京セラ KDDI株売却と計画撤回 中期経営計画の取り下げと、非中核事業の整理

更新:

時期 2025年2月
当時の社長 谷本秀夫
論点 多角化経営の見直しと資本効率の改善
何をなぜ決めたか
概要

2025年2月3日、京セラは2026年3月期から2028年3月期を構造改革の期間と定め、ノンコア事業の見直しとKDDI株式の売却を柱とする企業変革を公表した。2023年5月に掲げた創業以来初の中期経営計画は部品事業の低迷で遅れ、第72期の有価証券報告書からは記載が消えている。2025年3月期に営業利益が前期比7割減の272億円、ROEが0.7%まで低下したことが直接の引き金であり、稲盛和夫氏が築いた多角化経営そのものの見直しに着手する判断となった。

背景

京セラはファインセラミックスや電子部品、工具、複合機、太陽電池、宝飾品まで幅広い領域に展開し、経営資源が分散して事業間の相乗効果を出せずにいた。半導体有機パッケージはAIデータセンター向けの需要を取り込めず、2025年3月期に430億円の減損損失を計上している。子会社KYOCERA AVXも欧州自動車向けの出荷が落ち、新工場の稼働率低迷で赤字に沈んだ。

内容

構造改革はノンコア事業からの撤退、半導体有機パッケージとKYOCERA AVXの黒字化、KDDI株の一部売却、自社株買いの実施を柱とする。KDDI株は2年で保有株数の3分の1程度を売却する方針で、2025年6月にはKDDIの自己株式公開買付けに応募し108,058,400株を2,492億円で売却した。自社株買いは2026年3月期に2,000億円を実行し、2027年3月期からの2年間で最大5,000億円を計画する。2026年1月にはケミカル事業の住友ベークライトへの譲渡を決議した。

含意

2025年6月の定時株主総会では山口悟郎会長と谷本秀夫社長の再任賛成率が63.84%と69.83%にとどまり、取締役の任期は2年から1年へ短縮された。オアシスは2026年4月に自己株式取得と山口氏の解任を求める株主提案を提出したが、4議案はいずれも18.92〜26.14%の賛成率で否決されている。2027年3月期からはROICを基準に事業ポートフォリオを評価する方式へ切り替え、2026年4月に作島史朗氏が社長を承継した。

いつ何が起きたか 7件
筆者の見解
筆者の見解

創業者の理念は、どこまで引き継ぐべきものだったのか

この構造改革が向き合ったのは、業績の不振そのものより、多角化を止められなくした仕組みのほうであった。従業員の物心両面の幸福を掲げる理念は、失敗した事業の人員を抱え続ける義務と表裏で、撤退の判断を先送りさせる装置としても働いた。稲盛氏は中長期の経営計画を持たず、今日1日を尽くせば明日は見えてくるという考え方で会社を伸ばしている。創業以来初の中期計画を立て、それを2年で下ろし、ROICで事業を選り分ける評価へ移った一連の動きは、創業者が置いた前提のうち何を残し何を外すかという選別でもあった。

もっとも、その選別が済んだわけではない。ROEは0.7%から4.3%へ戻したものの、掲げる2028年3月期の5.0%以上にはなお距離がある。KDDI株の売却と自己株式の取得という資本の組み替えは数字を動かしやすい一方、事業そのものをROICで選り分ける運用は2027年3月期に始まったばかりである。手放したパワー半導体・工具販社・ケミカルは、いずれも構造改革のなかで整理された非中核の事業であり、稼ぐ事業を絞り込む段階にはまだ入っていないとみられる。多角化を止められなくした仕組みが本当に外れたのかは、次に不振の事業が現れたときの扱いに出るのだろう。

