ダルトンの株主提案を拒否(2024年・江崎グリコの決断)

更新:
論点 還元を求める株主提案に応じるか
江崎グリコ:業績の推移
売上高(億円)営業利益率(%)
全面反対を貫いた第119回総会と、翌年に会社自身が出した同じ条文

何をなぜ決めたか:全面反対を貫いた第119回総会と、翌年に会社自身が出した同じ条文

概要

2024年1月17日、江崎グリコは株主のロンシャン・SICAV(代理人ダルトン・インベストメンツ・インク)から株主提案の書面を受け取り、2月13日の取締役会で4議案すべてに反対を決議した。3月26日の第119回定時株主総会では3議案が否決され、自己株式取得の議案は不適法議案として取り下げられた。翌年の総会では、会社自身が配当の決定機関に関する同じ趣旨の定款変更を提案し、96.1%の賛成で可決している。

背景

江崎グリコは2022年2月に創立100周年を迎え、4月に東京証券取引所の市場区分の見直しでプライム市場へ移った。100周年を機にパーパスとビジョンを定め、2022年度から2024年度の中期経営計画を進めていた。提案株主が挙げた理由は、ROEが過去5年間の平均で5%台にとどまり、株主総利回りがTOPIXや同業他社を大きく下回っていることであった。

内容

取締役会は、東証要請への対応は経営環境を踏まえて都度決めるべき事項で、根本規範である定款に定めるのは適切でないとし、成長投資・事業運営資金・株主還元への配分の均衡を理由に4議案すべてに反対した。

含意

2025年1月、江崎グリコは株主から還元の提案が出た場合に総会でも決議できるよう、定款第35条(剰余金の配当等の決定機関)を変える議案を自ら付議すると決め、3月の総会で96.1%の賛成を得て可決した。一方で取締役会長の選任に対する賛成率は76.8%から71.5%へ下がり、外国法人等の持株比率は2023年12月期の22.1%から2025年12月期の29.9%へ上がっている。

いつ何が起きたか 8件
当時の取締役 8名

当時の取締役(2023年3月株主総会決議)

考察:定款を守ることと、株主を説得すること
考察

考察:定款を守ることと、株主を説得すること

この一件を、アクティビストの攻勢に会社が耐えた事例として読むこともできる。提案は3件が否決され、残る1件も取り下げとなり、成長投資と事業運営資金と株主還元にバランスよく配分するという反対の論拠も筋は通っている。ただ、争われたのは資本効率の数値そのものより、配当という株主に直接関わる事項を誰が決めるかという手続きであったと推察される。定款は根本規範だから都度決めるべき事項は書かない——そう述べて退けた条文を、翌年には会社自身が「取締役会の決議によって定めることができる」へと書き換える議案として出し、96.1%の賛成を得た。提案の中身ではなく、誰が出すかを争っていたのだと言える。

もっとも、手続きを譲ったことで圧力が収まったわけではない。株主提案は3年続き、2026年には提案株主が推す取締役候補2名まで加わって、取締役会長の選任に対する賛成率は76.8%から71.5%へ下がった。株主構成のほうも、外国法人等が22.1%から29.9%へ増え、金融機関の比率は下がっている。創業家が長く経営を率いてきた会社にとって、安定株主は判断の自由度を支える資産でもあった。その層が薄くなれば、経営は議案ごとに説明を積み重ねるほかない。250億円の自己株式取得を自ら決めた2026年は、その説明の積み重ねが資本政策そのものを動かし始めた年だったのだろう。

Yutaka Sugiura, 2026年7月
数字で見る 5表

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図と表

江崎グリコ:所有者別の持株比率

  • 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 11%
  • 掬泉商事 6%
  • 大同生命保険 5%
  • STATE STREET BANK AND TRUST COMPANY 505223 4%
  • 日本カストディ銀行(信託口) 4%
  • その他 70%
江崎グリコ:所有者別の持株比率
(%) 金融機関金融商品取引業者その他の法人外国法人等個人その他 備考
2019年12月期 32.361.2622.2921.3322.76
2020年12月期 32.041.4621.9621.7422.8
2021年12月期 30.73.2319.9220.9525.2
2022年12月期 31.30.6918.122.3127.6
2023年12月期 31.541.4517.6622.1527.2 株主提案を受けた期。金融機関と事業会社で全体の約半分を占める
2024年12月期 28.80.8417.5626.1226.67 株主提案を諮った総会の期。外国法人等が4.0ポイント増え、金融機関が2.7減
2025年12月期 27.690.6615.929.925.86 外国法人等が最大の区分になり、金融機関との差は2.2ポイントに開いた
出所:江崎グリコ 有価証券報告書 第115〜121期【所有者別状況】 / 江崎グリコ 有価証券報告書 第119期(2023年12月期)【大株主の状況】(発行済株式総数68,468千株)
出所:江崎グリコ 有価証券報告書 第115〜121期【所有者別状況】 / 江崎グリコ 有価証券報告書 第119期(2023年12月期)【大株主の状況】(発行済株式総数68,468千株)

