KDDI株売却と計画撤回(2025年・京セラの決断)

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京セラ:業績の推移
売上高(億円)営業利益率(%)
中期経営計画の取り下げと、非中核事業の整理2025年2月3日、京セラは第3四半期の決算説明会で、2025年3月期から2027年3月期前半までを構造改革の期間と定め、事業の選択と集中と資本戦略の見直しを中核とする企業変革を公表した。2026年3月期に売上高2兆5,000億円・ROE7.0%以上を掲げた中期経営計画は、部品事業の低迷を主因に遅れが生じていた。2025年3月期の営業利益は前期比70.6%減の272億円、ROEは0.7%まで低下し、京セラは経営目標の見直しを含む経営改革の必要性を認めた。

何をなぜ決めたか:中期経営計画の取り下げと、非中核事業の整理

概要

2025年2月3日、京セラは第3四半期の決算説明会で、2025年3月期から2027年3月期前半までを構造改革の期間と定め、事業の選択と集中と資本戦略の見直しを中核とする企業変革を公表した。2026年3月期に売上高2兆5,000億円・ROE7.0%以上を掲げた中期経営計画は、部品事業の低迷を主因に遅れが生じていた。2025年3月期の営業利益は前期比70.6%減の272億円、ROEは0.7%まで低下し、京セラは経営目標の見直しを含む経営改革の必要性を認めた。

資本戦略の中心はKDDI株式の売却である。2024年10月に5年間で保有株数の3分の1程度とした売却の期間を、2年間へ短縮した。あわせて2026年3月期から4年間、計画的に自己株式を取得する方針を定め、取締役の任期を2年から1年に短縮する定款変更を第71期定時株主総会に諮るとした。事業・資本・統治の三つを同時に動かす構成である。

背景

2025年3月期第3四半期累計で、半導体部品有機材料事業は汎用データセンター向けFCBGAの販売減少に加え、需要低迷の長期化を受けて有形固定資産の減損損失等約430億円を計上した。電子部品セグメントのKAVXグループも欧州自動車市場の低迷で需要が減少し、新工場の稼働率低迷に伴う原価率の上昇が収益を圧迫した。京セラは2025年2月の説明会で、有機パッケージや電子部品といった低シェアの事業が市況変化に追随できていないと認めている。

2025年3月期の売上高は前期比0.5%増の2兆144億円にとどまり、営業利益は272億円、親会社の所有者に帰属する当期利益は前期比76.2%減の241億円だった。2025年3月期末の政策保有株式の純資産比率は51.6%に達していた。京セラ自身も2025年2月の時点で、政策保有株式の縮減には一層のスピード感が必要と認めていた。

内容

構造改革は、半導体部品有機材料事業とKAVXグループの黒字化を最優先とし、売上高で2,000億円程度のノンコア事業の見直しと研究開発のコア領域への集中を進めるとした。KDDI株式は2026年3月期と2027年3月期の2年間で合計5,000億円規模を売却し、2028年3月期以降も純資産の20%未満まで縮減する計画である。2025年5月14日、京セラはKDDIの自己株式の公開買付けへの応募と、総額2,000億円を上限とする自己株式の取得を決議した。応募した108,365,800株のうち108,058,400株が買い付けられ、自己株式は2026年3月12日までに約91百万株(約2,000億円)を取得した。

2026年2月の経営改革プロジェクトでは、2026年3月期の実施事項として、シリコンダイオード・パワー半導体事業、米国サザンカールソン、ケミカル事業の譲渡を挙げた。2027年3月期からはROICを基準とする事業評価を開始し、自己株式の取得は2027年3月期と2028年3月期の合計で最大5,000億円とした。配当は2027年3月期から配当性向に代えてDOEを基準とする方針へ変更する予定である。

