オリンパス バリューアクトの受入れ 物言う株主を経営に招き入れたうえでのメドテック企業への転換

更新:

時期 2019年1月
当時の社長 竹内康雄
論点 ガバナンス再建と医療事業への集中
何をなぜ決めたか
概要

2019年、2011年の損失隠し事件で統治の立て直しを迫られたオリンパスが、物言う株主バリューアクトの社外取締役を排除でなく受け入れ、企業変革プラン"Transform Olympus"で医療への集中を打ち出した経営判断。竹内康雄社長のもと、医療事業を内視鏡と治療機器の二事業へ分け、カメラと顕微鏡の祖業を売却して純医療機器企業へと転換した。

背景

2011年に発覚した長年の損失隠しで、オリンパスは経営陣の刷新と統治の再建を最優先の課題とした。再建のさなかにあった2018年5月、米バリューアクト・キャピタルが17,263,500株・5.04%の大量保有報告書を提出する。内視鏡で世界首位を占める医療の高い利益は、採算の細る映像事業や顕微鏡の科学事業と併存する多角経営のなかに埋もれていた。

内容

2019年1月11日、企業変革プラン"Transform Olympus"を公表した。柱はグローバル・グループ経営執行体制の構築、人事マネジメントのグローバル統一、医療事業の再編成(Transform Medical)、取締役会メンバーの多様化、指名委員会等設置会社への移行の五つ。竹内康雄氏が4月に社長へ就任し、6月の定時株主総会でバリューアクトのパートナーであるデイビッド・ロバート・ヘイル氏が取締役に選ばれた。

含意

事件を経た日本企業の多くが物言う株主を防衛の対象としたのに対し、竹内康雄氏は外部の株主を監督と変革の担い手として招き入れた。宣言のとおりカメラ(2021年1月)と科学事業(2023年4月)を売却して純医療機器企業へ業態転換し、連結営業利益は2019年3月期の283億円から2020年3月期に835億円へ回復した。

いつ何が起きたか 8件
筆者の見解
筆者の見解

外圧を変革の梃子にした意義

この判断の核心は、失墜した統治の立て直しと事業の絞り込みという二つの難題を、物言う株主の受け入れという一手で同時に手当てした点にある。2011年の事件を経た日本企業の多くは、活動的な株主を防衛の対象とみなし、取締役会に入れることを避けてきた。竹内康雄氏はその逆を選び、外部の株主を排除でなく監督と変革の担い手として招き入れた。指名委員会等設置会社への移行と外国人取締役の登用は、事件で傷ついた取締役会の監督機能を、外の目で立て直す試みでもあった。

一方で、変革の勢いを外圧に頼った点は、問いも残す。事件で内向きになった組織を動かすのに、なぜ内部の規律だけでは足りず、外部の株主の圧力を要したのか。祖業を手放して医療へ集中した選択が価値を高めたことは、その後の利益の回復が示す。とはいえ、外圧を常態とせず、自らを律して変わり続けられるかは、純医療機器企業となったオリンパスに残された課題である。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

業績の推移
統治と事業の方針

統治と事業の方針

科目 概要 備考
変革プランの公表 2019年1月11日 企業変革プラン「Transform Olympus」。創立100周年の節目に医療への集中を掲げた
変革プランの柱 5項目 グローバル・グループ経営執行体制の構築と人事マネジメントのグローバル統一を含む
医療事業の再編成 Transform Medical 報告セグメントの医療事業を内視鏡事業と治療機器事業の2区分へ改めた
統治形態の変更 指名委員会等設置会社へ移行 2019年6月。監査役会設置会社から移り、意思決定の迅速化と透明性の向上を図った
迎えた社外取締役 デイビッド・ロバート・ヘイル ValueAct Capital Management L.P.のパートナー。2019年6月に就任
ヘイルを迎えた理由 株主の声を経営に反映 資本市場とヘルスケア業界の知見でグローバル企業の変革を支援した実績を評価した
ヘイルの独立役員届出 行っていない 同じ社外取締役でもビーズリーは独立役員として東京証券取引所へ届け出ている
同時に就いた社外取締役 ジミー・シー・ビーズリー 2018年5月からValueActのコンサルタント。契約は2019年3月に終わっている
社長の交代 竹内康雄(2019年4月) 代表取締役・社長執行役員・CEO。6月の移行で代表執行役社長に就任した
中長期経営戦略の公表 2019年11月6日 2016経営基本計画(16CSP)に置き換わる。事業ポートフォリオの選択と集中を掲げた
掲げた目標値 2023年3月期に営業利益率20%超 内視鏡事業は3年で年平均6%、治療機器事業は年平均8%の成長を目指すとした
映像事業の譲渡契約 2020年9月30日 OJホールディングスと株式譲渡契約。映像新会社の株式95%を譲渡した
映像事業の譲渡完了 2021年1月1日 吸収分割でOMデジタルソリューションズへ承継。3期連続の営業損失を計上していた
科学事業の分社 2022年4月1日 吸収分割で㈱エビデントへ承継した
科学事業の譲渡契約 2022年8月29日 ベインキャピタルの投資ファンドが株式を保有する㈱BCJ-66と株式譲渡契約
科学事業の譲渡完了 2023年4月3日 譲渡対価は3,790億91百万円。非継続事業で譲渡益約3,490億円を計上した
変革プランの関連費用 3,954百万円 2020年3月期に「その他の費用」へ計上した