Yutaka Sugiura, 2026年8月

業績の推移
構造改革と株主提案の条件

構造改革と株主提案の条件

科目 概要 備考
中期経営計画の目標 2026年3月期に売上高2兆5,000億円 2023年5月公表。税引前利益率14.0%・ROE7.0%以上を掲げた
計画の到達点 部品事業の低迷を主因に遅れが生じた 第71期の有価証券報告書の記述。第72期には中期経営計画の記載がない
構造改革の公表 2025年2月3日 2026年3月期から2028年3月期を構造改革の期間とし、PBR1倍以上を目指す
事業の選択と集中 売上高2,000億円程度のノンコア事業を見直し 課題事業の黒字化と、研究開発のコア領域への集中を併せて掲げた
政策保有株式の縮減 2年間でKDDI株式の3分の1程度を売却 2024年10月公表の5年間の計画を短縮。当時の株価水準で5,000億円規模
KDDI株式の売却 108,058,400株・2,492億円 2025年6月のKDDIの自己株式公開買付けに応募。1株2,307円で成立した
売却前後の所有割合 16.85%から14.13%へ 2026年3月末の保有比率は13.42%。提出会社が保有するKDDI株式の貸借対照表計上額1兆5,309億円は、連結総資産4兆6,463億円の約33%にあたる
自己株式の取得(2025年5月14日決議) 2,000億円・136,240,000株が上限 2025年5月15日から2026年3月24日に市場で買い付け、2026年3月に完了
自己株式の取得(2026年4月30日決議) 2,500億円・156,544,000株が上限 2028年3月期と合わせ、2年間で最大5,000億円を取得する計画
ノンコア事業の譲渡 パワー半導体・工具販社・ケミカル 前2件は2026年1月に完了。ケミカルは住友ベークライトへ2026年10月末に譲渡
取締役の任期 2年から1年へ短縮 2025年6月の第71期定時株主総会で定款を変更した
提案株主 Oasis Investments Ⅱ Master Fund Ltd. 大株主の状況に記載がなく、所有株式数は会社の開示から確認できない
株主提案の議案 第9号議案から第12号議案 2026年4月17日に提案書、4月28日に修正版の提案書が提出された
提案の理由 ROEが0.8%、過去5年平均でも3.5% 提案株主の算出による。会社の開示では0.7%。政策保有株式が純資産の47.9%を占める点も突いた
取締役会の意見 4議案のいずれにも反対 自己株式取得は2年間で最大5,000億円が最適規模であると判断したとする
議決の結果 株主提案の4議案をいずれも否決 賛成率は18.92〜26.14%。会社提案の8議案はすべて可決された
可決の要件 出席した株主の議決権の過半数 解任議案は議決権の過半数を有する株主の出席が前提。訂正報告書で改めた

出所:京セラ 2025年3月期第3四半期決算説明会資料(2025年2月3日)/第72期定時株主総会 招集ご通知

定時株主総会における取締役選任の賛成率

京セラ:定時株主総会における取締役選任の賛成率

(%) 山口悟郎谷本秀夫作島史朗 備考
2017年6月総会(第63期) 75.6189.06 谷本秀夫が社長、山口悟郎が会長に就任した年の総会
2019年6月総会(第65期) 82.4587.82
2021年6月総会(第67期) 79.1781.12
2023年6月総会(第69期) 65.9564.8 創業以来初の中期経営計画を公表した翌月の総会
2025年6月総会(第71期) 63.8469.8397.02 構造改革の公表後で最初の改選。取締役の任期を1年へ短縮した
2026年6月総会(第72期) 70.4688.1 谷本秀夫は退任。作島史朗は社長就任後で最初の選任

出所:京セラ 臨時報告書(第63期〜第72期定時株主総会における議決権行使結果)

