セブン&アイHD バリューアクトが株主提案 株主提案を契機とするコンビニ事業を軸とした企業集団への収斂

更新:

時期 2023年5月
当時の社長 井阪隆一
論点 株主提案への対応と事業ポートフォリオ
何をなぜ決めたか
概要

2023年、コンビニエンスストア事業への集中を求める株主バリューアクト・キャピタルが、第18回定時株主総会に取締役4名の選任を株主提案し、あわせて井阪隆一社長ら現任4名の交代を求めた。取締役会は4月18日に反対を決議し、5月25日の総会で会社提案の取締役選任案は可決され、株主提案は否決された。ただし否決された提案が突いた不採算事業の整理を、経営陣はその後みずから実行した。

背景

2005年の持株会社化で、セブン&アイはコンビニ・総合スーパー・百貨店・金融を多業態の企業集団に統合した。セブンイレブンがグループ営業利益の大半を稼ぐ一方、百貨店とスーパーは低収益で、個別事業の合計より株式時価総額が低いというコングロマリット・ディスカウントが投資家の批判を招いた。バリューアクトはコンビニへの集中を求めて経営陣に働きかけていた。

内容

株主提案は取締役4名の選任で、あわせて井阪社長ら現任4名の交代を求めた。提案の4名は賛成率25.52〜34.13%でいずれも否決された。一方、会社と請求株主の双方が提案した10名が97.03〜98.08%の賛成を得たのに対し、再任に反対された井阪社長の賛成率は76.36%にとどまった。

含意

総会後、セブン&アイはコンビニエンスストア事業への集中を進めた。2023年9月にそごう・西武の発行済株式の全部を譲渡して連結から外し、2024年には食品スーパーマーケット事業と専門店事業を統括する中間持株会社ヨーク・ホールディングスを設立した。2025年にはこの事業群をベインキャピタルへ譲渡し、北米セブン-イレブンの上場準備と、井阪社長からスティーブン・ヘイズ・デイカス氏への交代を進めた。

いつ何が起きたか 8件
筆者の見解
筆者の見解

否決されても、論点は通る

この判断の核心は、株主提案が総会で否決されながら、その提案が突いた論点がそのまま経営の実行へ移された点にある。井阪社長は続投を決め、バリューアクトの取締役選任案は否決された。それでも、そごう・西武の譲渡も、食品スーパー・専門店事業の分離も、イトーヨーカ堂の不採算店舗の閉鎖も、いずれもコンビニエンスストア事業への集中という請求株主の主張と同じ方向を向いていた。76.36%という賛成率は、経営陣の裁量が株主の監視のもとに置かれた度合いを示す。投票の勝敗と、経営が実際に選ぶ道筋は、別のところで決まっていた。

もう一つ残るのは、価値を顕在化させる圧力が、次の買収提案を呼び込んだという巡り合わせである。ディスカウントを解こうと事業を切り離すほど、コンビニエンスストアという高収益の中核が裸で市場にさらされる。2024年には外部から買収提案を受け、独立社外取締役のみで構成される特別委員会が企業価値・株主価値の最大化に向けたあらゆる選択肢の検討に入った。2025年には井阪社長が退き、スティーブン・ヘイズ・デイカス氏が社長兼CEOに就任した。株主に応えて企業価値を高める道が、経営の独立をどこまで守れるのか。持株会社体制の見直しに20年越しでたどり着いたこの判断は、その問いを今日の日本企業に開いたまま残している。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

業績の推移
株主提案の条件

株主提案の条件

科目 概要 備考
提案株主 バリューアクト・キャピタル・マスター・ファンド 2023年2月期末の所有比率は1.89%で大株主第8位。招集通知では「請求株主」と記載
対象の株主総会 第18回定時株主総会(2023年5月25日) 全議案について当日出席株主の意思を反映させるため投票用紙による投票を実施
株主提案の議案 第5号議案 取締役4名選任の件 名取勝也・ディーン・ロジャーズ・ロナルド・ギル・ブリトニー・レビンソンの選任
双方が提案した議案 第4号議案 取締役10名選任の件 現任の社内外10名は会社と請求株主の双方が提案し、共同提案の扱いになった
提案の理由 取締役会の機能強化と現任4名の交代 井阪隆一・後藤克弘の両代表と、指名委員の伊藤邦雄・米村敏朗の再任に反対を求めた
提案が求めた選択肢 7-Elevenのスピンオフの独立した検討 1株当たり8,500円以上に相当する7-Eleven株式の非課税配当によるスピンオフと記載
取締役会の意見 反対(2023年4月18日決議) 指名委員会が候補者4名と面談したうえで、当社が擁立する候補者の方が適正と判断
議決の結果 第5号議案は4名とも否決 賛成率は25.52〜34.13%。会社提案の第1号から第4号議案はすべて可決
会社提案の賛成率 双方が提案した第4号議案の10名は97.03〜98.08% 再任に反対された井阪隆一は76.36%、後藤克弘は74.89%、米村敏朗は64.87%
可決の要件 出席した株主の議決権の過半数 第2号から第5号議案は議決権の3分の1以上を有する株主の出席が前提

