カカクコム LINEヤフーとの買収争奪戦 非公開化の是非をめぐる対抗提案の応酬と、買い手の選択

更新:

時期 2026年5月
当時の社長 村上敦浩
論点 非公開化と支配権の帰属
何をなぜ決めたか
概要

2026年、価格.com・食べログを運営するカカクコムの非公開化をめぐり、スウェーデンの投資ファンドEQTと筆頭株主デジタルガレージの連合が1株3,000円・買付代金365,717百万円で開始したTOBに、LINEヤフーと米ベインキャピタルの連合が対抗提案をぶつけた買収争奪戦。取締役会は当初EQT案に賛同したが、7月に株主への応募推奨を撤回して中立へ転じた。EQTは価格を3,571円まで引き上げ、買付期間は9月10日に満了する。

背景

2018年以降、デジタルガレージ(DG)が約20%の筆頭株主、KDDIが約17%の第2位株主として、過半を持つ支配株主が不在のまま安定株主を成していた。2026年4月にEQTの買収検討が報じられて株価は前日比24%高へ急騰し、EQTはDGと組んで非公開化するTOBを1株3,000円で開始。DGとKDDIは合わせて約38%を応募しない契約を締結した。

内容

この賛同TOBに、LINEヤフー(LY Corporation)とベインが対抗した。5月に1株3,232円を提示したのち、7月1日に法的拘束力を有する買収提案書を提出し、価格を1株3,384円、KDDIと不応募契約を結べた場合は3,500円とした。7月29日にはこれを3,520円へ、KDDIとの契約を前提とする名目価格を3,640円へ改めた。香港のアクティビスト、オアシス・マネジメントもLINEヤフー側に傾いたが、その応募契約は8月20日に終了した。

含意

取締役会はEQTへの応募推奨を撤回して中立へ移り、EQTに価格の引き上げを求めた。EQTは7月17日に3,450円、8月13日に3,570円、8月27日に3,571円と三度引き上げ、対抗側は3,520円で据え置くと8月19日に通知した。一方、筆頭株主DGはLINEヤフー案を拒否してEQTに残っている。株主価値の最大化と、事業の担い手をだれに委ねるかという支配権の帰属が、一つの公開買付けのなかでぶつかり合っている。

いつ何が起きたか 6件
筆者の見解
筆者の見解

最高値か、筆頭株主の意向か

この争奪戦の核心は、過半を持つ支配株主が不在の独立企業に対して、より高い価格を示す買い手と、筆頭株主が支える買い手が正面からぶつかった点にある。上場企業の非公開化では、取締役会と特別委員会は株主共同の利益、とりわけ少数株主にとっての価格の妥当性を第一に問われる。より高い対抗提案が現れた以上、当初案への応募推奨を維持することは難しく、カカクコムの取締役会が中立へ転じたのは、その論理の帰結であった。一方で、約38%を握るデジタルガレージとKDDIが不応募でEQTに与しているかぎり、価格の高さだけでは決着しない構造も同時に存在する。EQTが三度の引き上げで3,571円に達し、対抗案の3,520円を上回ったのは、その構造のもとでなお価格の競争が働いた結果だと推察される。

支配株主のいない企業に降ってきた複数の買収提案は、株主価値の最大化と、事業の担い手をだれに委ねるかという支配権の帰属を、同じ土俵で争わせる。価格を競争的に押し上げるのは少数株主にとって望ましい一方、最も高い値をつけた買い手が最良の担い手であるとはかぎらない。EQTと組んだデジタルガレージが事業の連続性を重んじるのか、LINEヤフーが描く検索・広告・コマースの統合が企業価値をより高めるのか——本稿の時点で答えは出ていない。独立を保ってきた情報プラットフォームの帰属をめぐるこの争いは、支配株主なき上場企業が買収の対象となったとき、価格と担い手のいずれをどう重んじるかという問いを、生きた形で突きつけている。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

