シティインデックスイレブンスらの大量保有(2026年・エア・ウォーターの決断)

論点 大株主の増配要求に赤字の期でどう応じるか
エア・ウォーター:業績の推移
売上高(億円)営業利益率(%)
赤字決算での年間75円の配当維持と、自己株式取得・次期配当の保留

何をなぜ決めたか:赤字決算での年間75円の配当維持と、自己株式取得・次期配当の保留

概要

2026年5月18日、シティインデックスイレブンスは野村絢氏・ATRAとの連名で、エア・ウォーター株の5.86%を共同で保有すると報告した。報告義務の発生日は5月11日で、3者の保有は計13,465,100株、うち野村絢氏が5.00%を占める。保有目的には株主価値の向上に向けた資本政策とガバナンスの提案を掲げ、中身として増配と自己株式取得、MBOを含む株式の非公開化を挙げた。株価が割安と判断すれば、3か月以内に5%超を買い増す可能性にも触れている。

会社が先に動かしたのは配当である。6月4日の取締役会で期末配当を予想どおり37円50銭と決め、最終赤字の期でも年間75円を据え置いた。一方、2026年3月期に取締役会決議による自己株式の取得はなく、次期の配当予想は株主還元方針を含めて検討中として未定にした。

背景

株式が取得されたのは、会計不正で会社が揺れていた最中だった。2025年7月、連結子会社で在庫を巡る不適切な会計処理が自主点検で見つかり、9月には複数の子会社と本体の事業部門にも広がった。10月に外部専門家による特別調査委員会を設置すると、エア・ウォーター本体と相当数のグループ会社で複数年度にわたる不適切な会計処理が明らかになった。東京証券取引所は2026年5月1日付でエア・ウォーター株式を特別注意銘柄に指定し、指定期間を原則1年とした。

決算の数字も大きく崩れた。2026年3月期は営業損失371億円、親会社の所有者に帰属する当期損失639億円となり、前期の当期利益399億円から赤字に転じた。1株当たりでは279.01円の損失で、親会社の所有者に帰属する持分は442,215百万円から390,229百万円に減っている。

内容

報告から4日後には、保有はさらに増えた。5月22日の変更報告書では、5月15日時点の共同保有が6.88%、15,809,000株となり、レノとMホールディングスが新たに共同保有者に加わった。野村絢氏の保有は5.42%に上がり、取得資金24,712,107千円はすべて自己資金で、借入金はない。保有目的の記載は最初の報告書と変わらず、増配・自己株式取得と非公開化の提案を掲げたままである。

同じ時期に、別の投資会社も株式を取得した。ケイマン諸島法人のOasis Management Company Ltd.が6月22日に大量保有報告書を提出し、6月15日時点の保有割合を6.05%とした。Oasisは保有目的として、役員の選任、役員構成の重要な変更、事業の全部または一部の譲渡を会社に提案している。2つの保有者を合わせると、発行済株式等の12.93%に達した。

含意

株主の評価は、6月29日の定時株主総会の賛成率に表れた。この総会で取締役会議長の千歳喜弘氏が代表取締役社長執行役員に就任したが、取締役選任の賛成率は87.43%と、前年の99.39%から下がった。社外取締役の芳賀裕子氏も87.68%にとどまった。会社は7月31日、監査等委員会設置会社への移行を決め、9月22日の臨時株主総会に定款変更を諮るとした。

資本の使い方への答えは、まだ出ていない。7月31日の決算説明会の時点で、前年に掲げた累進配当の扱いは社外取締役も交えた議論に委ねられ、適正な配当水準は検討中だった。ネットD/Eレシオは目安の1.0倍を超えて1.1倍になった。9月17日の説明会でも安定配当の方針は維持され、一部事業のカーブアウトで入る資金の配分は財務状況を見て決める方針が示された。配当予想は未定のままである。

