マンション大手・大京のTOBによる完全子会社化

再生案件の「純投資」として抱えた不動産大手を、井上亮社長はなぜ取り込む側へ転じたか

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時期 2018年10月
意思決定者 井上亮・取締役会 社長兼グループCEO
論点 不動産事業の一体運営と純投資からの転換
概要
2018年10月26日、オリックスが議決権の7割弱を握る上場子会社のマンション大手・大京に対し、完全子会社化を目的とするTOB(株式公開買付け)の実施を発表した経営判断。買付価格は前日終値に3割弱を上乗せした1株2970円、総投資額は約770億円で、同年12月にTOBが成立、大京は2019年1月に上場廃止となった。
背景
オリックスは2005年、産業再生機構の支援下にあった大京の再建スポンサーとなり持分法適用会社化、2014年に優先株を普通株へ転換して連結子会社とした。ただ大京は再生案件に対する「純投資」であり、売却による出口が取りざたされ続けていた。
内容
オフィスや商業施設、施設運営、REITを手がけるオリックスと、マンションの開発・管理・流通を担う大京とは事業の重複が少なく相互補完できる。両社が上場したままでは投資基準の相違で意思決定に時間を要し案件を逃すこともあったため、完全子会社化で一体運営に踏み込んだ。
含意
出口を探る「純投資」の対象を、あえて取り込む側へ転じた判断であった。不動産市況を過熱ぎみとみて簿価を圧縮しつつ迅速な意思決定体制を築き、来るべき市況変動に備える構えで、総合不動産グループの確立を狙うものであった。
筆者の見解

純投資と取り込みのあいだで

この判断の核心は、企業再生の「純投資」として抱えた資産を、出口で売り抜くのではなく、事業として自らのなかへ組み込んだ点にある。オリックスは2005年の支援開始以来、大京を5年で回収する対象と位置づけ、合体は否定していた。それから13年、大京は開発偏重の会社から管理・流通で稼ぐ会社へと姿を変え、オリックス自身の不動産事業も施設運営やアセットマネジメントへ広がった。両者の距離が縮まったところで、上場子会社という中途半端な形を解き、意思決定の速さを取りにいった選択であったとみることができる。純投資として始まった関係が、時間をかけて事業上の必然へ変わっていった過程がここに表れている。

ただし、取り込みが関係の終わりを意味するとは限らない。不動産の簿価を圧縮し、市況の過熱を警戒しながらの完全子会社化には、資産を膨らませすぎない身のこなしがうかがえる。純投資として出口を探り続けた会社が、今度は事業の中核として抱え込む——その二つの構えは、オリックスの資産を回転させる経営のなかでは背反しないのかもしれない。総合不動産グループの一体運営が住宅市場の縮小や市況の変動をどこまで吸収できるかは、取り込んだ後の運営に委ねられているとみられる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

再生案件として抱えた大京

オリックスと大京の関わりは、経営破綻に瀕した相手を救う側から始まった。2005年、保有不動産に多額の含み損を抱えて産業再生機構の支援下にあった大京の再建スポンサーとして、オリックスが約230億円(約44%)の第三者割当増資を引き受け、大京はオリックスの持分法適用会社となった。額面200億円の優先株の譲り受けや、マンション用地の仕入資金200億円の融資枠設定も伴う、当時のオリックスにとって過去最大規模の企業再生案件であった[1]

もっとも、当時の藤木保彦オリックス社長はこの出資を「5年をメドに回収したい」と語り、「マンション事業強化を目的とする出資ではなく、合体するつもりはまったくない」と述べていた。要するに純投資であった。その後オリックスは優先株の引き受けを重ね、2014年には優先株を普通株へ転換して大京を連結子会社とする。それでも、再生案件に対する純投資という位置づけは変わらず、売却による出口戦略がつねに取りざたされていた[2][3]

