NTTデータの完全子会社化(2025年・NTTの決断)

更新:
論点 上場子会社を完全子会社にするか
NTT:業績の推移
売上高(億円)営業利益率(%)
上場子会社の完全買収による親子上場の解消とグループ統治の一本化

何をなぜ決めたか:上場子会社の完全買収による親子上場の解消とグループ統治の一本化

概要

日本電信電話(NTT)が、上場子会社のNTTデータグループを公開買付けと株式併合で完全子会社にした経営判断である。2025年5月8日の取締役会で、自社と対象者が持つ株式を除く全株式を公開買付けで取得し、完全子会社とする一連の取引を決めた。NTTデータグループの取締役会も同日、賛同と応募推奨を決議した。

公開買付けは5月9日から6月19日まで行って成立し、1兆3,472億円で株式を取得して所有持分は57.73%から81.75%に上がった。8月29日の臨時株主総会で256,029,428株を1株にする株式併合が決議され、端数の取得対価として1兆241億円を払った。NTTデータグループは2025年9月に上場を廃止し、同月に完全子会社となった。

背景

NTTデータグループの源流は、NTTが1988年7月にデータ通信事業本部の営業を譲ったエヌ・ティ・ティ・データ通信で、1995年4月に東京証券取引所へ上場した。NTTは2020年12月にNTTドコモを完全子会社にしている。2022年10月には両社の共同出資で海外事業会社のNTT DATA, Inc.を設け、2023年7月にNTTデータグループは持株会社体制に移った。

NTTは5月8日の説明資料で、親子上場に伴う利益相反、複雑な意思決定の過程、経営資源を投じる際の双方の株主への説明責任を、資本関係の課題に挙げた。クラウドやAIの需要の急拡大を受けたデータセンターの拡張・高度化などを、グループ成長の原動力に位置づけていた。

内容

買付価格は1株4,000円、買付予定数は592,810,968株で、買付代金は2兆3,712億円とした。下限は125,314,700株に置き、上限は設けなかった。全株を取れなければ、成立後に株式売渡請求か株式併合で残りを取得する方針も示した。資金は国内の金融機関5社からのブリッジローンで賄い、順次長期資金に切り替える計画で、借入れの枠は総額2兆3,800億円とした。

完全子会社化の狙いとして、意思決定を一元化してNTTデータグループがグローバル・ソリューション事業の中心を担う体制を築くことを挙げた。北米市場やAI、データセンターへの成長投資のほか、法人営業でのNTTコミュニケーションズとの連携や、研究所の成果を生かしたデータセンターの高付加価値化を検討テーマに据えた。

含意

取得した非支配持分の帳簿価額7,973億円に対し、売渡対価は2兆3,683億円にのぼり、差額の1兆5,710億円は親会社の所有者に帰属する持分の減少として処理した。完全子会社化の結果、NTTの連結子会社のうち重要な非支配持分を持つ会社はなくなった。前の期にNTTデータグループが非支配持分に払った配当金は142億円で、この流出も止まる。財務の方針としては、中期的に公開買付け前の財務状況への回復をめざすとしていた。

2025年11月4日の決算説明会で島田明社長は、シナジーの議論はなお続いていると述べた。NTTデータグループの中期戦略を2026年春ごろに出し、連結の計画の見直しに反映したいとして、数値目標の修正はその中身が見えるまで待つ考えを示した。

いつ何が起きたか 6件
当時の取締役 10名

当時の取締役(2024年6月株主総会決議)

考察:上場子会社の整理という潮流
考察

考察:上場子会社の整理という潮流

NTTによるNTTデータグループの完全子会社化は、日本企業に積み残されてきた親子上場の解消という大きな潮流のなかに置いてみると、その意味がよく見える。親会社と上場子会社が併存する形態は、子会社の少数株主と親会社の利害が食い違いやすく、近年はコーポレートガバナンスの観点から見直しを迫られてきた。2兆3,712億円という巨額を投じてでも上場子会社を取り込む判断の背後には、少数株主との利益相反を抱えたままでは、海外IT事業やデータセンターのような大型投資の意思決定が鈍るという危機感があったのだろう。条件面の合理性以上に、グループ全体の意思決定の速さを買ったディールと読むこともできる。

一方で、機動性と引き換えに失うものもある。上場というガバナンスの規律や、外部の少数株主の視線が外れることで、グループ内の規律をどう保つかという課題は残る。1985年の民営化で分割・上場してきたNTTグループが、ドコモに続いてデータグループまで再び完全に保有する動きは、効率と統制を求める"大NTT"への回帰とも映る。完全子会社化はゴールではなく、取り込んだ事業を海外で実際に成長させられるかどうかが、この巨額の再編の成否を最終的に決めることになるのだろう。

