シップヘルスケアホールディングスSHIP VISION 2030によるグループ再編統合と厨房業務からの撤退

2025年進行中

買い集めた65社をそのまま走らせるか、49社に畳んで束ね直すか

時期 2025年5月
意思決定者(推定) 大橋太・古川國久(代表取締役会長CEO) 社長
論点 グループ構造の集約と収益力
概要
2025年5月16日、シップヘルスケアホールディングスが2026年3月期から2030年3月期までの中期経営計画「SHIP VISION 2030」を公表し、重点項目の一つにグループ内再編統合を掲げた。連結グループ会社は2024年4月1日の65社から2025年4月1日に49社へ減った。
背景
前中計までの連続M&Aでグループ会社が増え、バックオフィスの重複が生じていた。病院側では2040年を見据えた地域医療構想が「淘汰・再編・集約」の方向に傾き、医療機器ディーラー数も1999年の1,776社から2022年に1,030社へ減っていた。
内容
16社を統合して49社とし、調剤薬局事業は5社を1社に集約した。メディカルサプライ事業は2024年10月1日付で5社、キングラングループは2025年4月1日付で4社を統合。フード事業では価格転嫁の合意が得られない施設の厨房業務から降りる方針を示した。
含意
初年度の2026年3月期は売上高7,181億円と5.9%伸びた一方、営業利益は244億円で1.2%減り、計画には5.8%届かなかった。統合効果が数字に出たのは調剤薬局事業で、営業利益は16.9%増、利益率は10.2%から11.6%へ上がった。
筆者の見解

数を減らすことで何が変わるのか

この再編は、危機に追われた縮小とは性格が異なる。2025年3月期まで同社は増収を重ね、営業利益も前期を上回っていた。それでも65社を49社へ畳んだのは、買収で増えた会社をそのまま並べておく限り、経理も人事も情報システムも各社に残り続けるという単純な理由による。統合の効果が最も早く数字に出たのが、5社を1社にした調剤薬局事業だったことは示唆的である。求人開拓費という、いかにも重複しやすい費目の削減が営業利益率を1.4ポイント押し上げた。買う技術と、買ったものを一つにする技術は別のものであり、同社は33年かけて前者を磨いたあとで後者に手をつけている。

ただし、初年度の連結営業利益は減った。畳んだ効果より、分譲マンションの端境期や部材の納期遅れ、M&A手数料といった個別の事情のほうが大きかった。統合の成果が全社の利益率として見えるまでには時間がかかる。そして2019年に古川國久会長CEOが掲げた「2025年度に1兆円企業グループ」は、2026年3月期の7,181億円で届かなかった。SHIP VISION 2030 の定量目標に1兆円という数字はなく、代わりに置かれたのは年平均5%の成長率と営業利益率4%、ROE12%の三つである。1兆円の語が残ったのは、人材方針の「売上高1兆円の先を支える人材づくり・組織づくり」という一行だけであった。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

買い集めた末の65社

2021年6月に第3代社長となった大橋太氏が引き継いだのは、買収で膨らんだ会社の束であった。2022年4月に香川県高松市の中央、同年7月に東京都千代田区のキングランとその子会社11社、2024年に入ってスターシップ、エム・アイ・シー、MONAKAと続き、寝具リースや医療器材洗浄、院内寝具洗濯といった周辺サービスがグループへ加わった。2024年4月1日時点の連結グループ会社は65社。売上高は2025年3月期に6,782億円まで伸びた一方、同じ機能を持つ会社が事業ごとに並ぶ構造ができあがっていた[1][2]

数を増やす戦略には理由があった。古川國久会長CEOは2019年に、2025年度に1兆円企業グループへ到達すると表明している。同じ取材で700の病院と約7,000のクリニックを手掛けてきたと語り、医療機器流通の最大手としての規模を数字で示した。売上を5,000億円台から1兆円へ倍にするには自力成長だけでは足りず、買収が積み上がる。ただし買った会社にはそれぞれ経理も人事も情報システムもあり、重複した費用がグループ全体に残った[3][4]

「淘汰・再編・集約」へ傾く顧客の側

顧客である病院の環境は悪化していた。2025年3月期の決算説明資料は、物価高と人件費・材料費の上昇で病院経営が悪化し、価格転嫁が難しいと整理している。同社は、2026年から2040年の少子・人口急減と超高齢化に適合した社会保障制度の再構築を前提に、今後の地域医療構想は「連携・再編・集約」ではなく「淘汰・再編・集約」になるとまで書いた。病院そのものが減る前提で、供給側の陣容を組み直す必要があった[5]

供給側の淘汰はすでに進んでいた。同社が医療機器・用品年鑑をもとに作成した推移では、医療機器ディーラーの総数は1999年の1,776社から2022年に1,030社へ減り、その一方で売上高200億円以上の社数は10社から43社へ増えている。2024年度の医療機器・用品の末端市場規模は3兆7,940億円と推計され、同社のメディカルサプライ事業とトータルパックプロデュース事業を合わせた5,622億円は14.8%にあたる。規模の側に立つ会社が生き残る業界で、自社の中に小さな会社を並べたままにする理由は薄かった[6]

