サウスイースタンの社長再任反対(2008年・日本興亜損害保険の決断)

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論点大株主の反対のなかで社長を続投させるか
日本興亜損害保険:業績の推移
売上高(億円)経常利益率(%)
米ファンドの反対のなかでの社長続投と、損保ジャパンとの経営統合

何をなぜ決めたか:米ファンドの反対のなかでの社長続投と、損保ジャパンとの経営統合

概要

2008年6月12日、日本興亜損害保険の実質大株主である米国のサウスイースタン・アセット・マネジメントは、6月26日の第64回定時株主総会で兵頭誠社長の再任に反対する理由を自社のウェブサイトで公表した。翌13日、会社は見解を出し、株主還元・コーポレート・ガバナンス・資産運用の3点で改革の実績を示して反論した。同社の保有割合は、2007年3月27日時点で18.28%であった。

2009年3月13日、日本興亜損保は損害保険ジャパンとの経営統合で基本合意した。その13日後の3月26日、サウスイースタンは再び兵頭誠社長の再任に反対票を投じる意向を公表した。兵頭誠社長は続投し、統合は2009年12月30日の臨時株主総会で承認された。

背景

兵頭誠氏は、顧客の信頼回復という経営課題に取り組むため、2007年4月に社長に就任した。就任後の2007年7月には発行済株式の4.1%にあたる3,400万株を377億円で取得し、過去最大の自己株式取得とした。同年11月には会長と社長の在任を最長4年とし、70歳の定年制を設けた。

一方、収益の基盤は縮小していた。連結の正味収入保険料は2006年3月期の7,177億円から2009年3月期の6,638億円へ減少し、連結の純資産額は2007年3月期の7,670億円から2009年3月期の3,454億円へ半分以下になった。単体の正味損害率と正味事業費率の合計は2007年3月期に100%を超え、2009年3月期は101.80%であった。2008年3月期の純資産の低下は、主に株式市場の下落で保有株式の含み益が減少したことによる。

内容

会社はサウスイースタンの反対に対し、施策の積み上げで応じた。2008年6月の総会で独立性の高い社外取締役を2名増やし、取締役10名のうち4名を社外取締役とした。政策保有株式は、2006年3月期末から簿価で1,000億円を削減する計画を進めた。

2009年の反対表明を受けても、会社は損保ジャパンとの統合を最重要の課題に置いた。統合は、サウスイースタンが前年から示してきた提案の一つでもあった。株式移転比率は2009年7月29日に決まり、日本興亜損保の普通株式1株に共同持株会社の普通株式0.9株を割り当てる内容となった。

含意

経営への異議は大株主だけでは終わらなかった。2009年5月14日、個人株主が保険金支払業務をめぐって取締役の責任追及の訴えを監査役に請求した。監査役は社外の弁護士と公認会計士を含む調査委員会で調べ、6月12日に全員一致で訴えを起こさないと決めた。10月には株主6名が、統合議案が否決された場合に兵頭誠社長ら取締役4名の解任を求める株主提案を出し、取締役会は10月30日に反対を決めた。

統合は予定どおり進んだ。個人株主6名による臨時株主総会の開催差し止めの仮処分申立ては、12月25日に東京地方裁判所が却下した。12月30日の臨時株主総会は株式移転計画を承認し、2010年4月1日にNKSJホールディングスが設立されて、日本興亜損保はその完全子会社となった。

いつ何が起きたか12件
考察:反対票では止まらなかった統合
考察

考察:反対票では止まらなかった統合

なぜ日本興亜損保は、大株主の反対を受けても兵頭誠社長の続投を選んだのか。自己株式の取得、社外取締役の増員、社長の在任上限は、いずれも株主が求めやすい施策である。会社はそれを就任から1年ほどで実行しており、社長を替える理由はないと判断したのだろう。2009年に再び反対を受けても、会社は損保ジャパンとの統合を最重要の課題に置いた。統合はサウスイースタン自身が示した提案の一つでもあった。会社は、統合を進めれば大株主とも折り合えると考えていたと推察される。

もっとも、施策の実績と業績の数字は別のものであった。単体の正味損害率と正味事業費率の合計は2007年3月期に100%を超え、保険の引受だけでは損が出る状態が続いた。連結の純資産額も2年で半分以下に減少した。サウスイースタンが問題にしたのは、施策の数ではなく、この数字だったと思われる。統合に賛成しながら社長に反対したことを考えると、同社が問うたのは統合の是非ではなく、誰が統合を率いるかであったとみられる。

