米MGIファーマの買収(2007年・エーザイの決断)

更新:
論点 がん領域を大型買収で強化するか
エーザイ:業績の推移
売上高(億円)親会社株主に帰属する当期純利益率(%)
約39億ドルを投じたバイオ医薬の取り込みによるがん領域の強化

何をなぜ決めたか:約39億ドルを投じたバイオ医薬の取り込みによるがん領域の強化

概要

2007年12月10日にエーザイが米バイオファーマ企業MGIファーマ社と買収契約を締結し、契約が発効した2008年1月28日(米国時間)に米州統括会社エーザイ・コーポレーション・オブ・ノースアメリカの100%子会社とした経営判断。取得の対価は3,918百万米ドル、取得に直接要した支出を含む取得原価は3,943百万米ドルで、全額を現金で支払った。有価証券報告書は結合の理由を、がん・救急治療関連製品・開発品と販売促進機能および研究開発機能の充実をはかるためと記している。

背景

エーザイは2006年10月に米ライガンド社から抗がん剤4品目を含むがん領域の医薬品事業を207百万米ドルで譲り受け、2007年4月には抗体医薬の研究開発を手がけるモルフォテック社を356百万米ドルで買収していた。がん領域の製品と創薬基盤を続けざまに買い集めた延長線上に、この買収がある。一方で収益基盤は認知症治療剤アリセプトへの依存が大きく、2008年3月期のアリセプトの売上高は2,909億82百万円と連結売上高7,342億円の4割を占めていた。

内容

米州統括会社が合併準備会社ジャガー・アクイジション・コーポレーションを設立し、MGIファーマ社を存続会社とする合併によって議決権の100%を取得した。買収価額の算定にはJPモルガン証券を第三者機関として選定し、DCF法と類似会社比較法の分析結果を勘案して公開買付けの1株当たり入札価格を決めた。受け入れた資産3,610百万米ドルのうち無形固定資産は1,380百万米ドル、のれんは1,744百万米ドルで、取得原価のうち840百万米ドルは研究開発費に配分して費用処理した。

含意

費用処理したインプロセス研究開発費874億42百万円が響き、2008年3月期の営業利益は177億円(前期は1,052億円)、当期純損益は▲170億円と赤字に転じた。買収で北米の売上高は2007年3月期の3,034億円から2008年3月期に3,393億円、2009年3月期には3,698億円へ伸びた。もっとも2012年3月期にはアリセプトが米国で物質特許満了を迎えて売上高が前期比49.4%減の1,470億円となり、米国の売上高は1,643億円へ半減する。同期のがん関連領域製品の売上高は931億34百万円で、連結売上高に対する構成比は14.4%であった。

いつ何が起きたか 6件
考察:買収による成長と、育てた成長
考察

考察:買収による成長と、育てた成長

この買収の芯にあるのは、アリセプトという一剤への依存を前に、成長分野のがんと米国市場を金で買って時間を稼ぐという選択であった。取得原価3,943百万米ドルのうち、受け入れた資産から負債を差し引いた純額は3,136百万米ドル、のれんは1,744百万米ドルにのぼる。さらに840百万米ドルは研究開発費に配分され、その場で費用に落ちた。単年度の利益を吹き飛ばしてでも先を取ろうとした判断は、2006年10月のライガンド社からの事業譲受、2007年4月のモルフォテック社の買収と続いたがん領域への投資の総仕上げだったと思われる。

買ったものは確かに効いた。北米の売上高は2007年3月期の3,034億円から2009年3月期の3,698億円へ伸び、連結売上高の47%を占めるに至った。だが2012年3月期にアリセプトが米国で物質特許満了を迎えると、米国の売上高は1,643億円へ半減する。同じ期のがん関連領域製品の売上高は931億34百万円、連結売上高に対する構成比は14.4%で、その伸びを牽引したのは買収で得た製品ではなく、自社で創り出したハラヴェンであった。のれん1,744百万米ドルは償却されず毎期の減損テストに委ねられ、帳簿の上では2013年3月期まで1,270億円前後で残り続けている。買った成長が特許の崖を埋めきったかは、無形固定資産の償却が進んだ後の事業構成のなかで測られ続ける。

Yutaka Sugiura, 2026年7月
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図と表

エーザイ:のれんと無形固定資産の推移

のれん(百万円)のれん以外の無形固定資産(百万円)
エーザイ:のれんと無形固定資産の推移
(百万円) のれん無形固定資産合計 備考
2006年3月期 043,206 のれんの計上はなく、無形固定資産は販売権などによる
2007年3月期 062,589 ライガンド社からの事業譲受で販売権45,986百万円を計上
2008年3月期 178,671417,690 MGIファーマ社とモルフォテック社の買収でのれんと販売権・技術資産が立った
2009年3月期 170,570384,225 販売権143,614、技術資産56,978百万円
2010年3月期 152,768325,890
2011年3月期 128,450268,211
2012年3月期 119,054238,640 販売権は65,338百万円まで償却が進んだ
2013年3月期 127,342236,046
出所:エーザイ 有価証券報告書 第94期〜第102期(連結貸借対照表・無形固定資産の内訳)
出所:エーザイ 有価証券報告書 第94期〜第102期(連結貸借対照表・無形固定資産の内訳)