決断

2025年5月16日、5カ年の計数目標を置く

2025年5月16日、同社は2025年3月期の決算説明会で中期経営計画「SHIP VISION 2030」を公表した。対象は2026年3月期から2030年3月期までの5年間。基本方針にはグループ経営資源の最適化によるポートフォリオ経営を掲げ、重点項目として新規事業創出・再編統合・成長領域の拡大の三つを並べた。事業の柱についても、従来の「生命を守る人の環境づくり」に「自然を守る」領域を加えた二本柱とすると書いている[7]

定量目標は三つに絞られた。年平均5%の売上成長率、営業利益率4%、そしてROE12%である。2025年3月期の実績はROE10.5%、ROIC8.8%、ROA3.9%で、同社が置く株主資本コストは7.0%程度、WACCは6.0%程度。ROE12%は、株主資本コストを上回る水準として設定された。資金の配り方も数字で示し、5年間累計の営業キャッシュ・フロー1,000億円から1,200億円程度に対し、成長投資は600億円から800億円程度、株主還元は配当性向30%以上の維持と、投資の進捗を踏まえた機動的な自己株式取得とした[8][9]

65社を49社へ、そして厨房から降りる

再編統合はすでに動いていた。2024年4月1日に65社だった連結グループ会社は、2025年4月1日に49社となった。1年で16社を統合した計算になる。内訳はトータルパックプロデュース事業が35社から30社、メディカルサプライ事業が17社から12社、ライフケア事業が8社から5社、調剤薬局事業が4社から1社。メディカルサプライ事業は2024年10月1日付で5社、ライフ事業部門は2025年1月1日付で2社、キングラングループは2025年4月1日付で4社、そして調剤薬局事業会社は2025年4月1日付で5社を1社に集約している[10][11]

畳んだのは会社の数だけではない。フード事業では、施設給食のうち現地調理について、原価高騰を踏まえて価格転嫁の承認が得られない施設からは撤退するか、完全調理済食品「ドリームキッチン」を使う運営へ切り替える方針を示した。ドリームキッチンの提供件数は2021年3月期の334件から2025年3月期に770件へ増えており、2030年3月期には完全調理済食品の売上比率50%を目指すとした。自前の厨房に人を置いて調理する事業から、工場で作った食事を届ける事業へ、中身を入れ替える判断であった[12][13]

結果

初年度の数字はどこに出たか

中計初年度にあたる2026年3月期の連結売上高は7,181億6,300万円で前期比5.9%増、計画を2.6%上回った。ところが営業利益は244億8,200万円で1.2%減り、計画には5.8%届かなかった。親会社株主に帰属する当期純利益は133億9,400万円と11.5%減っている。減益の主因はトータルパックプロデュース事業で、前期にあったシニア向け分譲マンションの竣工・販売が今期はなく、リニューアル案件では省エネ関連工事の部材納期が遅れ、M&A手数料などの一過性費用も乗った。同事業の営業利益は10.0%減の108億1,200万円であった[14][15]

統合の効果がはっきり出たのは調剤薬局事業であった。2025年4月1日付の4社統合が完了し、統合効果により求人開拓費の削減などを実現したと同社は説明している。同事業の営業利益は4,004百万円で16.9%増、営業利益率は10.2%から11.6%へ上がった。店舗は不採算を中心に5店舗を閉鎖・統合し、新たに5店舗が加わって130店舗となっている。メディカルサプライ事業でも営業利益が7.4%増え、経営母体の異なる複数病院との一括契約によるSPD案件が動き始めた。フード事業では、価格転嫁のできない施設の厨房業務からの撤退が続いている[16][17]

本稿の時点で決着していないもの

集約と並行して、投資は動いている。2026年2月、首都圏の医療材料物流拠点「SHIPグランベース東京」が稼働した。延床面積4,274坪、取扱品目数は約70,800。自動倉庫システムを中核に据え、850床規模のピッキングでは従来12人・35時間を要した作業が1人・7.9時間で済むと試算されている。SPD受託は2026年3月末で全国277件・約102,000床。2025年5月27日にはODA専門商社の株式会社テックインターナショナルがグループへ加わり、毎年50件規模の政府開発援助案件を扱う経路も手に入れた[18][19]

一方で、計数目標への距離は残った。2027年3月期の計画は売上高7,400億円・営業利益260億円で、営業利益率は3.5%。中計が掲げる4%にはまだ届かない。外形標準課税の対象法人の範囲拡大により約8億円の租税公課を販管費に計上する見込みで、ライフケア事業の売上計画は前期比23億円の減少を織り込んでいる。株主還元は続き、2026年3月期の配当は1株60円で10期連続の増配、連結配当性向は41.6%となった。5年計画は2030年3月期まで走る[20][21]

出典・参考

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