HOYAとの合併断念(2007年・ペンタックスの決断)

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論点株主が不満な合併比率で統合を進めるか
ペンタックス:業績の推移
売上高(億円)経常利益率(%)
合併の断念と代表取締役の交代、のちに1株770円のTOBへの賛同

何をなぜ決めたか:合併の断念と代表取締役の交代、のちに1株770円のTOBへの賛同

概要

2007年4月10日、ペンタックスは臨時取締役会で、前年12月にHOYAと基本合意していた合併を断念すると決めた。同じ取締役会で代表取締役を交代し、浦野文男氏は取締役となり、取締役上級執行役員でコンポーネント事業本部長の綿貫宜司氏が代表取締役社長執行役員に就任した。取締役専務執行役員の森勝雄氏も、役付きを外れて取締役となった。

断念したのは合併という方式で、HOYAとの統合の協議は基本合意に基づいて続けると同時に決議した。5月31日には、HOYAが全株式を1株770円で公開買付けし、その後に完全子会社化する合意書を結んだ。TOBは成立し、ペンタックスは2007年8月14日にHOYAの連結子会社となり、2008年3月31日に吸収合併された。

背景

統合の芯は医療であった。基本合意は、HOYAの情報エレクトロニクスとアイケアの安定した収益を投じ、内視鏡を含むライフケア分野を伸ばす構想を掲げた。存続会社はHOYAで、ペンタックス株1株にHOYA株0.158株を割り当て、2007年10月1日に合併する予定であった。両社の規模の差は大きく、2006年3月期の連結営業利益はHOYAの101,095百万円に対し、ペンタックスは2,985百万円にとどまった。

ところが、基本合意の前後からペンタックスの業績は上向いた。2006年7月に「K100D」、11月に「K10D」を発売し、デジタル一眼レフの販売台数は前年度の約2.5倍の30万台に伸びた。イメージングシステム事業は営業損失11億99百万円から営業利益31億3百万円へ転じ、2007年3月期の連結営業利益は56億53百万円と前年度から89.4%増加した。

内容

合併を止めたのは、比率への不満と契約の制約による。基本合意の後の両社の株価の推移を受け、ペンタックスの一部の株主が合併比率0.158株に満足できない意向を示した。第三者と結んでいた契約の状況も重なり、10月1日の合併は難しくなった。大量保有報告書では、スパークス・アセット・マネジメント投信が23.98%、フィデリティ投信が12.61%を保有していた。

HOYAは4月7日、全株式を1株770円で買い付けるTOBを提案していた。ペンタックスは、合併なら株主が新会社の株式を受け取って成長の果実を得られるが、TOBは現金と引き換えに株主の立場を退くことになり、意味合いはまったく異なると位置づけた。そのうえで、基本合意の違約金が他の選択肢の検討を厳しく制限しているとして、その緩和をHOYAに求めた。

含意

単独での存続も探った。4月25日、スパークス・グループの関連ファンド(持株比率11.41%)が浦野文男氏と森勝雄氏の取締役再任などを求める株主提案を出すと、会社は両氏が『ともすれば独断専行ともいうべき強引な手法により当社取締役会を運営し』と非難し、再任に反対した。5月11日には中核3事業へ経営資源を集中する中期経営計画を発表し、2010年3月期に売上高1,910億円、必達の営業利益率5.8%を掲げた。

しかし単独路線は3週間で終わった。5月31日にHOYAとの合意書を結び、同じ日に綿貫宜司社長の退任と谷島信彰氏の社長就任を決めた。前日には同ファンドが、谷島信彰氏らを取締役候補とし現取締役を候補から外すことを条件に、株主提案を取り下げると通知していた。770円は、基本合意の前日の株価642円に約19.94%を上乗せした価格で、合併比率から換算した709.42円を上回った。

いつ何が起きたか12件
考察:比率を拒み、770円を得た
考察

考察:比率を拒み、770円を得た

なぜ取締役会は、合意済みの合併を止めたのか。基本合意から4か月で、ペンタックスの稼ぐ力は変わっていた。デジタル一眼レフの販売台数は約2.5倍の30万台になり、連結営業利益は56億53百万円まで戻った。業績が戻った会社にとって、1株に0.158株という比率は低い評価に映ったと思われる。合併には株主総会の承認が要る。一部の大株主が比率に不満を示した以上、比率を据え置いたまま契約に署名すれば、総会で承認を得られない恐れもあった。

もっとも、合併の断念は独立を守る手立てにはならなかった。2006年3月期の営業利益で比べると、HOYAの101,095百万円はペンタックスの売上高142,211百万円の7割を超える。株主名簿にはスパークス系とフィデリティが大口で並び、株主の関心は単独での成長より、株式の売却価格に向いていたのだろう。中核3事業への集中を掲げた中期経営計画も、必達の営業利益率は5.8%にとどまり、統合に代わる答えとしては弱かった。

結果は部分的な成功である。株主にとっては、合併比率で換算した709.42円に対し、現金で770円を受け取れた。一方で、単独での存続は2か月ともたずに終わり、HOYAの中でもカメラは重荷になった。ペンタックス部門は2009年3月期に営業損失11,571百万円を計上し、のれん20,858百万円を減損した。2011年10月にはカメラ事業がリコーへ譲渡されている。断念が得たのは株主の手取りの上積みであり、事業の行き先を変える力ではなかった。

