鳥居薬品を塩野義へ譲渡(2025年・JTの決断)

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論点 38年続けた医薬事業から撤退するか
JT:業績の推移
売上高(億円)営業利益率(%)
参入から38年を数えた医薬事業からの撤退と、子会社ごとの譲り渡し

何をなぜ決めたか:参入から38年を数えた医薬事業からの撤退と、子会社ごとの譲り渡し

概要

2025年5月7日、日本たばこ産業(JT)が、医薬事業を吸収分割で塩野義製薬へ承継させ、連結子会社の鳥居薬品の株式をすべて手放すことに合意した経営判断。塩野義製薬が鳥居薬品の少数株主から公開買付けで株式を買い集め、JTが所有する54.78%は鳥居薬品自身の自己株式取得で譲り渡す二段の構えをとった。寺畠正道社長のもとでの事業ポートフォリオの絞り込みである。

背景

JTは1985年4月の設立と同時に事業開発本部を開設し、医薬・食品などへの多角化に着手した。1987年に医薬事業へ参入し、1993年9月には医薬総合研究所を設置。1998年12月に鳥居薬品の発行済株式の過半数を公開買付で取得し、研究開発をJT、製造・販売とプロモーションを鳥居薬品が担う一体のバリューチェーンを築いた。

内容

塩野義製薬は鳥居薬品株式を1株6,350円で公開買付し、応募のあった10,977,091株の全部を買い付けた。JTは所有株を応募せず、株式併合を経て鳥居薬品が実施した自己株式取得へ1株4,568円で譲渡した。医薬事業は簡易吸収分割で塩野義製薬が承継し、米国子会社Akros Pharma Inc.も24百万米ドルで譲り渡した。

含意

医薬事業の売上収益は2024年12月期で944億円、グループ全体の3.0%にとどまっていた。画期的な新薬創出のハードルが上がり、グローバルメガファーマの巨額投資で国際的な開発競争が激化するなか、たばこ製品をめぐる議論の進展が研究開発活動の制約にもなり、JTは自らの手での中長期的な成長は不透明と判断した。

いつ何が起きたか 8件
当時の取締役 10名

当時の取締役(2025年3月株主総会決議)

考察:選択と集中が問う、多角化のかたち
考察

考察:選択と集中が問う、多角化のかたち

この判断の中心にあるのは、たばこの先細りに備えて育てた多角化の事業が、育ちきる前に手放された点である。医薬事業は2024年12月期に944億円を売り上げ、調整後営業利益も黒字を保っていたが、グループ全体では3.0%の規模にとどまった。撤退の理由として挙げられたのは収益の悪化ではなく、画期的な新薬創出のハードルが上がり、巨額投資を背負うメガファーマとの競争が激化するなかで、たばこ会社であること自体が研究開発の制約になっているという構造の側である。稼ぎ頭がなお強いうちに、創薬力ごと新薬に賭ける会社へ引き渡す——撤退の論理としては筋が通っているとみられる。

もっとも、手放し方には別の顔がある。少数株主には1株6,350円の公開買付けを置き、自らは1株4,568円の自己株式取得を選んだ。この1,782円の差は、みなし配当の益金不算入という税務上の扱いを織り込んだうえで税引後の手取りが同等になるよう設けられたもので、支配株主が自らの受取価格を抑えて少数株主への配分を厚くした形である。親子上場の解消としては、価格の公正さに手当てを施した設計だといえる。医薬という保険を外して本業へ賭け直した会社が、次の柱をどこに見いだすのか——問いはむしろ撤退の後に残されていると推察される。

Yutaka Sugiura, 2026年7月
数字で見る 3表

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図と表

JT:医薬事業の売上収益と調整後営業利益

売上収益(百万円)連結売上収益に占める割合(%)
JT:医薬事業の売上収益と調整後営業利益
(百万円) 売上収益調整後営業利益連結売上収益 備考
2020年12月期 78,95717,1612,092,561
2021年12月期 80,39211,0932,324,838
2022年12月期 82,90811,1462,657,832 国内たばこと海外たばこを「たばこ事業」に一本化。医薬の区分は変わらない
2023年12月期 94,87517,4092,841,077
2024年12月期 94,4649,2333,149,759 医薬を報告セグメントとして開示した最後の期。連結売上に占める割合は3.0%
出所:日本たばこ産業 有価証券報告書 第36期(2020年12月期)〜第40期(2024年12月期)(注記「事業セグメント」)
出所:日本たばこ産業 有価証券報告書 第36期(2020年12月期)〜第40期(2024年12月期)(注記「事業セグメント」)

JT:非継続事業に分類した医薬事業の損益

売上収益(百万円)営業利益率(%)
JT:非継続事業に分類した医薬事業の損益
(百万円) 売上収益営業利益当期利益 備考
2024年12月期 93,0509,2388,669 第41期で非継続事業へ組み替えた前年度の数値
2025年12月期 75,699△5,27012,139 売却益4,725と減損損失24,346を含む。税金費用△26,371で当期利益は増加
出所:日本たばこ産業 有価証券報告書 第41期(2025年12月期)(注記「38.非継続事業」)
出所:日本たばこ産業 有価証券報告書 第41期(2025年12月期)(注記「38.非継続事業」)

