エフィッシモの公開買付け(2021年・サンケン電気の決断)

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論点 大株主の公開買付けにどう応じるか
サンケン電気:業績の推移
売上高(億円)営業利益率(%)
投資ファンドの支配的株主への台頭と、経営の主導権の移り変わり

何をなぜ決めたか:投資ファンドの支配的株主への台頭と、経営の主導権の移り変わり

概要

2021年2月9日、旧村上ファンド系のエフィッシモ・キャピタル・マネージメントが投資権限を握るファンドが、サンケン電気株の所有割合を9.97%から30.00%へ引き上げるとして公開買付け(TOB)を開始した。買付価格は1株5,205円、買付代金の枠は251億円であった。サンケン電気は2月24日に賛否を示さない"中立"の立場を表明し、TOBは上限に届かないまま成立して、エフィッシモの保有比率は19.16%へ上がった。

背景

エフィッシモは2017年11月からサンケン電気株の取得を続け、純投資を掲げて筆頭株主級の持分を積み上げていた。サンケン電気はパワー半導体を主力としながら、2021年3月期に連結営業損益が赤字へ転じるなど収益が低迷し、エフィッシモは株価が企業価値に比べ割安であることを追加取得の理由に挙げていた。

内容

買付期間は2月9日から3月24日で、買付予定数の上限は4,834,343株、下限は設けなかった。前営業日終値4,525円に15.03%を上乗せした価格で、買付けの目的は経営への関与を伴わない純投資であった。サンケン電気は社外取締役3名と社外監査役2名の協議を経て、賛同することは適切でないとしつつ中立を選び、応募するか否かの判断を株主に委ねた。

含意

会社の賛同を前提としない投資ファンドのTOBが日本で成立した数少ない例となった。TOB後もエフィッシモは買い増しを続け、2025年3月時点で保有比率は28.65%に達し、保有目的にも経営陣への助言と重要提案行為等を掲げた。純投資として始まった持分は、実質的な支配的株主の地位へと形を変えていった。

いつ何が起きたか 5件
当時の取締役 10名

当時の取締役(2020年6月株主総会決議)

考察:中立という選択がのちに問うもの
考察

考察:中立という選択がのちに問うもの

この一件の核心は、会社の賛同を取りつけないTOBが、対象会社の中立という態度に支えられて成立した点にある。買付価格にプレミアムが乗り、買付者が経営関与を否定していた状況で、賛否を明示すれば株主の利益を狭めかねない——サンケン電気が中立を選んだ判断には、そうした慎重さがうかがえる。ただ、中立は防衛でも歓迎でもない以上、大株主の持分がどこまで膨らむかを会社が制御する手立てを、みずから手放す側面もあった。純投資という説明を額面どおり受け取るかどうかを、会社は株主に委ねたことになる。

TOB後の買い増しと保有目的の書き換えは、純投資という建前がいつまで純投資であり続けるのかという問いを残した。約10%で始まった関与が3割近くへ達し、経営への助言や重要提案を視野に入れる段階に至ったとき、会社と大株主の関係は資本の論理だけでは測れない緊張をはらむ。物言う株主のTOBに中立で応じるという選択が、経営の自由度をどこまで保ったのかは、今後のサンケン電気の統治のあり方のなかで、あらためて問われていくのだろう。

Yutaka Sugiura, 2026年7月
数字で見る 4表

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図と表

サンケン電気:エフィッシモの株券保有割合の推移

  • イーシーエム マスターフアンド エスピーブイ ツー 10%
  • 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 6%
  • 日本カストディ銀行(信託口) 5%
  • 埼玉りそな銀行 5%
  • ゴールドマン サックス インターナショナル 4%
  • その他 71%
サンケン電気:エフィッシモの株券保有割合の推移
(%) 株券保有割合 備考
2019年3月期 5.06 2018年12月14日現在で1,269千株。注記に初めて載った
2020年3月期 9.58 2020年2月14日現在で2,405千株
2021年3月期 19.16 2021年3月24日現在で4,809千株。公開買付けの決済で倍増した
2022年3月期 19.16 2022年3月23日現在で4,809千株
2023年3月期 19.16 2023年3月22日現在で4,809千株
2024年3月期 19.16 2024年3月15日現在で4,809千株
2025年3月期 28.65 2025年3月18日現在で7,191千株。保有目的に重要提案行為等を加えた
出所:サンケン電気 有価証券報告書 第102期〜第108期【大株主の状況】(大量保有報告書の変更報告書の内容。実質所有株式数は確認できないとして上位10名からは除かれている) / サンケン電気 有価証券報告書 第104期(2021年3月期)【株式の総数等】(発行済株式総数25,098,060株)
出所:サンケン電気 有価証券報告書 第102期〜第108期【大株主の状況】(大量保有報告書の変更報告書の内容。実質所有株式数は確認できないとして上位10名からは除かれている) / サンケン電気 有価証券報告書 第104期(2021年3月期)【株式の総数等】(発行済株式総数25,098,060株)