数字で見る 3表

数字で見る

図と表

NTT:NTT連結の非支配持分と株主資本

非支配持分(百万円)株主資本合計(百万円)
NTT:NTT連結の非支配持分と株主資本
(百万円) 非支配持分株主資本合計資本合計 備考
2020年3月期 2,401,5249,061,10311,462,627 NTTドコモの完全子会社化前。非支配持分の大半はドコモの少数株主
2021年3月期 640,3367,562,7078,203,043 2020年12月のNTTドコモ完全子会社化で非支配持分が1.76兆円減った
2022年3月期 735,6768,282,4569,018,132
2023年3月期 789,2748,561,3539,350,627
2024年3月期 1,048,8999,844,16010,893,059
2025年3月期 1,123,05210,221,58711,344,639 公開買付けは期末後の2025年5月8日決議。後発事象として記載された期
出所:日本電信電話 有価証券報告書 第36期〜第40期(連結財政状態計算書)
出所:日本電信電話 有価証券報告書 第36期〜第40期(連結財政状態計算書)

NTT:NTTデータグループの業績

売上高(百万円)営業利益率(%)
NTT:NTTデータグループの業績
(百万円) 売上高営業利益当社株主に帰属する当期利益 備考
2020年3月期 2,266,808130,93775,148
2021年3月期 2,318,658139,17376,843
2022年3月期 2,551,906212,590142,979
2023年3月期 3,490,182259,110149,962 2022年10月にNTTグループの海外事業を同社の傘下へ集約した
2024年3月期 4,367,387309,551133,869 2023年7月に持株会社体制へ移行しNTTデータグループへ商号変更した
2025年3月期 4,638,721323,862142,454 決算発表と同じ2025年5月8日に公開買付けが決議された
出所:NTTデータグループ 有価証券報告書 第32期〜第37期(連結損益計算書)
出所:NTTデータグループ 有価証券報告書 第32期〜第37期(連結損益計算書)

完全子会社化の条件

完全子会社化の条件
科目 概要 備考
対象会社 株式会社NTTデータグループ 1988年5月にNTTの100%出資で設立。1995年4月に東証第二部へ上場した
対象会社の上場市場 東京証券取引所プライム市場 2022年4月の市場区分見直しで市場第一部から移行した
公開買付け前の所有割合 57.73% 2025年5月8日現在。NTTは対象会社株式809,677,800株を所有していた
対象会社の発行済株式総数 1,402,500,000株 2025年3月31日現在。自己株式11,232株を控除した株式数が所有割合の分母
取引の法的形式 公開買付けと株式併合 全株を取得できない場合は株式売渡請求または株式併合を実施する方針
買付け等の期間 2025年5月9日〜6月19日 30営業日
買付け等の価格 普通株式1株につき4,000円 公表前営業日2025年5月7日の終値2,991.5円に33.71%のプレミアム
買付予定数 592,810,968株 上限は設定していない。下限以上の応募があれば全部を買い付ける
買付予定数の下限 125,314,700株 所有割合8.94%。下限に満たない場合は全部の買付けを行わない
買付代金 2,371,243,872,000円 買付予定数592,810,968株に1株4,000円を乗じた金額
決済の開始日 2025年6月26日
取引資金の借入枠 2兆3,800億円 2025年5月8日の取締役会で金融機関からの借入れを決定した
公開買付けの成立 2025年6月19日 応募株券等の総数が買付予定数の下限125,314,700株以上となった
応募株券等の総数 336,797,773株 買付予定数592,810,968株には届かず、全株は取得できなかった
公開買付け後の所有割合 81.75% 買付け前の57.73%から24.02ポイント上昇した
株式併合の承認 2025年8月29日 対象会社の臨時株主総会。256,029,428株を1株に併合する議案
上場廃止日 2025年9月26日 整理銘柄への指定を経て上場廃止となった
完全子会社化の日 2025年9月30日 統合報告書2025による。1995年の上場から30年で親子上場が解消された
取締役の派遣 11名のうち2名 2025年5月8日現在の対象会社の取締役。従業員5名がNTT側へ出向していた
NTT連結の非支配持分 1,123,052百万円 2025年3月末。うち対象会社の少数株主に帰属する額は開示されていない
2026年3月期の連結財務諸表への影響 精査中 第40期【後発事象】は影響を精査中とし、金額の記載はない
出所:株式会社NTTデータグループ 有価証券報告書 第37期(2025年3月期)【連結財務諸表注記37 後発事象】 / 日本電信電話株式会社 有価証券報告書 第40期(2025年3月期)【連結財務諸表注記5.5 後発事象】【沿革】 / NTT Group 統合報告書2025 / 日本電信電話 適時開示(2025年5月8日・6月20日)・NTTデータグループ 適時開示(2025年8月29日)
出所:株式会社NTTデータグループ 有価証券報告書 第37期(2025年3月期)【連結財務諸表注記37 後発事象】 / 日本電信電話株式会社 有価証券報告書 第40期(2025年3月期)【連結財務諸表注記5.5 後発事象】【沿革】 / NTT Group 統合報告書2025 / 日本電信電話 適時開示(2025年5月8日・6月20日)・NTTデータグループ 適時開示(2025年8月29日)
当時の取締役 10名

当時の取締役(2024年6月株主総会決議)

参考文献

参考文献

参考

次に読む決断

免責事項およびポリシー