含意

2025年6月26日の第71期定時株主総会で、取締役の任期を1年に短縮する定款変更は可決されたが、取締役選任の賛成率は山口悟郎氏が63.84%、谷本秀夫氏が69.83%にとどまった。2026年2月2日、京セラは代表取締役の異動を決議し、2026年4月1日付で作島史朗氏が社長に就任した。2026年6月の第72期定時株主総会では、自己株式の取得や山口悟郎氏の解任などを求める株主提案4議案が、18.92〜26.14%の賛成率で否決された。

2026年3月期のROEは4.3%で、2026年2月時点の見通し3.6%を上回ったものの、2028年3月期の目標5.0%以上には達していない。2026年3月末時点の政策保有株式の純資産比率は48.3%で、2031年3月期末を目途とする20%未満にはなお距離がある。主力の部品事業を含む事業ポートフォリオの再構築は、ROICによる評価を始める2027年3月期以降の課題となった。

いつ何が起きたか12件
筆者考察
考察

考察:創業者の理念は、どこまで引き継ぐべきものだったのか

京セラが2025年2月に選んだのは、事業の立て直しより先に、資本と統治の仕組みを動かす順番であった。課題事業の黒字化には時間を要する一方、KDDI株式の売却と自己株式の取得は取締役会の決議で実行できる。売却期間を5年から2年へ短縮し、取締役の任期を1年にしたのは、改革の速度を株主に示すための選択とみられる。多角化を進めてきた会社が中期経営計画の遅れを認め、ROICで事業を評価する方式へ転換した一連の動きは、創業以来の前提のうち何を残し何を外すかという選別でもあった。

ただ、資本の組み替えが先行した結果、事業の選別は後ろに残された。2026年3月期に譲渡を決めたパワー半導体、米国サザンカールソン、ケミカルは、いずれも売上高2,000億円程度とされたノンコア事業の見直しの範囲にとどまる。主力の部品事業のどれを縮小し、どこに経営資源を集中するかは、ROICによる評価を始める2027年3月期以降の判断となる。定時株主総会で山口悟郎氏の賛成率が63.84%にとどまったことは、改革の速度に対する株主の評価が厳しかったことを示している。

ROEは0.7%から4.3%へ回復したが、目標の5.0%以上には達していない。自己株式の取得で資本を圧縮した効果に頼らず、事業の収益力でROEを支えられるかが次の論点となる。この構造改革が成功したと言えるのは、課題事業の黒字化がROICによる評価で裏付けられ、資本の組み替えを終えた後もROEの目標を満たし続けたときである。それまでは、創業以来の多角化をどこまで見直したのかについて、評価を保留せざるをえない。

Yutaka Sugiura, 2026年8月

数字で見る

京セラ:KDDI株式の貸借対照表計上額

京セラ:KDDI株式の貸借対照表計上額

KDDI株式(百万円)KDDI株式率(%)
京セラ:KDDI株式の貸借対照表計上額
(百万円)KDDI株式総資産備考
2020年3月期1,068,9563,250,175計上額は提出会社、総資産は連結の数値
2021年3月期1,137,6513,493,470
2022年3月期1,342,0593,917,265
2023年3月期1,371,5484,093,928
2024年3月期1,501,9004,465,376
2025年3月期1,581,3184,511,307売却の早期化を公表した期。株式数は335,096,000株で変わらない
2026年3月期1,530,9714,646,314108百万株を売却。KDDIの株式分割を経て562,133,600株
出所:京セラ 有価証券報告書 第66期〜第72期【株式の保有状況】 / 京セラ 有価証券報告書 第66期〜第72期(連結財政状態計算書)
出所:京セラ 有価証券報告書 第66期〜第72期【株式の保有状況】 / 京セラ 有価証券報告書 第66期〜第72期(連結財政状態計算書)
京セラ:親会社の所有者に帰属する持分当期利益率(ROE)

京セラ:親会社の所有者に帰属する持分当期利益率(ROE)