いつ何が起きたか 12件
当時の取締役 9名

当時の取締役(2025年6月株主総会決議)

考察:減配せず、増配も約束しない据え置き
考察

考察:減配せず、増配も約束しない据え置き

会社が選んだのは、増配でも減配でもなく、予想どおりの年間75円だった。最終赤字の期なので、減配しても理由は立つ。しかし減配すれば、増配を求めて5.86%を取得した大株主と正面から対立する。一方で増配や自己株式取得は、過年度の訂正と監査が終わらず決算も確定していない段階では約束できない。据え置きは、決算の確定を待たずに決められる唯一の答えだったのだろう。配当の決議に添えた理由も、業績への影響と財務基盤の総合的な勘案である。

もっとも、据え置きは要求への答えではなく、答えの先送りである。75円は1株当たり279.01円の損失を計上した期の配当で、利益からは出ていない。保有目的が求めたのは増配と自己株式取得、そして非公開化であり、配当の水準を保つことではない。会社は自己株式を取得せず、次期の配当予想も未定にした。つまり、資本をどう使うかという本題には、まだ何も示していない。大株主の側から見れば、今の水準を保っただけでは要求に応えたことにならない。

その後の数字は、株主が答えを待っていることを示した。千歳喜弘氏の取締役選任の賛成率は87.43%で、前年より約12ポイント下がった。9月の説明会でも安定配当の方針は変わらず、カーブアウトで入る資金の配分が次の論点になった。決着の条件ははっきりしている。特別注意銘柄の指定が解けるまでに、還元方針と次期の配当予想を示せるかどうかである。そこで要求の水準を下回れば、大株主の提案は議案の形で総会に出てくると思われる。

数字で見る 4表

数字で見る

図と表

エア・ウォーター:1株当たり配当金と当期利益の推移

年間配当金(円)年間配当金率(%)
エア・ウォーター:1株当たり配当金と当期利益の推移
(円) 年間配当金1株当たり当期利益 備考
2021年3月期 44− 過年度訂正の対象期。1株当たり当期利益を訂正後の値で照合できていない
2022年3月期 56184.22 1株当たり当期利益は第26期有価証券報告書の訂正後の値
2023年3月期 6040.83 年間配当60円に記念配当4円を含む
2024年3月期 64160.79
2025年3月期 75174.58 期末配当を43円へ引き上げた期
2026年3月期 75△279.01 最終赤字。中間37円50銭・期末37円50銭で年間75円を据え置いた
出所:エア・ウォーター 有価証券報告書 第26期(2026年3月期)【主要な経営指標等の推移】 / エア・ウォーター 有価証券報告書 第25期(2025年3月期)【主要な経営指標等の推移】
出所:エア・ウォーター 有価証券報告書 第26期(2026年3月期)【主要な経営指標等の推移】 / エア・ウォーター 有価証券報告書 第25期(2025年3月期)【主要な経営指標等の推移】

エア・ウォーター:大量保有者の株券等保有割合

  • 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 12%
  • 日本カストディ銀行(信託口) 4%
  • 三井住友信託銀行 3%
  • 日本製鉄 3%
  • 三井住友銀行 3%
  • その他 76%
エア・ウォーター:大量保有者の株券等保有割合
(%) 株券等保有割合 備考
野村絢 5.42 単独で5%を超える。取得資金は全額が自己資金
株式会社ATRA 1.03
株式会社レノ 0.26 変更報告書で共同保有者に加わった
株式会社Mホールディングス 0.18 変更報告書で共同保有者に加わった
株式会社シティインデックスイレブンス 0 報告書の提出者。保有株式数は100株
5名の合計(2026年5月15日現在) 6.88 15,809,000株。発行済株式等総数229,755,057株に対する割合
オアシス・マネジメント(2026年6月15日現在) 6.05 共同保有者ではない。単独で大量保有報告書を提出した
出所:株式会社シティインデックスイレブンス 変更報告書(2026年5月22日提出)【提出者及び共同保有者に関する総括表】 / Oasis Management Company Ltd. 大量保有報告書(2026年6月22日提出) / エア・ウォーター 有価証券報告書 第26期(2026年3月期)【大株主の状況】【株式の総数等】
出所:株式会社シティインデックスイレブンス 変更報告書(2026年5月22日提出)【提出者及び共同保有者に関する総括表】 / Oasis Management Company Ltd. 大量保有報告書(2026年6月22日提出) / エア・ウォーター 有価証券報告書 第26期(2026年3月期)【大株主の状況】【株式の総数等】

