この判断が突き当たったのは、採算管理では埋まらない規模の差であった。アメーバ経営は各アメーバに時間当たりの採算を負わせて既存事業の無駄を絞る手法であり、KWCでも単月黒字までは短期間で届いている。しかし携帯端末は台数が価格交渉力を決める市場で、億単位で作る上位メーカーに対して材料の購買力から劣後した。細かく採算を見る力と、規模で価格を決める力は別物である。
携帯端末は、稲盛和夫氏が第二電電を設立したころから強い思い入れを注いできた事業である。その端末事業を、京セラは赤字のまま6期にわたって売却しなかった。赤字を罪とみなす「アメーバ経営」の原則に照らせば、この状態はすでに逸脱していた。加えて経営理念も縛りになり、従業員の物心両面の幸福を追うと掲げる以上、人員の削減は原則として認められない。事業を一つ閉じるなら、そこで働く人の行き先を別に確保しておく必要があった。退く判断を難しくしたのは採算の数字ではなく、創業者が定めた理念のほうだった。