ROE(%)
京セラ:親会社の所有者に帰属する持分当期利益率(ROE)
(%)ROE備考
2020年3月期4.6
2021年3月期3.6
2022年3月期5.4
2023年3月期4.3
2024年3月期3.2
2025年3月期0.7半導体部品有機材料事業などの減損で営業利益は272億円まで減少した。分母は期首と期末の親会社の所有者に帰属する持分の平均
2026年3月期4.3営業利益は1,181億円。前期比332.8%増
2027年3月期4.3会社予想。マクロ経済リスクを勘案し前期と同水準とした
出所:京セラ 有価証券報告書 第66期〜第71期(財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析) / 京セラ 2026年3月期決算説明会資料(企業価値向上ロードマップ)
出所:京セラ 有価証券報告書 第66期〜第71期(財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析) / 京セラ 2026年3月期決算説明会資料(企業価値向上ロードマップ)
京セラ:所有者別状況の推移

京セラ:所有者別状況の推移

  • 日本マスタートラスト信託銀行(信託口)23%
  • 日本カストディ銀行(信託口)9%
  • 京都銀行4%
  • STATE STREET BANK AND TRUST COMPANY 5050014%
  • 稲盛財団3%
  • その他57%
京セラ:所有者別状況の推移
(%)金融機関外国法人等個人その他その他の法人
2020年3月期39.0134.5717.067.16
2021年3月期40.233.2916.957.02
2022年3月期39.9632.7817.925.96
2023年3月期40.1332.5517.985.81
2024年3月期38.9533.6918.275.66
2025年3月期38.234.6319.25.39
2026年3月期36.6232.4223.795.26
出所:京セラ 有価証券報告書 第66期〜第72期【所有者別状況】 / 京セラ 有価証券報告書 第72期(2026年3月期)【大株主の状況】【株式の総数等】
出所:京セラ 有価証券報告書 第66期〜第72期【所有者別状況】 / 京セラ 有価証券報告書 第72期(2026年3月期)【大株主の状況】【株式の総数等】
京セラ:定時株主総会における取締役選任の賛成率

京セラ:定時株主総会における取締役選任の賛成率

京セラ:定時株主総会における取締役選任の賛成率
(%)山口悟郎谷本秀夫作島史朗備考
2017年6月総会(第63期)75.6189.06−谷本秀夫が社長、山口悟郎が会長に就任した年の総会
2019年6月総会(第65期)82.4587.82−
2021年6月総会(第67期)79.1781.12−
2023年6月総会(第69期)65.9564.8−創業以来初の中期経営計画を公表した翌月の総会
2025年6月総会(第71期)63.8469.8397.02構造改革の公表後で最初の改選。取締役の任期を1年へ短縮した
2026年6月総会(第72期)70.46−88.1谷本秀夫は退任。作島史朗は社長就任後で最初の選任
出所:京セラ 臨時報告書(第63期〜第72期定時株主総会における議決権行使結果)
出所:京セラ 臨時報告書(第63期〜第72期定時株主総会における議決権行使結果)
京セラ:第72期定時株主総会の議案別賛成率

京セラ:第72期定時株主総会の議案別賛成率

京セラ:第72期定時株主総会の議案別賛成率
(%)賛成率備考
第3号議案 山口悟郎(会社提案)70.46取締役10名の選任。他の9名は88.10〜99.60%で可決された
第3号議案 作島史朗(会社提案)88.1
第9号議案 自己株式取得(株主提案)18.92140,000,000株・3,500億円を上限とする取得を求めた
第10号議案 山口悟郎の解任(株主提案)24.31
第11号議案 岡村宏太郎の選任(株主提案)26.14監査等委員である社外取締役としての選任
第12号議案 岡村宏太郎の選任(株主提案)26.13第11号議案が可決されなかった場合に備えた議案
出所:京セラ 臨時報告書(第72期定時株主総会における議決権行使結果)
出所:京セラ 臨時報告書(第72期定時株主総会における議決権行使結果)
京セラ:セグメント別の事業利益

