バリューアクト受け入れとメドテック企業への転換
2019年実施物言う株主を排除するか、外圧として使うか——2011年の失墜を越え、事業を医療へ絞る大転換
- 概要
- 2019年、2011年の損失隠し事件で統治の立て直しを迫られたオリンパスが、物言う株主バリューアクトの社外取締役を排除でなく受け入れ、企業変革プラン「Transform Olympus」で医療への集中を打ち出した経営判断。竹内康雄社長のもと、担当科別に五つに分かれた事業を内視鏡・治療機器の二つの医療事業へ絞り込み、カメラと顕微鏡の祖業を売却して純医療機器企業へと転換した。
- 背景
- 2011年に発覚した長年の損失隠しで、オリンパスは経営陣の刷新と統治の再建を最優先の課題とした。再建のさなかにあった2018年5月、米バリューアクト・キャピタルがオリンパス株の約5%を大量保有し、同年秋には社外取締役の派遣を提案する。内視鏡で世界首位を占める医療の高い利益は、採算の細る映像事業や顕微鏡の科学事業と併存する多角経営のなかに埋もれていた。
- 内容
- 2019年1月11日、竹内康雄はバリューアクトのロバート・ヘイルを取締役に迎える議案を6月総会に諮ると発表し、あわせて4月の社長昇格と企業変革プラン「Transform Olympus」を掲げた。担当科別の五事業を内視鏡・治療機器の二事業へ集約し、指名委員会等設置会社へ移行、外国人役員の登用・人員削減・非中核事業の売却に踏み込む内容であった。
- 含意
- 事件を経た日本企業の多くが物言う株主を防衛の対象としたのに対し、竹内は外部の株主を監督と変革の担い手として招き入れた。宣言のとおりカメラ(2020年)と科学事業(2023年)を売却して純医療機器企業へ純化し、連結営業利益は2019年3月期の283億円から2020年3月期に922億円へ回復した。竹内は「日本の組織を変えるには外圧が必要」と改革を総括した。
外圧を変革の梃子にした意義
この判断の核心は、失墜した統治の立て直しと事業の絞り込みという二つの難題を、物言う株主の受け入れという一手で束ねた点にある。2011年の事件を経た日本企業の多くは、活動的な株主を防衛の対象とみなし、取締役会に入れることを避けてきた。竹内はその逆を選び、外部の株主を排除でなく監督と変革の担い手として招き入れた。指名委員会等設置会社への移行と外国人取締役の登用は、事件で傷ついた取締役会の監督機能を、外の目で立て直す試みでもあった。
一方で、変革の勢いを外圧に頼った点は、問いも残す。事件で内向きになった組織を動かすのに、なぜ内部の規律だけでは足りず、外部の株主の圧力を要したのか。竹内が「日本の組織を変えるには外圧が必要」と述べたことは、裏を返せば、自力では変わりにくい組織の体質を認める言葉でもある。祖業を手放して医療へ純化した選択が価値を高めたことは、その後の利益の回復が示す。とはいえ、外圧を常態とせず、自らを律して変わり続けられるかは、純医療機器企業となったオリンパスに残された課題である。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
2011年の事件が残した統治の課題
オリンパスは、2011年に発覚した長年の損失隠しで、経営陣の刷新と統治の立て直しを迫られていた。粉飾の露呈は東京証券取引所での上場維持が危ぶまれるところまで会社を追い込み、取締役会の監督をどう建て直すかが再建の最優先に置かれた。事業の構成も重かった。内視鏡で世界首位を占める医療が高い利益を生む一方、デジタルカメラの映像事業は価格競争で採算が細り、顕微鏡などの科学事業と併せた多角経営のなかで、医療の稼ぐ力は全体の低い収益性に埋もれていた[1]。
バリューアクトの登場
物言う株主が動いたのは、その再建のさなかであった。米投資会社バリューアクト・キャピタルは、2018年5月31日にオリンパス株の約5%を取得したとして関東財務局に大量保有報告書を提出し、大株主に浮上した。保有の目的には、純投資に加えて経営陣への助言や重要提案を行うことを掲げた。同年秋には、社外取締役を送り込む案を会社側に示す。事件で統治を批判された会社に、外部の株主が経営の刷新を迫った[2]。
決断
「排除」ではなく受け入れ
2019年1月11日、当時副社長だった竹内康雄は、この提案を退けず受け入れた。バリューアクトのパートナー、ロバート・ヘイルを取締役に選ぶ議案を、6月の株主総会に諮ると発表した。物言う株主を敵とみなして防戦に回る日本企業が多いなかで、外部の視点を経営の中枢に入れる判断であった。竹内は、ヘイルの世界的な知見と経験を取り入れることが会社の変革と企業価値の向上につながると説明し、ヘイルも一年にわたり経営陣と建設的な協議を重ねてきたと述べた[3][4]。
企業変革プラン「Transform Olympus」
同じ日、竹内は4月1日付での社長就任と、企業変革プラン「Transform Olympus」を発表した。真のグローバル・メドテック企業への飛躍を掲げ、担当科別に五つへ分かれていた事業体制を、内視鏡と治療機器を柱とする二つの医療事業へ集約する。あわせて、取締役会の監督と業務執行を分ける指名委員会等設置会社へ移行し、外国人役員の登用や人員の削減、非中核事業の売却にも踏み込む内容であった。物言う株主の受け入れは、この大がかりな事業再編を貫くための布石でもあった[5]。
結果
純医療機器企業への純化
竹内は宣言を実行に移した。2020年、赤字が続いた映像事業を投資ファンドの日本産業パートナーズへ譲渡し、看板だったカメラから退いた。竹内はのちに、カメラも祖業も切り離す「選択と集中」が必要だった[6]と振り返っている。医療へ絞る決断は数字にも表れた。転換を発表した2019年3月期に283億円まで落ち込んでいた連結営業利益は、2020年3月期に922億円へ回復し、親会社の所有者に帰属する当期利益も81億円から516億円へ増えた[7]。
純化はさらに進んだ。2022年8月、オリンパスは祖業である科学事業の売却を発表し、顕微鏡や非破壊検査を担う新会社エビデントの全株式を、米ベインキャピタルへ約4276億円で譲渡した。1919年の顕微鏡から始まった会社は、内視鏡と治療機器の医療専業へと姿を変えた。竹内は、オリンパスの変革には存在意義を問い直すことが不可欠だったと語り、この改革を「日本の組織を変えるには外圧が必要」という言葉で総括している。物言う株主を招き入れ、その圧力を梃子に大転換をやり遂げた[8][9][10]。
- J-CAST(2019年1月26日)「オリンパスはなぜ、『物言う株主』を取締役に迎え入れたか」
- 株探(2018年6月1日)「オリンパスが大幅続伸、『物言う株主』米バリューアクトが大株主に浮上」
- BCN+R(2019年1月11日)「オリンパス社長に副社長の竹内康雄氏、メドテック企業の変革プラン」
- 日経ビジネス(2020年)「カメラも祖業も切り離し オリンパス竹内社長が語る『選択と集中』」
- ITmedia NEWS(2022年8月29日)「オリンパス、祖業の科学事業売却を正式発表 約4276億円」
- DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー(2023年4月)「オリンパスの変革には存在意義を問い直すことが不可欠だった」
- 東洋経済オンライン(2025年)「オリンパス改革を主導した竹内会長インタビュー『日本の組織を変えるには外圧が必要』」
- オリンパス 2020年3月期 有価証券報告書