Yutaka Sugiura, 2026年7月
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図と表

ペンタックス:ペンタックスの事業の売上高と営業損益

ペンタックス連結 売上高(百万円)HOYAペンタックス部門 売上高(百万円)

2009年3月期のHOYAペンタックス部門は営業損失11,571百万円

ペンタックス:ペンタックスの事業の売上高と営業損益
(百万円)ペンタックス連結 売上高ペンタックス連結 営業利益HOYAペンタックス部門 売上高HOYAペンタックス部門 営業利益備考
2003年3月期108,189−−−営業利益は手元の開示で照合できていない
2004年3月期134,4936,937−−
2005年3月期133,5583,586−−
2006年3月期142,2112,985−−2006年12月にHOYAと合併の基本合意
2007年3月期157,3445,653−−デジタル一眼レフの販売台数が約2.5倍の30万台
2008年3月期−−89,031△1344月に合併を断念。HOYAの連結は10月から。売上高は6か月分
2009年3月期−−122,190△11,571部門の減損損失29,546。うちのれん20,858
2010年3月期−−106,1502,768
出所:ペンタックス 有価証券報告書 第77期(2007年3月期)【主要な経営指標等の推移】【業績等の概要】 / HOYA・ペンタックス ニュースリリース(2006年12月21日)「HOYAとペンタックスの経営統合に向けた基本合意について」 / HOYA 有価証券報告書 第70〜72期【事業の種類別セグメント情報】
出所:ペンタックス 有価証券報告書 第77期(2007年3月期)【主要な経営指標等の推移】【業績等の概要】 / HOYA・ペンタックス ニュースリリース(2006年12月21日)「HOYAとペンタックスの経営統合に向けた基本合意について」 / HOYA 有価証券報告書 第70〜72期【事業の種類別セグメント情報】
参考文献

参考文献

参考
  • ペンタックス ニュースリリース(2007年4月24日)「HOYA株式会社との間の公開買付けに関する協議について」
  • ペンタックス ニュースリリース(2007年4月10日)「代表取締役並びに役員の異動について」
  • ペンタックス 有価証券報告書 第77期(2007年3月期)【重要な後発事象】
  • HOYA 有価証券報告書 第70期(2008年3月期)【事業の内容】
  • HOYA・ペンタックス ニュースリリース(2006年12月21日)「HOYAとペンタックスの経営統合に向けた基本合意について」
  • ペンタックス 有価証券報告書 第77期(2007年3月期)【業績等の概要】
  • ペンタックス ニュースリリース(2007年7月2日)「当社株式に対する公開買付けに関する賛同のお知らせ」
  • ペンタックス ニュースリリース(2007年4月27日)「当社定時株主総会における株主提案に対する当社の考え方について」
  • ペンタックス ニュースリリース(2007年5月11日)「ペンタックス中期経営計画について」
  • ペンタックス ニュースリリース(2007年5月31日)「代表取締役、取締役、監査役の異動に関するお知らせ」
  • ペンタックス ニュースリリース(2007年5月30日)「当社に対する株主提案取り下げの通知について」
  • ペンタックス 有価証券報告書 第76期(2006年3月期)【研究開発活動】
  • HOYA・ペンタックス ニュースリリース(2007年5月31日)「経営統合に関する合意書締結についてのお知らせ」
  • HOYA 有価証券報告書 第70期(2008年3月期)【沿革】
  • HOYA 有価証券報告書 第71期(2009年3月期)【業績等の概要】
  • ペンタックス 有価証券報告書 第77期(2007年3月期)【主要な経営指標等の推移】【業績等の概要】
  • HOYA 有価証券報告書 第70〜72期【事業の種類別セグメント情報】
  • HOYA・ペンタックス 適時開示「HOYAとペンタックスの経営統合に向けた基本合意について」
  • ペンタックス 適時開示「代表取締役並びに役員の異動について」
  • ペンタックス 適時開示「HOYA株式会社との間の公開買付けに関する協議について」
  • ペンタックス 適時開示「当社定時株主総会における株主提案に対する当社の考え方について」
  • ペンタックス 中期経営計画「ペンタックス中期経営計画について」
  • ペンタックス 適時開示「当社に対する株主提案取り下げの通知について」
  • HOYA・ペンタックス 適時開示「経営統合に関する合意書締結についてのお知らせ」
  • ペンタックス 適時開示「代表取締役、取締役、監査役の異動に関するお知らせ」
  • ペンタックス 適時開示「当社株式に対する公開買付けに関する賛同のお知らせ」
  • ペンタックス 有価証券報告書「第77期(2007年3月期)【業績等の概要】【重要な後発事象】」
  • HOYA 有価証券報告書「第70期(2008年3月期)【企業結合等関係】」
  • HOYA 有価証券報告書「第71〜72期【事業の種類別セグメント情報】【連結損益計算書関係】」
  • HOYA 有価証券報告書「第74期(2012年3月期)【経営上の重要な契約等】」

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