旧村上系の大量取得に対する有事型買収防衛策とMoM決議、岩谷産業による決着

買収者を除いた採決は株主平等か経営陣の保身か——旧村上ファンド系との1年半をどう畳んだか

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時期 2023年6月
意思決定者 山田茂・取締役会 社長
論点 買収防衛策の設計とアクティビスト対応
概要
コスモエネルギーホールディングスが、約20%強の株式を握った旧村上ファンド系のシティインデックスイレブンスらの買い増しに備え、2023年1月に有事型の買収防衛策を導入し、6月22日の定時株主総会で買収者を除いた株主だけで賛否を諮るMoM方式の採決に付した経営判断。防衛策は賛成59.54%で可決され、最終的に同年12月の岩谷産業による株式取得で対立は決着した。
背景
2021年8月に筆頭株主だったアブダビ政府系ファンドがコスモ株の売却を始め、翌2022年3月に全株が売り出されて株価が下落した。これを機に旧村上ファンド系が買い集めを進め、当初は対話を続けたものの、2022年11月に村上絢氏らが30%取得の意向を示したことで対立が表面化した。
内容
コスモは2023年1月に、特定の大口買収者が所定の手続きを経ずに買い増した場合に新株予約権を無償割当する有事型防衛策を導入。6月総会では、買収者であるシティ側の議決権を数えないMoM方式で発動の是非を諮り、賛成59.54%で可決した。旧村上系の議決権を含めた普通決議なら賛成は約46%にとどまる票差であった。
含意
MoM方式は、利害の対立する大株主を採決から外すことで一般株主の意思を測る狙いを持つ一方、株主平等や経営陣の保身との緊張をはらんだ。2021年の東京機械製作所の先例が最高裁まで争われて有効とされた経緯を踏まえた設計であり、防衛策の是非を株主総会に諮る実務の一つの型を残した。
筆者の見解

MoMという線引きが残したもの

この一件の核心は、買収者を採決から外すMoMという線引きの正当性にあった。コスモは、支配権に迫る買い増しを一般株主の利益と切り離すために買収者を除いた採決を選び、賛成59.54%という数字を可決の根拠とした。だが同じ議案を全株主の普通決議に引き直せば賛成は約46%に沈む。経営陣の保身と、時間的猶予を奪われかねない一般株主の保護と、どちらの言い分に理があったのかは、集計の枠組みをどう置くかによって答えが変わる問いであったとみられる。

決着そのものは、防衛策の発動ではなく第三者の登場によってもたらされた。岩谷産業という友好的な取得者が現れたことで、コスモは総会での攻防を経ずに筆頭株主を入れ替え、防衛策を畳んだ。買収防衛策は、それ自体が買収を止める道具というより、より望ましい相手を探す時間を稼ぐ装置として働いたとみることができる。MoM決議の是非という論点は決着後も残り、有事にどこまで買収者の議決権を制限してよいかは、その後の実務に一つの前例として引き継がれている。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

筆頭株主の交代と旧村上系の参入

コスモエネルギーホールディングスは、「ココロも満タンに」で知られるコスモ石油を傘下に持つ石油元売りである。2010年代後半に進んだ業界再編で、販売シェアはENEOSホールディングスと出光興産に大きく離され、業界3番手にとどまっていた。石油需要の縮小が避けられないなか、同社は風力発電を成長の核に位置づけ、陸上風力の拡大と洋上風力への進出を掲げていた[1]

対立の発端は株主構成の変化にあった。2021年8月、それまで筆頭株主だったアラブ首長国連邦・アブダビの政府系ファンドがコスモ株の一部売却を始め、翌2022年3月に保有株は全株が売り出されて株価が下落した。この放出に目をつけたのが、元経済産業省官僚で石油業界に詳しい村上世彰氏であり、長女の絢氏らが経営陣の対応を見て投資を始めたと語っている[2]