変質した大京と、広がったオリックスの不動産

傘下に入って以降の大京は、事業の姿を変えていた。「ライオンズマンション」を武器にマンション発売戸数で2006年まで29年連続首位を記録した同社は、市況に左右される開発事業に偏った収益構造を抱えていた。それが完全子会社化の時点では、開発案件を厳選する一方、マンション累計供給・管理受託戸数首位という顧客基盤を強みに、管理や流通で安定的に稼ぐ体質へと転じていた。2013年には穴吹工務店を完全子会社化し、修繕・リノベーションなど建築部門も強化していた[4]

オリックス側でも、この間に不動産事業の裾野が広がっていた。オフィスビルや商業施設、物流施設の投資・開発に加え、ホテルや旅館、水族館などの施設運営、不動産投資信託(REIT)のアセットマネジメントを確立し、安定的に稼げる手数料ビジネスを積み上げていた。マンションの開発・管理・流通を担う大京と、オフィス・施設運営・金融を担うオリックスとは事業の重複がほとんどなく、相互に補完できる関係にあった。取り込みの下地はこの間に整っていたとみることができる[5]

決断

770億円のTOB

2018年10月26日、オリックスは、議決権の7割弱を保有する上場子会社の大京に対し、完全子会社化を目的とするTOBの実施を発表した。買付価格は発表前日の終値に3割弱を上乗せした1株2970円、総投資額は約770億円で、買付期間は12月10日までを予定した。2005年の再建支援から数えて13年、優先株の普通株転換による連結子会社化からは4年を経て、残る少数株主の持ち分を買い取り、大京を100%子会社とする段階に踏み込んだ判断であった[6]

すでに議決権の7割弱を握っていたオリックスにとって、TOBの主眼は残る少数株主の持ち分を買い集め、上場という枠を解くことにあった。1株2970円という価格は前日終値をおよそ3割弱上回り、総額約770億円はその少数株主分の取得に充てられる規模であった。再生支援の過程で段階的に高めてきた持ち分を、最後に一括で取り切る手続きであったとみることができる[7]

一体運営への転換

完全子会社化のねらいは、意思決定の速さにあった。両社が別々に上場している間は、同じ案件でもそれぞれの投資基準に照らす必要から判断に時間がかかり、物件の売り主から情報共有の許可を得られず案件を逃すこともあった。一体運営になれば土地・物件の仕入れ情報を共有でき、オフィス・商業施設・住居を組み合わせた大規模複合開発への対応力を高められる。会見したオリックスの矢野人磨呂取締役財経本部長は、「あらゆる開発に対応できる総合不動産グループを確立する」と述べた[8]

決断のもう一つの動機は、市況への警戒であった。オリックスの不動産事業は全社利益の約2割を稼いでいたが、当時の市況は過熱ぎみとみられていた。リーマンショック前には債権を含め2兆円弱あった不動産の簿価は、資産売却を進めた結果、大京と合わせても足元で8000億円まで縮小していた。身軽になった資産構成のうえで大京を取り込み、迅速な意思決定体制を築くことで、来るべき市況変動に備える構えであった。出口を探ってきた対象を、事業として取り込む側へ転じた判断であったとみられる[9]

結果

TOB成立と上場廃止

TOBは予定どおり成立した。オリックスは2018年12月11日に買付けを終え、優先株の普通株転換を含めた議決権ベースの保有比率は約94%に達した。応募しなかった少数株主の株式を強制的に買い取る手続きを経て、大京は2019年1月に上場廃止となり、オリックスの完全子会社となった。1995年の資本・業務提携から数えれば24年、2005年の再建支援からは14年を経て、いったんは出口が語られ続けた相手を、グループの内側へ完全に取り込む形で決着した[10][11]

完全子会社化の先に描かれたのは、管理・流通の事業をマンションや住宅の枠を超えて広げ、大京単独では難しかった海外展開や大規模M&Aを取り込む成長であった。人口減少で住宅市場の見通しが厳しいなか、迅速な意思決定体制のもとで中長期の持続的な成長を狙う方針が示された。2020年に開業する金沢駅前の複合施設のように、オリックスがホテルと商業施設を、大京がマンションを受け持つ大規模複合開発を、上場子会社という制約なしに進められる体制がここで整った[12]

出典・参考