京セラ:セグメント別の事業利益

京セラ:セグメント別の事業利益
(百万円)コアコンポーネント電子部品ソリューション備考
2021年3月期30,54923,00037,506
2022年3月期61,64047,89668,730
2023年3月期89,47544,06442,239
2024年3月期57,2266,52169,841
2025年3月期△1,111△81872,920半導体部品有機材料事業とKAVXグループの損失が両部品事業に出た
2026年3月期63,0827,316103,943ソリューションは工具販社の譲渡を経て過去最高の利益
出所:京セラ 有価証券報告書 第67期〜第72期(セグメント情報)
出所:京セラ 有価証券報告書 第67期〜第72期(セグメント情報)
構造改革と株主提案の条件

構造改革と株主提案の条件

構造改革と株主提案の条件
科目概要備考
中期経営計画の目標2026年3月期に売上高2兆5,000億円2023年5月公表。税引前利益率14.0%・ROE7.0%以上を掲げた
計画の到達点部品事業の低迷を主因に遅れが生じた第71期の有価証券報告書の記述。第72期には中期経営計画の記載がない
構造改革の公表2025年2月3日2026年3月期から2028年3月期を構造改革の期間とし、PBR1倍以上を目指す
事業の選択と集中売上高2,000億円程度のノンコア事業を見直し課題事業の黒字化と、研究開発のコア領域への集中を併せて掲げた
政策保有株式の縮減2年間でKDDI株式の3分の1程度を売却2024年10月公表の5年間の計画を短縮。当時の株価水準で5,000億円規模
KDDI株式の売却108,058,400株・2,492億円2025年6月のKDDIの自己株式公開買付けに応募。1株2,307円で成立した
売却前後の所有割合16.85%から14.13%へ2026年3月末の保有比率は13.42%。KDDI株式の計上額1兆5,309億円は連結総資産の約33%
自己株式の取得(2025年5月14日決議)2,000億円・136,240,000株が上限2025年5月15日から2026年3月24日に市場で買い付け、2026年3月に完了
自己株式の取得(2026年4月30日決議)2,500億円・156,544,000株が上限2028年3月期と合わせ、2年間で最大5,000億円を取得する計画
ノンコア事業の譲渡パワー半導体・工具販社・ケミカル前2件は2026年1月に完了。ケミカルは住友ベークライトへ2026年10月末に譲渡
取締役の任期2年から1年へ短縮2025年6月の第71期定時株主総会で定款を変更した
提案株主Oasis Investments Ⅱ Master Fund Ltd.大株主の状況に記載がなく、所有株式数は会社の開示から確認できない
株主提案の議案第9号議案から第12号議案2026年4月17日に提案書、4月28日に修正版の提案書が提出された
提案の理由ROEが0.8%、過去5年平均でも3.5%提案株主の算出による。会社の開示では0.7%。政策保有株式が純資産の47.9%を占める点も突いた
取締役会の意見4議案のいずれにも反対自己株式取得は2年間で最大5,000億円が最適規模であると判断したとする
議決の結果株主提案の4議案をいずれも否決賛成率は18.92〜26.14%。会社提案の8議案はすべて可決された
可決の要件出席した株主の議決権の過半数解任議案は議決権の過半数を有する株主の出席が前提。訂正報告書で改めた
出所:京セラ 2025年3月期第3四半期決算説明会資料(2025年2月3日)/第72期定時株主総会 招集ご通知
当時の取締役10名

取締役10名(2024年6月株主総会決議)

区分役員名役職
取締役業務執行担当領域
業務執行兼務山口悟郎取締役:代表取締役業務執行:会長担当:
伊奈憲彦取締役:代表取締役業務執行:副会長担当:
触浩取締役:取締役業務執行:担当:
青木昭一取締役:業務執行:担当:
谷本秀夫取締役:取締役業務執行:担当:
嘉野浩市取締役:取締役業務執行:担当:
独立役員古家野晶子法曹取締役:取締役業務執行:担当:
垣内永次取締役:取締役業務執行:担当:
前川重信取締役:取締役業務執行:担当:
須永順子取締役:取締役業務執行:担当:
この一覧は2024年6月の定時株主総会の直後に提出された有価証券報告書の【役員の状況】による。
参考文献

参考文献

参考

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