出所:セブン&アイ・ホールディングス 第18回定時株主総会 招集ご通知(2023年4月24日)・臨時報告書(2023年5月26日提出)

第18回定時株主総会の議案別賛成率

セブン&アイHD:第18回定時株主総会の議案別賛成率

(%) 賛成率 備考
第1号 剰余金の処分 99.92 会社提案。記念配当10円を加えた1株63円50銭の期末配当
第2号 井阪隆一 76.36 会社提案。請求株主が再任に反対を求めた代表取締役社長
第2号 後藤克弘 74.89 会社提案。請求株主が再任に反対を求めた代表取締役副社長
第2号 米村敏朗 64.87 会社提案。請求株主が指名委員として再任に反対を求めた社外取締役
第2号 和田眞治 67.92
第2号 八馬史尚 68.44
第3号 松橋香里 98.55 会社提案の監査役選任
第4号 伊藤順朗 97.6 以下10名は会社と請求株主の双方が提案した候補者
第4号 永松文彦 98
第4号 ジョセフ・マイケル・デピント 97.03
第4号 丸山好道 97.86
第4号 井澤吉幸 97.83
第4号 山田メユミ 97.94
第4号 ジェニファー・シムズ・ロジャーズ 97.94
第4号 ポール与那嶺 98.07
第4号 スティーブン・ヘイズ・デイカス 98.08
第4号 エリザベス・ミン・マイヤーダーク 98.08
第5号 名取勝也 34.13 以下4名は請求株主のみが提案した候補者。いずれも否決
第5号 ディーン・ロジャーズ 33.53
第5号 ロナルド・ギル 33.13
第5号 ブリトニー・レビンソン 25.52

出所:セブン&アイ・ホールディングス 臨時報告書(2023年5月26日提出)第18回定時株主総会の議決権行使結果

セグメント別営業利益の推移

セブン&アイHD:セグメント別営業利益の推移

(百万円) 国内コンビニ海外コンビニスーパーストア 備考
2018年2月期 245,24979,07821,260
2019年2月期 246,72192,26621,173
2020年2月期 256,601102,00121,307
2021年2月期 233,70098,66429,681
2022年2月期 223,396159,86618,791 海外はSpeedwayを2021年5月に取得し、当期から通期で連結
2023年2月期 232,033289,70312,395 株主提案が否決された総会の対象期。コンビニ2事業で全社の営業利益を上回る
2024年2月期 250,544301,62813,588 9月にそごう・西武を売却し、百貨店・専門店の区分が消えた
2025年2月期 233,554216,24810,415
2026年2月期 222,521222,22317,515 スーパーストア31社をヨーク・ホールディングスへ移管
コンビニ2事業の営業利益
国内コンビニ(百万円)海外コンビニ(百万円)

出所:セブン&アイ・ホールディングス 有価証券報告書 第13〜21期【セグメント情報等】

バリューアクトの所有株式数

セブン&アイHD:バリューアクトの所有株式数

(千株) 所有株式数 備考
2022年2月期 16,761 所有比率1.89%で第7位。大株主の状況に初めて記載された
2023年2月期 16,761 所有比率1.89%で第8位。この持分で取締役4名の選任を提案した
株主提案の直前・2023年2月期の大株主
  • 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 14%
  • 伊藤興業 8%
  • 日本カストディ銀行(信託口) 6%
  • SMBC日興証券 4%
  • SSBTC CLIENT OMNIBUS ACCOUNT 2%
  • バリューアクト・キャピタル 2%
  • その他 64%

出所:セブン&アイ・ホールディングス 有価証券報告書 第17期・第18期【大株主の状況】 / セブン&アイ・ホールディングス 有価証券報告書 第18期(2023年2月期)【株式の総数等】(発行済株式総数886,441千株)

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参考文献

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