対話から対立へ

旧村上ファンド系のシティインデックスイレブンスらは、約20%強までコスモ株を買い集めた。当初は買い増しに一定の歯止めを置いた対話が続いていた。山田茂社長によれば、村上氏側は当初「20%以上買い上げるつもりはない」と明言しており、コスモもその範囲で企業価値向上策を協議していた。シティが求めた論点は、製油所の統廃合、再生可能エネルギー事業の分離・上場、株主還元の見直しの三つであった[3]

空気が変わったのは2022年11月であった。山田社長は、この月の面談で村上絢氏らから突然30%を取得したいと告げられ、ほぼ一方的に買い増すと宣言されたと説明する。30%の保有は経営の支配権に近づくとして、コスモは警戒を強めた。一方の村上絢氏は、切り取られた発言には前後の文脈があり、10年後・20年後の石油業界のあるべき姿を議論できる社外取締役を求めたにすぎないと反論しており、両者の認識は大きく食い違っていた[4]

決断

有事型防衛策とMoM決議の設計

コスモは2023年1月、特定の大口買収者を対象とする有事型の買収防衛策を導入した。シティが所定の手続きを経ずに最大約40%までコスモ株を買い増すおそれがあるとして、シティを除く株主に新株予約権を無償で割り当て、買収者の持ち分を希釈する仕組みである。会社はさらに、発動の是非を6月の定時株主総会に諮る方針を採り、その採決から買収者であるシティの議決権を除外する設計を選んだ[5]

買収者を除いて賛否を決めるこの方式は、マジョリティ・オブ・マイノリティ、略してMoMと呼ばれる。コスモは2021年に東京機械製作所で同様の採決が導入され、最高裁まで争われた末に有効とされた先例を踏まえていた。これに対し村上絢氏は、MoM決議が許されるのは買収手法の強圧性など特殊事情がある例外的な場合に限られるとし、防衛策導入後は1株も取得していない以上その条件を欠くと主張した[6]

6月総会での可決と割れた評価

2023年6月22日の定時株主総会で、買収防衛策の発動議案は賛成59.54%で可決された。買収者である旧村上系を除いた出席株主の過半数が賛同した一方で、議決権行使助言会社の評価は割れた。米ISSは企業価値向上のロードマップを示せていないとして反対を推奨し、株式取得側の主張に一定の理解を示す声も市場にはあった。異例の採決方式のもとで、防衛策はかろうじて過半を得た[7]

数字は決議の性格を映していた。防衛策への議決権行使比率は約67%で、村上氏側の議決権を含めた通常の普通決議に引き直すと、賛成比率は約46%にとどまる。買収者が反対に回れば過半に届かず否決となる票差であり、旧村上系は「実質的には否決であったと評価すべき」と反発した。MoMという集計の枠組みが、可決と否決を分ける境目に立っていた[8]

結果

岩谷産業のホワイトナイトによる決着

6月の可決後も対立は続いた。旧村上系は7月に買い増しの意向を示し、コスモは防衛策発動の是非を諮る臨時株主総会を12月14日に予定した。緊張が高まるなかで対立を動かしたのは、第三者の登場であった。2023年12月1日、岩谷産業がシティインデックスイレブンスらから保有株のほぼ全てにあたる19.86%を取得したと発表し、旧村上系は同時に買い増し計画を取り下げた。取得額は約1,053億円で、岩谷の持ち分は0.07%から19.93%へ上がり、村上氏側に代わる筆頭株主となった[9]

岩谷産業を迎えたことで、コスモは防衛策を維持する理由を失った。同社は12月4日、岩谷産業を友好的で信頼関係の深い協業パートナーと位置づけ、買収防衛策を廃止するとともに、発動の是非を諮る予定だった12月14日の臨時株主総会を取りやめると発表した。旧村上系との1年半に及んだ対立は、水素事業での協業を掲げる岩谷産業が株式を引き受けたことで幕を下ろした[10]

出典・参考