譲渡の条件

譲渡の条件
科目 概要 備考
分離する事業 医薬事業 医療用医薬品の研究開発。1987年の参入以来、低分子創薬に取り組んできた
分離した子会社 鳥居薬品㈱ 当社が議決権の54.78%を所有する連結子会社。東証プライムに上場
あわせて譲渡した子会社 Akros Pharma Inc. JT AMERICA INC.が保有する全株式をShionogi Inc.へ譲渡
分離先企業 塩野義製薬㈱ 医療用医薬品の研究開発・製造・販売。当社との資本関係・人的関係はない
取引の法的形式 吸収分割と株式譲渡 医薬事業は簡易吸収分割、鳥居薬品株式は同社の自己株式取得による譲渡
少数株主の扱い 塩野義製薬による公開買付け 当社は所有株式を応募せず、少数株主の45.22%分が買付けの対象となった
公開買付価格 1株6,350円 買付予定数の下限は3,342,000株(11.89%)。上限は設けていない
公開買付期間 2025年5月8日〜6月18日 法令上の最短は20営業日。対抗的な買付けの機会を確保するため30営業日とした
公開買付けの結果 応募10,977,091株 全部を買い付けた。買付け後の株券等所有割合は93.81%となった
当社株式の譲渡価格 1株4,568円 株式併合前の1株当たり。公開買付価格より1,782円低い価格である
譲渡価格に差を設けた理由 みなし配当の益金不算入 税引後手取りが同等となる額を基準に、少数株主への配分を多くした
取締役会の決議日 2025年5月7日 同日、吸収分割の合意書と公開買付けに係る合意書を塩野義製薬と締結
鳥居薬品株式の譲渡日 2025年9月1日 株式併合の効力発生後、鳥居薬品の自己株式取得により譲渡した
吸収分割契約の締結日 2025年9月25日 公開買付けの成立を条件としていた。同日の取締役会で締結を決議した
事業分離日 2025年12月1日 吸収分割の効力発生日。簡易吸収分割のため株主総会は開催していない
取引の前提条件 競争法のクリアランス等 株式併合と自己株式取得の効力発生、国内外の法令上の許認可の取得
医薬事業の対価(吸収分割) 5,397百万円 吸収分割契約書で定める調整を行った金額を受領する。算定書は取得していない
Akros Pharmaの譲渡価額 24百万米ドル 約36億円。1米ドル151.55円(直近6か月の平均レート)で換算
譲渡対価の合計 79,297百万円 全額を現金で受け取った。医薬事業と鳥居薬品他1社の株式の譲渡による
事業譲渡による収入 42,811百万円 譲渡対価から、譲渡した事業が保有する現金36,486百万円を控除した額
譲渡した資産 169,160百万円 流動資産104,892百万円、非流動資産64,268百万円
譲渡した負債 38,102百万円 流動負債26,411百万円、非流動負債11,691百万円
譲渡による売却益 4,725百万円 非継続事業の「その他の営業収益」に含めている
譲渡に伴う減損損失 24,346百万円 非継続事業の「販売費及び一般管理費等」に含めている
譲渡に係る税金費用 △26,371百万円 非継続事業の法人所得税費用に含めている。当期利益を押し上げた
移転損益(提出会社) 子会社株式売却益28,761百万円 単体は日本基準。特別損失に事業整理損15,494百万円を計上した
医薬事業の会計上の扱い 非継続事業に分類 前年度を組み替えて表示。事業セグメントの区分で判断している
セグメントへの影響 報告セグメントは2つに たばこ事業と加工食品事業。医薬事業は報告セグメントから外れた
従業員への影響 医薬事業の従業員数は0名 2024年12月末は1,340名。連結の従業員数は52,867名となった
分離後の持分 保有しない 鳥居薬品株式の全部を譲渡し、Akros Pharmaの持分も残していない
鳥居薬品の上場 上場廃止 公開買付け後の株式併合により、東証の上場廃止基準に従い廃止となる
出所:日本たばこ産業 有価証券報告書 第41期(2025年12月期)【重要な契約等】、注記「38.非継続事業」「39.事業譲渡」 / 日本たばこ産業 臨時報告書(2025年5月7日)・訂正臨時報告書(2025年9月25日) / 塩野義製薬 公開買付届出書・公開買付報告書 / 鳥居薬品 意見表明報告書
出所:日本たばこ産業 有価証券報告書 第41期(2025年12月期)【重要な契約等】、注記「38.非継続事業」「39.事業譲渡」 / 日本たばこ産業 臨時報告書(2025年5月7日)・訂正臨時報告書(2025年9月25日) / 塩野義製薬 公開買付届出書・公開買付報告書 / 鳥居薬品 意見表明報告書
当時の取締役 10名

当時の取締役(2025年3月株主総会決議)

参考文献

次に読む決断

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