エア・ウォーター:定時株主総会における取締役選任の賛成率

エア・ウォーター:定時株主総会における取締役選任の賛成率
(%) 豊田喜久夫松林良祐千歳喜弘 備考
2022年6月総会(第22期) 92.9496.7699.05 豊田喜久夫は会長兼CEO、松林良祐は副社長COO。千歳喜弘は社外取締役
2023年6月総会(第23期) 88.7393.6497.68
2024年6月総会(第24期) 94.2697.8899.6
2025年6月総会(第25期) 95.6597.3899.39 不適切会計の発見(2025年7月)の直前の総会
2026年6月総会(第26期) −−87.43 豊田・松林の両氏は候補に含まれない。千歳喜弘氏がこの総会で社長に就任
出所:エア・ウォーター 議決権行使結果に関するお知らせ(第22期・第23期・第24期定時株主総会) / エア・ウォーター 臨時報告書(第25期・第26期定時株主総会における議決権行使結果)
出所:エア・ウォーター 議決権行使結果に関するお知らせ(第22期・第23期・第24期定時株主総会) / エア・ウォーター 臨時報告書(第25期・第26期定時株主総会における議決権行使結果)

要求と会社の応答

要求と会社の応答
科目 概要 備考
提案株主 シティインデックスイレブンスほか2名 野村絢氏・株式会社ATRAとの連名。報告義務発生日は2026年5月11日
報告時の保有割合 5.86% 野村絢5.00%・ATRA0.86%・イレブンス0.00%の計13,465,100株
買い増し後の保有割合 6.88% 2026年5月15日現在。レノとMホールディングスが加わり5名で15,809,000株
取得資金 24,712,107千円 野村絢氏の自己資金。借入金はない
要求(資本政策) 増配及び自己株式取得 保有目的欄に「資本政策の変更」として掲げられている
要求(非公開化) 株式の非公開化(MBOを含む) 対話を通じ口頭又は書簡により提案を行う可能性があるとする
別の大量保有者 オアシス・マネジメント 6.05% 2026年6月15日現在。役員の選任・役員構成の変更・事業の譲渡を提案
会社の応答(配当) 年間75円を維持 2026年6月4日の取締役会で期末37円50銭を決議。総額8,596百万円
会社の応答(自己株式取得) 決議なし 第26期に株主総会決議・取締役会決議による自己株式の取得はない
会社の応答(次期配当) 未定 新経営方針と事業ポートフォリオの見直しを踏まえ還元方針を検討中
会社の応答(統治) 監査等委員会設置会社へ移行 2026年7月31日決議。9月22日の臨時株主総会に定款一部変更を付議
出所:株式会社シティインデックスイレブンス 大量保有報告書(2026年5月18日提出)・変更報告書(2026年5月22日提出)【保有目的】/エア・ウォーター 有価証券報告書 第26期(2026年3月期)【配当政策】【自己株式の取得等の状況】
出所:株式会社シティインデックスイレブンス 大量保有報告書(2026年5月18日提出)・変更報告書(2026年5月22日提出)【保有目的】/エア・ウォーター 有価証券報告書 第26期(2026年3月期)【配当政策】【自己株式の取得等の状況】
当時の取締役 9名

当時の取締役(2025年6月株主総会決議)

参考文献

参考文献

参考

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