エーザイ:北米・米国の売上高の推移

北米・米国の売上高(百万円)北米・米国の売上高率(%)
エーザイ:北米・米国の売上高の推移
(百万円) 北米・米国の売上高連結売上高 備考
2006年3月期 253,075601,252
2007年3月期 303,411674,111
2008年3月期 339,396734,286 MGIファーマ社の業績が含まれるのは2008年1月28日からの約2か月
2009年3月期 369,891781,743 買収後はじめての通年。北米が連結売上高の47%を占めた
2010年3月期 361,162803,152
2011年3月期 311,451768,914 この期から区分が所在地別の「北米」から「米国」に変わった
2012年3月期 164,300647,976 アリセプトの米国物質特許満了で売上高は前期比49.4%減の1,470億円に
2013年3月期 157,353573,658
出所:エーザイ 有価証券報告書 第95期〜第102期(所在地別セグメント情報・地域ごとの情報、外部顧客に対する売上高)
出所:エーザイ 有価証券報告書 第95期〜第102期(所在地別セグメント情報・地域ごとの情報、外部顧客に対する売上高)

エーザイ:連結業績の推移

売上高(百万円)
エーザイ:連結業績の推移
(百万円) 売上高当期純利益 備考
2004年3月期 500,16450,148
2005年3月期 533,01155,505
2006年3月期 601,25263,410
2007年3月期 674,11170,614
2008年3月期 734,286△17,012 インプロセス研究開発費874億42百万円の計上で営業利益は177億円まで減少した
2009年3月期 781,74347,678
2010年3月期 803,15240,338
2011年3月期 768,91467,394
2012年3月期 647,97658,511
2013年3月期 573,65848,275
出所:エーザイ 有価証券報告書 第96期・第98期・第102期【主要な経営指標等の推移】(連結・日本基準)
出所:エーザイ 有価証券報告書 第96期・第98期・第102期【主要な経営指標等の推移】(連結・日本基準)

買収の条件

買収の条件
科目 概要 備考
被取得企業 MGIファーマ社(米国) がん・救急治療を中心とするバイオファーマ領域の薬剤の獲得、研究開発、生産、販売
企業結合を行った主な理由 がん・救急治療関連製品・開発品の充実 販売促進機能および研究開発機能の充実をはかるため
買収契約の締結 2007年12月10日 がん領域のグローバルパイプラインを強化するために締結した
企業結合日 2008年1月28日(米国時間) 買収契約が発効した日。連結に含めた業績は同日から2008年3月31日まで
企業結合の法的形式 現金を対価とする合併 米州統括会社ECAが設立した合併準備会社と、MGIファーマ社を存続会社として合併
取得した議決権比率 100% エーザイ・コーポレーション・オブ・ノースアメリカの100%子会社となった
取得の対価 3,918百万米ドル 旧MGIファーマ社の株主に対し全額現金で支払った
取得原価 3,943百万米ドル 取得に直接要した支出25百万米ドルを含む
買収価額の算定 JPモルガン証券を第三者機関に選定 DCF法と類似会社比較法を勘案し、公開買付けの1株当たり入札価格を決定した
のれんの金額 1,744百万米ドル 発生原因はバイオファーマ領域の将来の収益力と抗がん剤フランチャイズへの戦略的投資
のれんの償却 償却せず、定期的に減損テスト 取得企業が米国子会社のため米国財務会計基準書(SFAS)第142号による
受け入れた資産 3,610百万米ドル のれん1,744、無形固定資産1,380、流動資産444、有形固定資産10百万米ドル
引き受けた負債 474百万米ドル 繰延税金負債302、流動負債149、その他22百万米ドル。差引は3,136百万米ドル
研究開発費に配分した額 840百万米ドル 費用処理。連結ではインプロセス研究開発費874億42百万円として計上した
無形固定資産(販売権) 1,220百万米ドル 償却期間は6年から10年
無形固定資産(技術資産) 157百万米ドル 償却期間は19年
通期換算した売上高 357百万米ドルの増加 期首に完了したと仮定した概算額。監査法人トーマツの監査証明を受けていない
通期換算した損益 営業損失11百万米ドル 税金等調整前当期純損失は29百万米ドル。同じ仮定による概算額
出所:エーザイ 有価証券報告書 第96期(2008年3月期)【企業結合等関係】【経営上の重要な契約等】
出所:エーザイ 有価証券報告書 第96期(2008年3月期)【企業結合等関係】【経営上の重要な契約等】
参考文献

参考文献

参考
  • エーザイ 有価証券報告書(2007年3月期・連結)
  • エーザイ 有価証券報告書(2008年3月期・連結)
  • エーザイ 有価証券報告書(2012年3月期・連結)
  • エーザイ 有価証券報告書「第96期(2008年3月期)【企業結合等関係】【経営上の重要な契約等】」
  • エーザイ 有価証券報告書「第96期(2008年3月期)【業績】【連結貸借対照表】【主要な経営指標等の推移】」
  • エーザイ 有価証券報告書「第95期〜第102期(所在地別セグメント情報・地域ごとの情報、連結貸借対照表、主要な経営指標等の推移)」
  • エーザイ 有価証券報告書「第100期(2012年3月期)【業績】」

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