オリンパス ウッドフォード氏解任 損失飛ばしの粉飾決算と、それを追及した社長の排除

更新:

時期 2011年10月
当時の社長 菊川剛
論点 会計不正の隠蔽と告発者の排除
何をなぜ決めたか
概要

2011年、オリンパスは1990年代ころから有価証券投資等にかかる損失計上の先送りを続けてきたことを公式に認めた。露呈のきっかけは、同年4月に社長へ就任した英国人のマイケル・ウッドフォード氏が過去の買収を調べ、菊川剛会長らに説明と責任を求めたことにある。

取締役会は10月14日、逆にウッドフォード氏を代表取締役・社長執行役員から解職した。その直後に粉飾が明るみに出て、11月8日に先送りを公表。12月14日と26日に過年度の有価証券報告書の訂正報告書を提出した。

背景

プラザ合意後の円高で本業の利益改善が難しくなり、オリンパスは1987年5月の常務会で金融資産運用の積極化を決めた。バブル崩壊でこの運用は損失に転じ、より高い利回りを狙う商品で挽回を図ったが損失は膨らんだ。1998年ごろには含み損が約950億円に達した。2000年4月からの時価会計の導入で、含み損を抱えたまま先送りする道はふさがれた。

内容

オリンパスは含み損を抱える金融商品を連結対象外のファンドに簿価で買い取らせ、損失を簿外へ移した。解消の原資は買収を通じて捻出した。Gyrus Group PLCの買収でファイナンシャルアドバイザーに支払った報酬と優先株の買戻しの資金、そして国内三社(アルティス、NEWS CHEF、ヒューマラボ)の買収資金が、複数のファンドを通す等の方法で含み損の解消に利用された。

2011年、就任間もないウッドフォード氏が買収の対価と助言報酬の異常な大きさを調べ、経営陣の責任を追及すると、10月14日の取締役会は逆に彼を解職した。

含意

解任は事件を隠すどころか国際的な注目を招いた。過年度決算の訂正で2011年3月期の純資産は1,668億円から1,155億円へ512億円減り、2012年3月期末には480億円まで減少した。第三者委員会は飛ばした損失を1177億円と算定し、菊川氏らは取締役を辞任して東京地検特捜部に逮捕された。

東京証券取引所は2012年1月21日に株式を特設注意市場銘柄に指定したが上場は維持され、指定は2013年6月11日に解除された。会社は2013年7月3日に罰金7億円の判決を受けて確定。2012年4月20日の臨時株主総会で選ばれた新しい取締役は、その過半数を独立性の高い社外取締役が占めた。

いつ何が起きたか 12件
筆者の見解
筆者の見解

分離の受け皿と、疑問を口にした一人

オリンパス事件が示したのは、株式が広く分散し、過半を握る支配株主がいない企業でも、経営を監視する仕組みは容易に空洞化するという事実である。財務の実態を知る一握りの経営陣が損失を簿外へ移し、取締役会も監査役も、疑問を抱きながら踏み込まなかった。訂正で消えた純資産512億円は、隠していた期間の長さがそのまま帳簿に現れたものだと思われる。所有と経営が分離していても、経営を外から律する目が働かなければ、分離はかえって不正を覆い隠す。外国人社長という偶然がなければ、飛ばしはさらに先送りされていたかもしれない。

もっとも、より重いのは、不正を正そうとした社長を、取締役会が多数決で排除できた事実にある。内部から声を上げた者が、その声ゆえに職を追われた。監視すべき機関が、監視の対象と一体化していた。事件のあと、日本では社外取締役の選任が広がり、物言う株主が経営に関与する余地も開いた。オリンパス自身、2019年に米投資ファンドを取締役会へ迎え入れる。統治の制度をどれだけ整えても、疑問を口にした一人を守れるかどうかが、その制度が生きているかどうかを分ける。今日の企業統治に、この問いは残る。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