第72期定時株主総会の議案別賛成率

京セラ:第72期定時株主総会の議案別賛成率

(%) 賛成率 備考
第3号議案 山口悟郎(会社提案) 70.46 取締役10名の選任。他の9名は88.10〜99.60%で可決された
第3号議案 作島史朗(会社提案) 88.1
第9号議案 自己株式取得(株主提案) 18.92 140,000,000株・3,500億円を上限とする取得を求めた
第10号議案 山口悟郎の解任(株主提案) 24.31
第11号議案 岡村宏太郎の選任(株主提案) 26.14 監査等委員である社外取締役としての選任
第12号議案 岡村宏太郎の選任(株主提案) 26.13 第11号議案が可決されなかった場合に備えた議案

出所:京セラ 臨時報告書(第72期定時株主総会における議決権行使結果)

KDDI株式の貸借対照表計上額

京セラ:KDDI株式の貸借対照表計上額

(百万円) KDDI株式総資産 備考
2020年3月期 1,068,9563,250,175 計上額は提出会社、総資産は連結の数値
2021年3月期 1,137,6513,493,470
2022年3月期 1,342,0593,917,265
2023年3月期 1,371,5484,093,928
2024年3月期 1,501,9004,465,376
2025年3月期 1,581,3184,511,307 売却の早期化を公表した期。株式数は335,096,000株で変わらない
2026年3月期 1,530,9714,646,314 108百万株を売却。KDDIの株式分割を経て562,133,600株
KDDI株式の計上額と総資産に占める比率
KDDI株式(百万円)KDDI株式率(%)

出所:京セラ 有価証券報告書 第66期〜第72期【株式の保有状況】 / 京セラ 有価証券報告書 第66期〜第72期(連結財政状態計算書)

親会社の所有者に帰属する持分当期利益率(ROE)

京セラ:親会社の所有者に帰属する持分当期利益率(ROE)

(%) ROE 備考
2020年3月期 4.6
2021年3月期 3.6
2022年3月期 5.4
2023年3月期 4.3
2024年3月期 3.2
2025年3月期 0.7 半導体部品有機材料事業などの減損で営業利益は272億円まで減少した。分母は期首と期末の親会社の所有者に帰属する持分の平均
2026年3月期 4.3 営業利益は1,181億円。前期比332.8%増
2027年3月期 4.3 会社予想。マクロ経済リスクを勘案し前期と同水準とした
自己資本利益率
ROE(%)

出所:京セラ 有価証券報告書 第66期〜第71期(財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析) / 京セラ 2026年3月期決算説明会資料(企業価値向上ロードマップ)

セグメント別の事業利益

京セラ:セグメント別の事業利益

(百万円) コアコンポーネント電子部品ソリューション 備考
2021年3月期 30,54923,00037,506
2022年3月期 61,64047,89668,730
2023年3月期 89,47544,06442,239
2024年3月期 57,2266,52169,841
2025年3月期 △1,111△81872,920 半導体部品有機材料事業とKAVXグループの損失が両部品事業に出た
2026年3月期 63,0827,316103,943 ソリューションは工具販社の譲渡を経て過去最高の利益

出所:京セラ 有価証券報告書 第67期〜第72期(セグメント情報)

所有者別状況の推移

京セラ:所有者別状況の推移

(%) 金融機関外国法人等個人その他その他の法人
2020年3月期 39.0134.5717.067.16
2021年3月期 40.233.2916.957.02
2022年3月期 39.9632.7817.925.96
2023年3月期 40.1332.5517.985.81
2024年3月期 38.9533.6918.275.66
2025年3月期 38.234.6319.25.39
2026年3月期 36.6232.4223.795.26
株主提案を受けた2026年3月期末の大株主
  • 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 23%
  • 日本カストディ銀行(信託口) 9%
  • 京都銀行 4%
  • STATE STREET BANK AND TRUST COMPANY 505001 4%
  • 稲盛財団 3%
  • その他 57%

出所:京セラ 有価証券報告書 第66期〜第72期【所有者別状況】 / 京セラ 有価証券報告書 第72期(2026年3月期)【大株主の状況】【株式の総数等】

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参考文献
出典・参考

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