業績の推移
公開買付けと対抗提案の条件

公開買付けと対抗提案の条件

科目 概要 備考
対象会社 ㈱カカクコム 価格.com・食べログ・求人ボックス・インキュベーションの4事業
公開買付者 Kamgras 1株式会社 EQTのBPEA Fund IXが間接に全持分を保有。2026年4月6日設立、資本金25,000円
取得の法的形式 現金を対価とする公開買付け 成立後は株式併合によるスクイーズアウトと自己株式取得を経て非公開化
公開買付価格(EQT) 3,571円 3,000円で開始し、7月17日3,450円、8月13日3,570円、8月27日3,571円
対抗提案の価格(LINEヤフー・ベイン) 3,384円 7月1日付の法的拘束力ある提案。KDDIと不応募契約を結べた場合は3,500円
対抗提案の更新後の価格 3,520円 7月29日付。KDDIとの不応募契約締結を前提とする名目価格は3,640円
対抗提案に至る経過 3,000円→3,232円→3,384円 5月7日・5月13日・7月1日の各提案。5月13日までは法的拘束力を持たない
新株予約権の買付価格 1個につき1円 第8回から第20回までの11種類。いずれも同額
公開買付期間 2026年5月13日から9月10日まで 当初は7月2日までの37営業日。価格変更と延長を重ね85営業日となった
買付予定数の下限 34,941,000株 所有割合17.51%。不応募株等と併せ議決権の3分の2に達する数
買付予定数の上限 設定なし 全株式の取得と非公開化が目的。下限に満たなければ全部の買付けを行わない
買付代金 365,717百万円 開始時。買付予定数121,905,767株に当初価格3,000円を乗じた額
買収資金 2,250億円を上限とする融資 三井住友銀行・みずほ銀行・野村キャピタル・インベストメントほか3行
不応募契約 75,933,700株(38.05%) デジタルガレージ40,917,700株20.50%、KDDI35,016,000株17.55%
自己株式取得価格 2,903円 不応募株の取得価格。税引後手取りが公開買付けと同等になる金額
非公開化後のデジタルガレージの持分 約20% 自己株式取得で得た金銭の一部を公開買付者の親会社へ再出資する
対象会社の意見 賛同。応募は株主の判断に委ねる 5月12日は賛同・応募推奨。7月1日に応募推奨を撤回し中立の立場をとった
株式価値算定(SMBC日興証券) DCF法 2,013円〜3,378円 会社の第三者算定機関。市場株価法2,045〜2,422円、類似会社法2,069〜2,995円
株式価値算定(山田コンサル) DCF法 2,344円〜3,303円 特別委員会の算定機関。市場株価法2,045〜2,773.5円、類似会社法1,946〜2,320円
報道前の株価に対するプレミアム 68.32% 3,570円と4月22日終値2,121円。過去3か月平均1,949円に対しては83.17%
スクイーズアウトの予定 2026年11月下旬 株式併合。自己株式取得と再出資は12月中旬以降を予定

出所:Kamgras 1株式会社 公開買付届出書(2026年5月13日)及びその訂正届出書(2026年8月27日まで) / カカクコム 意見表明報告書(2026年5月13日)及びその訂正報告書(2026年8月31日まで) / カカクコム 有価証券報告書 第29期(2026年3月期)【後発事象】

買付価格と対抗提案の推移

カカクコム:買付価格と対抗提案の推移

(円) EQT・Kamgras1の公開買付価格LINEヤフー・ベインの提案価格 備考
2026年5月7日 −3,000 法的拘束力を有しない初期的な提案。同日EQTは3,000円での実施を協議していた
2026年5月13日 3,0003,232 公開買付けを開始。対抗側は自己株式取得を併用する提案へ改訂した
2026年6月3日 3,0003,232 資金証明を添えた更新提案。なお法的拘束力は有しない
2026年7月1日 3,0003,384 対抗提案が法的拘束力を持つ。KDDIと不応募契約を結べた場合は3,500円
2026年7月17日 3,4503,384 EQTが初めて価格を引き上げ、期間を8月3日まで延長した
2026年7月29日 3,4503,520 対抗側が公開買付けの開始予定を公表。名目価格は3,640円
2026年8月13日 3,5703,520 EQTが再び引き上げ。自己株式取得価格も2,902円へ変更した
2026年8月27日 3,5713,520 1円上乗せし期間を9月10日へ延長。対抗側は19日に据え置きを通知

