京セラ中期経営計画の取り下げと、非中核事業の整理
創業以来初めて立てた中期計画をなぜ2年で下ろしたのか——ROE0.7%と株主の圧力が迫った多角化の清算
- 概要
- 2025年2月、京セラは2023年に発表した創業以来初の中期経営計画を取り下げ、ノンコア事業からの撤退とKDDI株の一部売却を柱とする構造改革へ切り替えた。2025年3月期に営業利益が前期比7割減の272億円、ROEが0.7%まで落ちたことが直接の引き金であり、稲盛和夫氏が築いた多角化経営そのものの見直しに踏み込む判断となった。
- 背景
- 京セラはファインセラミックスや電子部品、工具、複合機、太陽電池、宝飾品まで幅広い領域に展開し、経営資源が分散して事業間の相乗効果を出せずにいた。半導体有機パッケージはAIデータセンター向けの需要を取り込めず、2025年3月期に430億円の減損損失を計上している。子会社KYOCERA AVXも欧州自動車向けの出荷が落ち、新工場の稼働率低迷で赤字に沈んだ。
- 内容
- 構造改革はノンコア事業からの撤退、半導体有機パッケージとKYOCERA AVXの黒字化、KDDI株の一部売却、自社株買いの実施を柱とする。KDDI株は今後2年で保有株の3分の1を売却する方針で、2025年5月には6分の1の売却を発表した。調達資金の一部は今後4年間で4,000億円規模の自社株買いに充てる。2026年にはケミカル事業を住友ベークライトへ約300億円で譲渡した。
- 含意
- 香港のオアシス・マネジメントは構造改革案を中途半端と断じ、より踏み込んだ改革を求めた。2025年6月の定時株主総会では山口悟郎会長と谷本秀夫社長の再任賛成率が約63%と約69%にとどまり、取締役の任期は2年から1年へ短縮された。2027年3月期からは事業ごとにROIC目標を設ける評価へ切り替え、2026年4月に作島史朗氏が社長を引き継いでいる。
創業者の理念は、どこまで引き継ぐべきものだったのか
この構造改革が向き合ったのは、業績の不振そのものより、多角化を止められなくした仕組みのほうであった。従業員の物心両面の幸福を掲げる理念は、失敗した事業の人員を抱え続ける義務と表裏で、撤退の判断を先送りさせる装置としても働いた。稲盛氏は中長期の経営計画を持たず、今日1日を尽くせば明日は見えてくるという考え方で会社を伸ばしている。創業以来初の中期計画を立て、それを2年で下ろし、ROICで事業を選り分ける評価へ移った一連の動きは、創業者が置いた前提のうち何を残し何を外すかという選別でもあった。
Yutaka Sugiura, 2026年8月
背景
資源が分散し相乗効果を出せない事業構成
京セラはファインセラミックスや電子部品、工具、複合機、さらには太陽電池や宝飾品まで幅広い領域に展開してきた。その結果として経営資源が分散し、事業間の相乗効果を出せずにいる[1]。買収による多角化が止まらなかった背景には、従業員の物心両面の幸福を追求するという経営理念のもとで人員削減が基本的に認められず[2]、一つの事業が失敗するとその人員の受け皿を確保するために次の買収へ乗り出さざるをえない[3]構造があった。
主力2事業がそろって赤字に沈んだ2025年3月期
2025年3月期の売上高は2兆144億円と前期比で微増だったのに対し、営業利益は272億円と7割減り[4]、3期連続の減益となった。純利益は前期比76%減の240億円で、リーマン・ショックの打撃を受けた2009年3月期を下回る水準[5]まで落ちている。半導体有機パッケージは主力の汎用データセンター向け需要が落ち込む一方、急拡大するAIデータセンター向けの需要を取り込めず、工場の稼働率低下で430億円の減損損失を計上して赤字に転落[6]した。子会社のKYOCERA AVXも積層セラミックコンデンサーの欧州自動車向け出荷が落ち、新工場の稼働率低迷で原価率が上がって赤字[7]に沈んでいる。
決断
2年で下ろした創業以来初の中期経営計画
京セラが創業以来初めて中期経営計画を立てたのは2023年である。経営の原点に立ち返るとして[8]、2026年3月期に売上高2.5兆円、税引前利益3,500億円、ROE7.0%以上[9]を掲げた。谷本秀夫社長はそれ以前の投資について、若い頃はアメーバ経営に励めば稲盛氏が先行投資を決めてくれたが、稲盛氏が一線から退いたあとは投資が弱くなった[10]と振り返っている。しかし目標は実現に至らず、2025年2月、京セラは計画を取り下げて構造改革の実施を発表[11]した。
政策保有株を原資にした資本の組み替え
構造改革の柱は、ノンコア事業からの撤退、半導体有機パッケージとKYOCERA AVXの黒字化、政策保有株であるKDDI株の一部売却、自社株買いの実施[12]である。京セラは第二電電の設立に関わった経緯からKDDI株を約17%保有する筆頭株主で、今後2年で保有株の3分の1にあたる時価約5,000億円分を売却[13]する方針を掲げた。2025年5月には6分の1にあたる約2,500億円分の売却を発表し、調達した資金の一部を今後4年間で4,000億円規模の自社株買いに充てる[14]としている。多角化そのものをやめるわけではないが、ある程度の選択と集中はやむをえない[15]という立場であった。
結果
- 週刊東洋経済 2025年7月19日号「「アメーバ経営から逸脱」と批判 京セラにオアシスが「圧」」
- 週刊東洋経済 2022年12月3日号「トップに直撃 京セラ 社長 谷本秀夫」
- 週刊東洋経済 2006年1月21日号「京セラ 米国携帯電話から撤退も「超優良企業」の黄昏」
- 京セラ 2026年3月期第3四半期決算説明・経営改革プロジェクト進捗報告(2026年2月3日)
- 日本経済新聞「京セラ、「総花経営」脱却へ稼げる事業に資源集中 新社長に作島史朗氏」(2026年2月2日, 日本経済新聞社)
- 京セラ 有価証券報告書 第71期(2025年3月期)【主要な経営指標等の推移】