サンケン電気:業績と自己資本の推移

売上高(百万円)親会社株主に帰属する当期純利益率(%)
サンケン電気:業績と自己資本の推移
(百万円) 売上高営業利益親会社株主に帰属する当期純利益自己資本 備考
2016年3月期 155,9196,80317153,572
2017年3月期 158,7725,9301,73954,401
2018年3月期 175,20912,026△11,42155,336
2019年3月期 173,65010,5313,96758,280
2020年3月期 160,2174,309△5,55949,843
2021年3月期 156,795△1,198△6,95283,576 公開買付けが行われた期。営業損益と当期損益がそろって赤字となった
2022年3月期 175,66013,7203,20494,974
2023年3月期 225,38726,1569,533111,094
2024年3月期 235,22119,539△8,112119,375
2025年3月期 121,619△3,78850,934147,433 アレグロとポーラーを連結の範囲から除いたため売上高が大きく減った
2026年3月期 80,175△4,728△9,798119,965
出所:サンケン電気 有価証券報告書 第99期〜第109期(連結損益計算書・連結貸借対照表)
出所:サンケン電気 有価証券報告書 第99期〜第109期(連結損益計算書・連結貸借対照表)

サンケン電気:取締役選任議案の候補者別賛成率

サンケン電気:取締役選任議案の候補者別賛成率
(%) 髙橋広川嶋勝巳宇津野瑞木 備考
2024年6月総会(第107回) 71.1396.2696.27 議決権行使結果の臨時報告書はこの回から。社長の髙橋広だけ反対55,243個
2025年6月総会(第108回) 84.1386.1586.98 7名がそろって84〜92%台。監査等委員の森谷由美子は76.96%で最も低い
2026年6月総会(第109回) 78.1293.6593.66 髙橋広だけ反対32,403個。全議案に棄権5,308個が付いた
出所:サンケン電気 臨時報告書(第107回〜第109回定時株主総会における議決権行使結果)
出所:サンケン電気 臨時報告書(第107回〜第109回定時株主総会における議決権行使結果)

公開買付けの条件

公開買付けの条件
科目 概要 備考
公表日 2021年2月8日 買付者が開始を公表した日。会社は同日、意見は決定次第公表するとした
公開買付者 ECM マスター ファンド SPV 2 ケイマン諸島の法人。エフィッシモが投資権限と議決権行使の権限を持つ
買付価格 1株5,205円 前営業日終値4,525円に15.03%、過去6か月の平均3,422円に52.10%を上乗せ
買付期間 2021年2月9日から3月24日 30営業日。対象者の請求による延長の余地はない
買付予定数の上限 4,834,343株 所有割合20.03%。買付け後に買付者グループの所有が30.00%となる株数
買付予定数の下限 設定なし 応募が上限以下なら全部を買い付ける。超えた分はあん分比例による
買付代金 25,162,755,315円 買付予定数に買付価格を乗じた額。決済の開始日は2021年3月29日
会社の意見 中立 2月24日の取締役会で賛成多数により決議。応募の判断は株主に委ねた
検討の体制 社外取締役3名・社外監査役2名 取締役会とは別に協議した。第三者算定機関の算定書は取得していない
応募株券等の数 2,404,057株 上限4,834,343株に届かず、あん分比例は行われなかった
買付け後の議決権所有割合 19.93% サンテラが直接・間接に所有する4,809,057株。買付け前は9.97%
出所:サンケン電気 適時開示「ECM マスター ファンドSPV 2 による当社株式に対する公開買付けの開始に関するお知らせ」(2021年2月8日)・「同 意見表明(中立)のお知らせ」(2021年2月24日)・「同 結果並びに主要株主の異動に関するお知らせ」(2021年3月25日)
当時の取締役 10名

当時の取締役(2020年6月株主総会決議)

参考文献

参考文献

参考

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