出所:オリンパス 第152期定時株主総会 招集ご通知(2020年7月)・有価証券報告書 第152期(2020年3月期)【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】・第155期(2023年3月期)【沿革】【非継続事業】

定時株主総会における取締役選任の賛成率

オリンパス:定時株主総会における取締役選任の賛成率

(%) デイビッド・ロバート・ヘイルジミー・シー・ビーズリー竹内康雄 備考
2020年7月総会 83.3999.6194.9 ヘイルは候補者12名のうち最も低い。新型コロナウイルスの影響で7月30日に開催
2021年6月総会 98.8199.4396.21
2022年6月総会 97.7299.6694.11
2023年6月総会 99.5399.6598.43 竹内康雄は4月に会長へ退き、シュテファン・カウフマンが社長兼CEOに就任した
2024年6月総会 98.9999.1794.53
2025年6月総会 99.5199.6296.85
2026年6月総会 96.395.95− 竹内康雄は取締役候補から外れた。社長兼CEOはボブ・ホワイト

出所:オリンパス 臨時報告書(2020年7月30日〜2026年6月25日開催の各定時株主総会における議決権行使結果)

セグメント別売上収益の推移

オリンパス:セグメント別売上収益の推移

(百万円) 内視鏡治療機器科学映像 備考
2015年3月期 −−103,88079,437 医療事業として一括開示。内視鏡と治療機器の区分は2019年3月期から
2016年3月期 −−101,60878,284
2017年3月期 −−93,22765,574
2018年3月期 −−100,08860,308
2019年3月期 418,833215,468104,30448,680 医療事業を内視鏡と治療機器に分けた最初の期
2020年3月期 425,742216,075105,23943,618
2021年3月期 393,664231,84295,865− 映像事業は非継続事業に分類。2021年1月1日に譲渡を完了した
2022年3月期 461,547275,586119,152−
2023年3月期 551,823318,207−− 科学事業は非継続事業に分類。2023年4月3日に譲渡を完了した
2024年3月期 586,652337,338−−
内視鏡と治療機器の売上収益
内視鏡(百万円)治療機器(百万円)

出所:オリンパス 有価証券報告書 第147〜157期【事業セグメント】

セグメント別セグメント利益の推移

オリンパス:セグメント別セグメント利益の推移

(百万円) 内視鏡治療機器科学映像 備考
2015年3月期 −−6,837△11,710 映像事業の損失。医療事業のセグメント利益は124,894
2016年3月期 −−8,482△2,064
2017年3月期 −−5,280498
2018年3月期 −−6,425△1,200
2019年3月期 89,77122,1638,135△18,268 映像事業は生産拠点の再編に伴う費用を含み、損失が最大になった
2020年3月期 109,42426,1919,997△10,393 連結営業利益は83,469百万円。前期比195.1%増
2021年3月期 98,77130,5674,949−
2022年3月期 133,20460,82617,526−
2023年3月期 152,76963,692−−
2024年3月期 104,684△8,466−− 治療機器はVeran Medical Technologiesののれん・無形資産の減損を計上した
内視鏡と治療機器のセグメント利益
内視鏡(百万円)治療機器(百万円)

出所:オリンパス 有価証券報告書 第147〜157期【事業セグメント】

バリューアクトの所有株式数

オリンパス:バリューアクトの所有株式数

(千株) 所有株式数 備考
2020年3月期 64,740 2020年3月31日時点。2019年4月1日に1株を4株へ分割している
2021年3月期 42,787
2022年3月期 38,216
2023年3月期 6,403 前期から31,813千株減った
2024年3月期 6,403 2025年3月期の有価証券報告書には所有株式数の記載がない
2020年3月期の大株主(印はバリューアクトの所有株式数と同数の名義)
  • 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 11%
  • 日本トラスティ・サービス信託銀行(信託口) 5%
  • ステート ストリート バンク アンド トラスト カンパニー 505010 5%
  • JPモルガン・チェース・バンク 385632 5%
  • 日本生命保険 4%
  • その他 70%

出所:オリンパス 有価証券報告書 第152〜156期【役員の状況】(デイビッド・ロバート・ヘイル氏に係る注記) / オリンパス 有価証券報告書 第152期(2020年3月期)【大株主の状況】【議決権の状況】(発行済株式総数1,370,914,963株)

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参考文献

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