光通信 シック・HDの完全子会社化 上場子会社を完全子会社化してグループに取り込む資本政策

更新:

時期 2022年1月
当時の社長 重田康光
論点 親子上場の整理とグループ統合
何をなぜ決めたか
概要

2022年1月18日、光通信は完全子会社のHCMAアルファを通じて、議決権の51.85%を持つ東証マザーズ上場のシック・ホールディングスへ公開買付けを行うと決めた。1株730円で買い付け、応募は10,760,299株に達して株券等所有割合は95.42%となり、同社は2022年4月12日に上場廃止となった。

背景

シック・ホールディングスの中核は、子会社インサイトが営む家賃決済代行である。家賃の全額を不動産オーナーへ概算払いする仕組みのため、取扱高の約20%にあたる資金を継続して借り入れる必要があり、2021年9月期末の取扱高255億円に対して借入は51億円に達していた。財務制限条項の付いた借入枠では、取扱件数の拡大に資金調達が追いつかない見通しだった。

内容

上場子会社のままでは、光通信は少数株主に配慮した経営を求められ、提供できる資金額と取引条件を制限せざるを得ない。光通信グループの与信力を使えるようにするため、完全子会社化を選んだ。買付価格730円は公表前営業日の終値505円に44.55%を上乗せした水準で、プルータス・コンサルティングがDCF法で示した570円から893円の範囲に入る。

含意

支配を得ている子会社の追加取得は資本取引となり、のれんは生じない。取得価額3,517百万円と、消滅した非支配持分3,192百万円との差325百万円が、資本剰余金から差し引かれた。同じ形は2025年のザッパラスでも繰り返され、そこでは上場会社としての業務負担と上場維持費用が過大であることが理由に挙げられている。

いつ何が起きたか 8件
筆者の見解
筆者の見解

上場させる会社と、畳む会社

この資本政策の核心は、光通信が会社の持ち方を一律にせず、濃淡で選び分けた点にある。純投資では、外部の優良企業の株を過半に満たない比率で長く持ち、その利益の取り分を得る。一方、営業網や商材と深く組み合わせられる傘下の会社は、上場を外して100%取り込み、グループの一部として磨く。親子上場を整理して完全子会社化する動きは、この後者の極にあたる。集めた会社群を、投資として持つか、事業として統括するかを、光通信は会社ごとに仕分けている。

もっとも、この案件で買われたのは事業そのものではなく、資金を回す経路だったと推察される。家賃決済代行は取扱高が伸びるほど立替資金が要る商売で、上場子会社の立場では親会社から借りられる額にも条件にも上限がついた。上場を外して初めて、光通信の与信を子会社の運転資金に振り向けられる。支配は51.85%の時点で既にあり、残りの48%を730円で取得した意味は、議決権ではなく資金の融通にあった。少数株主にとっては44.55%のプレミアムが付いた出口であり、光通信にとっては子会社の成長制約を外す費用だった。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

業績の推移
完全子会社化の条件

完全子会社化の条件

科目 概要 備考
対象会社 ㈱シック・ホールディングス 東証マザーズ上場。子会社インサイトが家賃決済代行サービスを営む
公開買付者 ㈱HCMAアルファ 光通信が議決権の100%を持つ完全子会社で、グループの中間持株会社
取得の法的形式 現金を対価とする公開買付け 支配を得ている子会社の追加取得のため、企業結合ではなく資本取引となる
公開買付期間 2022年1月19日から3月3日まで 30営業日。公告日は2022年1月19日で、電子公告により行った
公開買付価格 1株につき730円 第2回・第3回新株予約権はいずれも1個につき1円
プレミアム 44.55% 公表前営業日である2022年1月17日の東証マザーズ終値505円に対する
株式価値の算定結果 570円から893円 プルータス・コンサルティングのDCF法。市場株価法は505円から637円
買付予定数 11,276,529株 上限は設定せず、下限は6,266,500株(所有割合55.57%)とした
買付代金 8,119百万円 買付予定数の全部を取得した場合の額。ほかに買付手数料30百万円
公開買付け前の所有割合 51.85% 光通信が5,847,300株を所有する筆頭株主で、その全部を応募した
応募株券等の数 10,760,299株 普通株式10,624,299株と、新株予約権の目的となる株式136,000株
買付け後の株券等所有割合 95.42% 90%を超えたため、会社法第179条の株式等売渡請求が可能となった
決済の開始日 2022年3月10日 公開買付代理人は㈱SBI証券
少数株主の締め出し 株式等売渡請求 対価は公開買付価格と同額の730円。90%未満なら株式併合とする予定だった
上場廃止日 2022年4月12日 東証マザーズ。グロース市場の上場維持基準への適合計画は撤回された
取得価額 3,517百万円 光通信の連結の外にいた株主から取得した分
非支配持分の変動額 3,192百万円 完全子会社化により消滅した非支配持分の帳簿価額
資本剰余金の減少額 325百万円 取得価額との差額。資本取引のため、のれんは計上されない
期末の議決権所有割合 95.5% 2022年3月31日現在。全て間接所有で、個人サービスセグメントに属した
完全子会社化の理由 光通信グループの与信力の活用 家賃決済代行の概算払い資金を、上場子会社のままでは十分に供給できない