決断から18年がたち、結果は分かれている。兵頭誠社長は続投し、統合は2009年12月の臨時株主総会で承認され、2010年4月にNKSJホールディングスが発足した。反対票は経営を止めず、統合を実現した点で経営陣の判断は通った。しかし引受採算は、統合の前に改善していない。2010年3月期の正味損害率は69.42%に上がり、正味事業費率との合計は105.23%に達した。社長の続投と統合は果たしたが、大株主が突いた採算の悪化は単独では解けなかった。部分的な成功である。

Yutaka Sugiura, 2026年7月
数字で見る2表

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図と表

日本興亜損害保険:正味収入保険料と純資産額の推移(連結)

正味収入保険料(百万円)経常利益率(%)

純資産額は2007年3月期から2年で半分以下の3,454億円に減少した

日本興亜損害保険:正味収入保険料と純資産額の推移(連結)
(百万円)正味収入保険料経常利益純資産額備考
2004年3月期732,48649,390598,360
2005年3月期728,42121,634582,408
2006年3月期717,72724,486791,328純資産額は旧基準。翌期から純資産の部の表示基準を適用
2007年3月期712,86228,130767,024
2008年3月期698,68517,742543,198株式市場の下落で保有株式の含み益が減少
2009年3月期663,888△3,043345,4672008年6月と2009年3月に大株主が社長再任反対を公表
2010年3月期645,02130,886434,8572009年12月の臨時株主総会で株式移転計画を承認
出所:日本興亜損害保険 有価証券報告書 第62期(2006年3月期)【主要な経営指標等の推移】 / 日本興亜損害保険 有価証券報告書 第66期(2010年3月期)【主要な経営指標等の推移】
出所:日本興亜損害保険 有価証券報告書 第62期(2006年3月期)【主要な経営指標等の推移】 / 日本興亜損害保険 有価証券報告書 第66期(2010年3月期)【主要な経営指標等の推移】

日本興亜損害保険:正味損害率と正味事業費率の推移(単体)

正味損害率(%)正味事業費率(%)

損害率と事業費率の合計は2010年3月期に105.23%まで上がった

日本興亜損害保険:正味損害率と正味事業費率の推移(単体)
(%)正味損害率正味事業費率備考
2004年3月期53.4435.46
2005年3月期64.5234.36
2006年3月期62.6835.73
2007年3月期65.4735.46合計100.93%。この期から100%を超えた
2008年3月期65.4234.91
2009年3月期66.7435.06合計101.80%
2010年3月期69.4235.81合計105.23%
出所:日本興亜損害保険 有価証券報告書 第62期(2006年3月期)【主要な経営指標等の推移】 / 日本興亜損害保険 有価証券報告書 第66期(2010年3月期)【主要な経営指標等の推移】
出所:日本興亜損害保険 有価証券報告書 第62期(2006年3月期)【主要な経営指標等の推移】 / 日本興亜損害保険 有価証券報告書 第66期(2010年3月期)【主要な経営指標等の推移】
参考文献

参考文献

参考
  • 日本興亜損害保険 有価証券報告書 第66期(2010年3月期)【経営上の重要な契約等】
  • 日本興亜損害保険 有価証券報告書 第66期(2010年3月期)【主要な経営指標等の推移】
  • 日本興亜損害保険 有価証券報告書 第66期(2010年3月期)【沿革】
  • 日本興亜損害保険 株主向けのお知らせ「大株主の社長再任反対表明に対する弊社見解」
  • 損害保険ジャパン・日本興亜損害保険 ニュースリリース「株式会社損害保険ジャパンと日本興亜損害保険株式会社の共同持株会社設立による経営統合に関する合意について」
  • 日本興亜損害保険 ニュースリリース「社長再任反対表明に対する弊社見解」
  • 日本興亜損害保険 ニュースリリース「株主からの取締役責任追及の訴えに関する不提訴理由通知書の送付について」
  • 損害保険ジャパン・日本興亜損害保険 ニュースリリース「「経営統合に向けての契約書」の締結について」
  • 日本興亜損害保険 ニュースリリース「株主提案に対する当社の考え方について」
  • 日本興亜損害保険 株主向けのお知らせ「当社臨時株主総会の開催差し止めを求める仮処分命令申立の却下のお知らせ」
  • 日本興亜損害保険 有価証券報告書「第62期(2006年3月期)【主要な経営指標等の推移】」
  • 日本興亜損害保険 有価証券報告書「第64期(2008年3月期)【大株主の状況】」
  • 日本興亜損害保険 有価証券報告書「第65期(2009年3月期)【主要な経営指標等の推移】」
  • 日本興亜損害保険 有価証券報告書「第66期(2010年3月期)【沿革】【大株主の状況】【経営上の重要な契約等】【主要な経営指標等の推移】」

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