業績の推移
経緯と対応

経緯と対応

科目 概要 備考
解職の決議 2011年10月14日 取締役会がマイケル・ウッドフォード氏を代表取締役・社長執行役員から解職した
損失計上先送りの公表 2011年11月8日 有価証券投資等にかかる損失計上の先送りを適時開示で公表した
先送りの始期 1990年代ころ 有価証券投資等の含み損を解消するため複数のファンドを通す等の方法をとった
原資に充てた買収 Gyrus Group PLCと国内三社 助言報酬・優先株の買戻し・国内三社の買収資金が含み損の解消に利用された
第三者委員会の調査報告書 2011年12月6日 独立性を確保した第三者委員会が問題点と再発防止に向けた提言をまとめた
有価証券報告書の訂正報告書 2011年12月14日・26日 第140期以降を訂正。決算短信は12月28日と2012年4月26日に訂正開示した
訂正後の純資産(2011年3月期) 115,579百万円 訂正前は166,836百万円。訂正により51,257百万円減少した
訂正後の当期純損益(2009年3月期) △50,561百万円 訂正前は△114,810百万円。損失が64,249百万円小さくなった
過年度決算訂正関連費用 2,001百万円 2012年3月期の特別損失。不適切な会計処理に関連した調査費用等
訂正にかかる監査報酬 230百万円 2012年3月期の監査証明業務に基づく報酬377百万円に含まれる
特設注意市場銘柄への指定 2012年1月21日 東京証券取引所による。上場そのものは維持された
指定の解除 2013年6月11日 内部管理体制確認書の提出を経て解除された
役員の交代 2012年4月20日 臨時株主総会で新取締役と新監査役を選任。過半数が独立性の高い社外取締役
罰金 7億円 2013年7月3日判決。論告求刑は10億円。控訴期間の経過を経て確定し納付した
元社長との和解金 1,231百万円 英国労働審判所への不公正解雇の申立てについて2012年5月29日に和解合意
株主からの損害賠償請求 19,138百万円 訴状記載額。ほかに5,892百万円と6,612百万円の請求が提起された
再発防止 ガバナンス体制の強化 経営改革委員会の助言を得て内部統制システムの整備とコンプライアンスを見直し

出所:オリンパス 有価証券報告書 第144期(2012年3月期)【事業等のリスク】【対処すべき課題】【重要な後発事象】・第145期(2013年3月期)・第146期(2014年3月期)【追加情報】

業績の推移

オリンパス:業績の推移

(百万円) 売上高経常利益当期純利益 備考
2008年3月期 1,128,87597,31254,625 ここから2011年3月期までは過年度決算の訂正後の値
2009年3月期 980,80325,679△50,561 訂正前の当期純損失は114,810。訂正で損失が64,249小さくなった
2010年3月期 883,08646,07552,527
2011年3月期 847,10523,2153,866 訂正前の当期純利益は7,381。訂正後は3,866に減った
2012年3月期 848,54817,865△48,985 10月14日に解職し11月8日に先送りを公表した期。訂正関連費用2,001を計上
2013年3月期 743,85113,0468,020
2014年3月期 713,28650,91313,627
2015年3月期 764,67172,782△8,737
2016年3月期 804,57890,89862,594
2017年3月期 748,05062,14978,191
売上高と経常利益率
売上高(百万円)経常利益率(%)

出所:オリンパス 有価証券報告書 第144期・第149期(主要な経営指標等の推移)

純資産と総資産の推移

オリンパス:純資産と総資産の推移

(百万円) 純資産総資産 備考
2008年3月期 244,2811,217,172
2009年3月期 110,9071,038,253
2010年3月期 163,1311,104,528
2011年3月期 115,5791,019,160 訂正前の純資産は166,836。訂正で51,257減った
2012年3月期 48,028966,526 純資産は総資産の5.0%まで低下した
2013年3月期 151,907960,239
2014年3月期 331,2841,027,475
2015年3月期 357,2541,081,551
2016年3月期 384,2831,000,614
2017年3月期 430,880991,062
純資産と総資産に占める割合
純資産(百万円)純資産率(%)

出所:オリンパス 有価証券報告書 第144期・第149期(主要な経営指標等の推移)

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参考文献
出典・参考
  • 飯田秀総「オリンパス事件・大王製紙事件について」(大証金融商品取引法研究会, 2012年5月25日・日本取引所グループ)
  • オリンパス 適時開示「過去の損失計上先送りに関する開示」
  • オリンパス 第三者委員会 調査報告書「調査報告書(要約版)」
  • オリンパス 有価証券報告書の訂正報告書「第140期以降の訂正報告書(2011年12月14日・26日提出)」
  • オリンパス 有価証券報告書「第144期(2012年3月期)【事業等のリスク】【対処すべき課題】」
  • オリンパス 有価証券報告書「第144期(2012年3月期)【重要な後発事象】【主要な経営指標等の推移】」
  • オリンパス 有価証券報告書「第146期(2014年3月期)【追加情報】」

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