月期)【重要な後発事象】 / 伊藤忠商事 有価証券報告書 第99期(2023年3月期)【連結財務諸表注記】
連結子会社と持分法適用会社の推移
日立製作所:連結子会社と持分法適用会社の推移
| (社) | 連結子会社 | 持分法適用会社 | 関係会社合計 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 2018年3月期 | 879 | 407 | 1,286 | 連結財務諸表は第146期(2015年3月期)からIFRS。表の全期が同じ基準による |
| 2019年3月期 | 803 | 418 | 1,221 | |
| 2020年3月期 | 814 | 409 | 1,223 | |
| 2021年3月期 | 871 | 345 | 1,216 | 日立化成が外れた一方、パワーグリッド事業の取得で連結子会社は増えた |
| 2022年3月期 | 853 | 287 | 1,140 | |
| 2023年3月期 | 696 | 267 | 963 | 日立金属と日立建機が外れ、上場子会社はゼロとなった |
| 2024年3月期 | 573 | 369 | 942 | 日立Astemoが持分法適用会社となり、持分法適用会社は369社に増えた |
| 2025年3月期 | 618 | 376 | 994 |
出所:日立製作所 有価証券報告書 第149期(2018年3月期)〜第156期(2025年3月期)【事業の内容】
資本剰余金と非支配持分の推移
日立製作所:資本剰余金と非支配持分の推移
| (百万円) | 資本剰余金 | 非支配持分 | 資本の部合計 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 2018年3月期 | 575,809 | 1,233,647 | 4,511,671 | 日立物流と日立キャピタルを持分法適用会社とした後の水準 |
| 2019年3月期 | 463,786 | 1,151,800 | 4,414,403 | |
| 2020年3月期 | 464,795 | 1,106,753 | 4,266,739 | |
| 2021年3月期 | 84,040 | 932,730 | 4,458,232 | 日立ハイテクの完全子会社化で資本剰余金が321,627百万円減った期 |
| 2022年3月期 | 46,119 | 1,013,441 | 5,355,277 | |
| 2023年3月期 | 0 | 392,713 | 5,335,567 | 資本剰余金は残高がなくなり、非支配持分は前年度末から6,207億円減った |
| 2024年3月期 | 0 | 155,898 | 5,859,603 | 日立Astemoが持分法適用会社となり非支配持分はさらに減った |
| 2025年3月期 | 0 | 184,326 | 6,031,417 |
出所:日立製作所 有価証券報告書 第149期(2018年3月期)〜第156期(2025年3月期)【連結財政状態計算書】
その他の収益・費用と事業再編等損益の推移
日立製作所:その他の収益・費用と事業再編等損益の推移
| (百万円) | その他の収益 | その他の費用 | うち減損損失 | 事業再編等損益 | 備考 |
|---|---|---|---|---|---|
| 2018年3月期 | 12,068 | 140,686 | 48,656 | 9,774 | 注記の科目名は事業再編等利益。2019年3月期から事業再編等損益に変わった |
| 2019年3月期 | 206,371 | 442,659 | 344,997 | 184,630 | 英国原子力発電所建設プロジェクトの凍結に伴う減損を含む期 |
| 2020年3月期 | 51,992 | 570,635 | 136,993 | 19,650 | 南アフリカプロジェクトに係る和解に伴う損失を含む期 |
| 2021年3月期 | 476,137 | 172,407 | 109,009 | 452,422 | 日立化成の売却に伴う利益278,839百万円を含む |
| 2022年3月期 | 128,354 | 83,965 | 35,091 | 102,135 | |
| 2023年3月期 | 302,196 | 245,016 | 129,894 | 297,351 | 日立金属95,324、日立物流140,293、日立建機39,211の売却益を計上した期 |
| 2024年3月期 | 116,653 | 97,184 | 29,668 | 97,048 | 日立Astemoの売却に伴う利益121,642百万円を含む |
| 2025年3月期 | 49,665 | 143,023 | 92,135 | 29,638 |
出所:日立製作所 有価証券報告書 第149期(2018年3月期)〜第156期(2025年3月期)【連結損益計算書】注21.その他の収益及び費用
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参考文献
- 日立製作所 統合報告書「統合報告書2023」
- 日立製作所 有価証券報告書「第148期(2017年3月期)注5.事業再編等」
- 日立製作所 有価証券報告書「第152期(2021年3月期)注5.事業再編等」
- 日立製作所 有価証券報告書「第154期(2023年3月期)注5.事業再編等」
- 日立製作所 有価証券報告書「第155期(2024年3月期)注5.事業再編等」
- 日立製作所 有価証券報告書「第149期(2018年3月期)〜第156期(2025年3月期)事業の内容、連結損益計算書、連結財政状態計算書」
- 日立製作所 有価証券報告書「第156期(2025年3月期)沿革」
- 日立製作所 有価証券報告書「第146期(2015年3月期)連結財務諸表注記」
- 日立製作所 決算説明会 質疑応答「2026年3月期 第3四半期 決算説明会 主な質疑応答」
- 昭和電工 有価証券報告書「第111期(2019年12月期)重要な後発事象」
- 伊藤忠商事 有価証券報告書「第99期(2023年3月期)連結財務諸表注記」