出所:HCMAアルファ 公開買付届出書・公開買付報告書(2022年) / 光通信 有価証券報告書 第35期(2022年3月期)【子会社に対する所有持分の変動】【関係会社の状況】

子会社に対する所有持分の変動

光通信:子会社に対する所有持分の変動

(百万円) 資本剰余金非支配持分合計 備考
2017年3月期 △2,568△530△3,098
2018年3月期 4601,2581,718 第32期有価証券報告書の比較情報。第31期の提出時の数値と照合できていない
2019年3月期 △744△2,000△2,744
2020年3月期 2,32215,48617,809 子会社の増資引受け等により、非支配持分が154億円増えた期
2021年3月期 △2,613211△2,402
2022年3月期 △3,342△6,263△9,606 シックの取得で325、NFCホールディングスの取得で3,198の資本剰余金が減った
2023年3月期 △926△2,040△2,966
2024年3月期 △8,2261,393△6,833
2025年3月期 1,291△625666
2026年3月期 874△2,812△1,938

出所:光通信 有価証券報告書 第30期〜第39期(連結持分変動計算書、子会社に対する所有持分の変動)

資本剰余金と非支配持分の残高

光通信:資本剰余金と非支配持分の残高

(百万円) 資本剰余金非支配持分親会社の所有者に帰属する持分 備考
2017年3月期 13,71913,213180,459
2018年3月期 14,02616,252225,299 第32期有価証券報告書の比較情報。第31期の提出時の数値と照合できていない
2019年3月期 4,87316,218257,291
2020年3月期 7,19932,837285,746
2021年3月期 4,88035,586393,444
2022年3月期 1,60930,699467,392 シックとNFCホールディングスの完全子会社化で、非支配持分が49億円減った
2023年3月期 77727,302571,009
2024年3月期 028,771790,478 資本剰余金は「-」表記。利益剰余金への振替により残高がない
2025年3月期 98428,800914,768
2026年3月期 1,71631,9821,185,668
非支配持分の残高
非支配持分(百万円)

出所:光通信 有価証券報告書 第30期〜第39期(連結財政状態計算書)

同じ問いに直面した会社
参考文献
出典・参考
  • HCMAアルファ 公開買付届出書「株式会社シック・ホールディングス株式に対する公開買付け」
  • シック・ホールディングス 意見表明報告書「公開買付けに係る賛同の意見表明及び応募推奨に関するお知らせ」
  • HCMAアルファ 公開買付報告書「株式会社シック・ホールディングス株式に対する公開買付けの結果」
  • HCMAアルファ 大量保有報告書「株式会社シック・ホールディングス株式に係る大量保有報告書」
  • 光通信 有価証券報告書「第35期(2022年3月期)【子会社に対する所有持分の変動】【関係会社の状況】」
  • 光通信 有価証券報告書「第30期〜第39期(連結持分変動計算書、連結財政状態計算書)」
  • ザッパラス 臨時報告書「株式会社光通信を株式交換完全親会社とする株式交換」

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