株主提案への対応
株主総会で会社提案が否決される事態は、戦後の日本で長らく想定されていなかった。取引先と主力銀行が株式の相当部分を互いに保有する持ち合いの下で、その議決権は経営陣の提案への賛成に投じられた。持ち合いの相手にとって、株式は運用資産ではなく取引関係の一部である。値上がりを待って売却するのでも、配当の多寡で乗り換えるのでもない。会社提案に反対すれば、部品の受注も融資の継続も危うくなる。会社は設備資金を主力銀行から借り入れ、部品を系列の取引先から調達し、輸出と原料調達を商社に委ねた。業績を決める条件の多くが系列の内側にあり、株式もその内側で配分されていた。したがって外部の投資家が何を主張しても、票の配分は総会の前から決まっていた。
1989年、小糸製作所はブーン・ピケンズ氏から取締役選任と増配を要求されたが、系列の安定株主が持株を売却せず、要求は通らなかった。筆頭株主であっても取締役を派遣できない。つまり持ち合いは、持株数と会社の支配を切り離す仕組みでもあった。
しかし、票の配分が総会の前に決まっているという前提は二段階で崩れた。第一に持ち合いが解消され、外国人株主が増加した。株式を売買の対象として保有する投資家は、取引の継続を考慮せず、議案の損得だけで賛否を決める。1990年代半ばに、投じた資本でどれだけ利益を上げたかを示す資本効率が経営目標として掲げられ始めたのは、資本の使い方を外部へ約束する必要が生じたからである。誰が株主になるか分からない以上、社内と系列の了解だけでは説明が済まない。第二に2015年のコーポレートガバナンス・コードが、機関投資家に議決権行使の説明を求めた。取引関係を理由に会社提案へ賛成し続ける運用は、それ自体の説明を求められるようになった。こうして安定株主として頼れる相手が減少した。
安定株主を失った会社は、まず買収防衛策で対抗した。2007年のブルドックソースは新株予約権の無償割当でスティール・パートナーズの公開買付けに対抗し、電源開発は英TCIの買い増しを外為法の中止命令で退けた。いずれも株式の取得そのものを阻止する手段である。
2021年、東芝は永山治氏の取締役再任を総会で否決された。会社が推した人事案が票決で覆ったのである。以後、会社の対応は交渉へ移った。オリンパスはバリューアクトを取締役に迎え、住友商事はエリオットの株式取得を受けて株主還元を積み増した。提案を退けた花王とソニーも、退ける理由を自社の計画の数値で示している。提案の可否は、防衛策の設計ではなく資本配分の説明が決めるようになった。
財務諸表のどこを見るか
まず「株式等の状況」の大株主の状況で、上位株主の構成と保有比率が期をまたいでどう入れ替わったかを追う。次に株主総会後の臨時報告書にある議決権行使結果を読む。議案ごとの賛成・反対・棄権の個数が載るため、取締役選任議案の賛成比率の低下が提案の圧力の強さを示す。コーポレート・ガバナンスの状況等では買収防衛策の有無と社外取締役の員数を確かめ、対応の中身は剰余金の配当と自己株式の取得の実績で裏を取る。