出所:Kamgras 1株式会社 公開買付届出書(2026年5月13日)及びその訂正届出書(2026年7月17日・8月13日・8月27日) / カカクコム 意見表明報告書(2026年5月13日)及びその訂正報告書(2026年7月3日・7月21日・8月31日)

所有者別状況の推移

カカクコム:所有者別状況の推移

(%) その他の法人外国法人等(法人)金融機関個人その他 備考
2021年3月期 37.5640.2217.513.44
2022年3月期 37.8239.3417.833.51
2023年3月期 3836.7917.434.36
2024年3月期 38.5737.3316.484.66
2025年3月期 38.6836.8918.124.17
2026年3月期 38.537.615.714.42 その他の法人はデジタルガレージとKDDIで大半を占める。金融商品取引業者は3.76
公開買付けの直前、2026年3月期末の大株主
  • ㈱デジタルガレージ 21%
  • KDDI㈱ 18%
  • 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 10%
  • ㈱日本カストディ銀行(信託口) 4%
  • UBS AG LONDON A/C IPB SEGREGATED CLIENT ACCOUNT 3%
  • その他 45%

出所:カカクコム 有価証券報告書 第24期〜第29期【所有者別状況】 / カカクコム 有価証券報告書 第29期(2026年3月期)【大株主の状況】(発行済株式総数198,218,300株、うち自己株式382,033株)

業績の推移

カカクコム:業績の推移

(百万円) 売上収益営業利益親会社の所有者に帰属する当期利益 備考
2021年3月期 51,07718,29511,763
2022年3月期 51,72319,14714,294
2023年3月期 60,82023,94716,152
2024年3月期 66,92825,81918,095
2025年3月期 78,43529,29320,032
2026年3月期 94,12727,24318,803 増収ながら減益。求人ボックス事業が1,486の営業損失に転じた
売上収益と営業利益率
売上収益(百万円)営業利益率(%)

出所:カカクコム 有価証券報告書 第24期〜第29期(連結損益計算書、IFRS) / カカクコム 有価証券報告書 第29期(2026年3月期)【セグメント情報】

同じ問いに直面した会社
参考文献
出典・参考
  • カカクコム 適時開示「Kamgras 1株式会社による当社株券等に対する公開買付けに関する賛同の意見表明及び応募推奨のお知らせ」
  • EQT 公式リリース「EQT to launch tender offer to privatize Kakaku.com」
  • Kamgras 1株式会社 公開買付届出書「株式会社カカクコム株券等に対する公開買付け」
  • カカクコム 意見表明報告書「Kamgras 1株式会社による公開買付けに対する意見表明」
  • デジタルガレージ 適時開示「第三者提案に関するお知らせ」
  • カカクコム 訂正意見表明報告書「意見表明報告書の訂正報告書(2026年7月3日)」
  • Kamgras 1株式会社 訂正公開買付届出書「公開買付届出書の訂正届出書(2026年7月17日)」
  • Kamgras 1株式会社 訂正公開買付届出書「公開買付届出書の訂正届出書(2026年7月31日)」
  • Kamgras 1株式会社 訂正公開買付届出書「公開買付届出書の訂正届出書(2026年8月13日)」
  • Kamgras 1株式会社 訂正公開買付届出書「公開買付届出書の訂正届出書(2026年8月27日)」
  • カカクコム 訂正意見表明報告書「意見表明報告書の訂正報告書(2026年8月31日)」
  • カカクコム 有価証券報告書「第29期(2026年3月期)【後発事象】【大株主の状況】【所有者別状況】【セグメント情報】」

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