江崎グリコ:株主提案があった総会の議案別賛成率

江崎グリコ:株主提案があった総会の議案別賛成率
(%) 賛成率 備考
第120回 第1号 定款変更 96.1 会社提案。前年の株主提案が求めた剰余金の配当等の決定機関の条文
第120回 第2号 江崎勝久 76.8 会社提案の取締役選任。代表取締役会長
第120回 第2号 原丈人 69.1 会社提案の取締役8名のうち最も低い
第120回 第4号 定款変更 18.1 株主提案。東証要請への対応の開示。特別決議を要し否決
第120回 第5号 自己株式取得 21.6 株主提案。前年と同じ6,360,000株・270億円を限度とする取得
第120回 第6号 株式報酬 15.6 株主提案。譲渡制限付株式報酬制度の報酬額承認
第121回 第1号 江崎勝久 71.5 会社提案の取締役選任。前年の76.8%から5.3ポイント低下
第121回 第1号 原丈人 58.8 会社提案の取締役8名のうち最も低い
第121回 第5号 James B.Rosenwald Ⅲ 26.9 株主提案の取締役候補。ダルトン・インベストメンツの役職員
第121回 第5号 佐野順一郎 28.5 株主提案の取締役候補
第121回 第6号 自己株式取得 30.5 株主提案。6,360,000株・350億円を限度とする取得
第121回 第7号 株式報酬 26.8 株主提案。議決権行使助言会社が賛成推奨した3議案の1つ
第121回 第8号 定款変更 23.5 株主提案。特別決議を要する唯一の株主提案議案
出所:江崎グリコ 臨時報告書(2025年3月27日提出)第120回定時株主総会の議決権行使結果 / 江崎グリコ 臨時報告書(2026年3月26日提出)第121回定時株主総会の議決権行使結果 / 江崎グリコ 第119回定時株主総会決議ご通知(2024年3月26日)
出所:江崎グリコ 臨時報告書(2025年3月27日提出)第120回定時株主総会の議決権行使結果 / 江崎グリコ 臨時報告書(2026年3月26日提出)第121回定時株主総会の議決権行使結果 / 江崎グリコ 第119回定時株主総会決議ご通知(2024年3月26日)

江崎グリコ:総会ごとの賛成率の推移

江崎グリコ:総会ごとの賛成率の推移
(%) 取締役 江崎勝久自己株式取得(株主提案)定款変更(株主提案) 備考
第120回(2025年3月25日) 76.821.618.1 会社提案の定款変更が96.1%で可決し、配当は総会でも決められるようになった
第121回(2026年3月24日) 71.530.523.5 株主提案は取締役2名の選任を含む4議案に増え、すべて否決
出所:江崎グリコ 臨時報告書(2025年3月27日提出・2026年3月26日提出)定時株主総会の議決権行使結果
出所:江崎グリコ 臨時報告書(2025年3月27日提出・2026年3月26日提出)定時株主総会の議決権行使結果

江崎グリコ:株主還元と資本効率の推移

江崎グリコ:株主還元と資本効率の推移
1株当たり配当金(円)親会社株主に帰属する当期純利益(百万円)自己資本利益率(%) 備考
2019年12月期 6012,0475.6 決算期を3月から12月へ変更した9か月の変則決算
2020年12月期 6511,8365.4
2021年12月期 7013,5195.8
2022年12月期 808,0993.3 配当には創立100周年記念配当10円を含む
2023年12月期 8014,1335.6
2024年12月期 908,1133 株主提案を諮った総会の期。基幹システム障害の対応費用を特別損失に計上
2025年12月期 955,0361.8 2026年2月に250億円を上限とする自己株式取得を決議
出所:江崎グリコ 有価証券報告書 第119期(2023年12月期)・第121期(2025年12月期)【主要な経営指標等の推移】
出所:江崎グリコ 有価証券報告書 第119期(2023年12月期)・第121期(2025年12月期)【主要な経営指標等の推移】

株主提案の条件

株主提案の条件
科目 概要 備考
提案株主 ロンシャン・SICAV 代理人はダルトン・インベストメンツ・インク。提案時の所有比率に開示はない
株主提案書の受領 2024年1月17日 議案の要領と提案の理由は、提案株主の原文のまま招集通知に掲載された
対象の株主総会 第119回定時株主総会(2024年3月26日) 会社提案3議案と株主提案4議案を諮った
第4号議案 東証要請への対応の開示に係る定款変更 現状評価・方針・目標・取組みを、ガバナンス報告書とウェブサイトに開示する条文
第5号議案 自己株式取得 総会終結から1年以内に6,360,000株・270億円を限度とする取得
第6号議案 剰余金の配当等の決定機関に関する定款変更 第35条の「取締役会の決議によって定める」を「定めることができる」に改める
第7号議案 譲渡制限付株式報酬制度に関する報酬額承認 年額600百万円以内・付与株式数の上限150,000株。固定報酬の3倍相当を3年で
提案の理由 過去5年平均のROEが5%台
取締役会の意見 4議案すべてに反対 2024年2月13日決議。定款は根本規範であり、都度決定すべき事項は定めないとした
議決の結果 4議案とも否決 第5号議案は第6号議案の否決により、不適法議案として取り下げられた
可決の要件 出席議決権の3分の2以上 第4号・第6号議案は定款変更で特別決議。第5号・第7号議案は過半数
議決権行使結果の開示 臨時報告書の提出はない 第120回・第121回の総会では提出され、議案別の賛成率が載っている
出所:江崎グリコ 第119回定時株主総会 招集ご通知・株主提案に対する当社取締役会意見に関するお知らせ(2024年2月13日)・第119回定時株主総会決議ご通知
当時の取締役 8名

当時の取締役(2023年3月株主総会決議)

参考文献

参考文献

参考

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